僕のお仕事 index
5.睦月さん 2  
1.2.3.
   
 
 
睦月さんは優しいキスを一杯くれながら、左手の筒を操った。
反り返った先端にそっと被せる。ゆっくり筒に僕を押し込んでいく。
下っ腹に、ざわざわとした疼きが生まれた。
何千何百という触手が僕を包んだ。吸い付いては離れ、撫でていく。
「はぁっ……ん」
僕を根本まで飲み込んで、止まった。息が出来ない。
「……どう?これ」
背後で妖しく囁く。
「ん……すご……も……ダメ」
僕は、被せただけでもう、いきそうだった。
「くす……、それは勿体ないよ。もうちょっと、がまんして」
睦月さんは、やんわり筒ごと握り込むと、上下に扱きだした。
「ん……はあぁっ……!」
体中に衝撃が走る。握り込まれた圧迫感で、密着した繊毛が僕を翻弄していく。
扱かれるたび、異様な快感が生まれた。
「あっ、あぁ……っ」
声が上擦る。新たなる未知の快感。
何千もの繊毛が、生き物のように蠢いては僕に吸い付く。
「ん……、んっ…」
扱かれる感触が激しすぎて、快楽が消化しきれない。
気持ちよさを感じる前に、辛くなってしまった。
「まって……待って、むつきさん…っ」
睦月さんの腕にしがみついて、
懇願する。
手を止めてくれた睦月さんは、僕を覗き込んだ。
「……大丈夫?」
霞んだ目で見返す。このまま辞めるわけにも、いかないだろう…せめて…
「………お願い……もっと、ゆっくり……」
「うん、…わかった」
熱い息を吐く僕に、睦月さんは優しく微笑んでくれた。
でも、動きをゆっくりにして貰っても、耐えられるものじゃなかった。
いったい、何に包まれているのか、余りにも刺激が強くて、頭の中で脳みそは考えるのを辞めた。

「む……、むつきさん……ああっ…」
喘ぎながら助けを求める。
止めてと口走りそうになる。
そう言えない状況がまた、僕を苛んだ。
生み出される快楽に、気持ちも体も付いて行かない。
気持ちよさが全身に廻る前に、次の快感が襲ってきて、下半身だけが先へ先へと突っ走る。
容赦なく扱かれる動きが、僕の心を無視して、体だけ熱くしていった。
「すごい……後ろがきついよ」
嬉しそうな声が聞こえた気がした。
「あっ、あぁ…、むつきさんっ…むつきさん!……あぁっ」
僕は、泣き叫びながら扱かれ、いかされた。
 
筒内に吐精して果てた僕は、あまりの体験に放心してしまった。
途中で気絶してしまうかとさえ思った。
「巽……くん?」
腕の中で、肩で息をし続ける僕を、睦月さんは自分に向かせて抱え直した。
霞んだ目には睦月さんの姿を捕らえることが出来ない。表情も見えない。
僕は、気配を探して睨み付けた。
「いじわる……睦月さんの意地悪っ……」
その唇を、唇で塞がれた。舌が入ってくる。歯列をなぞり、隠れている舌を探し出して絡みつく。
何も抗えない僕は、思うままに口内を蹂躙された。
「……くるし……っ……」
きつい吸い上げに、目眩がした。
「………嫌い?」
「…………」
「ぼくのこと……意地悪くて……嫌いになった?」
声が揺れている気がした。
うっすら開けて目を凝らすと、困ったように眉をよせる睦月さんがそこに居た。
何故……。この人にもこんな顔をさせてしまう。
僕はゆっくり時間をかけて呼吸を整えると、首を横に振った。
「……嫌いになれない」
 
 
 
 
「僕さ……」
ぶすっとして、呟く。
バスタブの中に座って、膝の上に顎を乗せて。
「睦月さんて、最初は意地悪で僕に恥ずかしいこと言わせて、喜んでいるのかと思った」
シャワーで身体を洗ってくれてるその人は、ちょっと手を止めた。
「でも、話しを聞いてると、もっと大事なことが根底にあったから、ちょっと好きになったのに」
「……うん?」
くすぐったそうに微笑んで、睦月さんは僕を見る。
「やっぱ、意地悪!悪意があった!」
その目を睨みつけた。
僕はくやしくて、拗ねていた。まるでレイプされたような憤りがあった。
睦月さんはそっと手を僕の頬に添えた。
「……嫌いになった?」
「…………」
柔らかいけど、真っ直ぐな声。これを聞いてくる時の睦月さんの声が、いつも少し強張ることに気がついた。
「………」
添えられた頬が熱くなる。優しすぎる掌。触ると壊れるかのように、僕を扱う。
それに翻弄されてしまう。
思わず、睦月さんを見つめた。
長い睫毛。鳶色の瞳が真っ直ぐ見つめてくる。
頬に添えられた掌が、ゆっくり顎に伝い、親指が僕の唇を掠める。
「……ごめんね、君が可愛すぎて、ぼくも困ってるんだ」
シャワーを床に落とすように置くと、僕を抱きしめた。
セーターを着たままなのに、濡れるのも構わずに。
「やりすぎたなって、いつも後で思う。なぜなんだろう。……君はぼくを煽る」
困惑を持て余すように、僕の首筋で溜息を吐く。
けして強めない腕が、痛いほど絡められた。しがみ付くような抱擁だった。
普段の柔らかな声が、悲痛に歪む。
「君に夢中すぎて……自分を見失ってしまう」
「………」
「ぼくは、とっても気が長い方なのに……。ふとした時の君の目。言葉。…その中にぼくは、いない。」
「………」
「それが辛くて、ついこの身体に、呼びかけてしまうんだ。……君の心がここに無いことが、……ぼくは悲しい」
 
