2度目は、悔しいほど 見惚れて
 
4.
 
「えっ?」
 
「酔った振りだよ、俺が介抱してやる」
 耳に唇を押し当てて、囁かれた。
 ………!!
 不意を突かれて、肩が震えた。
「あっ……」
 デニムパンツの上から、脚の付け根を撫で上げてくる。
 さっきのキスで、僕のそこは少し大きくなっていた。
 哮さんも、気が付いたみたいだ。
 ───うぁぁ、恥ずかしい……!!
 一瞬止まった手が、もっと強引に動き出した。
 ベルトを外し、前のファスナーを開けられた。
「え……なに……」
「良くしてやるよ」
 手をつっこむと、僕に直接触ってきた。
「ひゃあっ!」
「しっ……!」
 抱え込んだ反対の腕で、口を塞がれた。
 
 ──ちょっ…、ちょっと待って……!
 
 僕は本気で焦った。
 だってここは、個室でもなければ、衝立があるわけでもない。
 他の客や、さっきのおばさんが来たら、何してるかなんてすぐバレてしまう!
「や…、ん……っく」
 勃ち上がってしまったモノを、下着から取り出された。
 巧みに指が裏スジや後ろにまわる。
 そのたびに、腰がビクリと震えてしまった。
 
 ───や……やっぱ、ダメだ……こんなこと!
 
「…こんな場所で……!」
 腕の中で身悶えながら、哮さんの耳に囁いた。
 店の人に聞こえないよう、それでも、精一杯牽制を込めて。
 
「カズキに触りたい。俺…待てねぇ」
 真剣な眼で、囁き返された。
「待たせるのがワリィんだよ…」
 また髪を掻き上げて、耳たぶを噛みながら言う。
 熱い息が掛かった。
 ───あッ…!
「ご…ごめんなさい! …だから…やめ……」
 言い終わらないうちに、腰から背筋にかけて、鋭い衝撃が走った。
 
 ──────!!
 
 キスで言葉を塞がれ、肩口からカットソーの中に滑り込んだ手が、直接胸の中心に触れていた。
「んぁ…ぁあ……!!」
 前の方も大きな掌が、僕を包み込んで上下し出す。
 先端だけ別の動きで擦られながら、全体を激しく扱きあげる。
「あぁ……いやぁ……!」
 腰を捩って、必死に逃げた。
 
 ──こんな、されたら………僕……!
 
 
「あっ……ぁあ……」
 
 仰け反って、全身を震えさせた。
 キスも、愛撫も、扱きも……気持ち良すぎる………
 
「……カズキ」
 合間に囁かれる声に、アタマが痺れる。
 
 ……はぁ……はぁ………
 入り口に背中を向けて、斜めに座る哮さん。
 その影で、僕は必死にスーツの胸にしがみついていた。
 
 ──もうダメ……身体もココロも、…最後までイきたがっちゃった。
 
 でも……あ……やばいよ……!
「……たけ……離して……」
 このままじゃ本当に、イっちゃう。
 こんなトコで出しちゃって、いいワケないのに!!
 
 僕の焦りと悶えを無視して、哮さんの手はどんどん僕を高めていく。
「いいから……イケよ……」
 胸を弄くっていた手を、Gパンの後ろから突っ込んで、奧を探ってきた。
 前を扱かれながら、後ろの窪みもグイグイと指の腹で突き上げられた。
「ぁああッ……!」
 腰が、新たな刺激に震えた。電流が走ったみたいに、全身を何かが駆けめぐる。
「ぁ……も…ダメ……いく…!」
 絶頂の波が快感を突き上げる。掠れた声は、自分でも呆れるほど、ヤラシかった。
「た……哮…さん…ッ」
 うぁッ! と思った瞬間、哮さんの身体が視界から消えた。
 扱かれていた熱い先端に、柔らかい感触。
 温かい肉幕が僕を包み込み、上下する。蠢く熱い舌が、鈴口を擦って刺激する。
 
「んっ…んぁあぁ……!!」
 
 翻弄されたまま、快感に導かれて、僕は哮さんの口内に吐精していた。
 
 
「………ぁ………はぁ……」
 細かく痙攣を、繰り返す。
 余韻のせいで、震えが止まらない。
 哮さんは僕の全部を吸い取ると、飲み下してしまった。
「あ……、だめ………」
「うるせぇ」
 起きあがって、濡れた唇をぺろりとなめると、その口でキスしてきた。
「んっ……!」
 
 ──やッ……それはちょっと……
 このキスは……美味しくないッ…!
 
