俺が初めてバイトをしたのは、高3も終わる頃。
卒業後の身の振りも決まったから、よっしゃと、面接しに行ったんだ。
無事採用ってことで、緊張して初めての仕事場に入ってみたら―――
 
そこには、中学時代、俺がいじめていた里見司(さとみつかさ)がいた。
 
「……………」
「……お久しぶりです。せ・ん・ぱ・い」
 
俺は、声も出せなかった。
 
「先輩? 同い年だろ?」 
各自に俺を紹介してくれていたチーフが、変な顔をした。
 
「…ええ、まあ」
里見は、薄笑いだけ浮かべた。
「まあいいか。広澤君、こいつが君のトレーナー。研修期間、ここでは里見が君の先輩になる。しっかり教えてもらえ」
チーフは、俺を里見に押し付けて、行ってしまった。 
 
「……………」
俺は、やっぱり何も言えないまま、里見を見た。
当時は俺より頭一つ小さかったのに……。
今は同じ高さから、俺をじっと見据えてくる。
端正な顔はそのままだった。
細い切れ長の目。通った鼻筋、薄い唇。……真っ白い肌。
  
「……変わりませんね、せんぱい」
里見も同じ事を呟いた。目を細めて、口の端だけ上げて笑う。
 
「……その、しゃべり方…やめろ」
俺は、掠れる声をやっと出して、それだけ言った。
「なんでです? 先輩が僕に命令したんじゃないですか」
 
「………」
背中に冷や汗が伝った。
あの頃……俺は実際、ひどいヤツだった……
 
中学時代。
俺は、バドミントン部だった。
その中学校は強いチームで、県大会にも出場していたから、かなり厳しいクラブだった。
一年生は、試合なんてさせてもらえない。
ハネ拾い、片づけ。道具管理。先輩達のお世話。
先輩たちに殴られたり、いびられたりしながら、その一年間で、上下関係を叩き込まれる。
”シゴキ”という、公然のイジメが始まる。
そこで生き残ったヤツだけが、2年でレギュラーになれるんだ。
俺はそんなくだらねえイジメで肝心のプレイが出来ない方が悔しかったから、耐えに耐えて、レギュラー入りをした。
ところが、2年に上がってすぐ、こいつが転校してきた。
前の学校でもバドミントンをやってたとかで、入部してきて。
あっさりレギュラーになりやがったんだ。
俺はそれが許せなかった。
小綺麗な顔して、小さくて……一年からここに入ってたら、絶対イジメ抜かれて退部してたくせに。
俺は勝手にそう思いこんで、里見に鬱屈した理不尽な怒りを、ぶつけてしまったんだ。
 
「……俺は2年目だ。今年からのお前は一年と同じ」
「――――」
「だから、俺のことを先輩と呼べ。敬語で喋れ」
「――――」
「そう、僕を躾たのは、センパイですよ?」
 
ゆっくりと俺に近づいてきて、薄く笑う。
「僕、センパイに殴られるの…怖かったから。いつも言うこと聞いてましたよね」
 
一年が見ている中で、俺は里見を一年と同じように扱った。
こいつは、泣きながら俺に従って、なんでも言うことをきいていた。
――すぐに、退部すると思ったんだ。
なのに、卒業するまで辞めなかった。
俺は最後まで、里見をイジメ倒した。
 
「あそこの気質は、……やられたんだから、自分もやって当然」
「……………」
「そういう感覚で、平然と一年を殴ったり泣かせたりして、それが年功序列、社会の縮図だ、なんて教え込まされて……ろくな場所じゃなかったですね」
 
近づいてきた里見は、俺の首に手を伸ばしてきた。
 
「……仕返しか? 今度はお前が、やり返す番だな」
首を締められても、殴り倒されても、文句は言えなかった。
それだけのことは、してきたから。
 
高校に上がって、入りたい部活もなくて……
体育会系のノリから外れた俺は、やっと世間が見えるようになった。
どんだけ狭い、世界の中にいたか。
自分らのやってきた愚行を、振り返ることすらできなかった。
俺は、過去に目を瞑り、自分の凶暴性に蓋をした。
 
