始まりは、卑怯なほど 甘い
3.
「ぁ、……あぁ!!」
身体が大きく痙攣して、僕は果てた。
哮さんの手のひらを白濁で汚して。
「……はぁ………」
胸に抱えられながら、荒い呼吸を繰り返していると、零れそうになっていた涙を、哮さんの唇に吸い取られた。
その唇が、熱い吐息を吐く。
「な………オレも、…いいか?」
僕は、胸と腕の間で埋もれた顔を動かした。
小さく頷いて、手を差し出した。
「?」
変な顔でその手を見る。
僕は構わず、身体を捩って哮さんと向かい合うと、その腰元のファスナーを下ろそうと思って、もう一度手を伸ばす。
「ばか、ちがうよ」
笑いながらその手首を引っ張って、僕の身体を捕らえた。
「えっ」
襖と掘りこたつの狭い隙間で、僕たちの身体は、更に密着した。
哮さんの股の上を手で跨いで四つん這いになった僕の、横腹に腕を回して抱え込む。
ファスナーだけ開けていたズボンを下着ごと、ずるりと引き下ろされた。
「ひぁっ」
思わず叫んでしまった。
「しっ! 声出すなって」
ささやきながら、哮さんは僕の丸出しになった後ろを覗き込んだ。
「やっ……離してください!」
恥ずかしい! なにされてんだ、僕!?
静かにしろったって……そんな……
「ああっ!」
後ろの敏感なところに、指を這わせてきた。
「アッ、ァッ」
自分の手で、口を覆って声を消した。
いくら、胴を抱えられていても、片手だけで、四つん這いの上半身を支えるのは辛かった。
「ひゃ………っ」
ぐらっと傾いた身体は、お尻だけ突き上げて畳に抱きついてしまった。
「──すげ……」
ごくりと、喉を嚥下させる音が聞こえた。
「み……見ないで」
僕は慌てて、身体を起こそうとした。
「そのまま、動くなよ」
「え?」
ちょっとキツイ声で言われて、僕は顔だけ振り返った。
「良くしてやるから、マジ動くなよ」
その頬は、さっきより高揚していた。
────あッ!
舌先が、入ってきた。
じゅるっと音を立てて、出入りしては窪みを舐めている。
「んっ……んんっ」
僕は指を噛んで、声を殺した。
だんだん、さっき達したばかりの前が、また熱くなってきた。
「た……哮さん……」
身悶えて、腰を振った。
「……前と、後ろ、どっちが好きだ?」
ねっとりと舌を動かしながら、熱い吐息で聞いてきた。
「………は?」
何を訊かれのたか、意味がわからなかった。僕は考える余裕もなかった。
翻弄された身体は、舌と入れ違いに入ってきた指を締め付けていた。
「ん……、ん……」
返事なんか出来ない。腰を振っているのが精一杯だ。
そんな僕を見下ろしていた哮さんは、いきなり指を抜くとスーツの上を脱いで、鉄板の上に広げた。
「あ!?」
……燃える!
びっくりして、顔を起こした僕に、頭の上で声が笑った。
「さっき火は落としてるから、大丈夫だ」
ダイジョウブって……。
スーツは油まみれで、臭いもシミも付いてしまうのに。
「今は、和希のほうがダイジ」
耳に囁かれて、また赤面してしまった。
哮さんは、僕の両脇に手を差し込むと、鉄板のスーツの上に持ち上げて腹這いにさせた。
微かに温かい鉄板の熱が、スーツを通して僕の上半身を受け止める。
こたつの角に腰が来るように、身体を擦り上げさせると、背中から抱きすくめられた。
肩口に顎を埋めてくる。
───息が熱い。
片手を後ろから僕の脚に回して、畳に踏ん張っている膝を左右に大きく開かせた。
「……あっ」
その開かれた中心に、また指が伸びる。ベタッとした何かが塗り込まれた。
僕は緊張した。
ちょっと、待って………
「和希………」
耳元で後ろから囁かれる。
………あ…やだ……
「んっ、痛ッ……あぁぁ!!」
後ろが、燃えるような圧迫感。何か、すごいモノが入ってくる。
異物を無意識に拒絶する僕の後ろ、それを繰り返す。
「く……」
焦らすように、だますようにして、何度も小刻みに出入りする。
「んあぁ……」
熱い塊が進入してくる。
僕は首を振って、痛みと恐怖と、時々来る快感の境を彷徨った。
グッと、奥まで押し入れられて、動きが止まった。
「ん………ふぅ……」
哮さんの腰と、僕の腰がこれ以上ないほど密着させられている。
「和希……。絶対良くしてやる」
「………………」
「これが凄い良かったら、オレと付き合え」
「───!?」
耳に唇を当てて囁いてくる声。驚いて、哮さんを見ようとした。
「僕は……女じゃ…」
変わりなんて嫌だった。女の子みたいだから、なんて、そんなの……
「うるせえな、わかってるよ、そんなこと」
後ろから手が伸びて、僕の口を塞いだ。
「────んぐッ!」
激しく腰を動かし始めた。
「オレは、……お前がいいんだ!」
─────はぁ、あぁぁ!!
