カバン返して。
 
20.
 
「……お?」
 
 千尋の部屋も、だいぶ華やかで明るくなっていた。
 母さんがせっせと、花だリンゴだと差し入れて、備え付けのサイドテーブルの上が賑わっている。
 その中で、埋もれるようにして飾ってある写真立てを見つけた。
 
「こんなのに入れたんだ」
 手にとって、ケースを眺めた。
「あ、ハイ。徹平さんのお母さんが、入れてくださったんです……」
 
「───!!」
 
 そこまで言って、二人で見つめ合ってしまった。
「は……、もう”俺のお母さん”じゃ、ないな」
「…ひゃぁ…! ……はいぃ……」
 
 どう呼んでいいか、戸惑っている様子だ。
(……無理もないか)
 口をパクパクさせているのを、眺めながら思った。
 俺だって、目の前で見てなきゃ、どこまで実感できたか。
 書類上の文字の書き換えだけで、今日から他人が母親なんだからな。
 
 ……それでも、母親だ。……千尋の家族なんだ。
 
「…千尋。母さんな……”オタクの息子さんを、私にください”って、お前の義理の両親に言ってくれたんだ」
 俺はそれを横で聞いていて、胸が熱くなった。
 さっき帰り際に言っていた「息子が二人」の意味も、本人が一番噛み締めていたんじゃないか。
 
「だから、ちゃんと呼んでやれ」
「………ぅはぁー、…はい…」
 照れて、下を向いてしまった。
 
「おふくろ、でもいいぞ」
「……え? ……えぇっ!」
 
 困り切っていた顔が、まん丸く目を見開いて、違う困り笑いを作った。
「はは……」
 俺も笑いながら、写真を眺めた。
 この間ちらっと見た時、もう一度ちゃんと見たいと思っていた。
 
 千尋似の、可愛い母親を。
 千尋がふざけて抱えている妹も、可愛い。
「妹は、父親似なんだな……」
 
 そこまで言って、俺は絶句した。
(………え)
 
 
 
 ───────!?
 
 
 
 なに……まさか、そんな……
 
 
 
 
 自分の見ているモノが、信じられない。
 頭の中がグルグルと回り出した。
 
 
「千尋……、コイツ、父親?」
 
 
「え……?」
 つい言ってしまった言葉に、千尋の眉がひそまる。
 
 
 俺の差した指の先に写る、その男は……
 あの量販店で、俺を呼び出した……ムカツク店員だった。
 
「えっ、……えぇっ!?」
 
 千尋がパニックを起こした。
「こんな顔でしたぁ? ボクには全然……」
 
 ──ちょっと待てよ…… 
 俺も、変な興奮で心臓が跳ねるのを、抑えた。
 背筋が冷える思いで、顔をぬぐった。
 
 千尋が妙に懐いたような…二人の空気が、気に障るほどだった。
 この男と千尋の方が、俺と居るより自然に見えて……
 
 どっかで、見たことある気がしてた……あの顔。
 雰囲気が、千尋に似ていたのか。
 
 
 ……そうか、親子なら当然だよな……そんな空気だったんだ。
 やっと、いろいろなことが、腑に落ちた気がした。
 
『こんな小さい子に』って、アイツ激怒してた。
「…………」
 目の前の千尋を見た。
 22歳だ。もうリッパな大人になってる。
 ……でも、アイツには……
 千尋はいつまで経っても、6歳のままの……。小さな自分の子供だったんだ。
 
 胸が痛くなった。
「お前のこと、ずっと心配してたんだな」
「……………」
 
 そして、俺はもう一つ、思い出した。
 あのバスの事故で、俺が血まみれになって、空からそれを眺めてた時……
 俺の声、千尋の声、母親の声……いろんな喧噪の音……
 その中に、もう一つ、聞き覚えのある声が響いていた。
 ”しっかりしろ! いい加減、目を覚ませ!”
 そう言っていた。
 俺は目覚めたときの混乱で、すっかり忘れていた。
 そうか……あの声は、アイツの声だ………
 
「そう言えば、千尋……俺、目が覚めるとき、お前に呼びかけられた」
「……えぇ?」
「お前が事故って死にそうなのに、俺に死ぬなって……言ってきたんだ」
「えぇーっ! 反対ですよぉ!」
「は?」
「ボク……目の前で事故にあった徹平さんを、揺すって死なないでって、叫んで……」
「…………」
 
「そしたら、徹平さんが、こんなトコで死ぬな!って、ボクに叫んできて……」
 記憶を手繰るように、千尋の目が宙を見つめる。
「そうだ、その後”いい加減、起きろ!” って……カバン返さねぇぞ! って怒鳴られて」
「……言ったな。確かに…」
 でも、変だ。時間が随分違う……
「それと一緒に、起きなさい、起きなさいって……誰かに起こされたです……ボク、焦って……」
「その声、聞き覚え、……ないか?」
「!?」
 
