夜もカエサナイ
6.
さっき乳首を舐められたとき、つくづく思った。
「俺はされるのは性に合わん! 一方的にする方が、絶対に合ってる!!」
相手が千尋だから、かもしれない。
そうだ。菜穂の時なんか……アイツが動かないって、俺はいつも短気を起こしていた。
「千尋……俺はお前に、してやりたいの」
「……徹平さん」
「なのに、仕込まれた手が伸びてくるから、嫌なんだよ」
「…………!!」
うっと、眉が悲しげに寄った。
「おら、いちいちそんな顔しねぇ! 約束だろ!」
「……………」
目尻に涙を浮かべながら、小さく頷いた。
「安心しろ! 俺が変えてやる!」
「……えっ」
手首を、俺の着ていた寝間着の袖で縛った。
左手と歯を使って、キツク縛り上げる。
「解くなよ! 頭の上からも下ろすな!」
ぐいっと束ねた腕を頭上に押し上げて、持ち上がった寝間着の裾から手を突っ込んだ。
「……あっ」
「……イイ声」
覗く白い肌と、ピンク色のそこに、俺も興奮する。
胸には、シルバーチェーンに通した、メタリックグリーンの鍵。
あの夢の中と同じだ。
生肌に金属が、妙にエロくて……
「……はぁ……」
腰が疼く。早くコイツを抱きたい。
鼻先で寝間着を押し上げて、胸の尖りに舌を這わせた。
「んぁ……」
見えない角度で胸を吸われ、手首は縛り上げられている。
千尋も興奮しているようで、感度がいつもに増していい感じだ。
「ん……んんっ……」
ふるふると震え出す身体。
俺は千尋が何も出来ないのをいいことに、胸だけを責めた。
舌先で突き、円を描くようになぞり……時々鎖骨や脇腹に滑らせる。
「あっ……あぁぁ!」
その度、背中を反らせてしなる肢体が、綺麗だった。
「て……徹平さん……」
小さな声が、絞り出された。腰が、触っていないのにビクンビクンと、震えている。下ろしてもいない寝間着の前が、高々とテントを張っていた。
「……何?」
俺は知らない振りをして、いつまでも胸だけ責めていた。脇の方まで舐め上げる。
「……あっ! ……もう……もう…」
膝をすり寄せ、腰をよじり……喘ぐたび上下する、薄い腹筋のラインがイヤラシイこと、この上ない。
「もう……なに?」
身体を擦り上げ、千尋の顔を覗き込んだ。
「…………」
泣きそうになって、俺を見る。四角い眼鏡の奧から……
頬と目のフチが、真っ赤に染まっている。
「もう、お願……」
俺はその眼鏡を外して、唇を塞いだ。
舌を入れて濃厚なキスで、千尋を味わう。
「んっ……ん、ぁはぁ……」
言葉の調教なんか、するつもりはなかった。
俺の手で感じているのを見たい。その声を、聞きたかったんだ。
こんな感じる身体にされて……それでも、どんな絶頂の時も奉仕することを、刷り込まれている。
この時くらいは、自分の快楽に溺れて欲しかった。左手を、テント張ってるズボンと下着の中に突っ込んだ。
「んっ…!」
唇を塞がれたまま、腰が跳ね上がった。
熱い千尋の感触……
「びっしょり……気持ちいいか?」
「……気が……狂いそう…です」
顎を仰け反らせて、はぁ…と、喘ぐ。
その先走りを指にたっぷり絡めて、後ろに運んだ。
「あ……」
きゅっと締まって、また緩む蕾。
そこにゆっくりと中指を埋め込んでいった。
「ぁ…ぁああ……はぁ…」
指先が蕾の壁を突き抜けて中を探ると、いっそうキツク締める。
「あったか……お前ん中……」
「んぁ……」
指を2本に増やした。自然に開いていく千尋の脚……
「すげ……パンツん中で、クチュクチュ言ってる……」
「や……そんなこと……」
目をつぶって、顔を背けた。
「俺、嬉しいんだぜ。……気持ちイイ証拠だろ?」
耳に囁くと、薄目で俺を見た。
「…………」
また小さく、こくんと頷く。
