※これは少林寺拳法が、色々改法する前のお話です。

「あれ、先生早いじゃん」
 今日の稽古は、俺が当番だったから、いつもより早く道場に飛び込んだ。
 みんなが来る前に、道場の板の間は水拭きして、畳は掃いておくんだ。
 ここは、近所の神社の境内の一角。
 俺は小学四年生の時からここで少林寺拳法を習っていて、もう7年目になる。
 なぜ空手や柔道じゃないかって、そりゃ家の一番近くに教室があったからだ。
 それに、当時、どの柔術より実戦向きだとか聞いた。ホントに向いてるかは、未だにわかんないけど。
 
 先生は柔軟体操を終えて、一人で稽古をしていた。
 7年間先生をやってくれてるけど、先生もまだ修学生。
 ”正範士 六段”て位で、昇級の最中だ。
 大卒して、就職したけど、週一でここの先生を続けてくれていた。
「大会が近いからな、ちゃんと練習しとかないと」
「そっか。先生の演武、観れるんだ」
 少林寺には、防御・反撃の技を組み合わせて攻撃し合う”運用法”と、”演武”…踊りのようなものがある。
 時々、大規模な大会があって、技を見せ合う。
「先生の組演武。俺、好き」
 すっごい綺麗に型をつけるんだ。カッコイイ。
 組演武は、二人組で演じる。
 防御と攻撃の型が、凹凸が常に組み合わさるように、受けては突き、受けては返す。
 その繰り返しが、踊っているように見える。
 型の組み合わせで、難易度が変わる。
 アドリブが入ってくると、もう本当に凄い。
「俺、応援行くよ!」
 大会は観せるのが目的で、審査はあるけど昇級は関係ない。
「先生の組演武の相手ができるくらいに、なりたいなあ」
「まだまだ、だな!」
「ちぇ」
 清掃が終わる頃、チビ達がちらほら来だした。
 近所の子供達や、学生、サラリーマン、色とりどりがゴッチャになって、みんなで練習する。女の子もいる。毎回来たり来なかったり。平均人数は…15人くらいかな。
「りゅーいちにーちゃん!」
 5歳のチビが道衣に着替えて、入ってきた。
「こら! 入る前に入り口で、合掌!」
「あっ!」
 とたとたと、回れ右をして、入り口に立ち直す。
 両掌を、顔の前で合わせる。
「おねがいしまぁす!」
「お願いします! オッケー、おいで!」
 俺も手を合わせると、笑顔で返した。
 神聖な道場には、入るときと出るときに、必ず敬意を払うんだ。
 
「隆一、見本やれ」
 こっち来い、と、先生が手招きした。
 柔軟と、基本型の打技・蹴技30回4セットも終わり、稽古に入っていた。
 二人一組になって、先生のやるとおりに、型の真似をして覚えるんだけど。
「また、俺?」
 先生は容赦ないから、結構痛い。
「お前しか、いないだろ」
 生徒達は、入れ替わりが激しく、長く続けているのは俺だけだった。
 組む相手は、なるべく同レベルでないと、辛い。
「お願いします」
 手を合わせて、一礼すると、構えた。
 俺は、この瞬間に……なによりも心臓が高鳴る。
 先生は俺より、目線一つ高い。
 上段の突き、中段の蹴り、と、基本型どおり攻撃するんだけど、不意打ちで上段蹴りを食らわせてやろうかとか、隙を窺う。
 でも、先生の構えは、隙が全くない。
「……………」
「こら、早く打て」
 隙を狙いすぎて、怒られた。
「…ハイ」
 打ち込むとき、声を出すのが鉄則。
 これがまた、気持ちいい。
「ハァッ!」
 右上段突きを出した手首を、掴まれて先生の身体に巻き付けられ、畳に倒された。
 ───痛ッ!
 今日は、受け身の練習。
 巻き取られた腕を、どう剥がすか。
 転がされるときの受け方。
 身体の逃がし方。
 上手く受けて転がれれば、痛くはない……はずなんだけど。
 
