「俺とアイツ」夏シネマ
 

 

 
 ───え!?
 ……うわっ……なっ……!!
 
 
 
 慌てて映写機に抱きつくようにフィルムを止めて、誰もいるはずのない部室を見渡した。
 ───先輩!?
 ドクン、ドクンと、心臓が煩い。
 
 あの時の、先輩たちの様子を思い出す。
「誰もいない時に、一人で観てね」
 妙に含んだような、言い回し。
 口の端に浮かんだ、笑み。
 
「─────っっ!!」
 俺は慌てて、部室のドアの鍵を閉めに走った。
 後ろ手に鍵を閉めながら、ドアに背中で寄り掛かった。
「………………」
 眼鏡のレンズをシャツの裾で拭いて、かけ直す。
 頭を落ち着かせて、さっきの映像を思い出してみた。
 佐倉先輩たちに、押さえ付けられていた須崎……。
 その顔は真っ赤で、大きい目を見開いて……俺を見ていた。
 ────これ、あの合宿の時の……だよな。
 生唾を、何度も飲み込んだ。
 あれ以来、須崎とは会っていない。
 ────あそこで、あんなトコで……何があったんだ……?
 6畳の部屋に布団を敷き詰めた空間。
 そこで先輩2人に捕まえられた須崎……
 そう考えただけでも、興奮した。
「……………はぁ…」
 深呼吸をして、気持ちを落ち着かせると、映写機の前に戻った。
 ────見定めてやる
 そんな気分だった。
 息を詰めて、再びリールを回し始める。
 
 それは、板谷先輩たちに裸にされた……須崎のAVシネマだった。
 
 一番最初に俺を見たと思った場面は、カメラの位置を教えられて、驚いている顔だった。
 固定アングルらしく、いまいち不明瞭な映像。
 でも、須崎の顔がどんどん火照っていって、仰け反って喘ぐ姿は、充分綺麗に映っていた。
「………………」
 瞬きも忘れて、それに見入った。
 音声はない。
 昔のサイレント映画みたいで、それはそれで、もの凄くエロい映像だった。
 タカタカタカタ…微かに鳴り響くのは、リールの回る機械音だけ。
「………」
 無音の世界の中で、須崎が喘ぐ。
 悩ましげに眉を寄せては、目を潤ませて、頬を紅く染めていく……
 首を振っては「やめて」と、何度も動く、紅い唇。
 白い肌……
 胸を這い回る、手の平。
 板谷先輩の上下する手に、両脚を広げて……
 うわ、尻に指が…! ……仰け反る身体……
 
 ───はぁっ……はぁっ……
 
 聞こえるはずのない、須崎の喘ぎ……それは気が付いてみれば、自分の荒い呼吸だった。
「あッ……」
 思わず腰が震えた。
 須崎が板谷先輩の手で、イカされた瞬間だった。
 ビクンと身体を震わせると、喉を反らせて小さい口が悲鳴を上げたようだった。
 佐倉先輩の腕の中で、ぐったりとして、身体を小刻みに痙攣させている。
 頬を伝う涙、真っ赤な唇。
「──────っっ」
 俺は一端、映写機を止めた。
 ────ヤバイ。
 ズボンの前が、かなりきつくなっていた。
 
 ───須崎見てて、勃っちまうなんて……
 誰に見られているわけでもないのに、恥ずかしくて一人、赤面した。
 ────どうする……まだ観るか……?
 
 なんて、悩んだのも一瞬だった。
 俺はもう一度深呼吸をして、立ち上がって、背筋を伸ばした。そしてきちんと座り直すと、再びリールを回し始めた。
 
「……うわ…」
 思わず声に出して、呻いた。
 佐倉先輩が取り出したモノは、俺も初めて見る。
 ゴムを被せたそれ……大きめのバイブが、須崎の後ろにあてがわれた。
 大声を上げそうな場面では、佐倉先輩がその唇を塞いでいた。
 ────うわ……うわ…………
 濃厚なキス。
 須崎の喉は反り返り、胸が激しく上下している。
 その下、広げられた両脚の根本に……太いバイブが埋め込まれていく。
 押し込むたびに、背中を反らせて震えて。
 痙攣する腰、のたうつ身体。
 須崎のソコは、少しずつ勃ち上がっていった。
 ────はぁ………
 全部入れられた後、尻で座らされて、辛そうに顔を歪めている。
「………ッ」
 自分がそうされたかの様に、股間が疼いた。
 知らずに歯まで、食いしばって。
 ────はぁ、…はぁ…はぁ…
 俺は須崎の変わりに、呼吸を荒げ続けた。
 そこで画面が切り替わって、須崎のアップが映し出された。
 板谷部長が、カメラを構えたんだ。
「…………スゲ…」
 泣いて嫌がる、火照った須崎の顔。
 その口には、撮影で使った猿ぐつわが嵌められていた。
 目線だけで訴える仕草が、胸にズキンときた。
 そのアップから、カメラは少しづつ下になめて移動していく。
 首筋から胸へと、伝う汗。
 鎖骨、ピンクの小突起、腹筋、半勃ちになってるソコ…その奥に少し見えてる、バイブ……
 開いた脚の膝頭…ふくらはぎ…リキんだつま先まで、じっくりと映し出した。
 
 ───さすが板谷先輩……すごい綺麗に撮ってる……
 生唾をまた、飲み込んだ。
 ───でも、それにしたって……何、してんだ…先輩たち……?
 