「センパイ……」
里見の手が、俺の首に掛かった。
「………!」
「タイが、曲がってます」
「――!!」
制服には、首に一巻きして、ピンで留めるリボンタイが付属されている。
里見の指は、それを真っ直ぐに直しただけだった。
近づいた目が、俺を覗き込む。
「僕はね、やられたらやり返す、なんて嫌いなんです」
そして、口の端を上げた。
「――暴力は…ね」
「…里見……」
「ここでは、僕を先輩と呼んでください。チーフも言ってましたよね。上下関係厳しいんですよ」
「………!」
 
俺は、里見の目に吸い込まれるかと思った。
嫌なら辞めて他を探そう。
そんな気楽な感覚で、ここに来たけど……
2年間、部活をやめなかった里見。
コイツの前で、俺は「辞める」なんて言えなくなってしまった。
 
大きな駅ビルの中のデパート。
ホテルもくっついている駅で、客の階層が1ランク上らしい。
客に合わせて、店員のレベルも上げている。
制服、挨拶、言葉使い、仕草。それがコト細かにうるさかった。
その上で、何百もある商品を全部把握して、品出し接客をする。
 
……時給が、いいわけだ…。
 
時給が高いなりのリスクはあるとは、思ってたけど。
こんなに大変だと、思わなかった。
その日から、俺の”後輩生活”が始まった。
 
「里見…先輩。搬入チェック終わりました」
言いにくいが、しょうがない。いつも引っ掛かりながら、報告する。
里見はちらりと俺をみて、すぐに次の指示を出す。
「ご苦労様。今度は品出ししてください。今日はBブロックから。10分で終えてくださいね」
「はぁ!? …10分!? 出来るわけ、ねーじゃん!」
思わず、大声で叫んでしまった。
すっごい量の搬入物。その中から、Bブロック商品を判別して、段ボールから出して、前と後ろを入れ替えながら、ラベルは全て手前に向けて揃えていく……。
どう見たって、判別するだけでも、10分以上かかる。
「センパイ…出来なきゃ、時給が下がるだけですよ。”使えない”烙印を押してもいいですし」
里見は、仕事を教えるのは上手かった。
でも、なんでってくらいシビアで、容赦がなかった。
研修中に能力を計られ、その後のセクションに割り振るための見極めをされる。
この時点で、時給のスタートが違うらしい。
昇級のパーセントも、その後の待遇も、この研修である程度決まってしまうのだと言う。
しかも、採点はトレーナーの一存なのだと。
「…………」
 
「あと、そんな下品な言葉使いは、減点です。お客様の前では、絶対禁止ですよ」
口の端で笑う。
「………ハイ…すみません、――センパイ」
もともと負けず嫌いの俺は、結局言い返し切れずに、奥歯を噛み締めた。
―――くそっ! 言わせてばっかいられるか!
いびって根負けさせようとしているのかと思うくらい、非情に言いつけてくる。
殴りつけそうになる拳をグッと抑えて、俺は里見に従った。
言われた通りを完璧にこなす、なんてのは、まずムリだった。
これでもかと、冗談のような無茶苦茶を要求してくる。
手足が何本あったって、身体がいくつ分裂したって、こなせる内容じゃない。
それでも最小限のリスクで抑えて、オーダーに近づける仕事をこなした。
 
 
  
そうやって毎回顔を合わせながら、里見とは仕事上の会話しかしなかった。
休憩時間は、店の中をうろついて時間を潰した。
同じ部屋に二人きり、など言語道断だったから。
 
 
でも―――うっかりニアミスをしてしまった。
研修は1ヶ月。そろそろ査定が出るってときだった。
更衣室ではち合わせちまったんだ。
 
「―――うわっ!」
着替え終わって、出ようとしてきた里見に、俺は激しくぶつかってしまった。
一瞬誰だか判らず、俺は慌てて頭を下げた。
「すっ……すみません!」
ガバッと下げた頭の上から、ふふ…と、笑う声がして、俺は顔を上げた。
楽しそうに、目を細めて、里見が見下ろしていた。
「信じられない……センパイが、僕に頭を下げてるなんて」
「……………」
出ようとしていたはずの身体を更衣室に戻すと、
「どうぞ、着替えてください」
と、優雅に右手で室内を指した。
「……………」
俺を中に誘導すると、そのままドアを閉めて、壁に寄り掛かっている。
「……帰れよ」
俺のロッカーは、入り口からすぐのところだった。
着替えることができなくて、里見を睨み付けた。
「……そんな口きいて」
涼しげに笑う口元が、ムカツク。……ずっと先輩風吹かせやがって!
「制服脱いでんだから、今のお前は、先輩じゃねーよ!」
「……センパイも早く脱げば」
面白そうに、首をかしげる。
「―――――――」
あの頃俺は、オンナみたいな里見の制服のズボンを、よく脱がせては、からかっていた。
 
