僕のお仕事 index/novel
8.社長  
 
楠瀬 智明(くすせ ともあき)
18歳
 
2年前、睦月さんに拾われて、そのままここに在籍。
でも睦月さんに惚れ込んで、ストーカーになってしまった為、パートナー解消となった。
現在は違う指導員が付いている。
 
 
これが僕に乱暴した彼の、プロフィール。
「巽君に被害が出て、驚いたわ。ごめんね、ほんとに」
3日後、社長が、謝りに見舞ってくれた。
相変わらず綺麗で、すばらしいプロポーション。本当は何歳なのか、見かけはどう見ても20代後半に見える。でも、会社の規模や、手腕を見ていると、そんな筈はないと思うのだけど。
僕はもうほとんど元気だったけれど、社長に心配されベッドに寝かし付けられていた。
「まだ子供だから、感情で動いちゃうのよね。睦月の仕事に支障が出るようになったから、半径1km接近禁止命令をだしてたの」
僕の怪我の状態を調べ、安心したように包帯の上から手を撫でた。
「傷は残らないわね。よかった。……にしても、君はコトがある度に寝込まされちゃうわね ぇ?」
困ったように笑う。
僕もいささか、参っていた。
「なんでかなぁ……」
曖昧に笑い返した。
「しっかし、まいったなあ、君も光輝も睦月も、ちっともフル活動できなくて」
唇を尖らして、ベッドのヘリに腰掛けた。肩越しに振り向きながら、微笑む。
「今、一番期待してんのよ、君たちに」
ウィンクをされて、僕は赤くなった。
「え……、あれ、でも光輝さんはなんでですか?」
ここにその名前が出てくるとは思わなかった。
社長は難しい顔をして、一瞬黙る。そしてため息を付いた。
「……使いもんになんなくなっちゃった」
「…………え?」
「あいつと睦月は嗜好は違うけど、二人とも抜群にセンスが良くてね。あたしの言いつけ通りのいい子を、必ず拾ってくるの」
「……………」
「でも、最近の光輝はまったく駄目。なんかセンサーが壊れたみたいに滅茶苦茶なのよ。だから今は営業の方にまわしてんの」
通りで、最近姿を見かけないと思った。
営業のエリアはこのビルのずっと下の階。けっしてこのフロアまで上がってくる人はいない。
「んでもねえ、違うのよ。営業はできるけど、かれの本髄は、やっぱここなの!」
苦い顔をして、床を指差した。
「適材適所をモットーとするあたしとしては、充分不本意なのよね!胃の中が苦くなる」
社長の声を遠くに聞きながら、僕は光輝さんを想った。
どうしちゃったんだろう……。だいじょうぶなのかな。
「あ……、でも営業って言ったら、スーツですよね」
僕は初めて見たときの、格好を思い出した。
襟首が大きく開いた白いサマーセーターに、真っ黒なスラックス。
外でも社内でも、いつもラフな格好をしていた。
社長も、思っていたことらしい。
「ええ、……カッコいいわよ、彼!」
にやっと微笑み(?)返してくれた。
 
