chapter9. ring the changes -変化-
「もっと足を開いて座って」
僕が言うと、克晴は少しの間動きを止める。
「お尻の穴が開くように、足を外側に出して座るんだ」
物凄く嫌そうに顔をゆがめた。そして渋々という動きで、僕の太股の上で、身体をずらした。
克晴自身の体重も手伝い、左右に引っ張られた双丘は、中心の蕾を剥き出しにした。僕は前から手を回し、克晴の股ぐらに手を突っ込む。
腕の中の小さな身体が、ビクンと跳ねた。
中指を這わせて蕾を探し出す。そこに当たるときゅっと吸い付いてくるから、わかる。
「────」
声は出さないけど、克晴の呼吸が変わる。
「気持ちいいでしょ?」
聞いても答えない。
視線を目の前のダッシュボードに落として、瞬きもしないか、フロントガラスの向こう……木の生い茂った藪をじっと見ている。手前の低い植木には、レンギョウの花が咲き乱れていた。
「克晴………」
ほっぺたにキスをしながら、蕾に力を加えていく。
克晴の柔らかな頬は、今はだいぶそげ落ちてシャープな線を作り出していた。
細い顎がカッコイイ。
………本当に、先輩とよく似ている。
ついつい思ってしまうことを、また思い返した。
もともと似ていた。でも、日を追うごとに更にその色を濃くする。髪質、輪郭、目、鼻、口……どれをとっても、僕が見つめ続けた先輩のものだった。
そして、惹き付けられるのは、その視線。でも、これだけは、克晴のものだ。
初めはこれも先輩に似てるって思ったけど、それは間違いだった。
先輩はこんなキツイ視線は飛ばさない。こんな眼光を煌めかせるのは、克晴だからこそ……。
気高い心が、彼に涙を許さない。自分にも、僕にも、潔癖であろうと睨み付けてくるんだ。
僕は、この眼が大好きだ。
「ん……」
克晴から、声が漏れた。
この身体を弄くり始めてもう、1年以上……。
克晴の中で、何かが変わり始めていた。うっかり上げる声、思わず仰け反る身体、思いもしない反応が、彼自身を翻弄していた。
「これがいいの?」
僕は、耳に唇を押し付けて聞く。舐めた指先を、第一関節まで、蕾に埋めていた。
克晴は肩を震わせて、何も答えない。
指をゆっくりと出し入れしながら、奧へと進めた。中の肉壁が、戸惑いながら指をしめつけてくる。
細かく痙攣して、時々ぎゅっと締めるんだ。それが可愛くて、つい頭を撫でた。
「いい子だね。ちゃんと僕に感じてる」
もっと感じると、この小さな前のモノも勃つのだろうか。
そんな興味も湧いたりした。指をふやして、克晴の身体をもっと熱くしてやろうと。
でも、焦らない。じっくり、今入っている指を、根本まで完全に押し込んだ。
トン、と克晴の後頭部が、僕の胸に当たった。
「ん?」
胸元を見ると、仰け反った克晴が、勢いで僕に凭れたらしい。眼を瞑って奥歯を噛んでいる顔が、半分見える。
「……動かすから、感じたらちゃんと、声出して」
顔を逆さに覗き込みながら、囁く。微かに克晴は、首を横に振った。眉根を更に寄せる。
「……いくよ」
悩ましい顔に見惚れながら、僕は指の出し入れを始めた。
中指の腹で、内壁を押しながら丁寧に擦る。温かい壁が、指を押し返してくる。
克晴の排出しようとする生理現象を焦らし、わざとゆっくり指を取り出す。異物が出て、きゅっと締まった蕾に暇を与えず、また挿れ始める。ちょっと強引に押し開く。
その度に、胸に当たっている頭が揺れた。仰け反っては、微かに首を横に振る。
「克晴、我慢しないで。声出して」
上から掛ける声に、荒い吐息を漏らしていた唇が、引き結ばれた。
……この、強情っ張り……! 思わず呆れてしまう。
