僕のお仕事 index/novel
2.光輝さんとマナー  1.2.3.4.5.6.
 

 
「…………」
 うっとりしてしまった。
 そして、ハタと我に返る。
「僕こそ……その……、イヤラシくて、すみません」
 嫌われないように、気をつけなければ。
 目を丸くして、僕を見つめる光輝さん。
「はあ? ……そんなこと謝んなよ」
 噴出しながら、僕の頬っぺたを摘んだ。
「だって……」
「それより…、指舐めたのって、初めてか?」
 ちょっと真剣に聞いてきた。
 僕も、誤解がないように真剣に答えた。
「はい……。噛まないようにしゃぶるには、あれしかなかったです」
 途端に、合点がいったように光輝さんの目が明るくなった。
「ああ、俺、”しゃぶれ”って言ったもんな。”噛むな”とも」
 そして、声を上げて笑い出した。
「………?」
 笑いながら、ぎゅぎゅっと、強く抱きしめられた。
 息が出来なくて、苦しい。でも、光輝さんが嬉しそうなのは、僕も嬉しかった。
「おまえ、可愛い! ほんと可愛いよ」
 抱きしめながら、頭も撫でる。
「こう……き、さん?」
 嬉しくて、真っ赤になってしまった。
「合格、合格! 何もかも合格!!」
 ぎゅうぎゅう、抱きしめて離してくれない。
「あ…あのっ…?」
 僕はいい加減、苦しくてじたばたした。
 耳のすぐ横で笑ったり喋ったりするので、直接脳髄を痺れさせる。バクバクする心臓音が、光輝さんに聞こえやしないかと、よけい手足をバタバタさせた。
 僕の身体をやっと離した光輝さんは、深いため息を付いた。
 満足した、気持ちのいいため息。
 僕もその胸の動きに誘われて、一緒に息を吐く。心地よくて光輝さんの胸に後頭部を預けて、よっかかってしまった。
「なあ、巽。……これ、舐めてみ?」
 改めて人差し指を、僕の唇に差し出した。
 僕は口を薄く開いて、指を受け入れる。舌の平でぴちゃぴちゃと舐めまわした。
 ふふ、と首筋で笑う。息がくすぐったい。
「俺は、これが来ると思ってたんだ」
 ずるりと指を抜く。透明な糸を引いて、目の前にかざされる。
「巽は、俺の言うことを、しっかり聞き取って、その通りのことをしてただけなんだな」
 膝の中に抱え込んだ僕の両脚を開かせる。
 バスローブなんて、とっくに肌蹴てるから、ほとんど裸体だったけど、やっぱり恥ずかしい。
「さっき、何でそんなことさせたかというと……」
 言いながら、僕の蕾にその指をあてがう。
 くん、と力を入れて。指先を入れてきた。
「………ぁ……」
 ずくん、とそこが疼き、息が漏れてしまう。
「こうやって解していくのが、普通なんだよ」
 濡れて滑りがいいその指は、僕の露を待たなくても、容易く入ってくる。
「んんっ………」
「そうそう、その声。いいね。さっき我慢したろ」
「……ごめんなさい……」
 後ろで怪しげに笑う気配がした。
「そんな子には、お仕置きだな」
「…………!?」
 両手を掴まれると、紐を使って、背中で束ねられてしまった。
 なんで、いつの間にそんな紐……と抗おうとしたが、あっさりと動けなくなる。そして、顎を掴んで上を向かされた。
 不意打ちで開いた唇と歯列の間に、何かを突っ込まれる。
「!?」
 僕はかなり焦った。
 頭を振って逃げるけど、噛ませられた棒みたいな物の両端から出ていた皮ベルトを、後頭部で固定されてしまった。
「んん~~!!」
 その変な棒は、通気口のように穴が幾つも開いているらしく、呼吸はできる。
 ひゅうひゅうと、呼吸するたびに音が鳴った。
「それは、ギャグっていう、所謂さるぐつわ。もちろんウチの商品な」
 怯えた僕の目を覗き込みながら、楽しそうに説明してくれる。
「それも、基本のお道具だ。本当は今日はまだなんだけど。まあいいだろ」
