・泉堂祐司・
(今日は仕事が立て込んで、遅くなってしまった……)
泉堂祐司(せんどうゆうじ)は近くのスーパーで総菜でも買って帰ることにした。
時間は22時20分。
23時閉店のこのスーパーは、そろそろ半額値引きが始まる。
丁度いいなと思いつつ、総菜コーナーへ向かった。
この大手スーパーは、閉店作業をアルバイトに纏めて、やらせている。
総菜屋とパン屋は子会社が提携して入っているだけで、本来はそこのパートが最後まで片付けて閉店を迎える。
しかし人減らしのために陳列、値引き、ゴミ出しの類は、グロサリーの人員に回されていた。
だが一般品出しのグロサリーにしても、手が空いている訳ではない。負担が掛かかる分だけ残業が増えていく。当然、チーフからは苦情が出る。
バイトは要領よく仕事ができないと、辛い立場に立たされる嵌めになっていた。
 
(あ、やってるな…)
途中のパンコーナーでは値引きが始まっていて、人集りができていた。
その中心で、もの凄い手際よくシールを貼っているアルバイトの子がいた。
小さな機械でバーコードを読み取って、品数分だけシールを印刷し、的確に貼っていく。
ここら辺のオバチャンたちは図々しいので、シールが貼られるのを待っていない。欲しい品物を掴んで、早く半額にしろと、バイトの子の眼の前に突き出す。
その子は厭な顔一つせず、その一つの為に、自分の作業を中断させてはバーコードを読み込み直して、半額シールを貼ってあげていた。
よく見ると、知らない顔だった。
(最近入ったコかな。随分仕事ができるな)
 
この時間に来るのは、久しぶりだった。
泉堂はこのスーパーのバイトの子は、ほとんど把握していた。
何も買わなくても、ふらりと寄っては”バイト君チェック”をしていた。
(特にこの間までいたコは、可愛くてよかったのになあ)
すぐに辞めてしまうバイトも多く、チェックした数日後には、もう姿がないこともある。
総菜コーナーでは、もう一人のお気に入りが、商品の陳列をし直していた。
及川(おいかわ)君だ。この子も手際がいい)
既にネームプレートをチェックして、名前を覚えている。
陳列棚の奥に残った商品を引っ張り出しては、手前に並べ直し、いかにも残り物には見えないよう、見事にディスプレイしなおす。
初めて見たときは、ほ~っと関心したものだ。
きっと売上は上がっている。
そこに、さっきのパンコーナーの子が加わって、二人で黙々と売り場を整えだした。
白い清潔そうな半袖シャツに、黒いズボン、青いエプロン。
二人揃うと、絵になる。
パンコーナーにいたコの方が年上に見えるが、二人とも高校生だろう。
及川がバックヤードに入っては段ボールなどを運び出し、違う仕事を始めて、値引きをしている相方に声を掛けた。
「わり。おれ、お前の仕事、手伝えないわ」
彼の方がどう見ても年下なのに、ここでは先輩なのだ。
「いいっすよ。だいじょぶっす」
「あっち終わったのか?」
「はい! でも俺、ちょー速攻頑張ったっすよー」
楽しそうに話しながら、てきぱきと手を動かしている。
及川は、少し小柄で短い髪を明るく染めている。
とても元気な印象だ。
パンの子は……。
泉堂はさり気なくネームプレートをチェックした。
(西村……くんね。彼はインテリタイプだな)
背が、及川より頭一つ高い。
180㎝近くある泉堂から見れば、西村も頭一つ小さかったが。
泉堂は、及川も良いが、西村の風貌にもとても惹かれた。
真っ白い顔に、真っ黒い髪。前髪だけ長めで、眼鏡に被さっている。
細面の顔は、真剣な時は冷たい無表情だが、にっこり笑うと意外に可愛くなる。しゃべり方も、見た目の印象とかなり違った。
(この子、落としたいな)
泉堂は西村に近づき、横に並んだ。
「あ、スミマセン」
西村がはっと身体を避けて、謝った。泉堂がわざと腕を当てたのだ。
「いいよ。これ、半額にしてくれる?」
「あ、はい……」
西村に総菜のパックを渡すとき、また、わざと指に触った。
「…………」
ちらっと、眼鏡の奥から視線を上げて、泉堂を見る。
(うっ、かわいい)
泉堂は平静を装いながら、どきどきした。
 
