6.
 
 僕は光輝さんの投げ出した両脚の間で、大きく開脚させられた。
 膝を胸に着くほど曲げて、足先は光輝さんの膝の外側に出して踏ん張る。
 バスローブとは言え、光輝さんはきっちり着込んでいるのに対し、僕は素っ裸。股間を晒すあられのない格好に、やっぱり恥ずかしくて身悶えてしまう。
 ふと気がついて思わず訪ねる。
「シャワーの後は、下着禁止じゃ……」
 腰掛けているバスローブの下に、その感触があったから。
 とんちんかんなことをいきなり言い出した僕に、一瞬光輝さんは目を瞠った。
「……俺はいいんだ。脱ぐ必要ないだろ!?」
 怒ったように言う。
 そうか、と僕も目を見開いた。顔から火が出る。
「おまえ、余裕あるんじゃないか? そんなこと気にして」
 苦笑して、枕元に転がっていたバイブを掴み寄せる。
 その先端を、僕の上を向いたまま震えているそれに、丹念に擦りつけた。
 鈴口に、棹に、無機質なそれを回転させながら、満遍なく這わせる。
「ん………」
 はしたなく垂らしている露で、それは充分に濡れた。
「巽……自分でやってみろよ……?」
 ………え?
 光輝さんは、その怪しく濡れたモノを僕の右手に握らせた。
「や……光輝さん、なに……」
「手伝ってやるから……」
 大きくてがっしりした体が後ろから僕を抱え込む。背中と胸、腕と腕が吸い付く様に密着する。
 短剣の刃を自分に向けるみたいにしてバイブを握らせた僕の手に、光輝さんの大きな掌が外側から包むように添えられた。
 テラテラと卑猥にぬめる無機質な男根。
 僕は背中がヒヤリとして、ちょっと萎えた。挿れられるのと挿れるのは違う。
 こんなもの、光輝さんに挿れられるならまだしも、自分で入れるのは何だかとても嫌だった。
 萎縮してしまった僕のモノを見て光輝さんは優しく囁いた。
「怖くないよ。もう充分ほぐれてるからな。……俺が導いてやる……」
 右手でバイブを構えさせておいて、反対の手で僕の左手を掴んで後孔に導いた。
 僕の人差し指に同じ指を重ねて、蕾にあてがう。
「ん……」
 指とそこに湧く感触が同時で、変な気分だ。濡れていて、ちょっと固い。ぴくんと動くのがわかって、恥ずかしさに気持ちが悪くなった。
 その指を光輝さんの指が更に押した。
「は………ん」
 つぷんと、2本ごと指先が蕾を押し入った。少し盛り上がって窄まれているそこの縁を感じた。
「あ、……やあ……」
 自分の指が生み出す感覚に、嫌悪する。更に押し広げるように促して、重ねた指先を押してくる。
「や……光輝さん……やめて」
 首を横に振って抗った。目を瞑って感覚を散らす。
 そんな僕の首元に顎を載せて、光輝さんは嗤う。
「でも、ほら……躰は正直だぞ」
 楽しそうに下腹部を覗きこんでくる。僕の一瞬萎えたモノは、しっかり上を向いていた。
「………っ」
 喉の奥を鳴らして、息を呑む。浅ましいようで、恥ずかしい。
 僕の指を尚も操りながら、右手にも力を入れて僕の手を動かす。バイブの先端を、蕾にあてがわされた。
 シリコンだから固くはない。でもひやりと冷たい気がした。
「ん………」
「力、抜けよ……」
 光輝さんの左手の人差し指と中指が、後孔を押し広げるように外側に引っ張る。
 捲られたその中心に、バイブを押し込む。
「ぁんんっ………」
 僕は、指とは比べ物にならない圧迫感と異物感を思い知ることになった。
 ちょっと押し込んでは、少し戻す。押した分だけ、入り口を擦って入ってくる。
 前後するたび内壁が肉全体で拒否したり、銜え込んだり。
 内蔵が引きつる様で、気持ちが悪かった。
 ゆっくりした動きだけど、躰ごと揺すられて、受け容れるのに必死で息を吸う。引き裂くように押し開かれたそこが、頭の部分をすっぽりと銜え込んだのがわかった。
「あっ……、ん……」
 括れた鬼頭の引っかかりが、肉壁をえぐり始める。
 棹の部分も出っ張りがあるので、出入り口を刺激する。動くごとに変な疼きが生まれ、声が出てしまった。
「だいぶ、入ったぞ。見てみろ」
 ほぅ、というため息とともに囁かれ、左手で顎を捕まれる。
 僕は堅く瞑っていた目を薄く開けた。
「ぁ……ぃやだ……」
 自分の後孔から、無機質な物体が半分にょっきり出ていて、それを自分の手が掴んでいる。
 不自然なその光景が、とても穢らわしく感じられた。
 どくんという心臓の音とともに、奥壁を搾ってしまった。びくんとそれが上下する。
 ……………嫌だ! ……やだ、やだ!! こんなの嫌だ!!
 右手をそこから離そうとしたが、許されなかった。バイブごと僕の手を、がっしりと包むと、激しく前後させる。
 さっきの刺激がさらに僕の内臓を揺さぶる。
「や……光輝さん……嫌だ。やめて……」
 僕にはこんなの向いてない。嫌悪感と罪悪感で涙が滲んだ。首を横に振って懸命に抗う。
「今後は、これを自分一人でやるんだ。覚えろ」
「………っ!」
 無情にそう言う光輝さんの声が僕の心を寒くさせた。
 しかし沸き上がる疼きは、気持ちとは関係なく僕の脳髄を痺れさせる。