 僕は良くない。必死に首を振ったが、ベルトはまるっきり緩まなかった。
 両肩を掴んで前方を向かせられると、また後ろからぎゅっと抱きしめてくれる。頬と頬をくっ付けられた。ベルトの感触を共有するかのように。
「これで、声も隠せない」
「うう~~」
 恨みがましい声を出した。
「そんなじゃなく、もっといい声、聞かせろ」
 光輝さんは、さっきの続きを再開した。
 中指を自分でなめると、蕾に突き立てる。爪が当たらないように、角度を調節しながら、えぐってくる。
「ふぅ~んっ……」
 とてつもなく甘い声が、鼻から抜けた。
 恥ずかしくて、眼を瞑る。
「そう、その声……いい子だ。巽……」
 体中が疼いて、身を捩った。けど、拘束されていて、上手く動けない。
 余計腰を突き出すような感じで、支えてくれてる腕の中でずり下がってしまった。
 指の刺激が嫌でも強まる。
「うぅ……はぁ………!」
 出入りを繰り返しつつ、どんどん進入する。
 昨日の異物感が、そのまま再現された。
「やあ……」
 しかも、半分入ったくらいから、中で掻き回してきた。
「んぁ! ………や……やえ……」
 上手く喋れない。やめてと叫んでいるのに。
 奥歯を食いしばれない分、リキめない体は、与えられる疼きを散らせない。
 無抵抗に受け容れざるを得ないその異物感は、容赦なく僕を刺激する。
 目から涙がこぼれた。
 「……気持ち悪い?」
 優しく聞いてくる。僕は、目をぎゅっと瞑ったまま、こくこくと頷いた。
 「挟まってるって思わないで、出入りしてる動きを感じろ」
 尚も蠢かしながら、穏やかに言う。
 僕は、身悶えしながら、一生懸命、その声を聞いた。
 「擦れた時に湧く感覚を感じ取れ。気持ちいいと思うことを、怖がるな。それが快感に繋がる」
 「ん……ふ……」
 返事も出来ない。暴れる中指が疎ましい。
 その時、その中指が僕の中で折れ曲がって、内壁をぐるりとなぞった。
 「ふぅぅ………んっ」
 僕の背中に電流が走ったように、何かが這い上がった。
 仰け反って、声を上げる。
 「今のは……? どっちかと言うと、いい? 悪い?」
 クスリと、笑いながら、聞いてきた。
 酷い……
 そんなこと聞いてくるなんて。だいたいどうやって返事するんだ。
「んっ、ぁはあぁんっ……!」
 いきなりまた、なぞる。何度も何度も外に向けて押すように。
「ぅぅん……ふぅぅん……」
 噛まされているギャグの呼吸孔から、頬や顎に唾液がしたたる。止めることなどできない。
「これはどうなんだ? 嫌じゃないか? 気持ちいいのか? よければ、頷け」
「ぁあ、ぁああ………」
 はあはあ、ひゅうひゅうという自分の呼吸が耳に煩い。
 何度も何度も、指が動く。僕が返事をするまで止めない。
僕は、背中を突き上げる痺れが、どんどん激しくなるのを感じた。前のモノも熱くなって、頭を擡げて行く。恥ずかしい。気持ち悪いのに。なぜか反応してしまう。
「あっ、あはぁぁ………やぁ……」
「ほんとに、嫌?」
 耳たぶを噛んでくる。
「んん~っ!」
 びくんっと、思いっきり前が勃ってしまった。
 僕の目から、また涙が出る。
「………なぜ泣く? そんなに嫌か?」
 僕は首を横に振った。
 でも、なぜ”良い”といえないのか。
 昨日みたいに、感覚が変わるきっかけが欲しかった。
 指の動きを感じてみる。縁を一周するかのように、僕の中で右回り、左回りを繰り返す。
 曲げて押し付けてくる指が、排泄感を促すように、外側に向って悪戯をする。
 ……あ…出ちゃう……
 指が外れそうになった気がして、思わず逃がさないように、力を込めて搾った。
「───!!」
 とたんに、昨日の様な衝撃に襲われた。
 後ろを窄めたとたん、肉壁全体で指を感じ、その動きがそのまま前を刺激する疼きとなる。
