SIDE 1
 
「スゲ…お前、こんなキツイのしてんの?」
 
 
 久しぶりに往来でばったり出会った、かつての幼馴染みを、家に連れてきた。
 クリスマス当日に一人でふらついてるなんて、俺もコイツも寂しすぎるぜ。
 
「オマエこそ、なんだよこれ、伊達か?」
 
 
 
 
 一声掛けたら、『つきあってやるか』と偉そうに言いやがった。部屋に通したら、『クリスマスなのにツリーも無いのかよ』ときた。
 相手もいねーのに、祝ったって楽しくねーんだよ。
 心で毒づきながら、ヤツ……ナツキを眺めた。
 
 中学以来だから…そりゃ育ちもするだろうさ。
 ……でも、なんだ…? コイツのこの変わり様。
「──────」
 気付かれないように、横目でジロジロと眺めた。
 適当に座れと言ったら、床に座り込んで、ソファーに寄りかかっている。
 ダチから押しつけられた、俺の部屋の唯一のデカ物、ピンクの革張りソファーだ。上に座ればいいのに。
 しかし何というか、その姿は……やべー……
 
 ナツキが引っ越して行って、その後一度も会うことはなかった。あんなに仲が良かったのに。
 でも…なぜかずっと、俺の中で忘れられない存在だった。
 だからか? ……何でこんなにドキドキしている…俺の心臓。
 
 
 ……そりゃ、昔から女の子みたいだったけどよ。
 ほっそい体…ヤラシイ服、着やがって。 
 でも、ツンとすまして気取る仕草は、変わっていない。 
 
 
 
「酒、飲むか? ビールだけど」
「……オレは要らない」
「あっそ…」
 ……”オレ”って言ってたっけな?  
 自分のビールと摘みを持って、俺はいつもの座り方…ソファーに全身乗り上げて座った。
 脱色したような黄色い後頭部が、何するでもなく目の前でじっとしている。
 
 どうしてやろう…… 
 俺はせっかく会えたこの機会に、もう一度昔のように仲良くなりたいと、思っていた。
 
「眼鏡、掛けたんだ。ガキん頃はしてなかったよな」
 試しに振った話しに、ナツキは食いついてきた。
「冬吾もだろ、いつからだよ」
 首をねじ曲げてこっちを見る。
 
 ヤベ…鎖骨が…
 
 アホなことを考えながら、視線を泳がせた。挙動不審に見えたら、最悪だ。 
「俺は高校の終わり頃だな…パソコンやり始めてから、転げ落ちるように悪くなった」
 
「……へえ」 
 興味深そうにレンズの奥から、綺麗な目が見つめてきた。
「ちょっと交換してみよう? それ貸せよ」
 無造作に伸ばしてきた手が、ひょいと俺の眼鏡を取り上げてしまった。
「冬吾は、こっち」
 細い指が差し出してきた黒フレームは、かなり度のキツイヤツだった。 
 
 ───マジかよ、こんなのしてんの。……裸眼は、何も見えねぇんじゃねえの。
 
 頭痛を起こしそうになって、早々に外した。
「これに比べたら、確かに俺のは伊達みたいなもんだな…オラ、返すぜ」
 眼鏡をお互いに受け取りながら、なにげに素顔を見つめ合った。
 ………俺のカオ、どんくらい見えてんだ?
 無意識に、顔を近づけていた。 
 
「……何」 
 
 ビックリした様子が、また……ヤベーわ。
 しれっとした白い顔が、うっすら赤くなった。
 俺はまだ飲んでいない酒に、酔ったような気分になった。 
「おま……色っぽいな」
 つい言ってしまった言葉に、俺も真っ赤になった。
「……………」
 不愉快そうに眉を寄せて、むっつりと口をつぐんで。でも目は見開いたまま、俺を凝視してくる。
 
 ……ん? 怒ったわけじゃないのか…? 
 
