僕のお仕事 index/novel
1.光輝さん  1.2.3.4.
 

 
「じゃあね、パンツ脱いで」
 
「!?」
 朗らかに言うその顔を、僕はねめつける。
「───それは……命令ですか? ”嫌”は、効かない方?」
「そう」
 もう一度微笑んでくれると、僕のシャツの襟首に手を伸ばしてきた。
「シャツは…着てていいけど、ボタン、2個くらい外そうかな」
 胸が嫌でもはだける。
 パンツも脱がされ、僕はずいぶんと露わなカッコに、なってしまった。
 シャツの裾を引っ張って、何とか腰元を隠す。
 
「そいじゃ、解すから。社長、ちょっと待ってて」
「ええ。優しくやってあげてね」
 パイプ椅子に座り、傍観を決め込んでいる。にっこり微笑む二人。
 僕には、これから何が始まるのか、まったくわからない。
 けれど、この怪しげな空気から、貞操の危機が迫っていることだけは感じた。
(やだ…。いきなり犯られるの? ビデオに撮って売りさばくとか?)
 最終手段は身売りかなんて、冗談で考えたこともあったけど。
 自覚もないうちに勝手にそれは、嫌だ。
 覚悟を決めて自分でやるんでなきゃ、そんなの本当に嫌だ。
 光輝さんの両腕が、僕の膝を押さえて開こうとする。
 僕は力を入れて、阻止した。
 ちらりと光輝さんが、僕を見る。
 切れ長の目がもの凄く格好いい。睨まれたらかなり怖いかも。
 でも僕は、負けないように唇を噛んだ。
「……命令されてないから、……嫌なことは自分なりに、阻止する」
 睨み付けながら、言ってやった。だってそうだよ。なんの説明もないんだ。
 そっちの二人だけが判ってて、楽しそうに事を運ぼうとする。僕はバイトという体のいい人形か、玩具みたいな気分だ。
 泣きそうになりながら睨み付けてると、光輝さんがふと、目じりを下げた。
「ごめんな。俺も先を、急ぎすぎた」
 またさっきみたいに、頭をくしゃっと撫でてくれた。
「嫌って言えて、偉いな」
 そんなことまで、言う。まるっきり子供扱いだ。
 
「えっとな、全部説明するのは、後だ。面接無しで採用とは言ったけど、何が巽に合うか、調べなきゃいけないんだ。巽に合う仕事を、割り振るためにね」
 僕は黙って頷いた。
「そのために、今からお前にいろんなことをする。そこで初めて”良い、嫌”の選択権が出てくるんだ。それまでちょっと、我慢しろな」
「……………」
 また黙って頷く。声が出なかったから。
 なんか、とんでもないことに巻き込まれた気がする。
 ───いろんなことって……?
「ひゃ……」
 呆然としていたら、光輝さんの指が僕の股間に、触れてきた。こんな状況でシオシオに萎縮してるそれを、ひょいっと手の平で包む。
「自分以外のこういう感触って、初めて?」
 切れ長の瞳が、覗き込むように、訊いてくる。
「─────ッ」
 僕は恥ずかしくて、まともに返事ができない。こくこくと頷くばかりだ。
 手の平が、あったかい。ただ包みこんで、動かすわけでもない。じっとそうしていると、怖かった僕の心が、少し落ちついた気がした。
 それにこうしていれば、社長の目には晒されないですむ。やっぱ女の人に見られるのは恥ずかしいから。
 ──客観的に見れば、ソファーの上で男二人がくっついて座って、股間握られてる方が、異常なのかもしれないけど。
 
 光輝さんの空いてるほうの手が、太ももの内側を擦ってきた。
「……!」
 また僕の膝に力が入った。
 その力を揉み解すように、ゆっくり、ゆっくり、いとおしむように…外側にそっと押しながら撫でさすって、いつの間にか僕に、両足を広げさせていた。
 下半身丸出しで横になって、少し膝を立てて脚を全開にしている。こんな格好で、シャツだけ着ているのが、妙に滑稽な気がした。
 その間もずっと、股間は光輝さんの手の平に包まれて──。
 僕の心臓は、恥ずかしいのと、撫でられて気持ちいいのと、何をされるのか判らない恐怖とで、ドックンドックンしていた。
 そして、自分のあられのないポーズに、なんともいたたまれなくなってきた。頭をちょっと浮かして、足元の光輝さんを見る。
 ────!
 光輝さんは信じられないくらい優しい瞳で、僕を見ていた。
「大丈夫、怖くないよ。痛いことなんて、しないし」
 怯えている僕の目を見返して、にっこり微笑む。
 僕のモノをずっと静かに右手に包み込んだまま、左手であちこち撫で回す。シャツの裾から忍び込んで、胸にも触ってくる。
「……あ」
 思わず声が漏れた。僕はびっくりして、自分の口を手で押さえた。
「我慢しないでいいよ。漏れる声は、抑えないで」
 ……命令…?
 口を抑えたまま、目で聞く。こくんと頷く光輝さん。
「……はぁ…」
 さっそく指の隙間から、ため息のような吐息が漏れてしまった。
 胸をいじくっていた左手は、また下半身に戻っていく。脇腹、下腹部、内腿、臀部。
 絶え間なく蠢く掌と指に、僕はどうしても呼吸が荒くなった。
 嫌でも漏れる変な声が恥ずかしい。それどころか、光輝さんの手の平の中のモノが、やばい。
「熱いよ、巽のここ。素直でかわいい」
 囁きながら、光輝さんがその先っちょをいきなり舐めた。
「んひゃっ…!」
 ぬめっとして温かい感触に、身体が跳ねた。体中に一瞬、電気が走ったみたいだ。
 さらに舌全体を使って、頭の部分を丁寧に舐め回し始めた。
「ちょ…、やだ」
 恥ずかしいし、慣れない感触に戸惑って、僕は光輝さんの頭を両手で押した。
 腰を捩って逃げようとしても、拉致があかない。
 がっしりと押さえ込まれた腰は、びくともしないのだ。唇まで使って、全体をすっぽりくわえ込んで、舐め上げてくる。
 ものすごく熱い。
「やだ…やめて…っ」
 両腕で自分の顔を覆った。血液がそこに集中していく。同時に背中を何かが突き上げるような、ゾクゾクした感覚がどんどん這い上がる。
 それが嫌だった。
「やだ…やだぁ…離して……っ」
 翻弄されるだけなのが悔しくて、涙が出てきた。
 
