僕のお仕事 index/novel
11.「ヤノタツミ」  
1.2.
  

 
「ヤノ タツミ?……誰それ」
 
俺は初めて聞く名前に、耳ざとく敏感に反応した。
話題が睦月に関係していたからだ。
「タツミ君。知らないの?お前」
「新顔だよ〜。でも、毎日ここで飯食ってるから、かなり有名だけどね」
「チョー、可愛いぜ!」
「はぁん?……俺、今ここ使えないからなあ」
「そいや、そうだ。今日は、何でまた?」
「ん、幸隆、探してる……」
俺は、苦々しく言った。
会いたい人には、後を追うことさえ禁止され、会いたくないヤツを、追っかけて探さなければならないなんて、気分が悪いったらない。
しかも睦月とソイツの名前が耳に入ってきて、なんかムカツク。
「それより、誰だよソイツ。睦月と関係あんの?」
いきなり皆、黙ってしまった。
昼過ぎの、購買食堂。
このビルで働いてる奴らは大抵ここを使う。
専用カードが使えるからだ。
俺は、ちっと訳ありで、あんまり出入りできなくなっているけど。
基本、フレックスな俺たちは、適当な時間にここで駄喋ったりしていた。
今日も同じフロアの奴らが4人集まって、騒いでいた。
「なあ、教えろよ。睦月がなんだって!?」
俺は自分より、2回りも大きな奴らに食って掛かった。
「ヤベ……、智明がキレる」
「黙ってろ、教えたら、もっとキレんだろ!?」
俺は慌て出す4人に焦れた。
「いいから、言えっ!」
体が他人より小さい分、俺は筋肉を鍛えていた。
て、いうか体を造って、ゴツくなって、早く大人になりたかったんだ。
手前の男の襟首を掴むと、拳を振り回した。
「わーっ、わかった!言うって!」
「パートナー替えだよ。むっちー、最近タツミ君に付いたんだって」
「!!!!!」
俺は耳が変になったのかと、思った。
「はっ!?」
「睦月さんが拾ってきた子を、わざわざ保留にしてさ。すんげー珍しいよな」
「ああ、特別待遇らしいからね。この上の部屋、貸してもらえんだもん」
「なんせ、可愛いーかんな」
俺は、ぴくっときた。
「可愛い!?俺より!?どんな風に!?」
食いつく俺の頭を押さえながら、
「まぁ、目は確実にでかいな」
「つーか、智明は顔は可愛いけど、性格がかわいくない!」
「その顔で、なんで、俺って言うかなー」
「五月蠅い!俺のことはいいんだよ!何歳だよ、ソイツ」
「20歳らしいね」
「20歳!オジンじゃん!」
「………お前ね〜」
一瞬で冷たい目に囲まれた。しまった。20歳以下は俺しかいなかった。
不味いことになったので、俺はそこから早々に逃げて、個室フロアに行ってみた。
ホントは今、俺には立ち入り禁止フロア。
睦月とニアミスしないようにと、色々禁止されていた。
 
………睦月。
思い出すと、心が痛くなる。
静かな顔でずっと微笑んでくれたあの笑顔が、俺は大好きだ。
どんだけ〜ってほど、気が長くて、最後に折れたのは、俺だった。
だから、俺には睦月だけだ。
睦月が俺に新しい人生をくれたんだ。
睦月が他の男と(女もだ)いちゃいちゃするなんて、我慢ができない。
俺のなのに。
俺が睦月のものだから……、睦月は俺のモノなのに。
胸がどんどん痛くなる。
会いたくて会いたくて、しかたなくなる。
声が聞きたくなる。
呼んで。その声で俺の名前を呼んで。
……その度に俺は、息を吹き返す。ここで生きて行ける。
 
タツミの部屋はすぐわかった。一番端だったから。
しかも、鍵が開けっ放し。無用心にもほどがある。
部屋を物色すると、洋服をたくさん見つけた。
やけに可愛いデザインが多い。サイズは俺と同じか、少し大きい。
”チョー可愛い”……か。
確かに、、この服が似合うなら、かわいいだろうな。ふん。
俺は悪戯を思いついて、手錠を取りに、一回戻った。
再度部屋に入りこんで、窓際で座って待つことにした。
幸隆のことを思い出したけど、無視だ。幸隆は嫌い。睦月みたいに待ってくれない。
俺の心なんか、どうでもいいんだ。暴力がキツいし。
まあ、ここにいれば見つからないさ。さあ、早く帰って来い、タツミ。
どんなヤツか、じっくり拝見してやる。
 
……だいたいなんでチェンジしてまで睦月なんだ?
睦月は優しいのか?
タツミも睦月を好きなのか?
そんなの許さない!
睦月が優しいのも、好きなのも、全部俺だけになんだ。
他のヤツは絶対ヤダ。本当は、本当にヤダ。
命令をきいていれば、一生の離れ離れにはならないから。
だから俺は、最大限我慢する。
禁止を守り、命令どおりの仕事をする。
睦月が新顔ピックアップしてきても、我慢した。
どうせ俺より大したヤツはいないから。
でも今回は、なんか違う。なんで特別待遇?
なんで睦月なんだ?そんなに可愛いのか?
 