「センセ、痛いよ」
 稽古のあとは、みんなで清掃。
 俺はモップ掛けをしながら、先生に文句を言った。
 手首を掴まれるだけでも、かなり痛いんだ。
「隆一は、間接が固いからな。抜き手がヘタなんだよ!」
 笑いながら言うから、悔しくなった。
「稽古つけてよ。俺、もっと上手くなりたい」
 ブスくれて、先生を睨み付けた。
「…………」
「──?」
 一瞬の沈黙に、俺は先生を覗き込んだ。
 真っ黒い、目と髪。
 長め茶髪の俺とは違って、清潔感たっぷりだ。
「ヒマない? 今日は次、来るの?」
 この道場は、時々、弓道や剣道の人たちが時間をずらして借りている。
「いや、今日は誰も借りてないよ」
「じゃあ、いいじゃん」
「折角、清掃終えたのに、汗垂れるぞ。拭き上げは隆一、一人でやれよな」
 ──やった! そんなの、全然オッケーじゃん!
「じゃあ、組むとこから教えて!」
 
「ありがとうございましたぁ!」
 チビ達が次々と手を合わせて、道場を出て行く。
 みんな帰ってしまって、先生と2人きりになった。
 始まりが遅いから、終わる頃はかなり暗くなっている。
 道場の表側の出入り口は、戸板を4枚引き出して閉めきった。
「………お願いします」
 静まりかえった畳の上で、先生と向き合って構えた。
「いつでも、いいよ」
 先生の構えは、とても柔らかい。柔軟な動きは、この構えからして、俺とは違う。
「────」
 深呼吸をして、真剣に先生を見据えた。
 いつも朗らかに笑っているけど、構えたときは引き締まったカッコイイ顔になる。
 ……先生に勝つ!!
 普段のみんなでやる稽古より、よっぽど集中した。
 先生の呼吸を読み、隙を窺う。
「──ハァッ!」
 上段、中段、下段……基本の型どおり突きと蹴りを繰り出した。
 先生の攻撃も、手で払いながら左右に身体を振って、受け身でかわす。
 
 ………うわ……
 
 呼吸がぴったり一致すると、パズルのピースが当てはまるように、一体感が出る。
 凹凸が自然に組み合わさり、風圧や重力さえも共有する。
 耳の横で、先生の拳が空を切る鋭い音がする。
 道衣の裾が、ピシッと鳴る。
 これは、技の切れが冴えていないと鳴らない。
 ……すげ……気持ちいい……
 思わず笑った。
 先生も、口元が笑っている。
 
「………あっ」
 手首を掴まれ、また畳に倒された。
「い……イテッ」
 腕を背中に回され、完全に畳にねじ伏せられた。
 ここから起きあがるのは、至難の業だ。
「手首が固いから、これが外せないんだよ」
 のし掛かったまま、先生が上から言う。
「先生の掴む手が、強すぎるんだよ!」
 俺は下から、文句を言った。尋常じゃないくらい強いって!
 ……………え?
 不意に、身体に違和感を感じた。
 右腕の筋を捻るように背中に回され、起きあがれない。
 腹這いに畳に転がって、左腕は先生の身体の下敷きだし。
「ちょ……先生! なんかしてる!?」
 尻の辺りが、むずむずしてる。
「これ外せたら、やめてやる」
「なに……」 
 俺は身体を捩って、拘束を振り解こうとしたけど、技が完全に入っていて、動くと痛いだけだった。
 ───えっ!?
 先生の手が、道衣の上を這う。後ろから股間に回って、前を掴まれた。
「あッ──」
 腰をビクンと跳ねかせてしまった。
「や……先生、冗談………!」
「早く外さないと」
 楽しそうな声が、後ろから聞こえた。
「あッ、あぁッ……」
 道衣の上からでも、そんなとこ、揉まれたら感じる。
 俺は先生の手に、めちゃくちゃ反応してしまった。
「てんで駄目だな、隆一!」
 
 ───ダメって……くそっ!
 