「カッコイイ、センパイ……僕はいつも、思ってました」
「…………」
「1年生は2年になれば、”先輩”に、なれる。……でも、僕は?」
細い目が、暗く光ったような気がした。
「あなたは、どこまで行っても、”センパイ”で。僕は同級生にすら、なれなかった」
 
里見は壁から離れると、ゆっくり俺の方へ歩いてきた。
―――顔は変わってない…って、久しぶりに見た時は、そう思ったけど。
この1ヶ月、里見を見ていて思ったことは――
 
無感情。
いつも薄笑いを浮かべて、愛想はよく見える。
けど、常に冷ややかで、何を考えているのか、何か企んでいるのか…いないのか。
俺を憎んでいるのかさえ、時々わからない。
 
昔の里見は、よく泣いていた。
悔しがったり、怒ったりなんかじゃなく。静かに俺を非難する目でじっと見返してくる。
そこには”哀しい気持ち”が、かならずあった。
俺は、そこに苛ついていたんだから。
里見がもっと乱暴で、俺みたいに負けん気が強かったら、大声で怒鳴り返すようなヤツだったら……殴り合いの喧嘩はしても、あんな陰惨なイジメにはならなかったと思う。
それを里見のせいにするつもりは、ないけど――
 
「……センパイ」
俺をロッカーに追いつめる勢いで、身体ごと迫ってきた。
顔が、近い……。
「センパイは……一見変わってないように見えたけど、……全然変わってしまいましたね」
「――――」
「なぜそんな、牙が抜けたようになってるんです?」
 
確かに……こんな態度とるヤツなんか、昔だったらすぐに殴り飛ばしていた。
「うるせえ。お前には、カンケーねぇよ」
退けよと、肩を、里見にぶつけた。
その瞬間……
「―――んっ!」
里見が俺の身体をロッカーに押し付けて、唇を重ねてきた。スチールの棚が、ガタンと激しい音を響かせる。
 
―――!? ……なにすんだ、コイツ……!
 
「―――ッ!」
俺は思いっきり、里見を突き飛ばした。
「……カンケーなくないですよ。センパイのせいで、僕…こんなになってしまったんですから」
よろめきながらも、視線は俺から外さない。
濡れた舌で、唇を舐め上げると、にやりと笑った。
「里見……」
―――笑った。そう言えば、さっきも笑ったな……俺が頭を下げたとき。
 
「センパイ。……僕、”苛められたから、今度は自分が苛める”っていう部活の悪習、嫌いでした」
「…………」
「だから、仕返しなんてしません。でも………」
「――――?」
「かつて非道だった人間が、いつの間にか更正した顔で、のらりくらりとしてるの、もっと嫌いです」
「――――!!」
俺を鋭く見据えた里見の目が、妖しく光った。
「してしまったコトの落とし前は、付けてくださいね」
「……なに?」
何言ってんだ?
 
――その顔が…余りに真っ白で……。
射抜いてくる双眸だけが、壮絶に、青白い炎を燃やしているようで―――
俺は、モノ言わぬ怒りの炎に、全身を纏われた気がした。
その目から視線を反らせなくなった俺は、里見がポケットから何か取り出すのに、気付かなかった。
「………あ!?」
軽い金属音。
一瞬冷たさを右手に感じた瞬間、左手首を掴まれていた。
ガチャリ
おもちゃのそれは、本当におもちゃみたいな音を立てて、俺の手首に嵌った。
 
「広澤センパイ……やっと捕まえた」
 
「…………」
 
何のつもりか判らず、自分の手元をみて、里見を見た。
ちゃちな手錠が、俺の両手に嵌っている。
ただそれだけで、俺は完全に拘束されていた。
「ここは、デパートというより、百貨店ですから。なんでもあって、便利ですね」
にっこり微笑むと、手錠の鎖を引っ張た。俺を更衣室の奧へ連れて行こうとする。
「……里見!?」
 
――ふざけんな、コイツ…!
とうとう仕返しのリンチかと思った俺は、ヤツの指を引きちぎる勢いで、腕を振り回した。
――受けて立ってやるさ! ……でも、この手首の状況は、面白くない!
 
