夜もカエサナイ
 
9. 〜夜も 帰さない〜
  
  〜夜も 帰さない〜
 
 
 
「……え!?」
 
目の前に俺が居るのが、信じられないという顔をしている。 
千尋はすっかり板に付いたように、作務衣を着こなしていた。
少し緑がかったねずみ色一色の、着物の裾を短くしたような上着。
同じ色の作業ズボン。腰骨に引っ掛けるように低い位置で、足首近くまである白い前掛けをきゅっと締めていた。
裏側の出入り口で、戸板や間口を水拭きしている。夕暮れの中で、バケツの水はとても冷たそうに見えた。
 
「……似合うな」 
俺が笑うと、泣きそうに眉を寄せた。
道具を放りだして、数歩の距離を走って来る。
眼鏡はしているが、前髪を全部上げて、バンダナで縛っていた。
「顔、丸見えじゃないか、約束破りめ!」
飛びついて見上げてきた頬を撫でて、顰め面を作ってやった。
「………どうしてですかぁ?」
この語尾は、調整されていないらしい。俺は笑った。
「今日は24日だぞ! 仕事、大急ぎで片づけて、車走らせて来た」
 
 
千尋を送り出してから、もう四週目に入っていた。
俺の出張の時のように、千尋は毎晩電話を掛けてきて、日々の報告をしていた。
早朝、5時起床。掃除に始まって、掃除に終わる。目が回るほど忙しくて、誰かとゆっくり話すなんて余裕も、無いらしかった。
「それでも、眼鏡は取るな! 風呂は一人で入れよ! 包丁には気を付けろ!」
俺の最後の決まり文句。
千尋はいつも笑いながら電話を切っていた。
それにしても……やっぱりあの夢は、どっか変だったと実感する。
いくら毎日、声を聞いていたって―――
「千尋……会いたかった」 
久しぶりに見る顔に、感無量だ。
「ちょっと痩せたか? ほんの少し見ないだけで、随分しっかりした顔つきになったな」
人目があるから、目立つことはできないけど……抱き締めて、頬擦りをした。
「ボクも、会いたかった……徹平さん…ウソみたいですぅ……!」 
千尋も俺の背中に手を回してしがみつくと、泣きだした。
 
 
この老舗料亭は、本店も姉妹店も、暮れ・正月はどんなに人がいても足りないと言う。研修が年末年始を含むので、その分ちょっと手の空くクリスマスには休日を、という店側の配慮があった。
「研修生には内緒なんだとさ。知ってたらその日を気にして、集中しなくなるだろ?」
「……確かに」
千尋は興奮した顔で、コクコクと頷いた。
「保護者に通達ってことで、封書が来てな。お会いしたければどうぞって。俺も3日前に、知ったんだ」
「……じゃあ…ボク、……明日、休みなんですかぁ……?」
「そ! 今日と明日、俺とクリスマスだ!」
「ひゃあああぁぁ!」
感極まって、また抱きついてきた。
「お……おい、ヤバイ…!」
「あっ! てっぺーさんてば……!」
俺のジーンズの前が、あっという間にパンパンだった。
仕方ないだろう! 1ヶ月もお預けだった顔が、目の前にあるんだ。
「……ん? お前こそ…」
「……え」
よく見ると、千尋のぺったんこの腹に撒いてあるキツキツの前掛けの……
その腰の真ん中が、ちょこんと飛び出ている。
「あ〜……これは……マズイです……」
「俺より、モロ目立つなぁ」
真っ赤になって、自分の腹を見下ろしている千尋が、スッゲー可愛い。
そしてその、前掛けを内側から押し出している突起部分の、エロさと言ったら。
「……来い」
俺は辺りを見回すと、屋敷裏にある雑木林に目を付けて、千尋の手を引いた。
そこは放置された国有地の様な、古い緑のフェンスで取り囲まれた空間だった。
三角形の小さなスペースに、幹の太いケヤキが乱立している。
壊れたフェンスの隙間から中に入ると、道から死角になるように樹の裏に千尋を立たせた。
「徹平さん……こんなトコに入っちゃ……」
「黙ってろ」
不安そうに見上げる千尋の腰に手をかけて、グルグルと巻いてある前掛けのヒモを解いた。
「声、出すなよ。すぐ済ませてやる」 
ケヤキの落ち葉が敷き詰める地面に膝を付いて、千尋の腰に顔を寄せた。
作務衣の裾を捲り、ズボンのヒモも緩めて、トランクスを少しだけ下ろした。
「や……徹平さん! ダメです……」
抗う隙を与えず、久しぶりに見るピンクの先端を引き出して口に含んだ。
「あぁ……」
ケヤキに背中を預け、千尋は慌てて前掛けで口を塞いだ。
俺の口の中で、熱いそれはどんどん硬く大きくなっていく。
「あっ……あぁ……」
震える腰を両手で押さえ付けて、舌先で嬲りながら、唇で扱いた。
なんせ1ヶ月ぶりだ。俺も千尋も、興奮が凄かった。
「てっ、…てっぺーさん……徹平さん! ぁあ……立って…られないですぅ」
膝をガクガクさせて、寄り掛かる背中がケヤキを滑り出した。
葉っぱの絨毯に腰を突き出した格好でヘタレ込むと、涙目で俺を見上げる。
「ボクだけ…こんな………それに、こんなとこで……」
薄暗くなってはいるが、道から見えないこともない。屋敷の裏に誰かが来れば、アウトだった。
「いいから……イくときは、言え」
膝立ちで千尋の足の間に入り、唇を塞いだ。
舌を差し込んで、柔らかい舌を味わう。
「ん……」
しゃぶっていたモノは、手の中に握り直して上下する。反対の手は、後ろをまさぐった。
「ぁ…だ……だめ……そこまでは…」
キスの合間に、必死に訴える。俺は構わず、中指を差し込んでいった。
「んぁあっ……!」
頬が更に紅くなる。快感に負けて潤んでいく、色っぽい目つき……
俺の前も、キツくてしょうがねぇ。でも、千尋をイカせることに専念した。
「ん…ぁ……んんぁあ…」
ディープキスを受けながら、前後を責められて泣きそうに震える。
「あ……い……イキますッ…」
俺は唇を移動させ、手で扱きながら先端を吸い上げた。
「んぁあっ、ぁああッ!」
腰がビクンと揺れ、俺の喉が千尋の熱でいっぱいになった。
 
