カバン返して。
 
21.
  
「……徹平さん…」
 
 
俺が絶句していると、身体を起こした千尋が、心配そうな顔になった。
「ボク……気に障ること、しちゃいました……?」
 
 
放心していた俺は、我に返った。
”嫉妬してた”なんて言えない。
ハッキリ言って、何度もして欲しい!
でも、それを見るのは、やっぱり辛い……
困った矛盾が、俺を挙動不審にさせた。
「………」
落ち込んだようにしょぼんとして、俺の横に座り直す。
「余計なことして……すみません……」
 
(―――!!)
俺はその身体を、抱き寄せた。
(たく、俺ってヤツは……どうしようもねぇな!!)
 
「違う! どうやって仕返ししてやろうか、考えてた!」
「……えぇッ!?」
ドサッと二人でベッドに横倒しになった。
 
「さっき、散々焦らしただろ! えげつないテクを使いやがって!」
押さえ付けることはできないから、とにかく千尋のソコに手を伸ばした。
「覚えてろ! コイツ……」
「えっ、えっ……! 焦らすってそんな……あぁっ!」
逃げようとするそこも、熱く反応していた。
しっかり握ってやると、身悶えて声を掠れさせた。
「誤解ですぅ…あれ、セオリー通り……やってるだけで……ぁああッ!」
 
下着の中に直接手を突っ込んで、熱い千尋を掴み出した。
「ダ……ダメですよ! ……そろそろホントに夕飯の時間です!」
「よし、じゃあさっさとイカせてやる!」
俺は言葉通り、さっさと下を全部脱がせた。
「てっ……てっぺーさんっっ!!」
悲鳴を無視して、ピンクの先っちょを親指の腹で撫でながら、全体を扱いてやった。
「あっ……ぁああっ……!」
しなり出す、綺麗な身体。
脚がどんどん開いていく。
その中心が、俺を誘う。
「今日はまだ、無理だな……さすがに」
笑いながら、開いた脚の間に入り込んだ。
お互いに手足を1本ずつ、骨折していた。さらに千尋は内臓を打っていて、手術が必要になるかかどうか監視していたって、聞いた。
 
「腹、切らずに済んでよかったな…」
白い腹を撫で上げた。
「て……、てっぺーさん……?」
不安そうに、潤んだ目で、こっちを見る。
「指で、勘弁な」
言いながら、中指をぺろりとなめて、後ろのピンクの口に突き立てた。
「んぁああーーーっ!」
脚を全開にして、指を飲み込んでいく。
飲み込むたびに、腰が上下に波打って、やらしいことこの上ない。
「………」
俺は生唾を飲み込んで、千尋に埋めた指を動かした。
「あっ!」
悲鳴と共に、勃ち上がっている綺麗なピンクが、ぶるんと揺れた。
中が奇妙に蠢いて、指を締め付けてくる。
「……くっそ! 挿れてーなー!」
出したばっかだってのに、俺のそこはもう復活していた。
でも……今は我慢するしかない。
その代わり、勃起したモノを、これでもかってくらい丁寧にしゃぶってやって、性欲を誤魔化した。
何度もイカせて、喘がせて、満足する遊びを覚えた。
 
別人のように乱れる千尋は、嫌がらずに、何度も応えてくれた。
「あぁ……徹平さん……イキます……っ! いッ…いいですかぁっ!?」
「……ああ」
「んぁ……いい…そこ……徹平さんお願い……お願い…」
 
相変わらずの、調教の爪痕……。
でも、この声と目線は、捨てがたいモノになっていく予感だ。 
 
挿れた指が食いちぎられるってほど、締めてくる。
開脚して跳ね上げる腰は、俺を徹底的に挑発する。
唇で扱いてやると、後ろに指を銜えたまま、腰を振り出す。
身体中震わせて、悦んだ。
「ぅああ……ああ…イク!!」
布団に口を押し当てて、声を殺して。
 
