俺は、こっち。
 

 
「ハマチュウは……俺のこと、どう思ってんの?」
 ドアを閉めて、ゆっくり近寄った。
 
「瀬良……君」
 急に印刷室に入ってきた俺に、ビックリしている。
 どうしていいかわからない…というように、首を振った。
 
「昨日は、はぐらかされたけど、…今日は絶対聞く」
 大人としての一般論なんか、どうでもいいんだ。
「俺は、ハマチュウが、俺のことどう思っているか知りたい」
 もう一回言った。
 にじり寄って、追い詰めて。
 センセーは、昨日と同じ、懇願の目で見下ろす。
 
 その目にイラついた。
「俺に託すなよ。自分で答えを出せよ!」
 怒鳴りつけて、胸ぐらを掴んだ。
「俺、ハマチュウがこんなに好きなのに!」
「しっ! ……瀬良君、静かに……」
 こんな時まで、こんな冷静なセンセー。
 俺は悔しかった。
 俺一人、こんな熱くて。
 俺ひとり、こんなやるせなくて…。
「一時の迷いって、なんだよ! 何歳になったらそれが許されるんだよ!?」
「───!」
 悲しそうに眉を寄せる。
 俺も悲しいよ、センセー…。
 また、衝動が突き上げる。
「……んっ!」
 唇を奪っていた。
 でも、昨日とは違う。もう噛み付いたりしない。
 俺は兄貴にして貰ったとおりに、ゆっくり優しくセンセーの唇を舐め上げた。
 昨日はわからなかった、ハマチュウの唇の形。柔らかさ。
 一つ一つ、確かめるように啄む。
「せ……瀬良君」
 隙をついて、俺に訴えかけるハマチュウ。
 俺はもう許さない。とことん、この口を犯してやる。
 
「ん……んんっ」
 昨日の俺みたいに、センセーがいい声を出した。
 俺は、腰がぞくりとした。
 追い詰めた壁に背中を押し付けて、センセーの身体を固定した。
 俺は精一杯伸びをして、ハマチュウの舌をまさぐった。
「んっ」
 俺も思わず声を出してしまった。
 センセーの舌が絡み返してきた。
 ………あっ!
 腰が疼く。
 壁に付いた背中を滑らせて、センセーと俺は床にしゃがみ込んだ。
「ん、………はぁっ…」
 ねっとりした吐息が、漏れる。
「ハマチュウ……」
「瀬良君……」
 俺たちは見つめ合った。
 俺の頭は麻痺したみたいに痺れた。
 センセーが俺を見てる…俺を呼んでる……
 それが嬉しくて。実感に変えていくのが難しくて。
 ただ、身体が震えた。
 
「……こんなキス……どこで覚えたんですか…?」
 ハマチュウも喘ぎながら、聞いてくる。
「……内緒」
 上唇を舐めながら、俺は笑った。
 そして、センセーの首筋にもキスをした。
「あッ、ダメです!」
 動き出す身体を押さえ込むように、首筋、鎖骨とキスをしながら、シャツの下をまさぐった。
「せ…瀬良君!」
 悲鳴の様な声。
「なんで僕なんです? 他の子達は、みんな濱中先生に夢中じゃないですか!」
 ……はぁ!?
 またそんなこと、言ってる。
「………俺は、こっち!」
 ハマチュウをじっと見た。
「俺はこっちの方がイイんだ」
「こっち………って」
「あっちは、関係ないだろ? いつ俺が濱中先生の話をしたよ!」
「─────」
「俺にとって、ハマチュウは、目の前にいる一人だけだ!」
 赤面したセンセーは、それでも抵抗してくる。
「……瀬良君は……僕のこと嫌いかと、思ってました」
「!? ───はっ? 何で!?」
 俺は心底驚いて、紅くなった顔を見つめた。
 少し恨めしそうな目で睨んでくる。
「だって…いつも僕を、睨み付けて……」
「………………」
「ありがとうっていっても、振り向いてくれなくて……」
「………………」
「でも、授業中、ずっと僕のこと、見てくれてますよね」
 俺は、また睨んでしまった。
 こんなふうにしか、ハマチュウと向かい合えないんだ。
 緊張しすぎて。
「僕は、その目が、恐かった」
 恐る恐る手を伸ばしてきた。
 俺の頬に、そっと触る。
「僕なんかを、相手にする人は、誰もいなかったから」
「俺、そっちの方が、信じらんねー」
 ハマチュウの手に自分の手を重ねた。
「でも、そのおかげで、ハマチュウのお手つきは無しだった」
 俺は嬉しくて、笑った。ハマチュウも目を細める。
 そうだよ、そうでなきゃ、俺がいくら好きだって、他人のモンだったんだ。
 
