僕のお仕事 index/novel
9.再会  
 
………でも!
睦月さんは、甘いだけじゃなかった。
ちょっと非情だと思う。
 
「ええっ、睦月さん、そ……それは……!!」
「うん。今日はちゃんと、お仕事しないとね」
相変わらず、優しく微笑んでくれるけど、その手には、”アレ”があった。
 
次の日、睦月さんは改めて社長にお説教をし、僕に謝罪させた。
僕は恐縮の限りだった。あんなことされたにしても、相手は大会社の社長なのだから。
その後、睦月さんと社長の2人だけで仕事の話しになったので、僕だけ辞してシャワーを済ませたわけだ。そして今に至る。
「……お願い。それはやだ」
僕は真剣に涙目で、訴えた。バスローブごと身体を抱きしめる。
ベッドの中央に、向かい合って座り込んでいる。
「梓さんが先に、変なトラウマ作っちゃったからねえ」
困ったように、溜息をついて掌のモノを眺めた。
「ま、いいから、こっちおいで」
腕を引き寄せると、ふわりといつものポジションに僕を抱え込む。
背後から睦月さんの息付きを感じ、僕は戸惑った。暖かさに胸が高鳴ってしまった。
耳の横で囁く声にも、どきどきする。
「これはね、いわゆるエネマグラ。前立腺マッサージ器具。医療器具としても開発されているんだよ」
「……マッサージ?」
目の前で、白い指に弄ばれているモノを、こわごわ見る。
「この、ディルドを前立腺に当たるように、後から入れるんだ」
男根をかたどった部分を指す。要するに、動かないバイブだ。
ディルドは短いサーフボードのような板と、竹串のように細い棒で繋がっていた。
「で、この板はアナルストッパー。……いろんな意味でストッパー。それは巽君もわかるよね」
僕は赤くなって、頷いた。
 
「まあ、今回は落下防止だね。このリングもそれは兼ねてる。ただ、リングはそれだけじゃない」
「……?」
「いい?……怖くないから、力抜いててね」
睦月さんは、僕の膝を開かせる。
指にローションをたっぷり付けて、僕の蕾に押し当ててきた。
「……ん」
ぴくんと、蕾が閉まって指を拒否する。それでも、やわやわと間断をつけて、揉むように押してくる。
やがて蕾は、指を受け容れていく。
つぷんと、第一関節が入った。
「……はぁ」
きゅ、と思わず搾ってしまった。
ふふ、とくすぐったい声が、後ろから聞こえる。
「可愛い。巽君」
嬉しそうに言いながら、指をもっと進める。
「ん………はぁ……」
僕は後ろを刺激されていると、すぐ前が勃つようになってしまった。
厭らしい、僕の身体……。
指を増やされ、充分ほぐされた。
「先にリングを嵌めるから、ちょっと我慢してね」
勃っている僕のそれに、内側から1つ目のリングを広げて通していく。根本で指を外すと、きゅっと締められた。
「あっ」
軽い圧迫感に身体が反応する。
更に連続で繋がっている2つ目のリングで、袋の根本を締められる。こっちはかなりの圧迫感だった。
昨日は、吐き気を呼ぶほどの嫌悪感で、泣きわめいてしまった。
「……大丈夫?」
様子を見るように聞いてくる。
「………ぅ……はい」
睦月さんの腕にしがみついて、身体を縮こまらせて、震える。
気持ち悪いけど、昨日みたいに、我慢できない程ではなかった。
「緊張しないでね。ちょっと前を引っ張るから、キツイかもしれないけど、ごめんね」
唇が頬に押し当てられる。
柔らかい感触と、下の異様な感触が同時だった。
「あっ……んんっ」
2連リングに繋がれた板を後ろに持っていき、その中央から生えているディルドを蕾に押し当てた。
「はぁっ」
ずぷりと、挿入する。長さ5cm位のそれを、僕の後ろは全部飲み込んでしまった。
もの凄い異物感。
更に板をぐいっと蕾に押しつけられる。
「あぁっ、……はぁ……」
「……巽君。うしろ搾って。奥へ誘導して。奥に奥に飲み込むように……」
「ん……は……」
僕は、押し出してしまいそうな生理現象に負けないように、入れ込まれたそれを、奥へと導いた。
肉壁を吸い付かせるたび、異物感が上にあがって来る。
おまけに、リングのせいで前が引っ張られて、根本がとても痛い。
油断すると出そうになるので、一生懸命、内側に吸い付かせていた。
……これ、辛い。早く終わらないかな。
気が遠くなった。
「入れてみてわかると思うけど、ずっと、銜え込んでいるためには、括約筋を常に動かすから、それがいい運動になるんだ。そして、その動きこそ……」
僕は、中のディルドがある一点を攻めだしていることに気が付いた。
「ぁ……」
「……気持ちいいでしょう」
目を細めて、囁く。
「それがさっき言ってた、マッサージ」
「………!」
体内に維持する為に、後ろを搾ると、中のディルドが、前立腺を擦る。
ペニスが反応して更に勃つから、板を前に引っ張り、またディルドが動く。
終わらない悪循環のような快感が、僕を苛んだ。
「これ……つらい……」
涙目で、睦月さんを見上げる。どう呼吸していいか判らない。それでも突き上げる快感に頬が熱くなる。苦しさに喘ぎながら、腕に縋り付いた。
「……このまま、立って、歩いてみて」
静かにそう言う睦月さんの言葉に、僕は自分の耳を疑った。
「――――!?」
「これを嵌めたまま、歩くのに重すぎないか、痛くならないか、どこか無理はないか。それを知りたいらしい」
「………………」
「指示書には2時間くらい歩かせろと、書いてある………けど。そこまでは、ぼくは言わない」
「………………」
聞いてるのが、精一杯。答えられないし。立つなんて無理だ。ましてや歩くなんて……。
 