振り上げた腕を、ヤツめがけて本気で打ち下ろそうとした、その時―― 
「――アッ!?」
二の腕に、鋭い痛みが走った。
同時に、激しい火花が目の前で弾けた。
痛みは全身を走り抜け、途端に何もかもが真っ暗になった。
笑い続ける里見も、その手にあるスタンガンの意味も……理解する前に、視界から消えた。 
 
  
 
 
「せんぱい………センパイ――」
  
 
里見の声で、俺は意識を取り戻した。
「――――――」
小っさい部屋……。
簡易ベッド、パイプ椅子、事務机、テレビ……
白とグレーだけの、閑散とした事務室みたいだ。
 
――――――?
……どこだ……ここ……… 
 
「指導室……別名、折檻部屋ですよ」
俺の彷徨う視線に、答えるように里見が囁いた。
 
………せっかん?
視界の真ん中に、里見が入ってきた。
「起きました? ……気分はいかがです?」
 
―――あッ……!!
「―――里見! おまえ……っ!」
飄々と覗き込むその顔を見て、俺はさっきまでのことを思い出した。
怒りで、全身が熱くなる。
「―――!?」
殴りかかろうとした両手が、金属音を立てて揺れた。
「いい格好ですよ」
くすりと笑うと、里見は俺の上にのし上がってきた。
俺の両腕は手錠を嵌めたまま、その鎖を頭上でベッドに繋がれていた。
 
――――何…する気だ?
 
この1ヶ月、俺は里見から逃げ回っていた。
それは、仕返しが怖いんじゃない。
自分がしたことを思い出させられるのが、嫌だったんだ。
過去に蓋をした俺は、反省もしてこなかった。
ただ、目を瞑った。
それは、自分で思い出すのも吐き気がする程、醜い八つ当たりだったからだ。
 
 
「センパイ―――僕はこの時をずっと待ってました」
「――――」
「センパイが面接に来たときは、まさかと思いましたよ……僕は、僕のセクションにセンパイが配属になるように網を張りました」
 
―――え?
 
「やっと、僕のところに来たのに、なかなか二人きりになれなくて、焦れてました」
顔を近づけて、いきなり唇を合わせた。
「――んっ!」
―――うぁ……舌………!?
滑った感触が気持ち悪くて、俺は首を振って、それを剥がした。
 
至近距離で睨み合って、しばらく無言の時間が続いた。
 
「僕は…」
 
先に里見が視線を外し、ゆっくりと喋りだした。
 
「仕返しなんか、するつもりはないです。さっきも言ったけど、そんなの嫌いだから」
「…………」
「でも、知って欲しかったんです。あなたがヤッた結果を。自分が何をしたのか、その目で知るべきなんです」
「――――」
「なのに、僕から逃げ回って――それに気が付いたとき、ああ、昔のあなたじゃないって、思いました……残念です」
「――へぇ! ……自分勝手な、乱暴のままの俺の方が…良かったのか……?」
まだ苛められたいのか? コイツ……。
ふっと口の端で笑って、里見は俺の顔を撫でた。
「それだけは自覚してるんですね。でも、そうじゃない。そうだからこそ、あなたは真っ直ぐに僕にぶつかってきていたんです」
「………?」
「怒りや、行きどころのない鬱屈したモノ……その出口を欲しがっているのは判りました」
「――――」
「僕でいいなら……そう思って、我慢していたのに。いつかあなたが、それに気付くことを期待してました。なのに…僕を最後まで判ろうとしなかった」
―――なんだ……それ
真っ直ぐ、俺を見つめてくる。
「髪型……あの頃のままですね」
髪に指を差し込んできた。
「僕、この長い毛先が、跳ねてるトコ……好きでした」
「…………」
「試合した後、汗かいてこの前髪を掻き上げる仕草なんて……女の子たちと同じように、ドキドキしながら見てたんです」
「――――」
何を言い出すのか……いつもと違う視線に、俺は釘付けだった。
怯えて震えるような、恐怖の色じゃなく……芯を持った、力強い視線。
 
 
「……僕は”広澤君”と、ダブルスをしてみたかった」
 
―――――!!
 