「ハマチュウ……」
 身体が、どんどん熱くなる。
「でも……やっぱりダメです」
「何が?」
 なんだよ、じれったい!
「僕は、教師で……んっ…」
 俺はまた熱いキスを繰り返した。
 言わせるか! そんな言葉。関係ないのに。
「……はっ!」
 激しい舌の吸い合いに、苦しくなった。引き剥がすように唇が離れる。
「ハマチュウ、やらし…キスはバリバリ応えてくんじゃん」
 泣きそうな顔で返された。
「俺言ったよね、ハマチュウが好きだって」
 その眼を至近距離で睨み返す。
「………」
「先生じゃない。ハマチュウなんだ! 俺、ハマチュウのこと、先生なんて思ってない!」
 
 酷い話しかもしれないけど、事実そうだった。
 浜中先生、なんて思わない。
 いつも笑ってる、愛称が嬉しいなんて言ってる”ハマチュウ”が好きなんだ!
 キスだけじゃ、止まらない。衝動が駆けめぐる。
「せら……くん!」
 センセーのシャツをめくり上げると、胸に舌を寄せた。
「あっ……」
 俺は、笑った。
「センセ、……声出しちゃダメですよ」
 涙目のハマチュウが、何か言いたそうに唇を噛み締める。
「しーっ………」
 俺はいたずらっ子のように笑って、人差し指をハマチュウの唇に当てた。
 そして、また胸に顔を寄せる。
 ビクンと身体が跳ねるのが判った。
 それだけで、俺の下半身はますます熱くなる。
 ………ハマチュウ…かわいい。
 手をズボンの中に差し込んだ。
 センセーのそれも、熱く大きくなっていた。
「ハマチュウ……凄いよ、ここ」
 直に握って、扱き上げた。
「ぁっ……」
 小さく呻く。
「……はぁ」
 俺も息が苦しい。センセーの紅くなった顔を見てるだけでイキそうなくらい興奮していた。
「センセ……俺……」
「あ……待って……解してからでないとっ」
「……ほぐす?」
「……ハイ。そのままじゃ、無理です」
「どうやんの?」
 さらに真っ赤になったハマチュウ。
 小さな声で、ぽつりと言った。
「濡らして…広げて…」
 ……そうか。
 逸る心が、総てを忘れさせていた。
 俺だって、少しくらい知識はあった。
 恥ずかしい言葉を言わされたハマチュウは、真っ赤になって小さくなっていた。
「痛くしないから」
 俺はそう言って、センセーのズボンと下着を脱がした。
「────」
 息を呑むのが聞こえる。
 俺は、ハマチュウの足の間に顔を埋めた。
「ん、…ぁあっ」
 めちゃいい声に驚きながら、小さな蕾に舌を入れた。
 俺の頭にしがみついてくる。
 さっきまで、ドアの向こうの届かない存在だった。
 
 俺に触ってる
 俺に感じてる
 俺に応えてくれた…
 
 身体が熱い。心が逸る。早く早く、ハマチュウと繋がりたい。
 でも、センセーの前のモノが俺の顔に当たっては、その熱を告げる。
「……ハマチュー…、これ、くわえていい?」
「え…? ……あぁッ…」
 ハマチュウの身体が、ビクンと震えた。
 俺は訊きながら、答えも待てずに、それを口に含んでしまった。
 歯を立てないように、舐め回す。
「アッ…、せら……くん」
 腰がすごい震えてる。熱い、センセーのこれ…。
 俺の身体も、震えた。
 舌の上で引っ掛かるくびれを、丁寧に嘗める。
 自分が手でヤルときみたいに、唇で上下した。
「あぁ、…瀬良君……ダメです!」
 ハマチューが喘ぐ。俺の髪を掻きむしる。
「お願いです! イカせないでください! 僕はまだ……」
 聞いてられないよ、センセー……。
 俺はもう、本能で動いてる。ハイ、ここまでなんて、止まるはずがなかった。
「ん、ん、んッ! ……あぁ!!」
 俺の口の中で、センセーが大きくなったかと思ったら、いきなり弾けた。
「────!」
 喉の奥まで、届いてしまい、かなり咽せた。
「ごめんなさい、ごめんなさい! 瀬良君……!」
 悲鳴のように、声をあげて心配してくる。
「……ハマチュウ、………しーっ」
 口の中のモノを全部飲み込むと、俺はまた、いたずらっ子のようにウィンクしながら、人差し指を立てた。
 泣き顔のまま、センセーは黙り込んだ。
「センセー、俺、すっごい嬉しいよ。俺の口で、イってくれた……」
「……………」
 センセーは、壁に寄りかかったまま、顔をまた、真っ赤にした。
 