「──ッ!」
 バイブのスイッチを入れられたのか、須崎の身体が急に跳ね上がった。
「うぁ……」
 俺も、そこが痛い。腰がどんどん疼いていく。
 その瞬間、音声が入った。
 
『んんッ……ぁあああッ…!!』
 須崎の喘ぎ声だった。
 
 
 
『理央……入部してくれ』
『キー君を、助けてあげて』
 
 
 
 先輩達の声…!
 
「─────────!!」
 
 俺は、胸が熱くなった。
 先輩達のその声は、やっていることからは想像も付かないくらい、真剣だった。
『…ん……んっ…んんん!』
 その間も、須崎の喘ぎ声は続く。
 もはや、抵抗じゃない。もっともっととねだるような、懇願の色がその声には交じっていた。
『…ぁあッ…ぁあッ……ああぁッ…』
 ───はぁッ…、はぁッ……
 俺はもう、堪らなかった。ズボンの前を解放すると、熱くなっているそれを引き出して掌中にした。
 須崎の喘ぎ声にあわせて、上下させる。
 須崎の唇は、また佐倉先輩の濃厚なキスで塞がれていた。
『……ん!! ……んんーーっ!!!』
 …ぁあ、…ぁあ、………んッ…ぁああぁ……!!
 
「………くッ…」
 ヤツがイカされるのと同時に、俺もイっていた。
 ……ハァッ……ハァッ…ハァッ…
 スクリーンは、正体をなくした須崎のアップの、静止画で終わっていた。
 真っ赤な頬に涙の跡が幾筋も伝い、閉じている目も長い睫が濡れている。
 
『───リオちゃん、約束だよ───』
 
 最後の佐倉先輩の声が、耳から離れない。
 ………リオ……リオ……
 俺はその顔を見つめながら、もう一発抜いていた。
「………んッ」
 ───ハァッ、……ハァッ……
 
「………リオ…」
 
 思わず、声に出して呼んでしまった。
 胸が新鮮な響きで、高鳴った。
「リオ……リオ……」
 俺は、残りの休みの間中、自分のベッドの中でその名を呼び続けた。
 
 
 
 
 
 

 
 試写会は、8月が終わる3日前。
 俺たちの特権。夏休み最後のイベントだった。
 俺たちだけが、誰もいない学校を独占する。
 
 
「リオ……この後、片づけ手伝って…」
「……………」
 真っ青になって、目を見開いて震えているリオに、そう”命令”した。
 
 
「……………」
 何も言わないで、見上げてくるリオ。
 机2つ離れた距離が、警戒を物語っている。
 既に先輩も女の子達も帰って、部室には俺たち2人だけだった。
「………面白かったろ? 映画」
 俺は、上出来な仕上がりにも、興奮していた。
 あのラストのアップみたいに、リオをまた撮りたい。
「リオを……撮りたいんだ」
 そう言った瞬間、リオはビクッと身体を震わせた。
「………やだ」
 眉を吊り上げて、睨み付けてくる。
 生の須崎……なまのリオだ……。
 フィルムの中の、喘いだ顔が思い出される。
 ……紅い唇、潤んだ瞳。色っぽい表情……
 思わず手を伸ばした。
「………あッ」
 怯えたリオが身体を引いた。
 ───逃げられる!
 俺は咄嗟に手首を捕まえて、引き寄せた。
 間にあった机が、激しい音を立てて床を滑る。
「やっ……加藤!」
 リオの悲鳴が、部室に響いた。
 身を捩って逃げようとする。
 俺は強引にその身体を腕の中に、抱き込んだ。
「……離してっ」
 浅い呼吸を繰り返しながら、身体を震わせている。
 気丈にも、真っ白な顔で睨み付けてきた。
「リオ……」
「────ッ!」
 その唇に、自分のを押し付けていた。殆ど衝動的に。
「んんんーーっっ!! ………やっ…やめろ!」
 この身体のどこに、そんな力があるのか。
 激しい抵抗で俺の腕を振り払うと、手の甲で唇を拭いながら俺を睨み上げた。
「……卑怯者っ!!」
 それだけ叫ぶと、身体を翻して、教室から走って出て行ってしまった。
 