「”広澤君”と、同じコートに、立ちたかった………」
 
 
心の奥底に、訳のわからない痛みが走った。
”……なんで?”
初めて苛めたとき、そう一回だけ、口答えをした。……その時の目だ。
 
―――痛い
これは、……取り返しの着かないことへの、後悔の……痛み――
 
「それでも、僕に対して自分に素直だったのに」
里見の目がきつく細まって、俺を睨み付けてきた。
こんな目は見たことが無かった。
「今のあなたは、自分から逃げ回っている」
―――コイツ……むかつく。
さっきから、判った風なことばっか言いやがって。
何もかも判っていて、何もかも許してたような……。
そうじゃない。俺が許していたんだ!
――それ以上は許してやる。
――これで、勘弁してやる。
いつもそうやって、自分の凶暴性にストップを掛けていた。
 
 
「……センパイは、僕のズボンを剥いだだけで、それ以上は辱めなかった」
 
懐かしむような口調で、里見はまた喋りだした。
 
「でも、そんなの見て、放っておかない輩ってのがいるんですよ」
「―――!?」
「センパイは知らなかったでしょうけど。センパイに苛められたあとは、必ず第2弾があったんです」
そう言うと、身体をずらして、俺の膝に跨った。
「―――!」
里見の手が、俺のズボンのベルトに掛かり、ボタンとファスナーを開けた。
「さ……里見!?」
そのまま勢いよく、ズボンと下着が膝まで引きずり降ろされた。
――――ッ!!
「……恥ずかしいでしょ?」
真っ赤になった俺に、冷たい目で問い掛ける。
晒された股間は、剥き出しのまま震えていて、制服の下にあるのが妙に滑稽に思えた。
「こんな風に、見せ物になって、いたずらされたんです」
そう言うと、中指をぺろりと舐めて、俺の後ろにあてがってきた。
「――!?」
「こんなことされるの、初めてですか?」
ビクンと震えた腰を押さえ付けて、その指を1本、ゆっくりと俺の中に入れてくる。
「………!」
―――うぁ……!
思わず出そうになった声を、抑えた。
細い異物が、どんどん入ってくる。
「や……やめ……」
気持ち悪い……むず痒い……そんな焦れた感覚が、這い上がった。
「僕の下着まで剥ぎ取った奴らは、酷かったですよ。いいも悪いもないですから」
「………んん……」
「僕がどんなに嫌がっても、謝っても、強引に突っ込まれるんです。何度も何度も……数人で束になって」
「………」
聞いていて、その光景がありありと思い浮かんだ。
当時の小さかった里見が、俺よりタチの悪いヤンキーどもに輪姦(まわ)されている。
「――――」
俺は何も言えず、里見を見た。
「……やっと、僕を見ましたね」
またあの目で……なんの感情もない瞳で、俺を見返す。
「あなたと高校が別々になって、……僕はそこでも不幸でした。結局、学校という閉鎖的な世界を見捨てて、大人の社会に飛び込んだんです」
喋りながらも同じ速度でずっと、指をゆっくりゆっくり出し入れする。
「――――ッ」
俺は、言葉を聞きつつ、リキんだ身体に汗を浮かべていった。
「そしてやっと、ここに辿り着きました。」
「――ぅッ」
指を増やしてきたせいで、圧迫感が強まった。
気持ち悪いくすぐったさで、腰が勝手に揺れる。
「ここに来て2年半――やっと、気持ちも落ち着いたのに……まさか、あなたが来るなんて…センパイ」
また、里見の顔が近づいた。
「……ん」
今度は、引きはがせない。塞がれた唇に、湿った舌が這い回った。蠢く生き物は、無理矢理俺の口内を蹂躙した。
そうしながらも、後ろの指は、さらに奥底を探ろうと、中に中にと入ってくる。
「ん…んんっ!」
のし掛かられたまま、腰を跳ね上げてしまった。
「……センパイ、気持ちいいんですか? こんなことが」
「―――ッ」
いつのまにか、前で萎えていたモノが、半勃ちになって、透明な露を垂らしていた。
――俺じゃない……勝手に反応してるだけだ……!
「お尻で感じる、身体なんですね。すごいなぁ」
俺は何も言えなくて、手錠で拘束された手を震わせた。
――こいつ……わざと煽りやがって……!
「顔が真っ赤…。目まで赤いですよ。こんな姿……恥ずかしいですもんね」
くすくすと笑いながら、開いている方の手を、制服のシャツの下に忍ばせてきた。
「―――アッ」
また身体が、跳ねてしまった。胸の中心に指の腹を押し当ててくる。
「もう、こんな尖ってますよ。……やらしいですね、センパイの身体……」
「……んッ…」
「男の…僕なんかの指に、反応しちゃて。ほら、こんなに」
ぐりぐりと押しては、軽く摘んで、弄ぶ。
「や……やめ」
「苛めてた僕に、いいようにされて、勃起するなんて……恥ずかしいなあ」
―――――!!
完全に反り返っている裏スジを、指先で撫で上げた。
「アッ……ぁああっ……!」
ゾクリと背中が震えて、ますますそこがいきり立った。
「いい声……そんなよがり声だしちゃって、そんなにイイんだ?」
―――くそ……うるせぇッ……
「……………ぅあッ!」
指先がしつこく上下して、時々鈴口を擦る。
「すごいですよ、センパイ……びしょびしょです」
「やめ……黙れ!」
わざと羞恥を煽る。
言われるまま、身体を熱くする自分が惨めだった。
「うっ………く………」
3本になった指が、俺を逃がさず、内蔵を突き上げてくる。
俺の脚は開いて、指を受け入れるべく、腰を浮かせてしまっていた。
「ふふ、センパイ、食いしん坊。……ここの口が、もっと欲しいって」
 