………俺の頭はグルグルそればかりが回っていた。
 
とうとうヤツが帰って来た。
ドアの開く気配。
一瞬緊張して動けなかった。でも向こうも驚いて凝固してやがる。
当たり前か。俺から声をかけてやった。
「ふうん、あんたがタツミクン、ね」
確かに可愛い。目がほんとにデカイ。ちょっとびっくりした。
窓からの夕日を受けて立ってるその姿は、女の子……というより男でも女でもない、精巧に作られた人形のようだった。
でもおれよりオジンだ。
ふん、どうかしてるよ。こんなのちやほやして。
俺のほうが可愛いじゃん。
その後は、俺のこと値踏みするみたいにじろじろ見やがるから、鬱陶しくなった。
早く、コイツの正体を見極めてやる。
どうしょうもないくらい、ダミ声かもしれないし。
それなら許してやるか。
俺は自己紹介をするふりをして、ヤツを捕まえた。
俺は鍛えてるから、力じゃ負けないことは見てすぐわかった。細いもん、こいつ。
案の定、握手してきた手に手錠を掛けてひっぱると、痛そうに引きずられた。
「ちょっ……何すんの……!」
パイプに繋げる時に五月蠅く喚くから、無理矢理ベットに押し上げて、反対の手も繋いでやった。
思った以上にイイ声していて、ちょっと悔しかった。
ダミ声じゃなくたって、普通ならまだ許せたかもしれない。
なんだか胸にぐさっとくる、甘くて、かわいい……
ムカツク。なんだこれ。やなヤツ。
俺はめちゃくちゃ気分が悪くなった。
ちょっとからかってやろうと思っただけだったけど、そんなじゃ気が済まない。
大の字に両手をベットに繋がれている姿を、太腿に跨ったまま見下ろした。
まだ服もはだけていない。
なのに。拘束され、頬を上気させながら困惑の目で俺を見上げている。
その顔は、もの凄く色っぽかった。
くそっ!
「まるで、イエス様だな!」
意地悪く笑ってやった。負けてたまるか!
陵辱して、ぺしゃんこにしてやる。もう自分から睦月の前に立てなくしてやる!
悔しくて、首に手を掛けて絞めてしまいそうになった。
その手を憎たらしい顔に滑らせて、憤りを抑える。ついでに観察してみる。
「ふん。大きい目だな。……」
昼間聞いたように、確かにデカイ目で、つい言ってしまった。
長くて密集した睫毛。線の細い眉。この眉が、か弱さを引き立たせる。
鼻は小さいけどしっかりしている。
「唇は……、俺より柔らかそう」
思わず触ってみた。下唇がぷっくりしていて、ほんとに柔らかかった。
俺が怖いのか、怯えるように震えている。
そして、この顔を美少女にさせないのが、髪の毛。ぴんぴんと後ろが跳ね返っている。
「癖っ毛は俺と同じだな……」
さらさらやふわふわだったら、正に女の子だ。肌も真っ白だし。
俺は急に、服の下に興味が湧いた。
どこまで真っ白なんだろう……。
「―――!!」
ボタンに手を掛け、一つ外したところで、俺は驚愕した。
そこから出てきたモノが信じられなかった。
左の鎖骨の下にあるもの。
赤紫の一片の花弁。
なんだこれは!
なんで、なんで!?
俺の体には、一つも付けてくれたことはないのに!
本当に睦月がやったのか!?
「……へえ、あんたには、こんなの付けるんだ」
悔しくてそう言うと、こいつは赤面しやがった。
ぱあっと頬が赤く染まって、視線が揺れる。
その瞬間、俺の頭は何が何だかわからなくなった。
睦月にこんな顔を、毎日見せてる。
睦月がこれを、タクミに付けた。
それほど、こいつに参っちまってるのか。
俺には一回も無いのに!
しかもコイツ、今その瞬間を思い出しやがった!
俺は嫌でも、こいつらのツーショットを想像させられる。
「………っ」
悔しくて悔しくて、力任せにシャツを引き裂いた。ボタンが弾け飛ぶ。
さらけ出された肢体には、もっと驚いた。
………こんなに!……どんだけ、どこまでつけてんだよ!!
ズボンも脱がして確かめてやる!
「や……やめ……っ」
手錠をガチャガチャいわせて抵抗するが、知ったこっちゃない。
太腿の下まで下着ごと引きずり降ろしたら、静かになった。
「………………!」
なんて数だよ……睦月……。
体中に散らされたキスマーク。
それが睦月の愛の数のように見えて、俺は気が遠くなりそうになった。
体を後ろに引いて、全体を視界に入れて見る。
目が一つ一つ、釘付けになる。
鎖骨、胸、脇腹、下腹部、股間、太腿の付け根……。
睦月の愛撫までが見えるようだ。
真っ白い肌に、睦月の赤い唇が滑っていく。
そのたび、この白い肌が赤く火照る。しなる肢体。
(――――やめろ!)
俺は勝手に暴走する想像を、掻き消した。
頭の中がサーッと冷めていく。
こんな身体……。
なんだよ。くそっ!
「………ふん、乳首はぴんくなんだ」
静かに嗤ってやった。
お前がどんなに恥ずかしい姿を睦月に晒しているか、俺が教えてやる。
タツミは目を見開いて、顔を赤くした。
胸が灼ける。もっと虐めてやる!じっくり視線を下げていった。
腰がすごく細い。ガリガリじゃなくて、骨格が細いんだ。
「……筋肉ないな。下は……こっちもぴんく」
すげー綺麗。
「はは、かわいいじゃん」
タツミは頬もピンクにして、泣き出しそうだった。
「もう……やめてっ」
いきなり身体を捩ってきた。
俺はここぞとばかりに、膝立ちになってタツミのズボンを更に脱がせた。自分の後ろに追いやる。
下着とズボンがタツミの膝に絡まり、バタつかせていた両脚を封じた。
都合がいいや。膝が浮いて、尻の裏まで少し見える。
うわ……。
「こんなとこまで……。厭らしいなあ」
眼を背けたくて、細める。乾いた上唇を舐めて、やっとそう言った。
泣きそうだったタツミの目が、潤んで怒りに燃えた。
「なんで?……なんなの君。なんでこんなことするんだよっ」
 
                                      
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