いきなりベタベタ触る訳にはいかないので、今日はそれだけで引き上げることにした。
「ありがとう」
にっこり笑って、半額にしてもらったパックを受け取り、レジに向かった。
もう、何を買ったかもわかっていないような状態だった。
 
 
レジに消えた泉堂を、西村はじっと見つめた。
「どうしたん?」
及川が段ボールを片づけて、戻ってきた。
「うん、今すっごいカッコイイ人が来て。スーツ着てたから、サラリーマンかな」
レジの方を視線で教える。
「あんなカッコ良くて、モテそうな人でも、こんなトコ来て半額にしてください、なんて言うんだなと思って」
おかしそうに笑い出す。
「カッコイイ人~?」
及川はレジをみて、
「あっ」
と小さい声を上げた。
スタイルのいい長身の男が、レジに並んでいるのが見える。
整った顔が、遠目にもわかる。
「なに? 及川サン……知ってる人っすか?」
「うん……」
思案げにレジを見ていた及川は、西村に向き直ると、明るく言った。
「な、この後付き合えよ! おれ、ここ手伝うから」
「え、いいっすよ。及川サン、終わりじゃないすか」
終わった人間から迅速に、タイムカードを押さなければならなかった。二人で残業など言語同断である。それだけに及川は、スタンプをつけてから戻ってきて西村を手伝うことがあった。
「いいって。早く片付けちまおうぜ」
「ハイ、すみません」
二人は、更にスピードアップして売り場を綺麗に整えると、時間ぴったりでアップした。
「ありがとうございます! 本当なら今日の残り具合はキツかったすから、残業だったですよね」
着替えながら言う西村に、及川は笑い返した。
「西村が来てから、俺、すっごい助かってんだぜ。お前仕事早いから」
言いながら、更衣室のドアの鍵をさり気なく閉めた。
タイムカードの残りをチェックしたところ、後はパートのおばさんと社員達だけだった。
ここの更衣室は店の地下にある。社員はもっと遅くに降りてくる。暫くは、誰も来ないはずだった。
 
「なあ、西村って、さっきみたいのがタイプなん?」
「え?」
キョトンとして、及川を見下ろす。
制服のシャツのボタンを開けていた手を止めた。
「さっきのカッコイイって言ってたやつ」
「ああ、タイプって……別に」
西村は笑った。
「あの人、その前にも総菜コーナーに来てて、及川さんのこと、見てたんスよ。やっぱ知ってる人だったんスね」
「ばか、あれはお前を見てたんだよ」
及川は呆れ顔で、言い返した。
「そんなことないスよ。知らないですもん、あんな人。そんで、真横に立ったから思わず見ちゃって。身長高いし顔がやたら整ってたから、へーって思ったんす。そしたら半額シールなんて言うから、ギャップが面白くて」
また、笑い出す。
 
「お前もな……」
及川の瞳が妖しく光った。
 
「えっ」
ガタンッと派手にロッカーの音が響いた。
着替え途中だった西村が、半袖シャツの襟元と肩を押さえられえてロッカーに張り付けになっていた。
シャツの前ははだけていて、下はタンクトップ一枚。
鎖骨と胸の上部が露わになっている。
「俺は?」
及川が眼を煌めかせながら、西村を覗き込んだ。
「俺のことは、タイプじゃない?」
「……何、言ってるん……すか」
びっくりして、掠れたような声を出す。
「俺も、お前のギャップにイチコロなんだけど」
鎖骨に噛みつくようなキスをした。
「あッ」
西村が抗うのを、ムリヤリ押さえ込んで、床に押し倒した。
毎日パートとバイトが持ち回りで清掃をしている床だが、汚いには違いない。それでも及川は、両腕を捕らえて床に押しつける。
「及川……さん?」
下から見上げてくる西村の顔が、上気していた。
「西村……。俺、もうちょっと待とうと思ってたけど、やっぱムリ」
「……だから、……なに、言ってるんすか……」
引きつる西村の顔を、及川は真上から見下ろした。
眼鏡の奥の、瞳の色を伺う。
あんまり拒否が強かったら、止めるつもりだった。
「横やりが入りそうなんだ。アイツ、お前を狙ってる」
「……はっ?」
訳が分からないようで、イラっとした口調だった。
「うるさい、何でもないよ」
何か言いたそうな唇を塞いでしまった。
 
