俺は、中学校の体育教師になったばかり。
 念願の母校に赴任ができて、憧れていた教員ライフをエンジョイし出しだ。
 エンジョイったって、1年目は判らないことだらけを闇雲に突っ走って、あっと言う間だった。
 ……そして2年目にして、悩みに直面していた。
「鷹杉、どうした?」
「あ、武藤先生……」
 武藤先生は、俺が在学中、体育を担当していた先生だった。
 俺はこの先生に憧れて、教員になろうって決めたんだ。
 
 誰もいなくなった職員室で、一人悶々と課題を抱えていた俺に、話しかけてくれた。
「先生。俺…実技の方はすごい自信があるんです。でも……」
 クックッ、と先生が笑った。
「……何ですか?」
 あれから、10年経っていた。
 もともと男前の先生だったけど、今はいい感じにダンディーになっている。
 40に差し掛かるとは思えない、鍛え抜いた筋肉は、今も健在だった。
「……いや、あんなに手に負えない、悪戯坊主だったのに」
 先生は懐かしそうに、目を細めて俺を見た。
「そんなきちんとした言葉で、喋ってるから」
 また、笑い出す。
「もう、またそれですか…」
 初めてここに来て挨拶した時も言われた。それから時々、同じようなことを言う。
 ……まあ、よっぽどの悪ガキだったのは、自覚があるけど。 
 
「教え子が、こんな立派になって帰ってくるのは、いいもんだな」
 俺も、笑顔を返した。
「先生がまだ在籍してくれてて、俺、嬉しかったです」
 もういなかったら寂しいなあと、思っていた。
「それより、どうしたんだ? こんな時間まで」
 他の先生たちは、とっくに帰ってしまっていた。
 5月の空はやっと薄暗くなって来ているけど、もうかなり遅い時間だった。
 隣のデスクのイスを拝借して、武藤先生は俺の横に座った。
 今はジャージを脱いでいて、捲り上げた黒いTシャツの肩から褐色の腕が剥き出しになっている。
 ……カッコイイ筋肉だよなー……
 見惚れながら、溜息をついた。
 俺は筋系だから、筋肉はあるけどガチムチの先生ほど身体のボリュームは無い。
「今年から、実技だけじゃなくて、保健の授業も担当になったんですよ」
「ああ、そうだな」
「教科書読んだり、黒板に何か書くのも、嫌いなんですけどね」
「鷹杉は字が汚かったな」
 また、目を細める。
 
「……内容が、問題なんです」
 茶化す先生を横目に、俺は席を立って職員室の端に向かった。
「コーヒー淹れますね。……俺自身、ちゃんと授業なんか、聞いてなかったか ら…どういう気持ちで教えたらいいか判らないんです」
 保健体育。……要するに、性教育だ。
 子供にとって、大事な通過点だから、きちんと授業をしたいと思う。
「……でも、女の子とかいるし。俺、恥ずかしくて…ちゃんと生徒の顔が見れなくて…」
「からかわれるんだろ? 生徒に」
「……そうなんです。俺が照れてんの、判っちゃって」
 情けなくて、後ろ頭を掻きながら、笑った。
 せいぜい俺の胸までくらいしかない、小さな子供たち。
 騒いでいる言葉を聞いていると、興味ばかりが先に立って、知識なんてないから、危なくてしょうがない。
 
「鷹杉も小さかったのにな。こんなに育って」
 先生がいつの間にか、後ろに立っていた。同じ高さになった俺の顔を見る。
「俺……先生に憧れて、身体鍛えたんですよ」
 俺も負けじと、見返した。昔はかなり短かった髪を、今は後ろに掻き上げて固めている。
 俺はいかにも体育会系ってふうに、サイドは短くしていた。まあ、前髪はちょっと長めに。
「……先生の保体の授業……今になって、ちゃんと聞いて置けばよかったって、後悔してますよ」
 棚にあるマグカップを取ろうと伸ばした手首を、いきなり後ろから掴まれた。
「今からでも間に合うぞ。教えてやろうか」
「……え?……」
 振り向いた俺のすぐ目の前に、先生の顔。
 身体を絡め取るように、抱きすくめられ、膝を崩された。
「…あっ!」
 状況が判らないまま、俺は床に押し倒されていた。
 身長は並んだけれど、厚みは武藤先生の方が断然ある。
 俺は、組み敷かれるように床に両腕を張り付けて、抑えられていた。
 