―――――え!?
 
里見が、自分のズボンの前を開けた。
「そんなに欲しいなら、あげますよ」
―――!!
「や――やめ……」
逃げる腰を押さえ付けて、里見は熱くなっているそれを、俺に押し当ててきた。
―――う…うあぁ!!
「やっ……やめろ! ―――さとみッ!」
「―――はい……?」
口の端だけ上げて、笑う。その目は、妖しく揺らめいて、楽しそうに俺を見下ろす―――
「アッ! ……ぁあああっ……!!」
肉壁を掻き分けるように、何かが俺の中に入ってくる。
―――熱い!
押し込まれる。
自然原理を無視して、ありえないモノが逆流してくる。
「ぁああっ! ああっ! …ああぁ!!」
強引に強引に挿入されて、2,3回、身体が揺さぶられるほど、激しく打ち付けられた。
はぁはぁと、荒い息を立てながら、里見が俺の首を抱えて、動きを止めた。
「センパイの中、熱いです。ヒクヒク震えてます。美味しいですか? 僕……」
妖しく瞳を光らせながら、耳元で笑う。里見の白い顔も、頬が上気してピンクに染まっていた。
「………里見! いい加減にしろ!」
熱い異物に、嫌でも腰は震える。いちいち羞恥を煽られて、よけい身体が熱くなる。
こんな状況、俺にはありえないことだった。
「はは……センパイが、僕に犯られてる」
――――!!
この野郎! と思うと、また身体が熱くなる。
里見がゆっくりと腰を動かし始めた。
「んっ……ぁあっ……ぁあっ…」
「センパイ、ダメですよ。僕なんかに挿れられたくらいで………」
「…くっ……ぅあ……ぁあ……」
さっきの指みたいに、ゆっくり、ゆっくり出し入れする。
抑えても、擦られる感触に、声が漏れてしまう。
―――……はぁ……はぁ……
身悶え得する俺を、ゆっくり動きながら、見下ろしてくる里見……
「センパイの顔、とてもエロいですよ……唇が、紅い」
―――クソッ………!!
熱いモノが出入りする度に、そこが熱く痺れる。
肉壁が剔られる度、背中をゾクゾクと疼きが走った。
「すごい…僕と、センパイ、繋がってる」
俺の脚を大開脚させて、結合部を覗き込む。
「センパイの下の唇も、内側は綺麗なピンク。よく締まって、いいお口です」
―――!?
「大概の男が喜びますよ、この締め付けは。……羨ましい」
そう言って目を細めると、胸の尖りを捻り上げた。
「アッ! やめ……やめ……さとみっっ!!!」
脇から下っ腹へ、違う疼きが走る。
俺は仰け反って、首を振った。
「――キツ…」
里見も、顔を顰めた。
「……だらしないですよ、センパイ。…こんなことぐらいで、そんな悲鳴を上げて」
息を荒げながら、いつまでも俺を煽る。
「見掛けとは全然違って、すごい淫乱な身体……あのクラブの後輩たちに、見せてあげたいな」
―――俺の眼を、意味ありげに覗いてきやがった!
「カッコつけて粋がってたけど…ホントは、こんな、男に後ろ犯されて、よがってるような人だって……」
「――――!!」
――くそッ! …くそッ!
悔しがったって、どうしょうも出来ない。
勝手に反応する身体は、里見が言うとおりに跳ね上がって、震えた。
ふふと、声にして里見が笑った。俺の息の上がってる胸を抱き締めて、上半身を被せてきた。
「これからが、本番です。いい声で鳴いてください……素敵なセンパイ」
耳にそう囁くと、腰の動きを早めてきた。
――――ぁああっ!
さっきまでの、焦れったい感覚じゃない。
強引に結合部を擦り上げて、快感を生み出す。
打ち付ける衝撃も、そのたび、腰を疼かせる。
「ぁあッ…ぁあッ…ぁあッ…! やめ……さとみ……」
凄んでも、様になるはずがない。
俺はだらしなく喘がされて、ひたすら脚を開き続けた。
――ぁあ……はぁ………まずい……まずい……! 
後ろの疼きは、前への快感を促しつづける。
イキたくて、尚更そこが熱くなる。
不意に、里見の動きがゆっくりになった。
――――んっ………
身体が戸惑う。もっと刺激が欲しくて………
「うわ、ぬるぬる。センパイのここ、お漏らしみたいですよ」
いきなり、熱くて焦れていたモノを掌中にされた。
「―――ぁああ!!」
ビクンと、情けないほど、震えてしまった。
「――――っ!」
里見も言葉を止めて、息を呑んだ。
「――びっくりした……センパイ、感度良すぎです……」
「……………」
睨み付けで応えた。歯は食いしばって。
「ここ、そんなに、いいんだ」
先端を真上から掌で包んで、括れているところに指を引っかけて…蓋でも開けるように回転させた。
「あッ! うぁああっ!……」
新たな刺激が、腰を襲った。
――う……このままじゃ……
「センパイ、僕、もうイキそうなんです」
俺が心で思うより、先に囁かれた。
「僕だけイキますね。センパイは我慢していてください」
「――!?」
言うなり、先端を握っていた手を、根本に移動させた。
「―――ぅあ…」
反り返ってしまっているそれの根本を、輪にした指で、ぎゅっと絞められた。
――――痛ッ!
「――アッ…ぁああっ………ぁああッ……!」
そのまま、里見はまた、腰を進めだした。
「センパイ…センパイ……」
片腕で、抱き締められ、耳元で呼ばれ続けた。
「あっ…ぁああっ……んぁああぁ………」
何回も、イキそうになる。でも、押しとどめられて、また高められる。
それを繰り返している内に、里見が大きく震えた。
「ん……センパイッ……!」
「ん…ぅあッ!!」
体内に熱い液体が溢れるのを、感じた。
 