 
「…んッ……はぁ……」
 やっと解放された口付けでグッタリしてしまった僕の身体を、哮さんは綺麗にして、服も手早く整えた。
 あと少し残ってるうどんを前に、僕は箸を持ち直す事も出来ない。
 哮さんに肩を抱かれて、その胸に放心状態で寄りかかっていた。
 
 ………なにが起こった? って、くらいに急で……
 まだ、心臓だけ…早い。
 寄り掛かる胸の鼓動も、聴こえてくる。
 ……同じくらい早く、トクトクいってる。
 それを聞きながら、ぼんやり考えていた。
 
 ……僕、また哮さんに、エッチなことされちゃった……
 
 
「……良かっただろ?」
 涼しい顔で、哮さんが口の端を上げた。
 楽しげに、僕を見下ろす。
 
 ────!!
 こんなとこで、どれだけ気が気じゃなかったか………!
 僕のへそ曲がりな虫がまた、むずむずと動いてしまった。
「良いも悪いも……!」
 
「良くなかった?」
「だから、そうじゃなくて……」
「じゃあ、良くなるまで、ヤッてやる!」
 
 ───はぁ!? この人はなんで、こう……!
 しっかり抱き寄せられて、抱え込まれて、もう一度熱いキスをされた。
 ……………!!
 その時、気付いてしまった。
 哮さんの、股間のボリューム……
 まだ、終わったワケじゃない……これからなんだって、それは知らせていた。
 
「和希がイイって言うまで、今夜は返さないからな」
 ニヤリと笑うと、哮さんは歩けない僕を抱えて、店を出た。
 
「ど……どこ、行くんですか?」
 怖くなって、しがみついた背中に思わず聞いていた。
「ホテルに決まってんだろ!」
 
 
 
 青と白のイルミネーションでデコレートされているホテルに、バイクは滑り込んでいった。
 慣れた感じで部屋を選ぶと、僕を抱えるように連れて行く。
 バイクを降りてから、ずっと何も言わない。
「…………?」
 見上げると、ムスッとしたへの字口……。
 怒ったような顔の訳を聞くのが怖くて、僕も黙りっぱなしだった。
 
「……ぅあッ!」
 ベッドに乱暴に投げ込まれた。
 無言で、僕の服を剥ごうとする。
「た……哮さんッ」
 その手を掴んで、大声で叫んだ。
「待って、待って! ……シャワーは!? 浴びさせて!」
「一回、ヤル」
 僕の手を振り払って、力強い腕は簡単に服を全部、剥ぎ取ってしまった。
 
「んっ………」
 俯せにされて、背中をなで下ろされた。
 熱い舌先が、さっき指で触れただけの、秘部を目指す。
「あっ……」
 双丘を割られ、その中心に舌が差し込まれた。
 ───ぁあッ……うあぁ……!
 キスが上手いその舌の感触は、愛撫も同じだった。
 優しく触れて、そっと撫で上げる。
 でも、確実にポイントをグッと押す。
 
「んっ……ぁあっ……」
 その度に、僕は腰を震わせてしまった。
 
 ───怒ってる顔して、乱暴に服を剥いで……
 でも、愛撫はめちゃくちゃ、優しい……
 
 何故かいたたまれなくなって、涙が出そうになった。
「たけるさん……たけるさんッ」
 見えない相手を、必死に呼んだ。
「ごめんなさい……ごめんなさい……!」
 僕の中で動く指が、無言の返事のようだった。
「ぅぁあッ………」 
 シーツを握り締めて、顔を埋めた。
 涙が吸い込まれていくのが、判る。
「和希……すまん」
 のし上がってきた哮さんが、僕の胸に腕を回しながら、後ろから囁いた。
「俺……止まんねぇ」
「………んッ…」
 久しぶりの圧迫感。
 押し付けられた熱い滾りが、指と入れ替えに入ってくる。
 ぬるっとした感覚。
 窄んだ壁を突き抜けて、哮さんが入ってくる。
「ああぁ……!」
 異物感がすごい。勝手に身体が反発する。
 それでも壁を擦りあげながら、それは入ってくる。
「ンッ……んんッ……」
 入りきると、あまり慣らさないで動き始めた。
 ………アッ! ……あっ……凄い……熱い!!
 内臓を引きずり出すように、中が擦られる。
 外れそうなほど抜き出して、これでもかってくらい、押し込む。
 内壁と入り口に、それぞれ違う刺激が来た。
 ゾクゾクと背中を這い上がっていく。
「…あッ……あぁっ、たけるさん……すご……」
 僕はシーツに爪を立てて、ベッドにしがみついていた。
 突かれる衝撃で、身体が上に上がっていく。
 あんまり激しくて、呼吸困難になりそうだった。
 身体を引き戻す手が胸を撫でるのも、一々反応してしまう。
 
 ───あッ! ……なに? ……これ……すご……
 
 下腹部に、変な疼きが湧き上がってきた。
 内側が擦られると……熱い哮さんの先端が、奧を突くと……
「んぁあッ……タケ………タケル……さんッ」
「カズキ……カズキ……!」
 両腕ごと抱き締められて、腰骨の音がするほど、打ち付けられた。
「カズキ……イクッ」
 前を扱かれて、僕も絶頂に導かれた。
 
 ───んぁあああ………!!
 
