1.
「徹平さん……いきます」
「……ああ」
「ん……」
寝っ転がっている俺に跨り、千尋が俺を飲み込んでいく。
キツイ入り口。でも、一端入ると、柔らかく熱い肉壁がまとわりついて包んでくる。
「クッ……」
「ぁ……」
千尋も背中をしならせて、開いた脚を踏ん張る。頬がどんどん、紅く染まっていった。
照明に浮き上がる白い内腿と、中心で揺れる桜色の先端が、艶めかしい。
下から眺め上げるその姿は、俺を狂わせるほど挑発した。
「ん……」
ローションと先走りで滑った俺の怒張を、後ろの小さな口がゆっくりと咥えていく。
「はぁ……全部、入りました……」
「ああ、……これだけでスゲー……」
「えへ……動きますね」
「俺も、いくぞ」
「はぃ……ん……んぁあっ…」
コイツが動くのなんかじゃ、俺は足りない。
下から腰を突きあげて、熱い体内に欲望を打ち付けた。
「あぁっ……徹平さん…すご…」
「クッ……キツ……」
千尋の締め上げは、すごい。
内蔵の奧で吸い付いてくる。
「ぁあ……、はぁッ……」
身体で声で、乱れては俺を煽る。
俺も負けじと突きあげて、中のポイントを擦ってやった。
「あぁ! そこ…そこ! 徹平さん……ああぁ……!」
感じれば感じるほど、締め付ける。俺は益々興奮して、動きを速めた。
「んっ、んぁああッ……」
「スゲ…千尋……サイコー」
次の瞬間、胸に鋭い刺激が走った。
「……アッ……くぅッ」
千尋の手が、俺の両胸を弄っている。
騎乗位で最高潮に達すると、コイツはいつも俺の乳首を攻めて来た。
そう仕込まれたんだろうが──俺は異様にそれに、ムカついた。
「この手は、止めろっつうの!」
千尋の両腕を掴んで、そのまま胸の上で押さえ付けた。
「あっ!」
叫ぶのを無視して、激しく下から突いてやった。
上半身を固定された身体は、俺のピストンをモロに喰らって、身悶えた。
「あ、あ、あ、あッ……ダッ……ダメです!」
「はッ、はッ、……何が」
「ぁあ! ……イっちゃいますぅ…!」
首を振って、髪を振り乱す。
必死に腕を、振り解こうとする。
奉仕せずに、自分だけイクのが、怖いらしい。
「イケよ! いいから、イケッ!」
「でも…でも……!」
俺は拘束している両手首を片手に持ちかえて、千尋の腰に手を伸ばした。
腹と腹が密着してる間で、ピンクのそれが擦られては愛液を垂らしている。
「こんなにして……気持ちいいのか?」
「………っ!!」
俺を見据えて、真っ赤になった。
揺さぶられながらも、こくんと頷く。
「もっと、気持ちよくしてやるよ」
「んああっ!……てっぺーさん……ッ!」
後ろを激しく抽挿しながら、前を刺激してやる。
「あぁ……も……イク…ッ!」
「ンッ……!!」
俺の胸に白濁が飛び散って、俺もその締め付けで、千尋の中にイッた。
「あ……てっぺーさん……熱い……」
挿されたまま、手首を押さえ付けられたまま。しなやかに身体が脱力した。
髪の毛と熱い吐息が、頬にかかる。
暫く俺の胸に身体を預けて、肩で息をしていた。
「……大丈夫か」
「もう……離してくださいぃ…」
俺の声にやっと顔を上げると、恥ずかしそうに眉を寄せた。
掴まれている手首を揺する。
それを引っ張って身体ごと抱き寄せると、唇を奪った。
「んんっ…!」
「このまま、もう一回…」
それだけ言うと、ディープキスを繰り返しながら、千尋の尻を両手で掴んだ。
「んぁあ! ぇえっ!? ……徹平さんっ! ……そんなぁ!」
腕を突っ張って身体を離そうとするが、腰は俺が密着させる。
「ぁああっ!」
俺の上で海老反りになって、再び喘ぎ始めた。中もすぐに締め付けてくる。
「千尋……スゲ……エロイ……」
俺は起きあがって、繋がったまま体位を入れ替えた。
ベッドに白い身体を貼り付けにして、脚を広げ、ガンガン腰をピストンする。
「ぁあっ、ぁあッ……!」
押さえ付けた両腕が震えて、顔の横で握り拳を作った。
俺は左のそれにかじり付いた。
「アッ! てっ……てっぺーさん!?」
「この手は抱きつく以外、俺に触るな! 判ったな!?」
「……はいぃ……」
ハァハァと息を乱しながら、頷いた。
「よし!」
くるりと身体をひっくりかえすと、四つん這いにさせた。
千尋は後ろから突くのが一番感じるんだ。
「あっ! ぁあああッ……!!」
手首がまだ完治していなく、身体を支えられずに、肘から崩れ落ちる。
尻を高々と持ち上げた格好に、俺も興奮して、前を扱く手が乱暴になった。
「ぁああ! …徹平さん! …てっぺいさん……っ! すご…すごいよぉ……」
堪らずに叫び出す。
「千尋…ヤラシイ声…」
それに煽られて、もう一度千尋の中に放出した。
千尋も腰を痙攣させて、飛沫を飛び散らせた。
「……はぁ、……はぁ」
頬を真っ赤にして、額には汗が煌めいている。
「……可愛い」
俺はその頬にキスをして、腕の中に抱き込み、そのまま眠った。
「徹平さん……起きて」
「ん」
「……おはようございます」
「…おう」
久しぶりに千尋に起こされた。