…ハァ……ハァ……ハァ……
 
熱い息遣いが、続く。
里見は、余韻に浸って……
俺は……。イキたがって、身体が嘆いている。
身悶えて、腰を振ってしまう。
「……イキたい?」
頬を紅潮させて、里見が微笑む。
俺も、紅いであろう顔を、横に振った。
「はは……すごい、強がり」
楽しそうに笑うと、勢いよく俺から抜き出た。
「んっ……」
「ほら、そんな感じてるくせに。広澤君」
―――!?
俺は驚いて、顔を上げた。
その言葉にも、声色にも……。
「なに? こう呼んじゃいけない?」
威圧的な喋り――今までの里見とは、思えない。
「こんな状況で、まだ自分が強いと思ってんの? もしかして」
「………里見?」
「違う違う、先輩でしょ。僕は広澤君のトレーナー」
「…………」
「厳しかったでしょ、僕。僕の直下に配置させるには、あれくらいのムリは必要だったんだ」
「――――!」
「僕は特Aクラスだからね。2年半もいるんだから」
あの飄々とした顔で、口の端を上げる。
「それを、こんな短期で、こなしてさ。やっぱセンパイはスゴイや」
「……………」
「もう査定も提出してるし、必ず通る。広澤君は、ずっと僕の部下だよ」
―――!
「まさか、辞めたりしないよね?」
揺るがない、妖しげな視線で俺を覗き込む。
―――俺は……
「そして、僕の性奴隷。後ろを犯されて、前は口でイカされるの」
―――えっ!?
「……あッ!」
萎えかけていた、まだ疼いているそれを、いきなり里見は口に頬張った。
「んっ! ぁぁああぁぁっ!」
舌と、唇で扱かれて、あっという間にまた反り返ってしまった。
「くっ……ぁああ! ……ぁああ…!」
生温かい粘膜に扱かれて、俺はまた喘ぎ声しか出てこない。
手に持ちかえられて、もっと激しく扱かれた。
「広澤君……後ろ掘られて、どうだった?」
「……んっ………」
「かつてのいじめられっ子に、パンツ脱がされて、指突っ込まれてさ」
里見は、また言葉でいびり出した。
「悔しいよね……イキたいのに、止められて。今度は無理矢理イカされるの」
手は休めない。どんどん早くなる。
「……ぁ……はぁ……はぁッ……」
―――悔しい……悔しい………悔しいッ……
高まっていく腰を感じながら、俺は本当に悔しくて、怒りで身体を震わせていた。
「広澤君……」
里見がまた、口に咥えた。舌先が鈴口を弄る。
止まらない絶頂感。俺の身体はもう、里見の思うがままだった。
「んッ! ああぁ! ……やめ……やめろ!」
いく……イクッ!!
 