 
「……たぶん、お前の父親だ」
 
 
 俺を起こして、コイツのことも、起こしてくれたんだ。
「─────!?」
 千尋が息を呑んで、俺を見つめた。
 
 子供みたいに、邪気のない顔で……澄んだ目が輝く。
 その頬を、右手で包んだ。
 
 ……俺に、千尋を任せたのか……
 
 軽トラに乗ろうとしていた千尋に腹を立てて、俺はコイツを置いていこうとした。
 そしたら、突き落としたんだ。
 自分の横に乗ろうとしてる千尋を……
 
「ケチな嫉妬なんか、しなけりゃよかった……」
「…………」
「乗りたかったろうな、一緒に」
 千尋の頬を親指で擦った。
「ごめんな……トラック…一緒に乗せてやれば、よかった」
 それだけ、一緒に居る時間が長くなったのに。
 
 写真の男の顔をもう一度眺めた。
 あの、変な余裕を含んだ笑顔。独特のとっぽい感じ。
 張り付いた笑顔が、哀しく見えた。
 
「俺ら……二人とも、お前のオヤジさんに助けられたんだ」
「……お父さんに……」
 
 千尋は写真立てを抱き締めて、静かに涙だけ流した。
 
 
 
「千尋……上向け」
「……?」
 
 上げた顔に、そっとキスをした。唇に軽く触れて、離れる。
「ん……」
「俺、おっさんに頼まれたんだ。お前を笑顔にしろって」
 嬉しそうに、千尋の目が輝いた。
「……はい」
「だからもう、泣くな」
「……はいぃっ!」
 
 俺はもう一度、キスをした。もちろん今度はディープキスだ。
 俺の言葉に、泣いたり笑ったりするコイツが、愛しくて……
 
「……んんっ! て…てっぺーサンてば!!」
 千尋が顔を真っ赤にして、俺の腰元を覗き込んできた。
 抱きかかえて、一緒に横になって……
 濃厚な千尋とのキスを味わっていたら、身体が反応してしまっていた。
 無意識にテントを張っているスーツの前を、千尋の腰に擦り付けていた。
 
「……暫くぶりだからな…やべえ」
 
 思わず呟くと、千尋がクスリと笑った。
「徹平さん、そのまま動かないでいてくださいね」
 
 いつかの台詞みたいなことを、言う。
「は?」
「夕ご飯の配膳まで、もう少し時間がありますから」
 
 そう言うと、不自由な動きで身体を俺の腰まで下げた。
 片手でスーツのファスナーを開けて、中に手を入れてくる。
「おッ、……おい!?」
 前の時のように、俺は面食らって止めようとした。
「徹平さん、これは……ボクが出来る、唯一の恩返しです」
 頬を染めてちょっと微笑むと、下着から、俺のデッカくなってるモノを取り出した。
「────!!」
 直接、指が触れる。
 俺の熱を確かめるように、手のひらの中に優しく包んでいく。
「うぁ…」
(ちょ……ヤバイ……これは)
 俺は慌てて、枕元に置いてあった写真立てを伏せた。
 ──おっさん、今は目をつぶってくれ!
 
 千尋の吐息を近くに感じる。
 舌先が触れるか触れないかってとこで、裏スジを行ったり来たりする。
 散々焦らして、先端にやっと辿り着くと、唇が亀頭を包み出した。
「ンッ……」
 ──熱い……!
 柔らかい唇が、先端だけを包んでは擦る、
 割れ目を舌先が、悪戯に刺激する。
「んっ…く……ッ」
 その度に、俺の腰はビクンと跳ね上がった。
 先走りがすごい。
 咥えてる千尋の口から、ヤラシイ音が立ち始める。
 
(うぁ! やっぱ、スッゲー! コイツの動き……)
 
 片手が動かないから、本領発揮はしていない。
 それでも、揉んだり撫でたり……有り得ないところをさりげなく、刺激する。
(う……うわ……!)
 ゆっくりゆっくり、咥えこんでいく千尋の顔が、エロ過ぎる。
 ちらりと熱い目が、俺を時々見る。
(……反応を、見ているのか?)
「ン……」
 俺の吐息、表情で、感じる部分を更に刺激してくる。
「あッ!」
 思わず大声が出た。
 根本を指で締めながら、亀頭を舌でこねくり回している。
 ───なんちゅー……
「くっ……千尋……」
 スゴ過ぎて、止めろとも言えない。
 でもこのままじゃ、隣りに聞こえそうな声を、出してしまいそうだった。
 看護師がいつ入ってくるかも、わからない。
「千尋……はやく、イカしてくれ」
 俺は……情け無いお願いを、してしまった。
「……はい…」
 俺を見上げて、にっこりと微笑んだ。
 クッソ! ───覚えとけよ! 千尋……!
 
 その後は、扱くスピードを早められた。
 喉の奥まで咥え込んでは、咥内全体で吸い付き、吸い上げられ……
「あ……うぉ……! イク……イクぞッ!」
 翻弄されっ放しで、絶頂を迎えた。
「……千尋……口、離せ……イクッ!」
 ───クッ、……ぁああッ!!
 音を立てて、何度も千尋の口の中に放出してしまった。
「………はぁ…」
 やっと出終わった頃、根本から、吸い出すように吸引された。
(くぅ……ッ!)
 そのままこくんと抵抗もなく飲み込んでしまった。
「…………!」
 その口で、舌を使って、唾液で汚れた腰回りを綺麗に舐めていく。
 
 
(………………)
 
 
 やることに、ソツが無さ過ぎる……
 仕草や目線での煽り……最後の処理……
 
 
 改めて、千尋に仕込まれたモノの壮絶さを、実感した。
 
 
「…………」
 


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