「ちょ……先生?」
「手取り足取り、実践を交えて、教えてやる」
「や……いいですっ……そんな」
 俺は、焦った。……何言ってんだ? この先生!
 俺はとにかく、このポーズが嫌だった。
 顔の両側で抑えられた手首が、びくともしない。
 股の間に入り込んだ先生の身体のせいで、俺の両脚はハデに開脚している。
「もう誰もいないから、大丈夫」
「! ……そう言う問題じゃ…」
 外はかなり暗くなっている。
 光々と照らす蛍光灯が、薄闇の中に室内をくっきりと浮き立たせているだろう。 
 立ち上がっていれば、窓外の校庭を突き抜けた更に向こう、大通りから姿が見えてしまう。
 そんな開け放たれた、空間で、こんな格好……。
 俺だってどっちかって言うとゴツイ方で、こんなふうに押し倒されるのは、もの凄い抵抗があるし。
 ───それに…実践って……?
 
「警備員はいるから、大声は出すなよ」
「……は?」
 対応しきれない俺を面白そうに見下ろしながら、武藤先生は、俺のズボンに手を掛けた。
「……やっ? ……せんせい…」
 自由になった片手で、その手を阻止ししようとした。
 俺もジャージにTシャツ一枚だった。
 力の強い先生の手は、簡単に俺のTシャツの裾を引きずり出して捲り上げた。
「───!!」
 いきなりの衝撃に、一瞬呼吸が止まった。
 ────ぁあっ!?
 胸に鋭く冷たい刺激。
 針で刺されたかと思うような鋭さが、一瞬走った。
 その後の、異様な感覚……。
「…んぁあぁ……!」
 不意を食らった俺は、思わず悲鳴を上げてしまった。
「鷹杉」
「──!!」
 中学時代の頃の様に呼ばれて、俺は生徒に戻ったような錯覚を起こした。
 蒼白になって、先生を見上げる。
 10年という年季は刻まれているけれど、まだまだ男前の先生。
 日に焼けて褐色の肌。
 存在感のある、分厚い身体。
 
「……せんせい……」
 ふと、その目が笑った。綺麗な二重が細まる。
「そんな怯えた顔するな。ただ教えてやるだけだ」
「……………」
「あと、テストだ。教師として、どのくらい知識があるか」
「………はぁ?」
 また、ふっと笑う。
「今のここ、何て言う名称だ?」
「えぇっ! ………あッ」
 また、舐められた。
 腰に変な刺激が来て、俺は呻いた。
「や……先生……やめ……」
 動かせる左手で、先生の右肩を押し返した。顔を引き剥がしたくて。
 でも、その身体はビクとも動かなかった。
 先生の舌が、ぬらぬらといつまでも、這い回る。
「……んぁあ…」
「答えるまで、やめない。もちろん、正解でないとダメだ」
 ちょっと顔を上げて、楽しそうにそんなことを言い出した。
「……そんな!……ぁああ!」
 激しく、喘いでしまう。
 ………ぁあ……ちょっと、待って………
 ……せんせい……
 刺激が強すぎて、思考が纏まらない。
 しかも恥ずかしくて、口になんか出せないだろ!?
「……早く。この、尖っているところは?」
「─────!!」
 俺は、唇を引き結んだ。……あらぬ声が出そうだし。
 腰を捩ってしまうのが嫌で、力を入れて、全身で踏ん張った。
 先生は、ますます笑った。
「………下が、元気になってきてるよ。この状態をなんて言うんだ?」
「!!」
 