「なぁ…なんでお前、そんなに変わっちまったんだ?」
「………なんでって?」
 ブリッジを鼻柱の上で押し上げながら、元の顔に戻って聞き返してきた。
「その髪…服…おまえらしくない」
 ……似合ってっけどな。
「らしくないって…」
 ショックを受けたようにまた黙り込んだ。
 俺は缶ビールをグッと煽ると、ソファーから脚を下ろして、膝の間にナツキを挟んで座り直した。
 そして眼下の黄色い頭を、両手でワシャワシャとかき混ぜた。
「うわっ…?」 
「真っ黒い綺麗なストレートだったのが、だいなしじゃねえか!」
「ちょ…とうご…」
 抗うのを、両脚を腹の前でクロスさせてガッチリ押さえ込み、今度はぺったりしたカーディガンを触った。
 女物みたいだ。きめ細かいニットで、ぺらぺらに薄い。細い胸筋や肋まで影を浮かせている。
 しかも、紫色…インナーは赤だ。こっちもてろんてろんの生地で、スケベささえ、漂わせている。
 ……どう考えても、かつてのコイツのセンスじゃねえっつーの!
 
 妙な不快感と、手触りの心地よさとで、俺は調子に乗って肩や胸をなでくりまわした。
 
「お!」 
「あ!」
 
 同時に叫んだ。
「おま…これ、何だ」
「やめ……」
 胸を撫でていたら、不自然な突起が指の腹に当たって。
 何故か、その感触が、異様に気持ちが良かった。思わずもう一回。……もう一回。
 どんどん硬くなって、はっきりしてくる。
 指の腹が、ゾワゾワしだした。
 
「乳首か、これ!?」
「……あ……あほか! ドスケベッ!!!」
 
 ひじ鉄が飛んできた。
 顔を横に倒して交わすと、そのまま胸元を覗き込んだ。
 ガッパリ開いた襟首は、手を突っ込んでくださいと、言わんばかりだ。
 するり。
 
「うわ!」
「ひゃあ!」
 
 な…生々しい……なんだこれ…コリコリと先っちょだけが、硬い。小さな豆粒みたいのが、人差し指の腹を刺激する。
「あ、あ、あ…」 
 同時に出てくる声も。ヤバイ。
 エロ過ぎる……
「わりぃ…俺、すっげ…気持ち良いんだけど…」
「…んっ…んっ……」 
 俺の手を引っ掻きながら、床を蹴ってじたばたする。でも、ヤメロって言わない……
「マジ、わり…俺、止まんねぇ」
 俺はとうとうカーディガンとインナーをたくし上げて、胸を晒してしまった。
 白い胸の両脇に、弄って反応したピンクの乳首が……。
 平らなところに、唐突に飛び出してんのが、妙におかしいんだ。紐にじゃれつく猫のように、夢中で両手を使って、こねくり回した。 
「ぁああ…あぁ…!」
 声のデカさで、やっと我に返った。
「わっ、ワリッ!!」
 ───ナニしてたんだ、俺……!
 両手をバッと離して、ヤツを解放した。 
 
「……はぁ…」 
 
 言葉にならない、悶絶のような吐息。涙目になって、下から俺を責めるように見上げてきた。
 
「……え…」 
 チノパンの前が、すっげー膨らんでる。
「勃っちまったのか…?」
 
「───冬吾の、せいだろ」
 泣きそうに、眉を顰めて、体育座りになった。
「……気持ち良かった?」
 思わず聞いてしまい、また怖ろしい視線を喰らった。
 俺のそう言うところが、デリカシーが無いって、よく言われるんだが………
 でも、今は、そんなのと違う。……俺も、何故か気持ちが良くて、だから、ナツキが勃起したのが、嬉しかった。
 
「隠すなよ……俺も、デカくなってんだ。おあいこだって」
 ジーンズを押し上げてくる内側が、キツキツだった。
 
 ナツキが、目の高さの俺の股間に、釘付けになった。
「凝視すんな、バカ」 
 しかし、治まりが付かないこれを、どうしてくれよう。言葉少なに側にいるヤツが、どうにも気になる。 
 濡れたような視線…
 
 
 
「な……クリスマスだし……恋人ごっこ、しようぜ」 
 
 
 
「……どっちが、オンナ役?」
 クスリとナツキが笑った。懐かしそうに目を潤ませて、ゆっくりと言う。
「よく、そういう遊び、したね」
 
「……そう言や、そうだな」 
 男版、おままごとだ。性に興味を持ちだした頃、知りもしないくせにデートの仕方だの、口説き方だの、お互いで練習してた。 
 
 
 しかし、どっちがオンナって……
 今この場で、俺たちを見りゃ、一目瞭然……… 
「お前!」 
 俺はナツキを脇から掬い上げると、ソファに座らせた。背中から抱き込むようにして、膝の間に収める。
 見た目より、もっと細い。
「お前を鳴かせて、イかす!」 
 