 もう、遠慮はいらないから……
 僕も、身体の望むまま、欲望を解放した。
 
 
 
 ……ハァ……、ハァ……
 二人で荒い呼吸を整えながら、そのままひっくり返っていた。
 僕はもう、ホントにへとへとで……
 でも僕だけ全裸なのが恥ずかしくて、掛け布団の端っこで腰を隠した。
 
「和希……さっき、泣いてたろ?」
 腕が伸びてきて、顔を哮さんの方へ向かされた。
「何度も謝ってるし……」
「……………」
 眉を寄せて、怒ったような顔。
 
「その顔……」
「……ん?」
「僕、いっぱい怒らせちゃったから……」
 
 息を呑むのが、聞こえた。
「怒ってんじゃねぇ! ……いや、怒ってっけど……」
 ガバッと跳ね起きて、覆い被さってきた。
 背中に腕を差し込んで僕を抱えると、間近で見つめられた。
「和希……会ってくれないから……」
 公園で言ったのと、同じことを言う。
「俺……マジで嫌われたのかと、思ったりした」
「……………」
 男前のへの字口が、泣きそうな顔を作った。
「でも、そうじゃないって判ったら……止まんなくて」
「………うん」
「ごめんな……謝るのは俺なのに、和希が泣いて謝ってるの、マジ辛かった」
「……………」
「それなのに、俺、止められなかった」
 
 ………………。
 僕よりずっと、年上に見えてたのに。
 なんだか小さな子供みたいなカオしてる。
 
「僕、もう一度哮さんに会ったとき、……嫌われるのが怖かった」
「……なんでだよ?」
「……僕、男だし……」
 ぶっと哮さんが噴いた。
「ああ、男だな!」
 隠していた下半身に手が伸びてきた。
「あぁ……!」
 不意打ちに、腰がビクンと跳ねた。
「それじゃ、言い直せばいいんだろ?」
「え……」
「和希だから、いいんだよ。……男でも、女でも」
 
 ───うっ、……うわ……!!!
 
 耳元に唇を寄せて、そっと囁かれた。
 その声は腰に響いて、言葉は心に響いた……
 
「これなら、文句無いな?」
「……うん」
 
 胸が熱くなって、身体も熱くなって──
 触り続ける哮さんの手に、身悶えながら、僕はまた泣いてしまった。
 
「和希、今度は優しくする……もう、泣くな……」
「………うん」
 
 それでも暫く泣きやめなくて、哮さんを困らせてしまった。
 
 
 
「なあ、これだけ着ろよ」
 楽しそうな声に、哮さんの手元を見ると、カットソーの黒メッシュを掴んでいた。
 白と黒で2枚重ねなんだけど、黒だけ着たら、思いっきりシースルーだ。
「やっ……やですッ…!」
 そんな恥ずかしいカッコ、出来るわけ無い!
 僕は、さすがに泣きやんで、呆れた。
「すっごいヤラシイ身体になりそうだよな。ここなんか、スケスケなんだぜ」
 胸の突起を、親指の腹で撫でられた。
「……ひゃあッ!」
 鋭い刺激に、ズクンと股間が熱くなる。
 身悶える僕をじろじろ見下ろして、哮さんは口の端を上げた。
「和希……可愛い」
 
 ───くぅっ! ……また言う!
 
 どうにか、やめさせたい。
 でも、睨み付けてみても、見つめ合ってしまえば……
 ……悔しいけど、怒れない。
 
 
「哮さんは、……男前すぎです」
 見惚れて、それ以上言葉なんか、なかった。
 
 
 
 
 
 他にも問題はあるんだけど……
 抱えた宿題は、まだ沢山のはずなんだけど……
 
 
 前途多難に始まった、僕たちの変な関係。
 一つ、何かをクリアしたみたいだった。
 
 
 取り敢えず、次に会うのはもう怖くない。
 でも、なるべくすぐ会わないとね。
 ……久しぶり過ぎると、シャワーも浴びさせてもらえないんだから。
 
 
 
「ん………」
 そんなこと考えながら、僕は目を瞑った。
 優しく滑り出す愛撫に、身体を委ねるために……
 
 
 
終わり  
 


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