新しいマンションに引っ越してきてから、毎晩千尋を抱いて寝ていた。
疲れ切ってしまうコイツが、俺より先に起きることは無かったのに。
「お風呂、入りましょう。お湯を張りました~」
「ん……」
退院して、しばらくは今までのアパートにいた。しかし、本格的な二人暮らしとなると、やはりそこは狭すぎた。何よりも二人が切望したのは、風呂だった。
「えへへ……気持ちいいですね~」
昨日の名残でガビガビになっていた身体を洗い流して、二人で浴槽に浸かった。
頬を染めながら、お湯の中で千尋が笑う。
俺は向かい合ってそれを眺める。
目の前の幸せを、そうやって味わうんだ。
「ちょっと過ぎちまったけど、お前の誕生日と…俺の七夕と……やり直そうな」
「! ……はいぃ!!」
目が、嬉しそうに輝く。
「願い事、ちゃんと考えとけ。もうあんな変なのは書くなよ」
濡れた前髪を、後ろに梳いてやる。
「はい~!」
子供みたいに、無邪気に笑う。
俺はしげしげとその顔を見て、思った。
「お前、あのオヤジに育てられたろ」
「……え?」
「っつーか、おやじに懐いてなかったか?」
一瞬キョトンとして、俺を見る。
「……はい! そうです! ボク、お父さんが大好きでしたっ」
何で判るの? って、顔で更に俺を見る。
「……お前の、そのへこたれない根性がなぁ」
「?」
「三つ子の魂、百までって言うだろ」
「? ……はい」
「お前のその、ある意味イイ性格が、オヤジそっくりなんだよ!」
「えぇ~っ!」
また嬉しそうに目が輝きだした。
そう、図太いってのか…悠然としてるってのか。
その根性がなきゃ、こんなに脳天気な空気ではいられなかっただろう。
もっと傷ついてひねくれて、人相だって違っていたはずだ。
「…………」
目の前の透き通った瞳は、邪気のない輝きで煌めいている。
自分を責めて、全てを諦めてきたけど。
他人を責めて恨んだり、してこなかった。
だから、こんなに透明なんだ……この瞳は。
そして、どこか間の抜けた大らかさ……
そんな下積みを幼少の頃培わせたのが、あのオヤジなんだと思う。
「…………」
千尋を引き寄せると、頭を抱えて胸に抱き込んだ。
すっかり温まって、熱いくらいの身体が、俺の胸にすっぽりと収まる。
「……徹平さん……?」
「お前のオヤジに、感謝だな」
「…………」
「アイツの気質が、お前の中に生きてるんだよ」
「!! ……はいぃ!」
ばしゃっと激しく湯を跳ねかせて、腕を首に巻き付けてきた。
激しいディープキス。
「徹平さん……大好きです!」
「俺も……」
二人で見つめ合って、黙り込んだ。
もう言葉なんか要らないほど、目を見ればどれだけ幸せか判る。
(う……やべ…)
「あっ、てっぺーさん! もう出勤時間ですぅ」
「ああくそッ! …勃たせやがって、コイツ……!!」
「えっ!」
そんな具合に、俺たちはイチャイチャしまくった。
新居は快適で、「兄弟」である以上誰の目をはばかることなく、一緒に住めた。
千尋は俺のことを”徹平さん”以外は呼べない様だった。
……まあ、いいけどな。
「じゃな、行ってくる」
「あっ、待ってください~!」
廊下を追いかけて来て、小さな箱を差し出してきた。
「お弁当ですぅ」
それはタッパなんかじゃない、ちゃんとした弁当箱で、専用の巾着に入れられていた。
青い袋に太い黄色いヒモ……。
ぱっくり口を開けた、パンダらしきプリントまで……
「……可愛すぎないか?」
俺のキャラじゃないだろ。どう見ても。
うっと、千尋が目を潤ませた。
「……これしか、なかったんです~」
───しょうがねえなぁ
「ないなら、無理して買うなよ」
「……だって」
モノ言いたげに、見上げてくる。
こういうところは、まだまだ変わらない。
俺は睨み付けてやった。
「なんだ!?」
ひゃぁっと、首を竦めて、もう一度見上げてきた。
目のフチと頬が、真っ赤になっていく。
「つ……妻として…タッパは、どうしても……」
「!!!!」
「……だから…ボク……」
「千尋ッ!!」
俺は弁当箱ごと、その身体を抱き締めた。
「ひゃーっ!!」
そういうことなら、誰が文句をいうもんか!
「ありがとな! 持って行く!」
「ボ…ボクまで!?」
「………」
アホかと、言葉を無くして、見つめ合った。
確かに抱えて、持っていきそうな勢いだったが…。
「ぶっ……はは……!!」
まあ、四六時中一緒にいられたら、そりゃ嬉しいけどな。
「お前は、誰にも見せない」
噴き出した後、唇にキスをして、体を離した。
「盗まれて、返してもらえなくなったら、洒落になんねぇよ」
「……徹平さん」
「………遅刻だ。行ってくる。」
ああ、クソッ! 今朝は2度目の、お預けだ!
熱っぽい眼差しに、正気を失いそうになる。
俺は膨らんだ股間を、スーツの裾とカバンで隠して走った。
幸いエレベーターを降りて車に乗り込むまで、誰とも会わなかった。
新居には駐車場が付いていたから、会社の車を一台、自由にさせてもらっていた。