 首筋に唇を這わせた。びくりと肩を揺らせて、反応する。……でも、抵抗しない。
 シャンプーの良い匂いを嗅ぎながら、耳を甘噛みした。
「……ん」
 そうしながら、再び両手で、乳首を弄くった。
「ん…ん…」 
 悶える声に、俺の股間が熱くなる。ナツキのも苦しそうだ。下に手を這わせて、ジッパーを下げてやった。
「あ…」
 さすがに、嫌そうに身悶えた。俺も、どこまでナニしていいやら……でも、気持ちよくさせてやりたかった。もっと触ったら、どんな声を出すんだろう…そんな興味も手伝って。
 ボクブリの中に、手を突っ込んだ。
「…………!」
 二人で、吐息を吐いた。
 ………熱い。
 そのまま、自分がオナニーをするときのように、扱いてやった。
「んっ……あっ、あっ、あ………」
 抵抗していた身体から、力が抜けたのが判った。
 オレの胸に背中を預けるように、寄りかかってきた。
 
 ───ズキン
 可愛く思えて、また心臓が変な音を出す。
 
 色っぽい唇が、半分空いたまま、喘ぎ続ける。
 あんまりイイ声で啼くから…
「気持ちいいか?」
 つい、聞いてしまった。もっと気持ちよくしてやりたくて。
「……………」
 ツンとすましていた顔は、すっかりのぼせて真っ赤になり、艶っぽい汗を光らせて………
 濡れた眼が、嬉しそうに微笑んだ。
 ……ヤベー
 ナツキに酔っちまった。
 
「いく……いくいく……あッ…!」 
 
 白濁が飛び散るのを反対の手で押さえながら、最後まで扱き上げた。
「とうご…もう、い…────ハァ……」
 脱力した体を、ソファーに横たえてやった。
 
 横に座って眺めていると、髪も横顔も肩も、体も足も…コイツが変に可愛く見えて、困った。 
「………」 
 力のない手が伸びて、俺の股間に触る。
「……なに?」
「冬吾のが……」
 
「や…、俺はいいよ」
 いきなり照れくさくなった。コイツに見せられるかよ、こんなイチモツ。
 当初の目的は、コレの処理だったんだが…それどころじゃない。
「………」
 横たわった顔が、寂しそうな表情を作った。…え、なんで? 
  
 ……でも、今は辛いだろ? 出したばっかだぜ。
 
 気を遣ったつもりだった。
「こんど、よろしくな」 
 
「…うん」 
 嬉しそうにニコリと笑って、寝てしまった。
 
 
 
 クリスマスの拾いモノ。
 2Kの何にもない寂しいマンションに、とんだプレゼントが転がり込んだ。
 ”今度、よろしく”って……俺たち、どうなっていくんだ?
 
 寝顔を見ていたら、堪らなくなった。
 カッコつけたけど……こんなギンギンになったままの、放っておけるかって。
「ナツキ…ごめん」
 おかずがコイツってのが、オドロキだったけど…さっきの色っぽさは、天下一品。
 愛しさまで湧いちまって…… 
 起こさないように静かに、自分のを取り出して、握った。
「……………」
 ナツキの熱がまだ残ってる手の平…そう思うと、また興奮してくる。自分の熱に重ね合わせて、扱いた。 
 イクときはもちろん、ナツキがしゃぶっている妄想……
「ん……ッ」 
 いつもよか、半端無い量を出していた。
 
 ────はぁ…くせになりそうだ。 
 自己嫌悪と闘いながら、そこら中を拭いて後片づけをした。 
 
 
 くしゅん、とナツキがくしゃみをした。
 気が付いてみると、かなり冷える。 
 
 外は雪が降り出していた。
 ガラにもなく、メリークリスマス…などと、心で呟きながら。
 俺はナツキに毛布をかけて、頬にキスをしてみた。
 
 
 

- Happy Merry Christmas -

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