「…ぁあ、……ああ……はぁあ」
またこれでもかって、指だけで後ろを責めた。
前にはもう触っていない。
3本に揃えた指を、ゆっくり出し入れして、わざと蕾を擦る。
中でバラバラに動かして、腸壁を刺激してやる。
「はぁ…ん、ん」
腰をくねらせて、快楽に耐えている。
同時に不満足な欲求に、耐えられない苦悶の表情……
「ぁ、あ……てっぺーさん……もう…ボク……」
言葉以上に、中で指を締めつけてくる。
俺の腰にもゾクゾクきた。
「焦らして、悪ィ……」
指を抜いて身体を下げると、千尋の腰の前に顔を埋めた。
「!? ……徹平さん!?」
今手を突っ込んでいた寝間着と下着越しに、千尋の熱く震えているモノをしゃぶった。
「やあ! ……そんなの…」
恥ずかしがって身悶える。
俺は笑って顔を離した。
「あんま可愛いから、つい」
「……なんですかぁ……それ……」
「お前の熱くなってるの、見せてな……」
表情を戻して、真剣に千尋を見つめた。
「…………!」
右手は指の先に引っかけるようにして……両手を千尋の腰に添えて、ゆっくりと下着ごと下ろしていく。
束ねられた両手は枕を掴み、頭上のままだ。
綺麗に伸びた腹筋の下に、腰骨、脚の付け根のライン……桜色の先端……
「…………」
生唾を飲み込んで、全部脱がせた。
「千尋……綺麗だ」
「……恥ずかしいですぅ……こんなの…」
目を潤ませて、困った顔をつくる。
…………こんなことになっても、この目は俺を責めない。
自分を持て余しているだけの、困惑した視線。
「千尋……好きだ」
脚を持ち上げ、開かせた。指で解した蕾に、舌を這わせる。
「ぁんっ……」
もう一度指を挿れなおして、唇は上の方へ這っていった。
「え…」
ピンピンに勃っている桜色のそれを、口に含む。ビクンと大きく震えて、一段と硬くなった。
「あ……やめ……! イイです、ボクなんて!」
悲鳴を上げる。俺はその声を無視して、唇での扱きと指の抽挿を速めた。
「あ、んあぁ! ダメです……てっぺ……」
枕を頭上で掴んだまま、腰をジタバタさせる。
「いっ……いくっ! ……イっちゃいますッ……ぁあああッ!!」
蕾がきゅっと締まって、口の中の屹立が痙攣した。
熱い液体が俺の喉に、溢れる。
「……千尋」
全部飲み込んで、その唇で頬にキスをした。
涙を舌で拭う。
「なんで、泣いてる?」
「……ボク……ボク」
「……なに?」
真っ赤になった目で、俺を見た。
「……嫌わないで…くださいね……」
「……ああ」
ふと、笑ってしまった。懐かしくて……。
こんなこと言う千尋を、嫌いになるはずなんか、なかった。
「……ボク、いつも無理ヤリ…されるか、させられるかで…」
「……」
「初めて売られた時、それとは違う……ボクをイかせるだけの愛撫を、徹底的にされました」
「……ああ」
……それは、俺も観た…アレだ。
何度も何度も、愛撫を受けて、イカせられた。俺自身、何もできなくて……抗うことも、抱きつくことも……
”大人”の手に翻弄されて、最後は自分の身体が玩具のように感じた。
「あんなの、初めてで……でも、ちっとも嬉しくありませんでした」
「……そうだな」
心の中で叫び続けていた。助けて……助けてって……
悦ぶ身体に、嫌悪して───
「こんな身体……恥ずかしいです」
「千尋……」
頭を抱え込んで、もう一度頬にキスをした。
「今の……嫌だった?」
「……!!」
目を見開いて、俺を見る。
首を必死に、横に振る。
「……だから、だから、恥ずかしいんですぅ」
俺の胸に顔を埋めた。
「嫌だったはずの一方的愛撫に、…ボクは結局、感じてるんですぅ!」
「ボケッ!」
ぽこんと頭を叩いた。
「俺だから、だろ?」
「……え」
「お前が淫乱なんじゃなくて、俺が淫乱にさせてるんだ!」