「……はぁぁ…………」
脱力したまま、何も言えないでいる。前髪を全部上げた顔は、目も頬も真っ赤だった。
「よかったか?」
軽くキスをすると、潤んだ目でこくんと頷く。
かわいくて、もう一度唇を奪った。
「んー…」
 
「……もう行かないと、マズイな」
抱え上げて立たせると、衣服を整えてやった。
「コレは、結べねぇ」
前掛けのヒモをさっきと同じように巻いてみたが、何かカッコが悪い……。
「あ、やります〜」
手際よく巻き直して、ヘソの下で結び目を作った。
「大したモンだな。……オッケ!  もう勃ってない!」
ぺったんこになった腹の下を覗き込んで笑うと、千尋が慌てた。
「ダメです〜、すぐまた……!!」
「はは! 続きはまた後でだ。オラ、仕事終わらせて、用意してこい!」 
「…え?」
「さっき、今日と明日って言ったろ? イブだって、クリスマスだ。消灯は11時だよな。それまでには、お前をここに帰す」
「…………」
「……イヤか?」
目を見開いて俺を見つめてるから、ニヤリと笑ってやった。
「徹平さん!! そんな……だったらボク…我慢したのにっ!!」 
今のフェラのことで、文句を言い出した。
「俺がしたかったんだから、いいんだよ! あんなカッコで中に帰せるか!」
「……はいぃ…」 
泣き笑いをしながら、走って屋敷に戻って行った。 
 
 
 
 
  
「大人の遊園地?」
 
助手席に乗った千尋に、チケットを渡した。ファー付きフードの白いハーフコートを着て、濃紺のジーンズと黒いスニーカー。私服に戻ると、今までの幼げな千尋だった。
 
「ああ。通達のあと、別封で送ってきた」 
「へえぇ〜……初めて、聞きます〜!」
両手でしっかり持って、しげしげと眺めては、呟いた。
映画の予約チケットと同じ様な細長いそれは、夜景の観覧車がプリントされていた。
「俺も。…最近できたっぽいな」
有効期限は、12月24〜25日限定。
完全フリーチケットで、一回入れば乗り放題ってやつだ。
見所は、イブの夜景…。何千個もの電飾のイルミネーションが園内を飾るらしい。
「大人しか入園出来ない、大人の為の遊園地なんだと! 面白そうだから、そこでいいよな?」
「はい〜!」
 
案内通りに走って、園内に駐車した。
「いらっしゃいませ。大人の遊園地へようこそ」
綺麗なお姉さんが、バニーガールの格好で出迎えてくれた。
車内を覗き込むように、窓に顔を寄せる。
「早速ですが、大人の証明とチケットを見せてください」
「えぇっ!」
千尋がビックリしている。
「お…大人の証明って…?」
俺は用意してきた千尋の保険証と、自分の免許書を見せた。
「はい、確認出来ました。それでは、丸一日…楽しい時間をお過ごしください」
認証カードのようなモノを渡された。
首からぶら下げるか、クリップで留めればいいらしい。
「同封してきた説明書に、証明出来るものを用意してこいって書いてあった」
「はぁ……ボク、てっきり脱いだりするのかと」
帰っていくバニーを見ながら、呟いている。
「ブッ!」
俺は思いっきり噴いた。
「千尋のどこ見せて、大人の証明するって!?」
横から抱きつくと、コートを捲り上げて股間をさわった。
「あぁ! …だめですよ〜!」
  

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