 俺は再度、顔をハマチュウの足の間に埋めた。
「あ……瀬良君…」
 ハマチュウがこの期に及んで慌てるけど、無視だ。
 覗き込むと、下の唇が小さく震えている。
 思わず、指先で突いた。
「ひゃっ!」
 ハマチュウがびっくり声を上げた。俺も、つられてびっくりした。
「センセ、ここがイイんだ…」
 指の先をじわじわと、蕾の中に入れてみた。
「あっ、瀬良君…やっぱ、いいです! そこまでしなくても…」
 震える声で、なんだかんだ言ってくる。
「センセ、うるさい。……良ければイイって、言ってよ」
 指を出し入れし出すと、ハマチュウの身体がしなり始めた。
 ───綺麗。ハマチュウ……。
 ここに俺が入るのかと思うと、その蕾が愛おしくて堪らなかった。
 丹念に愛撫を繰り返す。
 俺の拙い動きで、どれだけ解れたかはわかんないけど…。
「ハマチュウ…」
 俺の熱いのをあてがって、ゆっくり押し入れた。
「あっ……ああ……」
 ん、キツイ……
「くっ………」
 センセーも同じなんだ。苦しそうに顔を歪める。
 やっと、なんとか俺の全部がセンセーの中に収まった。
 
「ハマチュウ……すげ…気持ちいい」
 ゆっくり、動かし始めた。
「あ……瀬良くん………瀬良くん」
 俺の名を呼び始める。
「センセ……センセ……好き……大好きだ」
 
 俺も譫言のように耳に呟きながら、腰を動かした。
 小さな部屋で、肉の打ち付ける音が響く。
「せ…らくん、…もっと、ゆっくり……」
 身体を揺さぶられながら、ハマチュウが言う。
 ハマチュウのいい声が聞きたくて、また前も扱いていた。
 その動きも強引だったかもしれない。
 でも……
「無理……」
 静かにしろったて、もっと抑えろったて、もうそんなの無理だった。
「うぁ………」
 欲望のまま腰を打ち付け、俺はセンセーの中で果てた。
 センセーもまた、白いものを俺の手に出した。
 そんなのですら、俺は大事だった。
 ハマチュウの目の前で、その掌を舐め上げる。
「あ、ダメです、そんなモノ……!」
 慌てて手を伸ばしてくる。
「だめ。俺、ハマチュウのコレも全部好き」
 また、真っ赤になって、センセーは下を向いた。
「……僕なんかで。……僕なんかが君に関わって…」
「………」
「君は、……素敵に育つよ。それなのに、僕なんてお荷物背負い込んだら…」
「……ハマチュウ」
 なんで、こんなに自分に自信がないのかな。
 ……そりゃ、濱中先生みたいに派手に格好良くはないけど。
 髪の毛を揃えて、もうちょっとイイ服を着れば、ハマチュウだって今ほどナメられないのに。
「…僕は、大人だから、僕が我慢しなきゃいけないと、………踏ん張ってたのに」
「────」
「君の噛み付くようなキス。大人のキスで応えそうになってしまった」
 目を細めて、微笑む。
「でも、あんまり子供なキスだったから……自制できたのに」
 クスリと笑った。
 俺は、真っ赤になった。
「今日のは、負けました。あんなすごいの、僕は初めてです」
「……もう一回、しよ。すごいキス……」
 潤んだ目のハマチュウを見ていたら、また欲情してしまった。
 今度はもっといい場所に連れてってもらおう。
 ハマチュウの実費で。
 俺が良からぬコトを考えてニヤつき出すと、ハマチュウも俺に言った。
 
「瀬良君、取り敢えず明日のプリントを、刷ってしまいましょう」
「…………」
 俺の熱くなっていった身体は、がくんと崩れた。
「う……ハイ」
 
「──瀬良君」
 改めて呼ばれて、俺はハマチュウを真っ直ぐ見た。
「………」
「本当に僕なんかで、いいんですね?」
「……うん」
「クラスに、可愛い女の子がいるでしょう?」
「……ハマチュウほど可愛くない」
 目を瞠って赤面した。
「……今は2年の一学期。あと2年後には卒業です」
「……………」
「その時僕は、君を離したくなくて、束縛しようとするかもしれません」
「──!!」
「そしたら、見捨ててもいいです。……だから、それまで…今はよろしくお願いします」
 目尻に涙を光らせた。
 
「─────」
 俺は、ハマチュウとこうなることが、この先どうなっていくかなんて、考えていなかった。
 ハマチュウはそれを考えて、怖がっていたんだ。
 俺はやっぱり、先の見えない子供だった。
 
 ──でも!
「俺、どんなハマチュウだって、きっと好きだ。嫉妬も束縛も嬉しい。だって俺、ハマチュウの笑顔、他のやつに振りまいて欲しくないもん。それと同じだろ?」
 
 涙を指で拭ってあげた。
「瀬良君…」
「ハマチュウこそ、新入生に惚れんなよ」
「……ハイ」
 泣きながら、笑ってるその顔が可愛くて、俺は精一杯腕を回してセンセーを抱きしめた。
 
 
 
 うん、俺は絶対、こっちがいい!
 
 
 可愛い、俺の浜中先生………今、捕まえた。
  
 
 
完 


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