「………………」
 俺は、出て行くリオを追いかけることも出来ずに、一人部室に立ち尽くしていた。
 夏の終わりの部室で…… 
 俺は、何をしているのだろう。
 広い部室の片隅に、映写機と…俺ひとり。
 下がったままのスクリーンの前に、板谷先輩と佐倉先輩の、仲の良さそうな笑顔が見えた気がした。
 
 
 
 
「……なに?」
 夏休み最後の日、リオは俺からの携帯呼び出しで、渋々出てきた。
 ──大事な話があるから。絶対来い……リオ──
 そう言って。それは、無言の圧力。
 場所は、俺んちの最寄り駅だ。
 俺は決心していた。昨日一日、ずっと考えてた。
 ───もう迷わない。俺は、実行に移す!
 残暑続きで、ヤツはショートパンツにロゴTシャツという軽装だった。
 ――無防備だな……
 見た瞬間、そう思ってしまう俺は、やはり野獣になっていたからだろう。
 顔を赤くして、半睨みに見上げてくるその顔に、俺もどきどきした。
「──ちょっと、歩こうや」
「……………」
 用心するように睨み付けながら、リオは着いてきた。
 それを眼鏡のレンズの端に捕らえながら、俺は他愛ないことを喋りだした。
「将来さ、何になりたいか……考えてるか?」
「───?」
 言葉の真意を探るように、じっと見てくる。
「俺さ、映画監督になりたいんだ」
「……カメラマンじゃないの?」
 さすがに、リオが口を開いた。
「……ああ]
 さんざん俺は8ミリでカメラマンになる! と繰り返していたから。
「ストーリーを追って物事を組み立てて、完成させる。その手段の一つが映像だって判った」
「………?」
「カメラで何かを映す……ファインダーに収めていくのは、すごい楽しい。でも、もっとドキドキすること、見付けた」
 映研で、俺は先輩にそれを教えてもらった。
「映すための世界を自分たちで作り上げて、用意をしていくんだ」
「……ああ」
 リオも、納得いったように頷いた。
 俺は立ち止まって、その顔を正面から見た。
「そのためには、どうしても…お前が必要だ。……リオ」
 名前を呼ばれた瞬間、リオは顔を引きつらせた。
「やっぱ卑怯もんだ! ……加藤は!」
 不意に叫んだその顔は、泣きそうに歪んでいた。
「僕…帰る!」
 俺は、踵を返そうとしたリオの腕を掴むと、すぐ横の鉄門扉を開けた。
「──!?」
 驚くリオを無視して、玄関の鍵をあけると中に引きずり込んだ。
「ここ、俺んち」
 中は誰もいない。昼間はいつもそうだ。
「………加藤!?」
 嫌がるリオを引きずって、二階の自分の部屋に連れ込んだ。
「離せ……離せよ!!」
 ベッドに押し倒されて、藻掻いて暴れた。
 用意していた紐で手首を束ねると、リオは悲鳴を上げた。
「やぁ……加藤…っ!?」
 俺は無言で、その手首をベッドのパイプにくくりつけた。
 両腕が上に上がったせいで、Tシャツの裾から腹が見えた。
 あの映像を思い出して、俺は息を呑んだ。
「あれ、観たんだよね!?」
 リオが顔を真っ赤にさせながら、喚いた。
「あんなの約束でも何でもない! あんなことされたって、僕、入んないから!」
「……………」
「まさか……加藤に、ほんとに見せるなんて……」
 大きな目から、ぽろぽろと涙が零れた。
「”リオ”とか呼んで脅したって、……今更また恥ずかしいビデオ撮ったって、僕は絶対やだかんねっ」
「………リオ?」
 悔しそうに唇を噛み締めている。
「僕は従わない! ………卑怯もの!」
 また、ぽろぽろと涙をこぼしている。
 
「……勘違い、すんな」
 
 俺は腹の底から冷たい声を出した。
 ───今更また、ビデオだって? ……そんなんじゃない!
 
「俺は…お前が欲しいだけだ」
 
 リオの目の色が、恐怖に変わった。
「………かとう?」
 Tシャツをたくし上げると、綺麗な胸が露わになった。
 可愛い桜色の部分に舌を這わせた。
「…っや……ぁああ…!」
 悶える腰を押さえて、ショートパンツと下着を引きずり降ろして、脱がせた。
 何もかも、あの映像の通りで。
 綺麗な肌、艶めかしい肢体……そそる目つき。
「リオ……」
「………んんッ…!」
 キス、愛撫、ほぐし……
 毎晩毎晩、頭の中でシミュレートしてはリオを抱いていた。
 
 その通りに俺は、リオを犯していった。
 


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