 もう俺は恥ずかしくて、顔を上げていられなかった。
 俯いて、首を振る。
「……く……んんっ…」
 胸の刺激がどんどんエスカレートしていく。
 腰への疼きが高まっていく。
「早く答えないと、マズイことになるぞ?」
「先生……じゃあ……離してください……」
 情けなく声を震わせながら、俺は睨み付けた。
「離さない」
 平然と突っぱねられてしまった。
「……先生……」
 床の冷たさが、熱くなる身体を思い知らせる。
「ほら、この尖ってる所は?」
 抑えられている右手が、脇から震えた。
 ………ぅ……ぁあ……。
 俺は、覚悟を決めた。
 身体の名称を呼ぶことぐらい、なんだ。
 それより恥ずかしいことに、俺の身体はなりかねなかった。
「……乳頭です。その周りは乳輪──総じて、乳首…」
 片方だけ舐め回されて、完全に突起している。
 俺は、顔が真っ赤になっていくのがわかった。
「……正解。じゃあ、ここは?」
 胸から、脇の方へ舌を滑らせた。
「んっ……はぁ」
「喘いでないで、答えろ」
 ────!! ………先生……
 俺は睨み付けながら、震える声で答えた。
「右側腹部……右季肋部(みぎきろくぶ)……臍部…下腹部……陰部…」
 ───ちょっと、待て! その下は……
 先生の舌は、ジャージと下着を引き下ろしながら、どんどん下がっていく。
「せ……先生、それ以上は……もう!」
 先生の肩を押して、やめさせようと抗った。
「これからが、本番だろう? 生徒に何を教えるつもりなんだ?」
「……そんな」
「ほら、ここは?」
「……ぁあっ」
 半ズリになった下着の中に手を突っ込まれた。
「陰部を、上から丁寧に説明しろ」
「ぁあっ……!」
 大きな掌で、全体を掴むように握り込んで、優しく揉み出した。
 ………うあ、ぁあ……!
 大きくなってしまったそこは、既に上を向いていた。
 腰骨まで引き下ろされたボクサーパンツの端から、先端が覗いている。
「……………」
 
 俺の腰が、また疼きだした。
 ヤバイ……早く答えないと……
 でも、さすがにそこは恥ずかしい。
 
「ぁ……く……」
 無情に先端から根本…袋までを揉みしだく動きに、腰が捩れた。
「ん?」
 楽しそうに聞いてくる。呼べと言わんばかりに、指先でボクサーからはみ出ている毛を摘んで引っ張られた。
 俺は───もう一度、覚悟を決めた。
 唇を舌で湿らせて、先生を睨む。
 楽しそうな目にぶつかった。
「………陰毛…」
「正解」
 指がまたボクサーの奥にもぐりこんだ。
「んぁ………そこは……陰茎……ペニス」
「正解」
 裏筋を伝って、先端に触れた。
 ……ぁあ……
「……き…亀頭…」
 はぁ…と、息が漏れてしまった。
「正解……ここは?」
 下着からはみ出している先端の割れ目を、親指の腹で優しく擦り上げる。
 ぞくりと、背中を何かが這い上がった。
「アッ……」
 激しく腰が捩れた。先生の指は、俺を離さず付いてくる。
「───に…尿道口……」
「正解……隠語では?」
 ………なに……?
「ここのこと」
 割れ目を執拗に、擦り続ける。
「ぁあっ……や……す…鈴口?」
「正解……ここは?」
 括れの淵を、人差し指の腹がなぞる。ゾクゾクと背中に、快感が走る。
「んくっ……、カリ…です」
「正解……凄い……ぬとぬとに、濡れて来たよ」
 俺の先端からは、透明な液体が溢れて、先生の手を淫猥に光らせていた。
 
「──それは…カウパー線液。精子が含まれているから、性交する時はこれが出る前に、コンドームを絶対装着すること!」
 
 腹に力を込めて、授業で生徒に言うように武藤先生に、言ってやった。
 大事な部分だから、恥ずかしがってなんかいられない。……これを怠るヤツらが多くて、危険なんだ。
「…………」
 先生は目を細めて、指を動かした。
 裏筋を行ったり来たりさせる。
「大正解。……このヌルヌルは、いつ出る? その状態をなんて言う?」
 ……ぅぁ……はぁ……
「……勃起したとき……」
「……正解……続けて」
 指が下着をまさぐり、下の袋の方へ辿っていく。
 先生の手のせいでボクサーパンツの股間部分が膨らんでいて……
 半端にずらされているジャージのズボンが、太股を少しだけ見せているし。
 ………なんか…、…エロいカッコ……してんな…俺……
 普段と違う目線、職員室の床の片隅で。
 武藤先生の褐色の腕が、浅黒い俺の腹に触れているのも…妙に興奮する。 
 先生の指が焦れたように激しく動いた。
「…あッ…や……」
「鷹杉…続けろ」
「………ハイ……そこ…は……陰嚢……その中に睾丸が入っていて、精子を作り出している…」
 ………ん…ぅうっ……! ……ああ…
 ボクサーの中で。袋の裏から鈴口まで、一気に撫で上げて、なで下ろす。
 完全に反り勃っている俺のモノは、その度、ビクンと揺れた。
 息が……熱くなる……
「ん……勃起は……男性が女性に性的興奮を感じると、海綿体に……血液が集まって陰茎が膨れあがる……はぁ…」
 先生の指は、俺がどう喜ぶかを知っているように動き回った。
 ───先生……それは…マズイ……
 腰が、震える。……身体が熱くなっていく。
 目を細めて、喘ぎそうになる身体を静めた。熱い吐息で深呼吸を繰り返す。
 そんな俺を、先生は楽しそうに、じっと見下ろす。
「それから?」
「……はぁ……カウパー線液が…尿道を通るとき、精巣から出てくる精子と交じってしまうから………アッ…センセ……、危険。絶対…侮ってはいけない………んっ」
 最後は上擦ってしまった。握り込んで上下に扱き出すから。……それでも俺は、先生の目を睨み付けながら最後まで説明した。
 子供同士の迂闊なセックスによる、悲劇を防ぐ。それは、俺の大事な役目だ。
 この項目は、決して言い淀んでいてはいけない。そう思って、きちんと勉強していた。
 