 激しく突き上げ、全部を銜えさせられてしまった。先端が躰の奥底を突いている。もはや掴めない程、それは中に押し込まれている。
 生まれて初めて体感する体内への圧迫感と異物感が、僕を蹂躙した。そしてそれに吸い付くように僕の内臓はひくひくと蠢いた。
 痙攣するたびに押し出されないよう光輝さんは、僕の左手の指でその棒底を押さえさせていた。
「巽……かわいいぞ……」
 俯いて目をぎゅっと瞑っている僕の頬に、頬をくっつけて光輝さんが囁く。
「ふぇ……ん」
 何か言おうとして、情けない声が漏れた。
 空いた右手に、有無を言わさずリモコンを握らされ、
「ここを押すと……」
 光輝さんがスイッチを入れた。
「………ひゃあ!!」
 ブイン……と機械的な音を上げて、僕の中でそれが激しく振動し始めた。
 左右上下に、ブルブルと暴れる。押さえてる指も震えて、外れそうになる。内壁を押し上げて、出入り口を擦って、下腹部を刺激する。
 今までにない感覚に、僕はもう、どうしていいかわからなかった。身体中が粟立つ。
「あぁ、あぁ、……こぉきさん……」
 振動されるまま、声を荒げて首を振る。ぞくぞくする疼きがそこから体中に沸き上がる。
 足先まで痺れて、シーツを乱した。
 前のも反り返って、露をしたたらせながら一緒に震えた。
 でも、押さえさせられている左指の堅い感触と、静かに響くモーター音が僕を正気に返させる。今与えられている快感は、このオモチャになのだと……。
「こお……き……さん。やっぱ……こんなの……やだ」
 悲しくなってすぐ横にある顔に懇願した。
「まだまだだ。……これの真骨頂を味わってから、言いな」
 浅く嗤い、僕の涙を舌先で掬い取ると、リモコンの違うボタンを押した。
「ぁ、それは……やだ」
 僕は思い出して焦った。同時に体内で何かが蠢く。得体の知れない生き物が発生し頭をもたげた。
「ひ………んぁあああ!!」
 僕の脳裏に閃光が走り、躰中に電撃が走った。腸の中で何かが蠢く。
 振動とは別の動きで、一点を擦り上げてくる。
「はっ……」
 息が出来なくて、仰け反った。僕の目をのぞき込んでくる光輝さんの瞳が一瞬見えた。
 恥ずかしくて、ぎゅっと瞑ると、突き上げる快感に目眩がした。
 疼きを散らそうと腰を揺らす。捩ってみても、その振動と蠢きは付き纏う。
 左手はがっちり捕まれ、後ろを固定させられたままだ。
 僕の頭は混乱して、どうしていいかわからなかった。
 嫌なのに……嫌悪するのに、それ以上の何かが体中を駆けめぐり支配する。背中を突き上げる快感。前が、高みへ高みへと上り詰めて行く。
「……こおき……さん……」
 僕は闇雲に救いを求めた。掠れた声で、喘ぎの合間に呼ぶ。
「こうきさん……こうきさん……」
「巽……」
 熱い吐息が耳に掛かる。
 僕の右手からリモコンを外し、股間へと誘う。
「ん……ふぅ……」
 僕の熱くてぱんぱんに反り返っているモノを僕自身の手で握らせる。
 露を滴らせて、ぬるぬるだった。僕の手ごと、掴み込んで上下させる。
 心地よい快感がさらに僕を襲う。
「ぁあ、こうきさん……」
 霞む視界。声が上擦る。
 前と後ろと体内から、次々に快感が襲う。全身を揺さぶられて僕は追い上げられた。
「ぁぁ、こおきさん……ぼくもう……だめ……」
 右手を解いてほしくて、首を振る。
「内側を締め上げて、肉壁中で吸い尽くせ」
 ………!
 囁かれた指示に、思わず僕は括約筋を搾り上げた。同時に前の上下を一際激しくされる。
「はぁあ……!」
 つま先から、腰、背中、頭まで電流が走る抜ける。
 僕の脳髄は信じられない程の絶頂を感じながら、吐精した。
 白濁が僕と光輝さんの手を汚す。
 しかし快感の波が僕を離さない。まだ後ろを刺激している振動を、貪るように肉壁が吸い付いてしまう。
「………ずして……はずして……これ」
 情けない涙声で、訴えた。
 光輝さんはリモコンを操作し、中で蠢く小さな生き物を止めて納めてくれた。
 振動はそのままのバイブを、根本を摘んでゆっくり引きずり出す。
「……っぁあ」
 思わず声が漏れる。
 ちゅぷん、という厭らしい音と共に、それは僕の中から全部取り出された。
 モーター音をたてて、静かに振動している。
 さっきは耳障りだったその音が、あまり気にならない。
 霞む頭でそんなことを思いながら、消え入らない快感の中に意識を漂わせた。まだ、体内が振動している気がする。蕾が厭らしくひくひくしてしまった。
「巽……」
 ぐったりと腕の中に凭れている僕を、優しく呼ぶ声。
 汗で張り付いた髪の毛を梳いて、ほっぺたを撫でてくれる。
「かわいかった……巽」
 光輝さんの唇が頬に降りてきた。柔らかくて熱い。
 その感触でさえ、僕は下半身に結びつけて、また後ろをヒクつかせてしまった。
 
 ……動けない。
 疲れ果てた僕は、暖かい腕の中で意識を手放した。
 
 
 


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