 
「ところで」
ちろりんと、不穏な眼つきで僕を見た。
「巽君、こっちのモニタしてくんないかな」
にっこり言いながら、何かをカバンから取り出した。
 
「え!?」
ええええ〜〜っ!!何それ!?
「嫌です!絶対嫌!む・り!」
僕はびっくり仰天して、大否定、絶対拒否をした。
手をぶんぶん振り回して、そのオゾマシイものから顔を背ける。
「なんで?無理ってことは、ないわよ。入れときゃいいんだから」
平然としてそれをひょいひょいと振り回す。
「無理ですってば!そんなの入れて歩けませんっ」
「1、2時間そこら辺ほっつき歩いてくればいいだけじゃない。出来る出来る」
社長は楽しそうに、断言した。「社長命令よ」
「…………!」
言葉を詰まらせた僕をみて、優しい目線になる。
ぽんぽんと、頭を軽くなでて、いい子いい子とあやした。
そしてヒールを脱いで、ベッドにひょいと身体を乗せてきた。僕の横にぴたっと並んで座る。
「わ……なんですか……しゃちょー」
急接近と、大胆な行動に驚いて、身体を離した。
その肩を抱きこまれ、顔を胸に押し付けられる。めちゃくちゃいい匂いがした。それに柔らかい。ほんわり包み込まれて、僕は言葉をなくした。
心臓がドキドキ高鳴る。年上とはいえ、凄い美人のお姉さんと、ベッドの上で抱き合っている。こんなシチュエーションで、ドキドキしないほうがおかしい。
「………あの……?」
苦しくなって、呟いた。
真っ赤になっている僕を、斜めに覗き込みながら、社長が優しく言った。
「大丈夫よ、怖くないから」
肩や腕を柔らかく撫でる。
「じっとしてて、動いちゃダメよ……」
「ぇ………」
その手が、僕のパジャマのズボンにかかり、脱がせようとする。
「わ!しゃ……しゃちょっ!なにしてんですか!?」
僕は正気に戻って、抵抗した。
「駄目!君にこれの使い方が分かるの?わかんないでしょ!?命令って言ったじゃない。大人しくなさい!」
厳しい言葉で一括され、僕は泣きたくなった。
「背くと……クビですか」
「もちろん」
悪魔のような微笑。
下着まで脱がせた僕を、横座りして後ろから抱え込む。
膝を立たせて、開かせる。恥部が丸見えになった。
「………しゃちょ〜」
情けない声で、訴える。
何回か社長の前でモニタをしてるけど、何度だって、慣れるはずがない。
めちゃくちゃ恥ずかしい。
しかも、今は社長の手が、そこに触れようとしているのだ。
その手にしているものを、マジマジと見てみた。
サーフボードからディルド(張り型)が生えているみたいな変なモノ。
そのボードの先っちょには輪ゴムみたいなシリコンが2つ縦にくっ付いている。
何をどうするのか、わからないが、考えるのも恐ろしい。
 
社長は、しなやかな親指と人差し指を、1つ目のリングに差し込んだ。
その2本の指でリングを外側にひらき、反対の手でぼくのまだちっちゃくて垂れているそれを拾い上げた。
「………ん」
触られただけで、ピクンと反応してしまった。
緊張して呼吸が荒い。熱い息が、前を覗き込んでいる社長の頬に当たってしまう。
「いい子ね。……力抜いててね」
囁きながら、リングを前に通す。根元まで嵌めると、今度は袋を指で支えた。
「!!っ何……」
「静かに。ここも、2つ目のリングで拘束するのよ。ちょっと入れるときキツイかな」
2つ目のリングに指を通して、大きく広げる。かなり伸びるシリコン。
輪の中に袋を摘みいれて、手前に引きずり出す。袋の根本がリングで束ねられて、なんとも変な格好になった。
僕はそれ以上無理だった。
「うわ、やっぱ嫌です!社長、離してくださいっ……」
もがいて、社長の手を跳ね除ける。
2つ目のリングが、袋の根元を締めたとき、なんともおぞましい嫌悪に襲われた。
背中がサーッと冷えていく。
気持ち悪くて、早く外したかった。その先の行為はもっと嫌だった。
「暴れちゃダメよ、巽君」
「やだ!……いやぁ―――っ!!」
 