 悔しいけど、動けない。
 不意に腕を離され、身体が自由になった。
 咄嗟に起きあがろうと、回転して仰向けになった瞬間、また抑えられた。
 技を効かせて掴んでくる手首は、やっぱり外せない。
 技返しで、角度と押し付ける方向によって、容易く外れるはずなんだけど。
 左手首を頭上で固定され、右腕と腰から下は先生の身体の下だった。
「……外せない?」
「…………」
 正面に向かい合った先生の顔が、近い。
 俺は必死で藻掻いていて、ちょっと息まで上がっていた。なのに、先生は何でもないように、口元を涼しげに綻ばせている。
 外せない……先生ののし掛かってくる身体。
 俺は、いくらなんでも、もうちょっと太刀打ち出来ると思っていたから……
「悔しい?」
「──うん、すっごい悔しい!」
 笑う先生を、睨みつけた。
「先生、仕切直し! もう一回組むとこから……」
「ダメだよ。これ外してみな」
 抑えてる左手首に、力を込めてきた。
「………ッ」
 痛くて、外そうとしたけど、動けない。
「そんなことじゃ、夜道で襲われたとき、逃げられないよ」
 先生の自由な左手が、道衣の合わせ目に滑り込んできた。
 
「…ぁあッ…!」
 胸に鋭い刺激を感じて、喘いだ。
「こんなことされたら、どうするんだ」
 直接触れてくる指先が、脇や腰にゾワゾワと刺激を送る。
「や……やめ…」
 身体を捩って、嫌がった。
「感じてる場合じゃ、ないよな」
 ますます笑う。
 その涼しげな目に、腹が立った。
「センセ……マジ……やめろ!」
 技が外れないことより、その感覚が続くのがイヤだった。
「稽古つけろって、言ったのは隆一だろ?」
「…な……!」
「こんなんじゃ、何のために習ってるのか、わからないね」
 笑っていた目が、冷ややかに俺を見下ろす。
「……そんな……ぅあ……」
 非難しようとして、変な声になってしまった。
 指の腹がいつまでも、胸の突起をいじる。
「──こんなの……稽古じゃ…」
「稽古だよ。抜けたら、オッケー。ほらガンバレ」
 言いながら、手が下に滑っていく。
 脇腹をくすぐって、へそ、下腹部へと移動する。
 ───あッ!
 道衣の下に、差し込まれた。その下の…トランクスの中まで。
「せ……先生!?」
 直接握られて、腰が震えた。温かい手の平……ソコの感度が、さっきの比じゃない。
「ほら……早く……手遅れになるよ」
 
 ───むり……無理だって……て、言うか…こんな神聖な道場で…こんなこと……
 
「ぁあッ……やめ……」
 俺は必死に腰を捩って、手首を外そうと捻った。
 先生のやり過ぎなイタズラに、とにかく焦る。身悶えるばかりで、ちっとも技は緩まない。
 先生の手は、下着の中で勃ってしまった俺のモノを扱き始めた。
「あッ……ぁあっ……」
 ………ぅあ……ヤバ……無理…絶対ムリ……!!
 稽古どころじゃない。俺は快感を抑えるのに、必死だった。
 根本から先端に向けて、強弱を付けながら扱き上げる。巧みに握りなおしては、鈴口を刺激された。
「んぁ……先生……やめっ……」
 自分でヤルのなんかとは、訳が違う。
 力強く、熱い手の平が、俺の気持ちなんか無視してひたすら扱き上げる。
 ……ぁああっ! ……や…いくっ………いく………
「……イっちゃう?」
 至近距離でそんなこと聞いてくる先生に、俺は激しく頷いた。夢中で見つめて、先生に訴えた。
「ヤバ……ムリ……」
「じゃあ、アウト。隆一は逃げられない」
 ───え?
「……ァッ……んぁああぁっ……!」
 いっそう扱かれて、俺はされるがままだった。
「あぁ───センセ…!!」
 先生の手の中に、思いっきり白濁を飛び散らせてしまった。
 