内臓ごと引きずるように、熱い塊が出入りした。
背中から強く抱き締められて、首筋にも息が熱くて、震えを抑え込まれた。変わりに擦り上げる内壁から、背中に何かが突き抜けていく。
激しい打ち付けはしない変わりに、下から上にえぐるように突き上げられた。
「あ…あ……、哮さん…たけるさん!!」
どんどん追いつめられていく。僕はまた前を握って扱かれていた。
「和希……和希……」
はぁはぁ、という荒い呼吸が耳のそばで速くなっていく。
「んっ! ……あぁっ!」
下腹部に、熱い迸りを感じた。
僕ももう一回吐精して、果てた。
「………はぁ…」
こたつから滑り落ちると、哮さんの腿の上で動けなくなってしまった。
哮さんも後ろの襖にもたれて、荒い呼吸を整えていた。
「………和希」
胸に寄りかかる僕の髪を、サラサラと梳いてくれる。
僕は、ゆっくり顔を向けた。
カッコイイあの目が、僕を見つめていた。
「良かっただろ?」
口の端を上げて、不敵に笑った。
「────!!」
僕は思い出した。
”良かったら、オレと付き合え”
………付き合えって、なに……どういうこと?
心の中で、へそまがりの虫がむずむずと動くのを感じた。
……女の子の変わりはイヤだ。
「和希?」
「……こんなトコで、良いも悪いも……」
拗ねた僕を、じっと見て一言。
「じゃあ、ホテルでヤリなおす」
「!!」
「オレはめちゃ気持ちよかった。和希も、そうかと思ってた」
「…………」
「良くなるまで、ヤり続ける」
「……はぁ?」
驚いて顔を上げた僕に、また唇が降りてきた。
「んっ」
甘い……優しいキス。
これは……卑怯だ……。
「はぁ……たける…さん」
思わず呼んでしまった。寄りかかった胸にしがみついて。
「和希……オレとつきあえ」
鼻が付くほど近い場所で、その目に見つめられた。
「……」
僕は、小さく頷いて顔を紅くした。
哮さんの手が、また僕の頭を撫でる。
「やっぱ、このあとホテル行こう」
「……うん」
体勢を変えようと動いて、はたと思った。
「さっき、なに塗ったの…?」
妙に今もベタベタしてる…
「油」
「……うえぇ」
痛くなかったろ? と、不敵に笑う。確認するようにまた触る。僕はもう、一刻も早くココを出るべきだと藻掻いた。
ホテルで僕たちは、何かに憑かれたように、求めるだけ求め合ってしまった。
そしてわかった事実。
「えっ! 年下!?」
「マジ!? オレより上!?」
ベッドの上で、裸のまま。
一歳だけど、哮さんのほうが下だということが判ったのだ!!
───えええっ!!
どう見ても、僕よりしっかりしてるし、落ち着いてるし、大人びてる。
今更そんなこと言われてもって、心境だ。
「………………」
僕が黙ってしまうと、哮さんがじっとこっちを見てきた。
僕は……哮さんが年下なのは、ちょっとショックだったけど、それじゃあサヨナラってのは違うと思う。
でも……哮さんにも、選ぶ権利はあるよね。
……年上ってだけで……もしかして。
妙な不安感が渦巻いてしまった。
「和希」
肩を掴まれ、引き寄せられた。
「オレじゃ、いやか?」
「!!」
「オレ、和希がいい」
「……哮さん」
見つめ合うと、ドキドキする。
この目は、僕の心臓を早くする。
唇が降りてきた。
「ん……」
甘い、優しいキス。
僕は………
このキスをずっともらえるなら……
「哮さん、……もう一回、しよ」
「……和希」
僕たち、敬称が逆さだけど…… まあ、いいよね。
哮さんの、形のいい唇が降りてくる。
僕は、甘いキスを受け入れるべく………目を瞑って、薄く唇を開いた。
終わり