「…………」
「まったく本当に、自分てモノがわかってないんだな、お前は」
俺は呆れて、困り顔を眺めた。
変な理由で、自分ばかり責めてきて、何が間違ってないのか判らなくなってるんだ。
……そう言や、我慢と諦めの区別も、付かなかったんだよな。
「俺としてるときは、感じて当然だろ?」
「……はい」
「だったら、何されたって気持ちいいに、決まってんだろ?」
「…………」
下唇を噛み締めて、こくんと頷いた。
「あんま、自分を嫌悪するな。俺はおまえのそこが好きなんだから」
「……ひゃぁぁ」
首を竦めて、小さい声で唸った。
なんだか、子供にエッチするために一生懸命諭している気分だな……。
俺の方が、罪悪感が込み上げてきそうだ。
「わかったら、盛大に乱れろ!」
身体をひっくり返して、肘立ちで四つん這いにさせた。
「手はそのままな! 俺に愛撫くれようなんてしたら、毎回縛るぞ!」
「えぇ……そんなぁ~」
文句垂れるのを無視して、再度、突き出させた蕾に舌を這わせた。
「ひゃああぁ!」
今度は本格的に、中を探る。
先を尖らせて、蕾の壁を掻き分けていく。
「あっ……ああぁ」
揺れる腰を押さえて、奧の奧まで挿れた。
「んっ……ぁはぁぁ」
締め付けてくる蕾……
俺もいい加減、我慢の限界だ。
ローションを注いで、自分の先端を押し付けた。
グニグニ擦りつけてやる。
「あっ、あっ…!」
こんなことでも、色っぽい声が上がる。
「千尋……チカラ抜けよ」
「……ぁ……んんっ」
ぬぷりと俺を咥え込んでいく。
熱い腸壁が動き出す。
「あ、あ……てっぺーさん……」
「千尋、サイコー……」
全部挿れて、腰を動かし始める。
「あっ、ああぁ……、徹平さんも……すご……すごいですぅ…!」
「……気絶、すんなよ」
激しくピストンして、いつもより衝撃を与えて奧を突く。
散々焦らした分、濃密でねちっこい腰使いに、なってしまった。
「てっぺーさん……ボク…もうだめです…」
シーツに貼り付けになって、揺さぶられながらの一言……。
「あっ、スゴ……そこ……徹平さんっ……!」
体位を変えると、直ぐさま悦ぶ。
「千尋……好きだ」
毎回言ってしまう言葉。
今日は特にそう思う。俺の手の中で、俺だけのために乱れてる……。
「イク……イキますッ……!」
「俺も…」
千尋を絶頂に導き、その締め付けで俺も中でイッた。
「てっぺーさん…」
はぁはぁと呼吸を荒げながら、呟く。
「ん?」
「こんなの、ありなんですねぇ…」
顔を半分シーツに埋めながら、幸せそうに微笑んだ。
「ああ! ……俺だからだぞ!」
「……はいぃ~」
またひとつ、千尋が変われた。
そう思うと、俺も嬉しかった。
手の拘束を解いてやり、抱き締めてそのまま眠った。
────翌朝……
「ああっ! ないっ! ボクの眼鏡~っ!」
久しぶりに、素っ頓狂な声で起こされた。
「……あ?」
「ボクの眼鏡です! せっかく徹平さんに貰ったのに!」
ごそごそと、俺の周りを探し回る。
枕の下、俺の背中の下にまで手を突っ込んで。
「………布団の隙間は?」
「……え」
壁とベッドの隙間にそれはあった。
実は、割れないように俺がそこに置いたんだけど。
「あ! あった~! てっぺーさん、凄いですぅ!」
「…………」
またこの騒動が始まるのかと思うと、胃が少し痛くなった。
でも、変わっていく千尋と変わらない千尋。
時々、懐かしい一面を覗かせながら、しっかり自分の意志で動ける人生になっていけばいい。
リビングで笑っている、おやっさんも、……きっとそう思っているから。
俺はそうやって、時々千尋の家族へ、言い訳をしていた。
千尋への行為に対する言い訳……きっと、わかってくれるさ。
……な、おっさん。