「……大大正解」
 
 先生の目は優しく微笑み、口元も綻んだ。
 ………あ、今ホントに褒めてくれた。
 俺は、興奮の中で微笑み返した。
「でもな、鷹杉」
「……ハイ?」
「性的興奮は……男同士でも起こるんだ。ソレも言っとけ」
「!!」
 俺の身体が、実証している。
「………はい……」
 真っ赤になったまま、俺は素直に返事をするしかなかった。
「───あッ!」
 指が……先生の指が、後ろを…まさぐった。
「…………」
 先生の呼吸も、何となく荒い。言葉にはせず、目線で促された。
「……ぁ、……せんせ……そんな押さないで……」
 ……んぁっ!
 ぐいっと、時々押し込んでくる、先生の指。
 冗談なのか本気なのかわからない。ヘタすると入ってしまいそうで、嫌だった。
「……そこは……アナル……肛門…です」
 熱い息になってしまう、俺の言葉。
 先生の首筋で、渦巻く。
 右手は床に固定されたまま、体重を掛けてのし掛かられている。
 俺は自由になる左手で、先生の右肩を押して、二人の間に何とか空間を作っていた。
「………ぁあ! ……先生……」
「……正解」
「やめ……やめてください!」
 もう迷わず、指が入り込んでくる。
 肉壁を内側にを押し込むように、グイグイと圧迫して。
 俺の液体が、滑りを手伝っている。
 ………うぁああ……嫌だ…こんなの……
 突然の異物感に、身体全体が拒否した。
 背中は仰け反り、腰は捩れ……後ろは排出しようと、押し返す。
 吐き気が、込み上げてきた。
 
「……鷹杉」
 真っ青になった俺に、先生はもう一度呼びかけてきた。
「…………」
 俺は応えられず、目線で文句を付けた。
「続けろ」
 ────え!?
「……なに……」
 ……あっ………ぁあっ……
 押し出すより、押し込む力が、勝っている。
 下半身ごと突き上げられるような圧迫感が、俺を襲った。
「あぁぁ! ……やっ………先生!」
 押し返していた先生の右肩にしがみついてしまった。
 腸の中で、指が暴れる。
「ほら、ここは?」
「……はぁ……」
 楽しそうな声に、腹が立った。霞む目で、精一杯睨み付ける。
 声とは反対に、あまりにも無感情の先生の目がそこにあった。真っ直ぐな目線に射竦められる。
「…………直腸」
「正解」
 はぁ…と熱い息を吐きながら、俺は喉を反らせた。
 余りに近い、先生の顔。
 どんどん近づいてきて、怖くなった。
「もう一つ、教えてやる」
「………?」
 ……あ………
 奥まで突っ込まれた指が、抜き差しを始めた。
「やっ……やめてください……もう」
 腰を捩っても、こう体重で抑えられていては逃げようがない。
「男の身体はな、ホルモンによる性欲と、外的刺激による勃起と、二通りの性処理の仕方がある」
「…………」
 授業のように、淡々と説明する先生の声……。
 でも、指は暴れ、あらぬ所を突きだした。
「……ぁあッ」
 びくっと腰が揺れて、大きな声が漏れてしまった。
 ………何……刺激が……
 目がチカチカとした。
「ここは? ……名称は知ってるはずだ」
「………」
 唇を噛んで、首を捩った。声なんか出したら、また喘いでしまう。
 先生の指がそこを掠めるたび、勃ち上がってる前のモノが震える。
 高まっていくそこの感覚に、俺は恐怖しだした。
「く……ぁあ……」
 どうしても、声が漏れる。
 抑えられてる右手首が痛い。……身体が……熱い……
「や……先生」
 ………マジで………
「……お願いです………」
「答えろ」
「───!!」
 無情な声に、俺はもう一度、下唇を噛んだ。
「……前立…せん………ん、ぁああぁ……!」
 出し入れが、早くなった。
 今度こそ、やばい。
 俺の身体は、もうそれだけを、目指し始めていた。
「…正解」
 少し、優しい声で返された。
「性欲の大小は、個人差がある。そこに羞恥は付きものだ」
「…ぁあ……くぅ……」
「でも、性欲そのものが本能であり、望まなくとも、こうやって勃起させられるメカニズムもある……」
 そこで言葉を句切ると、俺をじっと見つめてきた。
 