指を増やしてみた。挿れる時に、二本揃える。
「んんっ……」
圧迫感が違うのだろう。腰が嫌がって、揺れる。
蕾を逃がさないよう、傷つけないよう、手も腰に合わせて動かす。斜めに挿入しないように。
「…………っ!!」
いやいやをするように、頭を振っている。
「気持ちいいでしょ? 痛くはないよね?」
反応するたびに、聞いてあげる。
その感覚が、やがて“快感”に辿り着くように。自分の感じているそれが、恥ずかしいものではないのだと。
二本に揃えた指を大きく出入りさせると、克晴の身体は、どんどん熱くなっていった。
「っはぁ……」
吐息も激しく、さすがに声が漏れ始める。
「かわいい、克晴」
中で指をバラバラにして動かす。
「あッ」
ビクンと飛び跳ねた。
「そうそう。その声、いいね」
少し声変わりはしてるけど、やっぱりかわいい。もう一回聞きたくて、また刺激を与える。中で指を折り曲げて淵を押す。
「んんっ!」
膝の上で震わせていた握り拳を解いて、僕の腕にしがみついた。
動きを阻止しようと、無意識に掴んだらしい。
構わずに指を動かしてたけど、ちょっと邪魔かな。空いてる方の左手で、その両手首を束ねた。
「…っ!!」
克晴が驚いて、顔を上げる。恐る恐るこちらを振り向く。
「何もしないよ。邪魔なだけ」
僕はその腕を引っ張り上げて、自分の左肩で固定した。
「ぅぅ────っ!」
チェロでも弾くように、万歳させた身体を斜めに覗き込みながら、股間をまさぐった。
車でこの行為をする時は、下しか脱がせない。着ているシャツの胸元や脇から、肌が見えると、それはそれで興奮した。つい激しく指を動かした。
「ぅぁっ……!」
克晴も引きつれた声を出す。背中を反らせて、腰を捩る。捕らえた僕の子ウサギ。
この身体は、もうきっと目覚め始めている。本人はまだ、自覚してないだろうけど。
……どんな風に、よがるのだろう。
気持ちいいと、喜ぶ顔はどんなだろう。笑顔で僕に微笑んで……気持ちいい、と。
僕は、いつかその日が来ると、期待していた。
大人になれば。
克晴がもっと、大人になって色々なことを知れば、そんな時も来るかな、なんて。
僕がもっと教えてやるんだ。気持ちいいこと、もっともっと。
まだ、その感覚を処理できない小さな身体。かわいい玩具が、僕の膝の上で身もだえている。
指を動かすたび、震える。薄らと汗をかいて、剥き出しの腿が光っていて艶めかしい。
「ん───っ」
頬を紅く染めて下唇を噛んでいる。意地っ張りな憎らしい唇を、困らせてやりたくなった。
腕を降ろして手首を離すと、その手で反らしている顎を捉えた。胸に当たっている頭を、さらに押し当てて固定する。
小さな唇に、逆さに唇を重ねた。
「!!」
下の責めで一杯一杯なんだ。キスの方まで抵抗できないらしい。僕のするまま、口内を蹂躙させた。
「う………、ふ………」
支えている喉が上下する。上を向かされてるから喉の奥に溜まるのか、僕の唾液を飲み込んでしまっている。
何となく胸が熱くなった。
「克晴……」
唇を離すと、つい呼んでしまった。
散々苛めた、入りっぱなしの指も抜いてあげた。
逆さに顎を反らせたまま、頭を僕の胸に押し付けたまま、克晴の目がうっすらと開く。
その瞳に僕が映るように。いつも僕を克晴が捉えるように、優しく覗き込んだ。
僕の中でも、何かが変わっていく。
でも、僕もそれに気付いていなかった。
ただ独り占めしたくて。僕だけを見させたくて。そんな気持ちばかり、先に立った。
それに真っ正面から反抗する克晴の眼。
その眼が、僕の残虐性を駆り立てる。ついつい遣りすぎな行為を、強いてしまったんだ。