「……はぁ……はぁ……」
イッた後、仰け反って喘いでいるのも、そそる。
「……よかったか?」
覗き込んで問い掛けると、恥ずかしそうに、目をつぶってしまう。
 
「千尋……」
添い寝をして、頭も身体も全部、抱き込んだ。
 
「お前を拾えて……よかった」
後ろから肩口にキスをする。
 
「千尋が、カバン諦めないで……良かった」
「……はい、それはもう。ボク……お母さんに、とっても感謝してます」
首を竦めながら、笑って言う。
「…………そうだな」
母さんがあのカバンを持って来なきゃ、こんなことにはなってなかっただろう。
そして、俺たちを迷わないように導いた、千尋の父さん……
 
「まったく、大した親たちだな……!」
「……ハイ」
 
 
  
「あの…」
遠慮がちに、千尋が声を出した。
「ん?」
 
「……よろしく……です。……お兄さん」
 
―――――――!!
 
「うっ! お兄さん!? ……そうか」
俺は、どちかっていうと嫁さんもらった気分だったから……
 
「……兄弟で、こんなことしてちゃ、マズイよなー…」
俺は白々しく笑った。
 
「……はぃ。……いまさら、ですぅ」 
千尋も苦笑いだ。
 
ってわけで、退院する前夜まで、あの写真立ては伏せっぱなしだった。
 
 
 
 
 
「俺、兄弟いねーから、思わぬ貰いもんだった」
ギブスも取れて、リハビリも順調で。
だいぶ身体は自由になっていた。
でもまだ両腕で抱き締めることはできず、片方は腕枕で、寝っ転がっていた。
 
「”徹平さん”、なんて呼ばないで、他のにしないか?」 
「えぇ! ……むっ、無理です!」
「にーちゃんとかは、ダメだ! 千尋は嫁なんだから」 
「……ぇぇえ! ……ひゃーっ……!!!」
首をすぼめて、丸くなってしまった。
 
  
  
「ん??」
照れて下を向いたと思っていた身体が、小刻みに揺れている。
「……千尋?」
また泣いているのかと覗き込むと、顔をくちゃくちゃにして、笑っていた。 
 
「……下っ腹が、むず痒いです〜!」
「あ! ……このヤロ! 俺の真似しやがって……」
「ひゃーっ、ごめんなさいっ……!」
  
腕の中で、嬉しそうに笑う千尋。
……この顔くらい、見せてやるか。
 
再骨折のおかげで、俺の入院期間が伸びていた。
明日、無事二人で退院という、病院生活最後の夜だった。
 
「千尋、そこの伏せてる写真、ちょい取って」
「? ……はい」 
後ろから千尋を抱えて、胸の前にそれを掲げる。
二人で、フレームの両端をそれぞれ持った。
左手担当の千尋。
右手担当の俺。
「二人で一つですねぇ」
間の抜けた声で、喜んでいる。
「はは、その顔見せてヤレ」 
「はい〜! お父さんに、報告です!」
「報告?」
「はい、いっつもボク、この写真と会話してました。その日のこと、お父さんにお知らせしてました」
 
……お知らせって……。
それじゃあ、心配で離れられないよなあ。
写真の笑顔を眺めた。
……この写真が、俺たちを導いたんだな。
 
「ボク……未だに信じられないです……」
「ん?」
「こんな風に、……ふざけてこの写真を見れる日が、来るなんて…」
千尋が涙ぐんだ。
「あっ、泣くなこら! オヤジが怒るだろ!」
「えっ……、んじゃ、……きすぅ……」
上目遣いに、俺を振り仰いだ!
 
「!! ち……ちひろ!?」
たまらなくて、その唇に吸い付いた。
  
 
 
 
 
 
「カバン返して」と、言い続けて、俺の後に引っ付いてきた千尋は……
カバンごと、俺のモノになった。
 
妙な出会いは、俺たちをより深く結び付けた。
精神的に繋がった俺たちは、多少のすれ違いなんか、へこたれやしない。
 
 
 
……だからおっさん、安心しろ! 
千尋は任されたから……。
ちゃんと奥さんと娘のとこに、行ってやれ! 
そんでもって、生まれ変わって『千尋を返して』って言ってきたって、もう遅い!
 
「俺は、誰にも千尋を返さないかんな!」
「……はいぃ〜」 
  
 
 
写真立ての中の笑顔は、「もうどうにでもしろ」と、言っているようだった。
 
 
   
 




 
 
 
 
 
 
 
END  

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