chapter12. defender of the memories                           -1秒の記憶-
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「お風呂、入ろう。……天野君」
 
 伝い続ける涙を、お湯で流してしまうかのように、先生は僕にシャワーをかけた。先生も初めて全裸になって、僕とお風呂に入った。
 桜庭先生の身体は、格好良かった克にぃと違って、どっちかというと僕みたいだと思った。
 肩に筋肉とかなくて、すべらかな線。女の人みたいに、白い。
 
 湯船のなかで、僕を前向きに脚の間に座らせて、背中から抱きしめてる。ずっと抱きしめてる。
 後ろから頬をくっつけ合わせて、じっと動かない。僕も、あごをお湯に浸けて、じっと動かなかった。
 ……こんなカッコも、あの時と同じなのに……
 七色に変わるお湯の色を、僕は魔法を見てる気分で克にぃと眺めた。
 何もかもが…部屋も、ベッドも、お風呂も……思い出だらけだ。
「………っ」
 
 僕はぎゅっと目をつぶって、首を思いっきり横に振った。
 ビックリした先生の腕が、少し緩んだ。
 ───うあああぁぁぁぁッ……!!
 心の中で、叫び続けた。嫌なこと、思いついちゃったから。変なこと考えたくなくて。
「天野君……天野君!?」
 暴れ出した僕を、先生が必死に抑える。
 
 ───だって! ……だって……!!
 これが克にぃだったらなんて、胸が痛すぎて。思い出ばかり浮かんできて、心が辛すぎて。
 考えてたら、自分で壊しちゃう!
 ……自分で、塗りつぶしちゃうよぉ!
  
 ───それに、気がついちゃったんだ……
 たとえ、先生じゃなくても…僕がこんなこと、されてなくても……
 
 克にぃは……いないんだ……
 また一緒にお風呂に入ることなんか、できないんだって!!
 
「ぅうぁ───ぅうあああッ…!」
 先生に後ろから抱きしめられて、頭だけ振り続けた。
 僕は、やっとわかった気がした。
 本当に…ほんとに、克にぃがいないんだってこと…!
「…ぅああっ……ぅぁああぁッ……ぁああぁ……!!」
 だからこれは、僕と先生の初めて───ベツモノなんだ。
 そう思わなきゃ……
 克にぃとの思い出は、絶対に消さない! 消したりなんか、しちゃいけないんだ……!!
 
「……ぅう……ぅうっ…ぇっく…」
 しゃくりあげながら、涙が止まるまで、首を振っていた。先生は黙って、僕を抱きしめていた。
 
 
 
 
 
「……落ち着いた?」
 僕が泣きやんで、呼吸も普通に出来るようになった頃、先生が耳元で囁いた。
 ……優しい声。前は、この優しい感じが好きだった。
「…………」
 俯いたまま、目の前の腕を見つめる。
 優しい雰囲気…優しい声…そんなとこが、克にぃに似てるなんて、思ってた。
 今は……克にぃの代わりみたいに、僕を抱きしめるけど……
 
 
「……先生から……」
 
 また心が零れていた。
「……うん?」
 悲しい気持ちが、口からこぼれる。
「僕……先生から、あったかさ……感じない」
「…………!」
「克にぃに抱きしめてもらうと、すっごいあったかいのに」
「…………」
 言ってるだけで、気持ちが熱くなる。
「心まで、あたたかいのに……」
 それ以上は、喋れなかった。
 先生が僕の口を塞いだから。振り向かされて、唇が覆い被さって、呼吸も止める。
「んっ……」
 ───苦しい……!
 
「やッ……」
 必死に抗った。
 お湯の中で、ばしゃばしゃと水面が跳ねるほど暴れた。
「あ……!」
 急に呼吸が楽になったかと、思ったら、お湯から引き上げられた。
「…………」
 無言で、身体を拭いてくれる。
 ゆっくりと優しく、バスタオルで、丁寧に頭から足まで拭いてくれる。
 僕は怖くなって、全身が固まっちゃってたけど、怒ったときの怖い先生にはならなかった。
 自分と僕にバスローブを着せて、髪が完全に乾くまで、ドライヤーも掛けてくれた。
 細い指先が、何度も何度も僕の髪を掻き上げる。
「柔らかいね…、ふわふわの髪」
「…………」
 同じ言葉……先生の声は、僕に響かない。
 壁の鏡に、小さなイスに座ってる僕と、その後ろに立つ桜庭先生が映ってるのが、目に入った。
 バスローブはまだまだ大きいけど、何度も折り返した袖まくりは、あの時ほどじゃないように見えた。
 
 
 
「……おいで」
 優しい声で、僕をまたベッドへ連れて行く。
 乗り上がって、真ん中でくっついて横になった。
 向かい合わせに僕をすっぽり腕の中に抱き込んで、頬をくっつけ合わせる。
「………まだ…温かく、ない?」
「………」
 僕は小さく頷いた。
 先生の体温は、感じる。でも、僕をあったかくは、しない。
「天野君……」
 頬を離すと、正面から、僕を見つめた。
 茶色の目が、潤んだみたいに光って揺れてる。細い眉が真ん中に寄って、苦しそうな顔を作っていた。
「天野君は、確かに克にいのものだったけど。……今は、ぼくのものだよ」
「……………」
「君を抱きしめるのも…撫でるのも……高めてあげるのも」
「……………」
 僕は、いやいやをするように、先生を見つめながら首を振った。
 先生の眉が、いっそう寄せられる。
 目も細まって、すごい苦しそう。
「君が好き……だいすき」
 僕は、首を振り続ける。
 うそうそ! ……先生のモノじゃないし、僕を好きなんかじゃない……!
「君を傷付けたくも、泣かせたくもない──本当なんだ…」
 バスローブの腰ひもを外されて、前をはだけられた。
「だから、暴れないで。縛らせないで」
「………ぁ」
 胸の突起を、先生の親指が、それぞれいじくる。
 押したり、引っ掻いたりする。ビリビリと、背中や腰が震えた。
「あっ…ゃぁあ……!」
 先生のバスローブにしがみついて、身悶えた。
 先生の腰もはだけて、僕の腰と密着した。
 熱くて固い塊が、僕のに当たる。先生は、そこを擦り合わせるように、腰を振った。
 ……あっ、なんか……すごい……
 感じたことの無い気持ちよさが、そこに広がった。
 