「巽くん……」
動けない僕を腕ごと抱え込む。
腰の角度が変わり、さらに呻いてしまった。
助けて……。僕、こんなの嫌だ……。
「ごめんね、巽君……。これは……、君、指名のテストなんだ」
「!?」
「巽君が嫌がっても、他の子じゃだめだから、君ががんばるしかないんだよ」
「指名………って、どういうこと?」
呼吸を乱しながら、聞く。
「……わからない。さっき社長に、それだけきつく言われた。結果を出すまで、やれって」
「…………」
僕が先に辞した後、そんなことを話していたのだ。
「なんで……」
「わからない。本当にわからない。教えてくれないんだ」
「……………」
「だからね、……こんなキツイこと早く終わらせるように、ちょっとでいいから歩いて……」
掻き抱くように抱きしめられる。
「見ていられないよ、こんなの」
声が泣いていた。
 
僕は下着を穿かされ、服もきちんと着させられた。
下着は小さめのビキニパンツ。後ろが、抜け落ちないようにだった。
 
立ってみると、重力で落ちてきそうになるので、僕は尚更力を入れなければならなかった。
心配そうに手を差し出す睦月さん。
僕は、無性に腹が立った。
そんな顔するなら、始めから、やらなきゃいいのに!
 
僕は睦月さんの手を乱暴に払うと、叫んだ。
「歩いて来る!やればいいんでしょ!」
こんなに嫌なのに、疼きに火照ってしまう顔も、見られたくはなかった。
 
その個室は、比較的受付に近い場所だった。
部屋を飛び出すと、丁度エレベーターが来ていたので、飛び乗った。
走ると、前も中のモノも激しく僕を刺激する。
堪らなくて、エレベーターの奥の壁に、背中を擦りつけて、床にへたり込んだ。
「ぅっ……」
腰が床に着く時、圧迫感に襲われて、思わず呻いた。
閉まる扉の隙間から、驚いてこっちを見ている受付嬢の顔が見えた。
僕はそのまま蹲っていた。中のモノが疎ましい。嫌悪と快感が交互に襲ってくる。
背中の鏡が、厭らしく頬を上気させた僕を映し出していた。
 