「…………はぁ…」
 吐息しか出ない。
 悔しくて……熱くなった息を、先生の胸に吐いて、それっきり動けなかった。
 はだけた道衣もそのまま、ぐったりと横になっていた。
「まだまだ、だね」
「─────」
「もう一回、組むところから、ヤル?」
 涼しい顔をして、汚れた手を舐めながら、笑う。
 ますます悔しくて、言葉も出なかった。
 ……もう一回?
 ……こんな状態で?
 腹の上は汚れていて、下着の中だって、気持ち悪い。
 稽古だからって、普通……こんなコトしないよな……。自分の状況に混乱した。
「もういい…俺、帰る」
 今更ながら恥ずかしい。真っ赤になって、必死に藻掻いた。
 先生がのし掛かったまま、ちっとも退いてくれないから。
「……オレから、逃げてみ」
「…………?」
「オレ、暴漢の役をやるから。隆一は、オレから逃げれたら、勝ち」
「………勝ち? ………俺の?」
「そう。自信、ない?」
 ────先生に、勝ちたい。
「ないわけナイじゃん! …やる!」
 あわよくば、仕返しに先生の身体を弄くってやる!そう思って、受けて立った。
「じゃあ、ちょっと待って」
「───えッ!?」
 先生は俺の腹に顔を埋めると、俺の汚したモノを綺麗に舐め取った。
「……せっ…せんせい…!」
「これで、オッケー」
 にっこり笑って、舌なめずりをした。
 俺は蒼白になったり、真っ赤になったり……
 心臓がドキドキして、止まらなくなってきた。
 道衣を整えて、立ち上がると、また構え直した。
 