「─────」
 …………先生?
 
「だから、いちいち恥ずかしがっていることは、ないんだ」
「…………」
「堂々と、語ってやれ。生命の営みの凄さを」
「………んぁ……」
「人間が、生き繋いでいくことにどれだけ貪欲か…この性欲から、よく判るよな」
 口の端で笑った。……俺は、笑えない……
「…………」
「それを”理性”で抑制出来るのが、”人間”なんだってこともな」
 ………理性。それがあるから人間……俺は笑った、先生、いいこと、言う。
「……ケダモノ……」
「ん?」
「こんなイキなり、俺を襲ってる先生は……ケダモノだ……」
 潤んでしまう目で、睨み付けた。
 先生は、目を見開いて、俺を見つめ続けた。
「先生……指……外してください」
 イキそうになるのが……怖い。なんだって、こんな……
「これは実習だ。まだ終わってない」
「ん…ぁあぁ……!」
 指が増えたのか……圧迫感が増した。
「やめ……やめて…ください」
 切れ切れ、懇願した。体中で、快感を追ってしまう。足先をばたつかせた。
 指を受け入れて、奥で搾って……前への刺激を欲する。
 ………冗談じゃない! ……そんなの、ご免だ!!
 イヤラシイ音を立て続けるのも、俺の身体が悦んでいるようで、羞恥を煽る。
「やめてもいいけど──このまま…放置は、辛いよな?」
「…………」
 ……それは、そうかもしれないけど──
 こんな高められたら、はい終わりって訳にはいかない……
「最終的に、どうすることが性処理だと言える? その行為の呼び方は?」
「…………」
 滲む視界の中で、先生を捉えた。
 それを言えば、解放してくれる……?
 
「こんな実習……俺……嫌だ……」
 泣きそうな声に、なってしまった。
 
 先生の顔は、何を考えているか判らない。ただ俺を見下ろす。
 動けないのが、悔しい。抜いてもらえない指が、歯痒い。
 俺だって体育教師なのに。体力自慢でこれまで来た。人より強いことが、俺のステイタスだったんだ。
 ……なのに、反応しまくって、悶えてる───それが、一番嫌だった。
「……射精……睾丸で作られる何億もの精子を……」
 ……くっ………また……指増やした……
「……あっ…、ぁぁああぁ………!」
 先生の肩に置いた手に、力を込める。はぁはぁと息も乱れる。
「──吐精することによって、性欲を……収める……」
 見据えた俺の目の端から、涙が零れた。
 泣くのも悔しい──
 でも、収まらない身体の熱に、どうにかなってしまいそうで。
「せんせい………」
 最後は、なんで呼んだか、判らなかった。
「───ごうかく」
 先生の声も、掠れていた。
 そして、やっと右手首を解放してくれた。上半身から圧迫感がなくなる。
「─────」
 俺は深呼吸と溜息を繰り返した。
「鷹杉……」
 腰元に移動した先生が、俺を呼ぶ。
「…………?」
 その目は、悪戯っ子のように、輝いていた。
「……これは、生徒には内緒だ」
 そう言って、ボクサーを太股まで引きずり降ろすと、後ろの指はそのまま、左手で反り返っているモノを握り込んだ。
「ぁ………」
「男がやるフェラは、……気持ちよすぎてクセになるぞ」
 