「ん……っ」
不意打ちで舌の進入を許した西村は、苦しそうに声を上げた。
「んん――っ」
抗う西村を体重を掛けて押さえ込み、なおも舌を吸い上げる。
片手は、タンクトップの下に滑り込んだ。
「やっ……、なにすん……すかっ」
唇が外れた瞬間に、悲鳴を上げた。
身体は西村の方が大きいが、力の差が違った。
「黙ってろって」
西村の頭上で両手を纏め、エプロンの紐で縛り上げてしまった。反対の端を、下段ロッカーの中のハンガー掛けに縛り付けた。
「や……やめてください…」
蒼白になって、訴える西村。
及川は聞く耳をもたず、タンクトップをたくし上げて、胸を晒す。
「っはぁ…………!」
胸の突起を舌の先で舐め回した。
反対側も、指の先で弄くる。
「――!!」
西村は、歯を食いしばった。
「感じてんじゃん。さっきのキスも気持ちよかったろ? 俺、キス上手いんだ」
尖って硬くなった胸の飾りを、指で何度も摘みながら、囁く。
「! ……お、及川サン、いい加減にしてください……っ」
足先がばたつく。
その足も身体を乗せて押さえ付けると、ベルトに手をかけた
「や……、やめ……っ」
ロッカーを揺らしながら、全身で抵抗する。
ガチャガチャと荒っぽくバックルを外すと、下着ごとズボンを引き下げた。
「!」
晒け出された下半身が硬直する。
「気持ちよくさしてやるぜ。下も上手いんだ」
及川は、舌先で上唇をゆっくり舐めた。
扇情的に赤い色をちらりと見せて、目を細めて嗤う。
悲痛に眉を寄せつつも、西村の喉が上下に動いた。
 