 ………先生の顔……まともに見れない。
 
「真剣にやれ」
 厳しい声が、飛んできた。
「……ハイ……お願いします」
 深呼吸して、さっきと同じように、引き締まった先生の顔を睨む。
 右回りに、じりじりと足が滑り始める。
 動きの基本は、受け手は軸足を基本に円を描く。
 打ち込みは、相手の脇に身体ごと入り込む。
 先生の左ガードが、一瞬下がった。
「──ハァッ!」
 俺は、そこを隙と見て、右上段を打ち込んだ。
 その手首をまた掴まれる。掴まれたままその掌を自分に向けて親指を外側に、五指を張る。手首を捻って、外側に手を振り解いた。
 その返す手で、先生の打ち込みをたたき落とす。
 更に右脇に回り込みながら左中段。払われて、打ち込まれる。それを払って上段蹴り。半回転して後ろ回し蹴り。
 テンポよく、攻撃、防御が繰り返される。
 はぁ、はぁ、という先生と俺の呼吸が、どんどん合わさってくる。
 さっきの感覚を、また感じ出した。
 ………一体感。
 歯車が、互いに噛み合う様だった。
 出した分だけ、引かれる。受けた分だけ、下がる。
 お互いを懐に呼び合いながら、決して絡み合わない。
 先生の呼吸を読み、次に何が来るかを判断する。
 柔らかい先生の受け身は、柳に風のようだった。
 俺もそれにつられる。固かった俺の動きが、柔らかく軽くなっていく。
 ───うわ……やっぱ、気持ちいい……
 ゾクゾクと、背中を駆け抜ける緊張感と、小気味いいリズム。
 目まぐるしく動く背景の中で、常に視界の中心でぴたりとそこにいる先生。
 お互いしか見えず、遠心力で引き合う月と地球のように、一定の距離を保って回り続ける。
 まるで、引き合う磁石だ……
 俺は、緊張感に耐えきれず、また笑ってしまった。
 腰元が、むずがゆくなってくるんだ。
「……あッ」
 手首を掴まれ、引き寄せられた。
 五指を張って振り解こうとしたけれど、切れが甘かった。
 引き抜く前に掴み直され、先生の身体の回転に巻き込まれて、また畳にねじ伏せられた。
「……痛ッ!」
 さっきと全く同じ組み手で、今度は仰向けで、抑えられた。
 ………くそっ、外れない!
 力が何百倍も違う訳じゃない。コツがあるんだ。
 身体の構造、骨組み、スジ。そういうモノを逆手に取った、捕技だった。
「あっ!」
 また、先生が尻を触ってきた。
「………センセ!!」
「オレ、暴漢だから。早く何とかしないと、ヤバイよ」
 涼しい顔で、朗らかに言う。
 ───ヤバイよ…って……
 俺は、真っ白になって、藻掻いた。
 先生の手が、道衣ズボンの紐を解いた。
「あ……」
 トランクスごと、引きずり降ろされた。
「…ひゃぁ!?」
 腰に外気を感じた瞬間、後ろの異物感に、全身鳥肌が立った。
 先生の指が後ろにあてがわれ、入ってこようとする。
 ───ちょっ………うわっ……!!
 さっきの快感が蘇ってしまった。
 前のモノが反応し出す。
「せ……先生……やめっ!」
 俺は焦った。
 道場の出入り口は閉まっているけれど、左右の壁には細長い窓が、等間隔に付いている。
 神社の境内の奧とはいえ、犬の散歩なんかしてる人が覗いたら、丸見えだ。
「……外が、気になる?」
 俺の目線から、先生が気が付いた。
「…………」
 あたりまえだ! こんな…畳の上で、下半身を丸出しにされて、指を突っ込まれてるなんて。
 しかも、二人とも道衣を来て、いかにも男二人で。
「あっ…ぁあ………!」
 強引な先生の指が動く。
 挿れようとして、そこを揉まれるだけでも、背中に変な疼きが沸き上がった。
「隆一、前が反応してる……。見られて、興奮する?」
 言うなり、また勃ち上がってきたソレを掴まれた。
「……んぁあっ………」
 擦り上げられ、腰を突き出してしまった。
 俺は首を横に振り続けて、先生の言葉を否定した。
「ほら、逃げないと」
 また、楽しそうな声。
「…くぅ……!」
 完全に腰に跨がれている。体重で押さえ付けられているので、起きあがりようがない。
 先生の指には、俺の透明な液体が絡み出した。その指で、もう一度後ろを突く。
「ひゃっ………ぁあああ!!」
 指が、湿りを帯びてずるっと入ってきた。
 もの凄い違和感。今まで触ったこともない場所に、あり得ない異物感。
「嫌だ! ……先生!」
 俺は腰を震わせた。そこに、新たな違和感。
「……や………先生!?」
 何が起こっているのか、俺の頭はパニックだった。
 腰に乗っていた先生の重圧が、不意に消えて……両脚を大きく開かされた。
 指と入れ替えに、何かが押し当てられる。
「オレを、退かせられなかったな」
「…………」
「またアウトだ。隆一は今度こそ、ヤラれてもしょうがない」
 無言で目を見開いている俺に、意味深に微笑むと、腰をぐいと押し当ててきた。
「……ぁああっ!」
 背中がビリッと痺れた。熱い塊が無遠慮に突っ込まれる。
「やめ……先生…!」
「隆一、逃げてみろ……」
「……………!!」
 逃げろって……こんな状態で……
「……ぁあ……くっ……んぁああぁ……」
 先生を押し返そうと、胸を押してみても、自分の腰に刺激が返ってくるだけだった。
「…ぅ……はぁ……」
 強引に挿入されて、俺は先生の全部を咥えこんでいた。
「抵抗しないと、もっと酷いよ」
「………ん…」
 俺の黒帯を解くと、それで両腕をぐるぐる巻きにされた。
 そして、はだけた道衣の下を掌でまさぐる。
「アッ!」
 また胸の突起を、摘まれた。顔を寄せてくる。
 生温かい、ぬるっとしたモノが、胸を這った。
「ぅあぁ……!」
 俺は疼きに我慢出来ず、繋がれている後ろを搾って、仰け反った。
 ……うぁ……あぁ………ヤバ……かも……
 束ねた手首を頭上に押し上げて、先生は鎖骨や胸筋、脇まで、舐めてきた。
「…ぁあっ……ぁ……はぁ……」
 はっ……はっ……はっ……
 自分の喘ぎと、先生が動くたびに吐く息が、絡み合い出す。
 ───うぁぁ……きもち……いい……
 揺すられ、突き上げられ、突っ込まれては、引き出される。
 その上下の動きに、二人の呼吸が、自然に合わさってくる。
 ……ぁああ………これは………
 俺は体中を舐められながら、脚を思いっきり開脚していた。
「んっ……んぁあ………」
 先生が奥深くまで、俺を貫く。
「……逃げないのか」
 胸の尖りを舌で突きながら、先生が顔を上げた。
「……ぁ………はぁ……」
 潤む目で、俺は見つめ返す。
 ……逃げるなんて……もう、できない……
「センセイ…もう一回………、俺を…捕まえて……」
 激しい腰使いに揺さぶられながら、なんとか、それだけを声に出した。
「……隆一」
 先生の手のひらが、俺を包んだ。
 ………うぁ……うはぁ…………気持ちいい……… 
 腰から沸き上がる快感が、背中に這い上がっていく。
 擦られる後ろが、俺の興奮を掻き立てる。
「先生…先生…………いい」
「…………ん」
「いい…イイ……、気持ちいい………ぁあっ………!」
 先生がグンと大きくなった。圧迫感が増す。
 扱く手も、早くなる。
「うはぁ……! ……いく…イク……先生……イク…イクッ……!」
 腰が熱い。身体が熱い。
 気持ちよさに任せて、仰け反ったまま喘いだ。
「……りゅういち……隆一!」
「ああぁ……先生……先生ッ!」
 