「……え!?」
 俺の股間に顔を埋めた先生は、握った指を下げながら、唇をまとわりつかせてきた。
「………あぁぁ!」
 唇と輪にした指を、両方同時に上下させる。
 キツイ締め付けと、ぬらぬらしたなまめかしい感触。
「んぁあああぁ……や……」
 …すごっ……!
 以前経験した、もどかしい愛撫とは、根本的に違う。
 ………あっ、……ぁあああ!……
 追い上げが半端じゃない。
 どこをどれだけどうすると、何が持続するか…それを知り抜いた、動きだった。
 
 閉めて緩めてと吸い付く唇と舌が、俺を絶対逃がさない。容赦のない出し入れ。ポイントに繰り返し刺激を与えられる。
 
「……あああぁぁっ……ぅぁああ……」
 
 俺の快感は、高められては焦らされ、次のに高みに導かれる。
 一段一段確実に上り詰めて、ある一点を目指していく。尻の中の指が、それを煽った。仰け反った背中が、もとに戻せない。
「……せんせい……ぁああ……すご………」
 突き出した腰は、熱くて熱くて……自由になった両手は、必死に口を塞いでいた。
 
 うあ! ……ぁああっ、……ああぁ……
 
「はぁ……センセ……イク…イク…イク…俺……!」
 気持ちいい……
 イキたいけど……もっとこのまま──ついそんなことを思うほど、快感に酔いしれた。
 
「……うぁああぁッ!」
 
 腰がビクンと揺れて激しい吐精感。先生の口の中に、思いっきり放出した。固い床の上で、あちこちが痛いのも気にならないほど、身悶えて痙攣してしまった。
 先生は最後の最後まで、搾り取るように吸い上げると、やっと指も一緒に抜いてくれた。
「………良かっただろ?」
 俺の出したモノを全部飲み下したその唇で、ニヤリと笑う。
「実地テスト、終わり。成績は100点満点だな」 
「…………」
 俺は、声も出せないほど、打ちのめされていた。
 疲労感、脱力感、爽快感、……そして…激しい羞恥。冷たい床の上で、今起こった事をぼんやり反芻した。
 ……俺……先生に…犯られた……これは……そういうことだろ……?
 何が実践だよ……ひでぇよ……こんなの……
「……鷹杉」
 横たわったまま放心してる俺に、のし掛かるように、先生の体が俺に影を作る。
「オレは、ケダモノじゃないぞ」
「! ………こんなことして──!」
 睨み付けた俺に、飄々と笑う。
「襲ったんじゃない。あくまでもお勉強」
 更に、にっこり笑う。
「生徒はいつまでも生徒だな。お前を先生として、見れない」
「……………」
 ───……俺は……どう答えていいか、わからない…… 
 ………まさか……感謝しなきゃ、いけないのか?
「そうそう、オプションは有りだ。希望は受け付けるぞ。最後まで教えてやる」
「…………はあ?」
「頼まれれば、実技研修として、最後までヤッてやるって、言っているんだ」
 また、口の端で笑う。
 …………な………
 悪びれない、この性格。そして……俺の太股に跨ったままの、先生の股間……
「む……むとうせんせい……?」
 なんだ? このボリュームと力強さ…… 
「────いい! ……遠慮しときます!!」
 俺は、今度こそ蒼白になった。
 襲ってないだって? ………嘘付け!
 冗談じゃない! そんなもん、知ってたまるか!
 今に真のもケダモノに変身しそうな先生の下から、俺は抜け出そうとした。
 腕の中でジタバタしながら、悔しかった。力では絶対に勝てない。
 さっきもどこまで犯られるか、途中から、真剣に怖かった。先生の逞しい褐色の腕に……俺は、まったく敵わなかった。
 
「鷹杉」
 懲りない先生。熱い眼差しで、鼻が触れるような距離で俺をじっと見つめてくる。
「武藤先生……」
 ………俺、こんな事ぐらいで泣いてる場合じゃないかも。
 その眼を見つめ返した。
 先生の太い指……あれはたぶん3本は突っ込まれた。思い出して、そこがヒクついてしまった。…あれより太いんでは。
 ぞくりと……散々いたぶられたあちこちが、疼いた。
 
 俺の楽しいはずの、教職ライフ……いったい、どうなってしまうんだ?
 
「とりあえず………”今は”間に合ってますんで」
 負けてたまるか。
 俺も、にっこりと返した。
 
 
 
 
 -終-  


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