「ヤダ……僕、こんなのやだ……」
 怖くなって、身体を離そうとした。
「だめ……」
 先生が優しく僕を撫で回す。やんわり腰を捉えて、もっと強く擦り合わせる。
 何度も何度も擦り合わせる。
「あっ、あっ、せん……せんせ……!」
 言うよりも早く、僕は達してしまっていた。
「んんっ…!」
 腰回りが、自分のでなま温かくなって、気持ち悪い。
「ふふ、いっちゃったね。そんなに、気持ちよかった?」
 囁くように言いながら、先生はお腹のペタペタを、指ですくった。
「ぁ…んんっ……」
 その指を、お尻に入れてきた。
 ぬぷぬぷと、いやな音がする。
「可愛い……頬が真っ赤だよ」
「…………ッ」
 首をひっしに横に振る。そういうの、聞きたくない! 僕じゃないみたいで、すごい、ヤダ!!
 指を全部入れると、根本を外側に広げるように回しながら、手を動かす。
 僕はこれも辛い。ムリヤリ変えられてるみたいで……。
「んっ……ぅ…ん……」
 2本、3本と指を増やすたびにそれをやる。
「久しぶりだけど、柔らかいよ、天野君のここ」
 最後はそう言いながら、舌を入れられた。
「ぁ…んっ……くぅ……」
 僕のお尻は、ピクピクして、先生の舌に反応した。
 
 膝を曲げて、すり合わせて…握った指をかじって我慢するけど、声が出ちゃう。
 
「天野君の素敵な声……聞かせて。今日は、我慢しなくていいんだよ」
 手を口元から剥がされた。
「……でも」
「平気。恥ずかしくないよ。聞きたいんだ…聞かせて」
 ほっぺたを撫でながら、優しく微笑む。
 瞳がきらきら揺れてて、その目をみてたら、いつもの怖い気持ちが湧かなかった。
「…………」
「入れるよ……」
 片手でほっぺたを包んだまま、反対の手で、先生のをあてがってきた。
「ん……」
 僕は先生に教えられた通りに、足をめいっぱい開いて、腰を上げる。
 ……あ………
 先生が入ってくる。熱い塊が、僕を押し開いて、圧迫する。
 
 
『圧迫感、辛くない?』
『……あっぱくって、なに?』
 克にぃのさきっちょが、僕の中に入ってる。僕はそれだけで、興奮して、体中が熱くて……はぁはぁ、息してた。
 おでこの汗を拭いてくれながら、心配そうな顔の克にぃ。
『押されて、窮屈で、苦しいの……』
『…ううん………はぁ……ぼく……きもちいい』
 押されて、きゅうくつなのが、嬉しいの。だって、それが克にぃなんだもん。
 嬉しくて、幸せで、僕がそう言うと、優しいキスをしてくれた。克にぃも、嬉しそうに笑ってた。
 
 
「あっ…ぁああッ…!」
 背中をぞくぞくと駆け上がる痺れ。お尻がムズムズと何かを感じて、じっとしているのが、我慢出来ない。
 すっぽりと僕の中にアタマを入れた熱いのが、もっと入ろうとする。
「ううぁ……んぁあ……ッ!」
 足先が、何度もシーツを引っ掻いた。お腹の中からも、変なむずむず。
「あ、あ、……うぅん……」
「天野君……可愛い」
 腰を動かしながら、先生も僕にキスをする。
「ん…んっ……」
 動きは違うけど、順番とかも違うけど…身体から出るうずうずは、同じ。
 勝手に震えて、勝手に熱くなって……
「せんせ…せんせいっ…」
 克にぃの時みたいに、絶頂を目指す。身体が、気持ちいいトコ、気持ちいいトコって、そっちの方に上り詰めていく。
「天野君………素敵……すてきだ………」
「あっ…、あっ…、んぁっ…」
 同じリズムで、出ては入ってくる。おんなじ動きで、前も先生の手の中だった。
「あぁ……ぅん…ぁあああっ………!」
 背中がびりびりする。体中に電気が走ってる見たい…!
 ──あぁ…あぁ……ぼく、もう……
 ──やだ……やだ……
「天野君…………イクよ…!」
 ──やだ…やだ……克にぃじゃなきゃ……
「んぁあああっ!」
 
 ──あぁ、あぁぁ、克にぃ……!!
 
 高まった興奮が、弾けた。
 先生を見つめながら、克にぃを感じて……克にぃの手の中に、白いの出して──そう思ったら、すごい絶頂だった。
「…………っ!!」
 体中に、何度も電気が走った。びくんびくんと、震えて止まらない。
「くッ……」
 先生も呻いた。
「ぅわ…はぁ……すごい締め付け…」
 溜息と同時に、クスリと笑う。
「…はぁ……はぁ……」
「可愛い……天野君。……まだ締めてる。…そんなによかった?」
 僕のお腹の中を熱くした先生は、ゆっくりと動きを止めながら、またキスしてきた。
 
「……………」
 僕は首を横に振る。
 ……先生じゃ、ない。キスを嫌がって、顔を横に向けた。息が苦しい。
 
 
「………………」
 先生の、寂しそうな溜息が聞こえた。
 
 


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