「ちょっと、イかしちゃ駄目よ!」
 いきなり社長が叫ぶように言った。パイプ椅子に座って、しきりに何かメモを取っていたのだ。
 光輝さんが、ちらりと横目で見やり、しぶしぶ口を離す。
 いきなり開放された僕は、思わず息を吐いた。
「わかってるよ。まだまだこれからなんだし」
「だって、その子、早そうなんだもの。表情みてたら、ちょっと焦っちゃった」
「うん、早そう。一回イかせちゃってもいいかな、なんて思ったりもした」
 悪びれもせず、にっこり社長に返す。
「駄目! フェラでイッてちゃ仕事になんないじゃない」
「はいはい。わーかりました、社長!」
 光輝さんは悪戯っぽく敬礼すると、改めて僕に向き直った。
 ちょと放置されて、萎えかけたモノを、また優しく手の平で包み込む。
「ん……」
 すぐにそこが熱くなる。僕は恥ずかしくて、顔を真っ赤にして俯いた。
 自分がすごく厭らしく感じて、ぎゅっと目を瞑る。
「…あっ?」
 さっきとは違う場所に、妙な感覚。思わず背を仰け反らせた。一瞬なんだか、わからない。
 確かめようと、顔を起こしたら、
「声、出してね」
 股間に顔を埋めていた光輝さんが、ひょいと顔を上げて、にっこり微笑む。
 そして……
「ひゃあっ…!」
 更に慣れない感覚に、僕の身体は、逃げた。
「やめ…そんなとこ…! 汚い…」
 後ろに舌を入れてくる。窄まりの周りをなぞったり、舌先でつついたりして、刺激しながらぬぷりと進入してきた。
「やめ…っ」
 僕は、その場所が場所だけに、嫌悪感と罪悪感が混ざり合い、更に異物の進入が気持ち悪くて、腰を振って逃げた。
 でも、その動きに乗るように光輝さんの舌はどんどん僕の奥に入ってくる。
 生温かくぬるっとしたその柔らかい物は、生き物のように蠢く。奥を探る異物感が、恐怖を煽る。
「…はぁっ」
 でも口をついて出てくる声は、ひっくり返った変な声だった。
 そこから生まれる、背中を這い上がるようなぞくぞくした感覚が、足先をしびれさせる。
「やだ……やだよぅ……やめて……」
 言葉のほうが、まだましな気がする。変な声にならない。
 息も絶え絶え、訴えた。
 ぬめぬめと蠢く生き物が、充分奥を蹂躙し、やっと出て行った。
 異物感が消えた。
 その瞬間も、また声が漏れてしまった。本当に恥ずかしい。
 
 入れ違いで、舌よりは硬いものがそこにあてがわれた。優しく小刻みに振動させて刺激してくる。
 さっきとはまた違った感覚で、背中のムズムズがいっそう強くなる。
「や…?」
 ちょっと顔を上げると、また優しい目線にぶつかる。
「気持ちいい? 今度は指」
 舌なめずりをしながら、そう言う。その顔が妙に艶めかしくて、僕はぞくりとした。
「お、ちょと、閉まった。俺を見て感じた?」
 嬉しそうにそんなことを、言ってくる。
 僕は声も出せずにふるふると首を横に振った。
 光輝さんはちょっと寂しそうに笑うと、身体をずり上げてきた。
 僕の背後にぴったりと胸をつけるように寄り添う。僕は光輝さんの腕の中にすっぽり収まるように、後ろから抱え込まれてしまった。
 それでも片手で後ろをいじくられている。小刻みに揺するだけだった光輝さんの中指が、力を込めてきた。
「ん…」
 思わず息を吐く。
 舌とは違う硬い指は、更に異物感を増す。つぷりと、第一間接が入ってきた。
 その状態で、また小刻みに振動させる。
「や…はぁ…」
 


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