及川は西村の腰の間に顔を埋めると、半起ちになっているそれを、口に含んだ。びくんと身体が反応する。
「やだって……、及川さん……なんで……」
掠れる声で聞いてくる。呼吸が荒くて、艶っぽい声。
及川は、答えもせず、口を上下させた。
舌をくびれにからませて、口内で締め付けるようにキツク吸う。
「んんぁ……」
西村が腰をかるく振り出した。
「はぁ……、はぁ……ああ!」
押し殺した喘ぎが一際高くなって、西村の身体が大きく震えた。
及川は、西村が吐きだしたモノを口で受け止め、全部飲み下した。
更に、残っているものも全て吸い尽くすように、銜えたモノを舐めてしゃぶった。
「ん……」
もういいという風に腰を捩る。
西村が、うっすら目を開けた。上気した頬が紅くそまり、眼鏡の奧の目は、濡れて潤んでいる。
その顔を見た及川は、身体をズリ上げてまたキスをした。
「……その口、やだっす」
眉を顰めて顔を背けるが、顎をとらえて、奥深くまで舌を差し込む。
舌と舌を絡め、逃げ回るのを追いかけては吸い上げる。
歯列をなぞって擽るたび、西村は喉を震えさせた。
時々薄目を開けて見てみると、必死に自分のキスに対応しようと真剣に目を伏せて、眉を寄せている。
そんな表情を見て、また及川は煽られる。
「西村、おれ、本気だぞ」
キスの合間にそう伝える。西村が、びくっと身体を硬直させた。それが答えだった。
いいも悪いも言わない。どうしていいのか、わからないのだろう。
及川が唇を離し、眼鏡の奧をもう一度覗き込むと、困惑して少し見開いた切れ長の瞳に出会った。
「おまえと、したい」
また、びくりとする。
「なん……で?」
及川は右手の指を、西村の後ろの蕾にあてがった。
「……ぁっ」
軽く押して刺激する。
「おまえ、可愛い。年上のくせに……」
「…………ぅ」
「大事にするつもりだったのに。あんなのに持ってかれるくらいなら、おれが無理矢理でもやってやる」
「……だから……なんで」
荒い呼吸の合間に、声を絞り出す。
及川は気が付いた。理由がちゃんと欲しいのだと。
男とヤルのに、ちゃんと納得する理由が欲しいのだ、このノンケ学生は。
なら、言ってやる。この先、もういいって言うほど。
「お前が、好きだ」
「……及川さん」
また唇を重ねた。今度は西村も積極適に舌を絡めてくる。
お互い酸欠で目が眩むほど貪りあった。
「良太って呼べ……孝史」
「……良太……さん」
及川は、その声に満足して微笑んだ。
そして、ソコに指を入れてほぐしていく。
「ぁ……、ああっ」
慣れない行為に、声が大きくなる。
西村の声は低くて通るから、ドアの外にも聞こえてしまうかもしれない。
「ちょっと無理したら、ごめんな。なるべく痛くないようにするから」
及川は、自分のロッカーからコンドームとローションを取り出した。
西村がそれを、ビックリした目で見つめる。
「用意周到だろ? お前をいつ襲おうか、企んでいたんだ」
ニヤリと笑ってみせる。本当は、常に持ち歩いている単なる常備品だった。
自分にゴムを付けると、西村の後ろにもローションをたっぷりと塗り込んだ。
「ん……良太さん、これ、外して」
西村は頭上で束ねられている自分の両手を、揺らした。ロッカーが中で音を立てる。
「やだ」
「……良太さん!」
「本当に、俺のものになるまで、外さない」
また軽いディープキス。触れるだけなんて無理だ。いやでも吸い付いてしまう。
でも早くしないとローションが乾いてしまう。
及川が唇を離すと、銀色の糸を引いた。それを目を細めて見つめる西村。
潤んでいてとてもかわいく見える。
「……いいか? いくぞ」
「……ハイ」
足を抱え上げられ、恥ずかしい格好になっている。それでも真剣に答えてくる、西村。仕事に取り組む時のような真剣な目。
でも頬の上気した赤みが、普段とは違うことを物語っている。
「ん……」
焦らして解しながら、少しづつ中に入れていく。
「ああっ……り、良太……さん」
全部入れきった時、名前を呼ばれて及川は興奮した。
「ん……きつ」
自分のモノが大きくなると、それに反応して締め付けてくる。
相乗効果で、もの凄く気持ちが良かった。
「孝史……!」
「りょうた……さん……ぁ、はぁ……っ」
少しずつ出し入れを始める。
苦しそうな西村の顔に、汗が滲む。
だんだん、頬の赤みが強くなってきた。
なれてきて、どんどん激しく腰を打ち付ける。
ロッカーの揺れる音と西村の喘ぎ声が、更衣室に響き渡った。
「んっ、んっ……」
出し入れしている場所も、厭らしい水音を立てている。
及川は、西村のモノを掌に包み、腰の律動と一緒に上下させた。
「ああッ……」
及川が西村の中に吐精するのと、西村が達するのは殆ど同時だった。
はぁ、はぁ……
ふたりして、肩で息を切らし、見つめ合う。
今度は軽い触れるだけのキス。
「手に入れた」
「あなたに落ちた」
二人は、くすぐったそうに笑いあった。
 
 
次の日。
泉堂は、仕事は早く引けていたが、スーパーには遅い時間に足を運んだ。
また、西村に会いたかったのだ。
いそいそと総菜売り場に行ってみると、彼はいた。
ところが、彼のその両手首には包帯が巻かれていた。
(なんだ? 怪我か? あんな場所に…)
気になって近寄ろうとしたら、総菜調理場の奥から、及川が出てきた。
「おい、孝史。そっちどう?」
「あ、良太さん、終わったっすよ。ばっちしっす!」
「おー、やっぱお前早いな! そいじゃ、わり、こっち手伝って」
「ハイ!」
 
呆然とその遣り取りを聞いていた。
……たかし?
……りょうたさん?
昨日までは、名字で呼び合ってなかったか?
二人の交わす視線も、意味深なモノを感じる。
(…………………)
なんにせよ、自分の出る幕では、ないな。
心に空白を感じて、泉堂は踵を返した。
 
 
 
 
 
”Nハンター”
ノンケ・ハンターの略である。
 
 
彼、泉堂祐司は、天然系Nハンターである。
泉堂は、獲物を見つけて狙った瞬間から、激しいオーラを発する。
周りのライバルに、すぐ気付かれてしまうのであった。
しかし、自分のオーラにも、ライバルが居ることにも気付かない。
そこが天然系である。
結局焦ったライバルに、獲物をすぐ喰われてしまうのであった。
 
 
ハンターと言いつつ、本人がゲットできたことない。
でも、彼の近場のノンケが喰われていくことに、間違いはない。
たしかに彼はNハンターなのである。
 
 
明日も泉堂は、好みの子を探してスーパー内を、うろつくのであった。
 
 
 
 
END
  

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