「ぁあ、ぁあ、ぁあ……」
 僕は指の動きに身を任せるように、喘いだ。
 さっきまで嫌悪していた異物を、奥へ奥へと飲み込むように、引き窄めてしまう。
 奥を搾るたび、僕の背中に電流が走った。
「気持ち、……いいのか?」
 耳元でバリトンが響く。僕はこくこくと、頭を一生懸命縦に振った。
 ふふ、と小さく笑って、光輝さんは僕を抱えている方の腕で、しっかり抱きしめてくれた。
 耳に直接唇を押しつけて、囁く。
「……いい子だ。巽……」
「ひ………」
 その熱い声に反応して、さらに後ろを閉めてしまった。強烈な疼きに襲われた。
「きついな……。この先が楽しみだよ」
 光輝さんは、曲げていた指を伸ばして、更に体内に侵入させた。
 圧迫感が増す。伸ばした指で肉壁をぐるりと抉られた。その時、
「ふっ、うぅん!」
 僕の脚が、びくんと跳ねた。ある一点を抉られた瞬間、前に鋭い疼きが走った。
 体中の皮膚が粟立つ。
 その反応に、背後で笑う気配。獲物を見つけた指は、そこだけに執着して執拗に擦った。
「んっ、んんっ!」
 僕は必死に頭を左右に振って抵抗した。しかし指は2本3本と増やされていく。
「あっ、あっ……」
 擦られるたびに体中が上擦る。たまらずに足が動く。身体が熱くなって、涙が滲んだ。
 前のモノはびんびんに勃って、露を滴らせている。喉を仰け反らせて喘いでしまい、みっとも無いほど唾液が幾筋も首を伝った。
 僕は与えられる快感を、嬌声を上げながら、ただただ享受するしかなかった。
 快感を散らせない躰は、どんどん高められていって。その指の動きに、全く容赦はなかった。出入りする音が厭らしく響く。
「や……やぁ……やぁぁ……こぉき……はん」
 呼吸もままならないでひゅうひゅうと激しく音を立てながら、酸素を貪る。
 酸欠と快感で瞑った瞼の内側ががチカチカした。
 
 ───ああ、いっちゃう……!
 
 
 屈辱と期待が交差した瞬間、
「………!?」
 指がずるりと抜かれ、僕はいきなり快感から、突き放された。
 躰を突き上げてくる揺さぶりが、ぴたりと途切れる。
 咄嗟に逃げていく刺激を追うように、後ろをぎゅっと搾った。取り残された疼きに、腰が揺れた。
「……こお…きはん……?」
 訳がわからず、ちゃんと解放して欲しくて、思わず光輝さんを振り仰いだ。
 歯を食いしばるように、辛そうな顔がそこにはあった。
 真っ黒の双眸はぎらぎら光り、苦しそうに眉根を寄せて。
 僕と目が合うと、弾かれたようにぎゅっと目を瞑った。
「……解しだけで、イかせちゃあ、社長になんて言われるか」
 絞り出すように、それだけ言う。
 僕は、途方に暮れた。持て余した疼きの解消を、ただただ欲する。足先が知らずに動いた。
「………ふっ……」
 堪らなく嗚咽を漏らした。
「巽……」
 腕の中で項垂れた僕を、体中でぎゅっと抱きしめた。
 そして、後ろ手の戒めと口のギャグを外してくれた。
 僕は大きく息を吸い込む。躰が内側から熱くて、やるせない。思わず非難がましく光輝さんを見つめてしまった。
「そんな熱っぽい視線で俺を見るな……」
 乾いた唇を、湿らすように舐めながら、低い声で言う。その舌先の動きに、心臓が高鳴る。
「……お仕置きが、過ぎちまったな」
 また羽交い締めに抱き込んで、ごめん、と耳元で謝った。
「こおきさん……ぼく……」
 両膝を擦りあわせるようにして、躰を捩った。
「ああ、……テスト本番、いくぞ。気絶すんなよ」
 片眉だけちょっと上げて、僕をにやりと見る。
 そして耳元で囁く。
「やっぱ、ギャグは無しだな。俺の名前、ちゃんと呼べよ」
 


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