なんで、こんな目に遭うのかわからない。
………こんなの、本当に、僕には合わないよ。
 
襲ってくる、不快な疼きに身悶えて、ただただ喘ぐしかなかった。
こんな情けない姿にされても、身体が反応してしまっている。……羞恥に耐えない。
背中をぞくぞくと走る痺れが、僕の思考を奪っていく。
 
膝を崩して蹲っていると、エレベーターが止まって、扉が開く気配がした。
誰かが乗ってくる。僕はもう、何も構えなかった。
自分を隠すことも、逃げることもできない。
ただ、じっと蹲っていた。
 
「………巽!?」
 
驚愕の声が聞こえた。
 
…………。
「巽!巽なのか!?おい、何してんだ!」
「…………」
エレベーター内に飛び込んできて、僕の前に屈み込む。
力強い腕で、揺さぶられた。
鋭く響くバリトン。
 
「光輝……さん」
 
懐かしい声。懐かしい顔。
久しぶりに、声に出して呼んだ。その名前を。
 
「どうしたんだよ、どこか具合が悪いのか?」
心配げな声で、僕を覗き込む。
こんな顔、見られたくない。慌てて俯いた。
「おいっ!」
抱え起こされそうになって、下半身が疼く。僕は呻いた。
嫌だ。こんなとこ見られたくない。こんな恥ずかしい姿、バレたくない。
「なんでも……ないっ」
手を振り上げて、光輝さんの腕を振り解く。
「何でもないわけ……ちょっとまてよ、その手首は何だ!?」
僕の両手首には、未だ包帯が巻いてあった。
光輝さんの顔が、真っ白になった。
「何があったんだ?こんな状態で、何でもないわけ、ないだろう!」
怒ったように言うと、庇っている腰をグイと引き寄せた。
「……ぁあっ」
堪らずに僕は、喘いでしまった。
「!?」
驚いた目を、また向けられる。
「何かしてるのか?ちょっと見せてみろ!何してんだ」
「あ……やだ。嫌……」
穿かせられていた、カーゴパンツを引きずり降ろす。
「やめて!……光輝さん、見ないでっ」
悲痛な声も届かず、僕はビキニパンツも剥ぎ取られた。
「―――!!」
一瞬で、蒼白になった光輝さんの顔。
そこに怒りが浮かんでくる。
目が見開かれ、額には青筋が浮かぶ。
噛み締めた唇の隙間から、うめき声が漏れた。
「なんなんだ?……これは!!」
地獄の底から這い出すような低い呻き声。
僕は答えられなくて、目を瞑ったまま、首を横に振った。
 
もうダメだ。こんな姿見られて……!
恥ずかしくて死んじゃう………!
 
死にものぐるいで抗う僕に、同じようにありったけの力で、押さえ込んで、僕を上に向かせた。
「おい、俺を見ろ!巽!」
「…………………」
顎を掴まれて、グイグイと自分に向かせる。
僕は、苦しくて薄目を開けた。
エレベーターの電灯の逆光で、陰になっている。よく見えない。
目を凝らして、必死に目の前に迫る顔を見つめる。
つり上がった眉、切れ長の真っ黒い瞳。通った鼻筋。噛みしめた薄い唇。
怒っているのか泣きそうなのか判らない、表情。
「こお……き、さん」
僕の目から大粒の涙が、溢れた。
「こおきさん……こーきさん……」
上擦りながら、何度も呼ぶ。
 
僕は、このひとが、好きだ。
 
どれだけ会いたかったか、わからない。
どれだけその名前を呼びたかったか、わからない。
 
この顔を、また近くで見たかった。
こうやって、抱きつきたかった。
 
大好き。大好き。大好き。
光輝さんが、だいすき。
 
溢れる想いを、僕は涙に変えて、愛しい人にしがみついた。
「光輝さん、……助けて……」
   
                                           

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