―――ああぁ!!
 
ビクビクッと腰を震わせて、白濁を里見の口の中に、飛び散らせた。
 
その間も扱かれる。唇で吸引される。
「あぁ…んぁ………」
堪らずに俺は、腰を捩った。もう、解放して欲しい。
 
――はぁ……、はぁ……
ぐったりしていた俺の頬を、指がそっと撫でた。
俺は泣いていた。
その涙を掬うと、里見は満足した顔で微笑んだ。
「と、いうわけで。これからもよろしくお願いします……センパイ」
 
……………。
 
俺は、こんなイジメはしなかった。
でも、部活を辞めなかった里見を思うと、俺もここを辞めるのは悔しい。
 
でも、…性奴隷ってなんだよ。
確かに、牙は抜けてるけど……男のプライドを捨てたわけじゃない。
勝手に流れる涙を頬に伝わせながら、俺は里見を睨み付けた。
にくったらしい顔。
―――”俺とダブルスを組みたかった”
……その言葉が、胸に引っ掛かる。
――俺が里見を苛めなかったら。
――実力を認めて、一緒に県大会まで出場していたら……
そう思うと、胸がチクチク痛い。
今とは全く違う、楽しい未来があったはずだ。 
取り返しの着かない、”後悔”という痛み。
俺はそれを感じるのが嫌で、蓋をして来たんだ。
……だから、その責任を取る必要はある気がした。
 
「――――」
覚悟を決めて、里見を見た。
「――俺は……」
「あ、あらかじめ言っておくけど」
「―――――!?」
俺の声を遮って、言ったその言葉は……
「僕の恋人はチーフだから。センパイは、僕のおもちゃ。良くて、2号さん」
「――――!!」
「僕を救ってくれたの、チーフだから」
ニッコリと微笑んだ。今まで見たことのない、満面の笑みで。
 
 
「そこんとこ、わきまえてくださいね」
 
 
…………わきまえるって……
どういうことだ?
俺は、所在のない性奴……?
先行きが真っ暗な予感に、目眩がした。
 
「……手を…外せ」
 
いい加減痛い。もういいだろ。
投げやりな気持ちで、里見を睨み付けた。
「何、言ってるんですかセンパイ」
「………?」
「僕が、何されたか、教えるって言ったですよね」 
「――――!!」
「こんなもんじゃ、ないですよ。覚悟してください」
また、里見の指が俺の後ろに這ってきた。
「やめ―――」
「センパイ、みっともないですよ、往生際が悪いと。……幻滅させないでください」
「――――――ッ!」
 
かつての俺を保たせて、イキがらせて……喘がせる。
里見の復讐劇は、見事に完成していた。
 
もう一度、にくったらしいその顔を睨み付けた。
 
 
 
でも、俺は――― 
 
――悪かった… 
俺が、悪かった。
酷いイジメをしてしまって、……ゴメン――
 
今更ながらに自覚した、後悔と反省。
そして謝罪の気持ち…言葉になんか、できやしないけど。
この痛みがある限り、俺はここを辞められないだろう。
 
 
 
ただ……俺は、どこまで責任を取ればいいのか―――
――チーフと恋人って………なんだよ…それ
――俺の心の置き場は、どこだよ……
――こんなことされ続けても、……里見とは仕事上の先輩後輩でしか……ないのか?
 
蠢く指に翻弄されて、また汗を掻きだしている。
「んっ……ぁあ……ぁあ……」
 
………もはやこの身体は、冷静な判断をさせては、くれなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
-終わり-
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