僕のお仕事 index
4.睦月さん 1  
1.2.3.
  

 
「ぁっ、いいっ、気持ち……いいっ………むつきさぁん……」
ずるるっ、ずるるっ、と激しい出入りの音を立てて、僕は後ろを穿たれる。
長い玉状棒を入れきるまで、突くスピードを緩めない。同じ勢いですかさず引き擦り出される。
すぐさま突っ込む。容赦のないピストン運動に、僕の身体は快感でガクガク震えていた。
前はビンビンに張って、露を情けないほど垂らした。
”気持ちいい”という言葉は、一度言ってしまうと、驚くほど素直に身体に馴染んだ。
突き上がる疼きと痺れを、脳髄で快楽に変えてくれる。
「うん、もっと喘いで……巽君……可愛いよ」
担ぎ上げてる僕の茂みに顔を近づけ、袋ごと、下から裏筋を舐め上げた。
「ひ……ぃああぁ!……」
悲鳴のような嬌声が上がる。
「む……き…さん……ぼくのペニ……こすって……」
眩暈で舌がもつれる。睦月さんは、微笑んで、僕のいきり立っているものを掌で包んでくれた。
上下に扱き出す。
「ぁあ……いい……凄い……死んじゃうよぉ」
前と後ろの責めで、気がおかしくなりそうだった。
「いく……む……きさん……いかして……」
ペニスを力強く扱き上げられる。後孔から体内を閃光が駆け巡り、目の裏で弾けた。
「ああぁ…、あああぁぁぁ!!」
吐精する直前、スティックを引き抜かれて、あまりの絶頂に悲鳴を上げた。
白濁を自分のお腹に飛ばして、僕はガクリと果てた。後ろの余韻が身体を痙攣させる。
「ぁ……む……さん、……すご……よかった……」
僕は砂嵐のような耳鳴りの中で、それだけ伝えて、何もわからなくなった。
 
 
 
 
頬にかかる優しい吐息を感じて、薄目を開けた。
身体がだるくて動けない。指一本ぴくりともしない。
ふう……と息だけ吐いた。
「ん……気がついた?」
優しい瞳が逆様に覗き込んでくる。状況がわからなかった。
ただダルくて、瞬きだけする。
頬っぺたに柔らかい感触がそっと触れた。
髪の毛を優しく梳いてくれる。その指が心地よくて、僕はまた目を瞑った。
 
……くん。
………たつみ  くん……
誰かが僕を呼ぶ。
「起きて……朝だよ」
はっきり声が聞こえた。
柔らかいソプラノ。
身体は……やはり動かない。僕は目だけ開けた。
上から逆さに被さるように覗き込む鳶色の瞳。この風景を昨日も見た気がした。
ぼやける頭を必死に働かせる。
「あ……僕……」
声が掠れた。喉も唇もカラカラだ。
「おはよう、巽君」
瞳が優しく細められた。
僕は昨日のことを薄っすら思い出し始めた。体が熱くなる。
でも、どうやって寝たか覚えていない。
ここは……?
ようやく自分の状況がわかった。
僕は蓑虫のように頭だけ出して、毛布に包まれている。そして睦月さんの膝上で上半身を委ね、その両腕に包み込まれていたのだ。
部屋は昨日のまま。その行為のあったベッドの上で、睦月さんは気を失った僕を、一晩中抱いていてくれたらしい。眠りもしないで、ただ僕の顔を覗きこんで。
「………睦月さん……」
やや唖然とした顔で見返す僕に、またキスをくれた。頬がちゅっと音を立てる。
前髪や横に落ちてくる巻き髪が、顔中にくすぐったい。
包み込んで支えてくれる腕や肩や胸が、視界いっぱいに広がる。華奢なのにしっかりしていた。
小さい頃、親にこんな風に抱えてもらったのを思い出す。そんな安心感に包まれていた。
全身で睦月さんの体温を感じ、いい匂いに浸った。
「……ずっと……?」
掠れて、なかなか出てこない声で問うてみる。
僕なんてベッドに寝かせて、自分も横になればよかったのに。部屋に帰って寝るとか………。
漠然とそんなことを思う。
「うん、ずっと。こうしていないと、いけない気がして」
「………な……で?」
声が出ない。
「君に酷いことしちゃったから。それなのに君ったら、物凄く一生懸命ぼくの言ったこと守ってくれる。ぼくは心が痛くなってしまった」
悲しそうに眉をひそめて微笑む。
僕は、その瞳を昨日の夜も見たのを思い出した。
「だから、君が……巽君が起きるまでこうやって抱きしめて、一番に君の瞳に映りたかったんだ。謝りたくて」
僕は、小さく首を振った。それは違う………
「僕が……僕が睦月さんを……傷つけたから……」
こんなふうに眉根を寄せさせ、微笑を失くさせた。あの時こそ心が痛かった。
小首を傾げてちょっと笑うと、睦月さんは僕を身体から離した。
毛布に包んだままベッド中央に抱え移して、身体を横向きにして寝かせた。
「まだ身体を起こして座っちゃ、駄目だよ。負担がかかるから。それに、仰向けよりこっちの方が きっと楽だから」
毛布の上から、腰を擦る。
僕は、頬を赤らめて頷いた。
ちょっと待っててね、と言い残し、部屋を出て行く。
ドアが閉まるのを見つめながら、ため息を漏らした。
動くのが辛い。あちこち軋む身体を、実感し出した。
さっきまで、どれだけ優しく抱き込んでくれていたかがわかる。
改めて睦月さんの、無言の優しさに触れた。
なんであんなに優しいの……
見つめてくる瞳を思い出すと、胸がちょっと苦しくなった。
 