 ──────ああぁッ───イクッ!!
 
 ビクンッ
 
 俺の身体が、震えた。
 先生も、一瞬怖いほど震えた。
 …………ぁぁあ………
 先生の手に、再度放出して、俺は果てた。
 先生も挿入はそのまま、俺の胸の上に体重を預けて動かなくなった。
 痙攣が止まらない。気持ちよくて、余韻がつきまとう。腹の中が先生で熱い……
「………………」
 頭上の腕を降ろすと、括られてる手首の間に、すっぽりと先生の頭を入れた。
「……………」
「先生……俺、先生に勝てなくていいや…」
「………隆一」
「時々、稽古付けて……」
 まだ弾む息で、潤む目で……先生を見つめた。
「ずっと……オレは”先生”か……」 
 少し顔を起こした先生は、涼しげな目を細めた。
「お前が追い越すことは、……ないのか?」
 俺も目を細めて頷いた。
「うん……いろいろ教えて」 
 トクンと、俺の中の先生の鼓動を感じた。再び息づき始めた先生……。
 思わず、きゅっとソコを締めてしまった。
「………ん…」
 先生の唇が、重なってくる。上と下で、先生の熱を感じた。
 ……うぁ………気持ちいい……
 
 キスを重ねながら、一瞬視界に入った道場の天井が気になった。
 背徳心が俺を煽る。
 ……神聖な道場の真ん中で、こんなワイセツなこと…
 ちらりと先生の顔を盗み見ると、同じように薄めで俺を見つめていた。
 ………先生。
 俺はますます夢中で、ディープキスに没頭した。
 
 
 ごめんなさい……ちゃんと水拭きするから……
 心の中で、合掌した。
 きっと先生も、手を合わしてるから……。
 
 
「何言ってんだ、拭き上げは隆一、一人でやるんだろ?」
 全て終わった後の、先生のお言葉。
「…………」
 俺は道衣の前を合わせながら、その涼しい顔を睨み付けた。
 ………そういう先生だ。
 俺は溜息をついて、さっき感じたことを思い出した。
「……センセ、俺、先生と阿吽の呼吸で、組演武できるようになるよ」
 だって……先生の呼吸は、俺…もう絶対よくわかる。
「……そうだな。こんど、演じてみようか。……素っ裸で」
「─────!!」
 ………そういう先生だ。
 俺は、その涼しい顔を…もう、睨み付けなかった。
 
 それにしても……セックスと演武って、似てるなあ。
 あの時感じた、呼吸と身体の一体感は、まさにそれだと思った。
 だから、心も身体も、サイコーに気持ちよかったんだ。
 ───そう思うのは不謹慎かな?
 
 心で合掌しながら、また降りてきた唇に、俺は目を閉じた。
 
 
 
 
 -終-  


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