「なにしてるんですか、梓さん」
いつの間にか入り口に人が居た。
睦月さんが、腕を組んでドアに寄りかかっている。
優しく微笑みながら、静かに言う。
「どう見ても、職権乱用ですよ。……または強姦ですね」
「!!」
僕は喜び、社長は驚いて、飛び上った。
睦月さんの微笑みは、怒りのオーラで満ちている。
「梓さんが、直接手を出すなんて、ぼくにはよっぽど手に負えないことなんでしょうか?」
そのまま、静かに喋る。
「ぼくが付いている以上、どんなモニタをするにしても、ぼくを通してくるのが、筋ってものでしょう?」
「睦月……」
「普段あなたが口を酸っぱくして言っている、秩序を守れだとか、貞節を守れだとか、それはどうしたのですか?」
言いながら、一歩一歩近づいてくる。
「社長のあなたがこんなじゃ、ルールを守る社員なんかいませんよ。馬鹿馬鹿しくなる。そうでしょう?」
社長は蒼白になって、ベッドから飛び降り、居住まいを正した。
僕は布団を引き上げて、情けない姿を隠す。
「ちょ……、ちょっと結果を急いだだけよ。早く成果を知りたかったの。ホントはあなたに今から持ってく所だったのよ」
道具が入っていた袋を睦月さんに差し出す。
睦月さんはそれを無視して、僕にまっすぐ歩いてきた。
そっと僕の肩を起こして
「……大丈夫?」
と、心配げに顔を覗き込んでくる。
僕の涙の跡をみつけると、睦月さんの手が震えた。
やんわり僕の頭を胸に抱え込んで、社長を振り返る。
「……悪かったわよ、ホント。……これ、ここに置いとくから」
その顔に一瞥、鋭い視線を突きつけた。
「わかりました。もうけっこうですから。さっさとこの部屋から出て行ってください」
「……!」
喉を引きつらせて社長がたじろぐ。
「だから……、悪かったって、言ってるじゃないよ、もうっ!指示書もはいってるからね、ちゃんとその通りやってよ!」
社長は言うだけ言って、ヒールを響かせながら、慌てて出て行った。
 
僕は睦月さんに抱き込まれて、安心してしまった。背中に手を回してしがみつく。
睦月さんの匂い。人工的な香料ではなく、ちょっと甘いハーブのような匂い。
それに顔を押しつけて、わんわん泣いてしまった。
「怖かったよーっ」
でも僕の股間には、まだあのおぞましいモノが、そのままだった。
棹と袋が根本で2連のリングで繋がっていて、そのリングの下端にくっついているバイブが所在なげに引き摺られている。
その重みが、これは夢じゃない、と僕の身体に教えてくる。
睦月さんはそのままベッドのヘリに腰掛けて、泣きやむまで、ずっと抱え込んでくれた。
そして、泣きやんでも布団から出ようとしない僕に、
「どんなものか、ぼくに見せてくれる?」
と、何でもないように、穏やかに言った。
えっ。
僕はびっくりして顔を上げた。
「まだ、嵌ってるんでしょう?君に」
冗談じゃない。自分で外す余裕がなかったのが悔やまれた。
とてもじゃないけど、今の状態は見せられない。
「巽君、ごめんね」
言うが早いか、ぱっと布団を捲って圧し掛かって来た。
「ぁ、やっ……睦月さん!」
こんなのは死んでも見られたくなかった。なのに、膝を開かせる。
「―――!!」
「なんてことを……。梓さん、絶対ゆるしません……!」
蒼白になった睦月さんは、手早くそれを外してくれた。
 
「ぼくに勝手に、こんなものを……だいたい、これには手順がいるのに」
胸にしがみつく僕の頭を撫でながら、ベッドの端に社長が置いていった袋を拾い寄せた。
中から紙を取り出す。
「本当に指示書だ。やっぱり、ぼくに持ってくる所だったみたいだね」
眉根を寄せて、訝しんだ。
ふと僕を見る。
「社長が巽君になにか要求するとき、今までもこんなことあった?」
「いえ。……こんなの初めてです」
「ふうん、……そう。もう社長も、あぶないなぁ」
宙を見つめて、呟いた。
「え?」
顔を上げた僕を、眩しそうに見つめると、睦月さんはにっこり微笑んだ。
「何でもないよ。……それにしても、君は」
優しく髪を撫でながら、瞳を覗き込む。鳶色の光が睫毛の奥で揺れていた。
「なんでそんなに、襲われやすいのかな」
困ったように笑う。
「もっとも、君にしてみれば、……ぼくもその一人かな」
寂しそうに囁くと、長い睫毛を伏せ、撫でていた頭にキスをくれた。
僕は胸が痛くなった。
「そんな顔、しない」
頬をちょんと触って、また胸に抱え込まれる。
ぼくは、睦月さんの優しさに甘えすぎて、溶けてしまうかと思った。
 
                                          
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