 
……このひとが入ってくる。少しずつ、僕の心に入ってくる。
睦月さんに応えられない気持ちと、応えてしまいたいという気持ちが、僕を引き裂く。
 
床に置かれたシャワーが柔らかい音を立てて、お湯を流し続ける。
止められない心のように。
静かに流れる音の中で、僕も涙を流していた。
 
 
  
  
 
 
 
 
 
「無理やり勃かされた。あれはレイプだった!」
社長が目を丸くしながら、コーヒーを啜った。
「わあ!声に出して読まないでください!!」
僕は赤面して、両手を振り回した。
レポート提出がてらの、お茶の時間だった。
「自慰用の道具は、快感を自分で調節できるのが売りだけど、他人に使われると狂気になる。コントロールできない行き過ぎの快楽は、精神を壊す」
社長は、笑った。僕は苦々しく、その顔を見る。
「これも経験値の差が言わせるのかしらねぇ。初めてにしちゃ、随分キツイの使ってるし。でも、やっぱりこれも、使用者のモラルの問題よね。道具自体は、悪くはないんだもの」
片手にコーヒー、片手に書き上げたばかりの紙片。
デスクの回転椅子にふんぞって座り、美しい脚を高々と組んでいる。
起用に片足で右に左にと、椅子を半回転させて、ため息を付く。
「……そうなんですよね。僕も自慰で使ってたら、凄い褒めてたと思います」
「ほほほ、下にそう書いてあるわね。自慰で道具を使うのは嫌だったけど、これなら使ってもいいかと思った。それにペニス用の玩具は身体を傷つけないから、安心する。……成る程ね」
満足そうに微笑む。
それに気分をよくした僕は、更に感想を言った。
「あと、これはデザインもいいですよね。この手の他のものはグロテスク過ぎて。これなら、そのまま置いといても一見何かわかんないから。開くから洗い易いし」
「……そう書いてあるわね、ここにも」
紙片を見ながら、呟く。
「巽君て、ほんとに、こういうの初めて?」
「え?」
「だって、時々感想が、玄人っぽいっていうか……」
僕は、赤面した。光輝さんに勘違いされた時のことを、一瞬思い出す。
「……そうですかぁ?」
ムキになって言い返す。
社長は笑って、僕の頭をぽんぽんした。
「きっと、感受性が強くて、飲み込みが早いのね。想像をリアルに体感できるから、先回りが早いのよ」
言っている意味がわからなくて、眉を寄せると、優しく一言。
「巽君は、賢いってこと」
僕は、びっくりして目を見開いた。
同じ言葉を、言われたから。
僕の反応をよそに、社長はまた紙片に目を落とした。
暫らく考え込む。
「………」
レポート用紙で口元を押さえ、思案していた目を僕に向ける。
「ねえ、巽君。あなた、前と後ろ、どっちが好きなの?勿論、オナニーのことよ」
「え、………はぁ!?」
不意打ちのように切り込んできた質問に、僕は赤面した。
そんなの考えたこともない。脳裏をいろんな恥ずかしいことが、駆け巡った。
社長の鋭い視線は、誤魔化しを許さない。
「……えっと……どっちかって言うと……前、です。やっぱ、気持ちいいし。後ろは……怖い」
――それに、寂しい。
「………?」
最後は目を伏せる僕に、社長は怪訝な顔を向けた。
「ま、いいわ。上出来よ!あ、これもいいわよね。包茎矯正リングは、大小2サイズでセットだけど、急に勃起してしまうこともあるので、いざという時大変だと思う。これね、実はもう出てるのよ。一個で両用のリング。でもまだイマイチ。素材
と戦っているところ」
「あ、そうなんですか」
顔を上げた僕に、社長がちろんと目線を送る。
「何なら、使ってみる?」
にっこり微笑む。
「……遠慮します。僕、治す気ありませんから!」
負けじと、にっこり微笑んだ。
 
 
 
「それにしても、」
社長は、腑に落ちないというふうに呟く。
「………睦月って、こんなことする子だったかしら?」
レポート用紙を覗き込んだ。 

 

                                           
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