その時、脳裏に黒い髪の人が過ぎった。
………光輝さん
あの人もひどく優しかった。
睦月さんの顔が、光輝さんの笑顔と完全に入れ替わる。
「こう……き……さん……」
声に出して、呼んでみる。
ツキンと胸が痛んだ。
ああ、―――僕は、とうとう……。
 
知らずに涙が流れていた。鼻頭の窪みに溜まって、反対側に落ちる。
静かに、声も立てずに、僕はただ、はたはたと涙の粒をシーツに落としていた。
それを拭えなかったのは、疲労からだけじゃない。
深い絶望と悲しみが心に黒い滲みを作っていった。
 
 
それから、どれくらい経っただろう。
僕は喉の渇きがきつくなって、何か飲みたかった。
「遅くなってごめんね」
包まれた毛布を、剥ごうともぞもぞした時、睦月さんが髪をふわりとなびかせて戻ってきた。
手にはペットボトルとストローを持っている。
寝転びながら、飲めるようにとの配慮だ。
僕は、目を輝かせて感謝した。本当に喉がカラッカラだったから。
昨日のミルクティーといい、この人の気遣いは本当に心に触れる。
「はい、少しづつね……」
横になっている僕に、ストローを咥えさせてくれた。
冷たいスポーツドリンクは、とても美味しくて、身体に沁みていく。
「美味しい」
唇もぺろぺろ舐めて湿らせた。
喜んだ僕の頭を撫でながら、睦月さんは可笑しそうに笑ってくれた。
そうして枕元に屈み込んで、ずっと寄り添いながら何度でも飲ませてくれた。
 
「睦月さん、ありがとうございます。僕、だいぶ楽になりました」
身体のだるさも取れてきて、腕も動かせる。
こっそり、涙の後も拭った。……今更だろうけど。
そして心配していたことを、口にした。
「あの……もし、大事な仕事とかあるなら……僕、もう平気ですから」
僕に付き合わせて、迷惑をかけているんじゃないかと。
 
「……巽くん」
柔らかく微笑んで、軽く首を傾げる。巻き毛が肩に揺れた。
「ぼくの仕事は、今、君の指導員だよ。君にかける時間すべてが仕事だから、気にしないで。……それより」
ふいに真剣に僕を覗きこむ。
「昨夜は、ぼくは君を試したんだ」
「………?」
「君が、ぼくの言うことをどれくらい聞く子なのか。何故ぼくなのか。ぼくでいいのか」
僕は、じぃっと睦月さんを見つめた。
悲しそうに睫毛の奥で瞳が揺れると、優しく頭を抱え込んでくれた。
さっきの抱擁感を思い出す。ずっとかかえて僕だけを見てくれてたって……。
「君はほんとにいい子だね。前向きで、めげなくて、一生懸命」
僕は頬が熱くなった。この会社に来て褒められることが多くなったが、まだ信じられない気がする。慣れなくて、戸惑う。
ふわりと頬に両手を添えると、自分に向かせる。鼻と鼻がくっ付きそうな距離で見つめ合った。
睫毛が長い影を落とす。その奥で鳶色の瞳がきらきら輝いている。綺麗過ぎて僕は心臓がドキドキした。
「その健気さが、ぼくの心を掴んだ。ぼくは君を愛しく思う」
「……………?」
「君が好きだよ、巽君……」
 

                                           
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