chapter5. stop time 時間停止- 刻印と切望と -
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 僕はこの小さな玩具を、凄く気に入ってしまった。
 何をしてもジッと耐える。僕の舌を受け容れながら、ぎゅと眼を瞑っている。それ以上の反応が欲しくて、身体を触ってみた。
 実際、半ズボンなんかを穿いていると、膝やふくらはぎがとても無防備に見えた。服のセンスは全て奥さん。とてもいい物を着せている。
 今日も半ズボンで、太腿がむき出しになっている。そこに手を這わせると、びくんと体が跳ねた。感じているわけじゃない。ただびっくりしたんだ。
 でも、反応がある方が面白い。濃厚なキスをしながら、ズボンを下ろしてみたくなった。
「んんっ、んーっ!」
 体を捩って抵抗する。服がしわくちゃになることに気が付いた僕は、車でのムリはしないことにした。
 克晴は誰にも何も言わない。みんながいる前では、僕に話しかけてきたりもする。その神経の強さに、僕もゲーム感覚で付き合った。みんなの前では、いつも通りの優しいお兄さん。(克晴は僕のことおじさんて呼ぶけど)でも二人きりになると、僕の凶暴性が表に出る。僕は自分がこんなに酷い人間だとは、実際思ってもみなかった。
 
 克晴が我慢すればするほど、大人の振りをすればするほど、その皮を剥ぎたくなった。
 それはとても矛盾していた。お前は本当は子どもだろう、子どもらしく振る舞え! と、大人の行為で要求する。
 克晴の目は、僕の中の残虐性を駆り立てた。
 
 車に乗り込む時の、睨み付けてくる眼。その直前までは、朗らかな笑顔を浮かべて母親に、行ってきまーす、なんて言ってるのに。僕に向き直った瞬間から、凄いオーラを発する。
「どうせ今日も触るんだろ。はやくしろよ」
 などと言うようになっていた。
 
 ついに僕は我慢が出来なくなった。ホテルへ克晴を連れ込んだ。
 服が乱れていたら、絶対怪しまれる。僕はそれが恐くて、車内でかなり自制していた。だからその分、タガが外れたんだ。部屋に入るなり服を脱げと命令した。僕が脱がしたら、勢い余って破いてしまうかもしれないから。
 でも、脱げといっても、さすがにハイとは脱がなかった。
「克晴は、もう10歳だよな。もうお兄ちゃんだ。恵君もいるし」
 何を言い出すのかと、眼を見開いて僕を見つめる。
「それなのにお父さんからは子ども扱いで、頭ごなしに命令されて…。腹立ったよな」
 克晴の瞳を覗き込む。ベッドの真ん中に座り込んでいる克晴は、とても小さく見えた。
「僕はそんなことしない。克晴は、成長してる。大人になっていってる。だから、いつまでも子ども扱いはしない。キミに失礼だもんね」
 克晴の眼が光った。僕の目も獰猛に光っていることだろう。どんなに宥めすかしても、やりたいことは一つなんだ。
「僕も手伝ってあげるから、言うことをきいて。…ね」
 言いながらそっと、手をシャツのボタンに掛ける。克晴はその手を見ながら、ジッとしていた。
 前を全部開けて、片手づつ袖のボタンも外し、肩をめくり出すようにシャツを剥いで脱がせた。肩が出たとき寒いのか、少し体を震わせた。僕は生唾を飲み込みながら、剥き出た首筋や鎖骨を見下ろした。
 克晴は、ズボンのジッパーを下ろしたところで次第に嫌がり始めた。
「や……っ」
 何かを感じたのか、怯えたように抵抗した。
 下着ごと全部脱がせようとしたが、
「やめろ! 何すんだよっ」
 暴れて、上手く脱がせられない。
 それでも僕の執念が勝ち、克晴の身体は裸に剥かれてベッドに投げ出された。
「───!」
 全裸で横たわるその肢体は、眼を瞠るものがあった。
 すらりと伸び出した長い手足、胸や腹はまだまだ幼いが、これからの成長を期待させる。
 あどけなさが残る顔も、僕を睨み付けてくる強い眼光のせいで、年齢以上に大人びて見える。それが僕を狂わせた。のし掛かると、唇を押しつけて舌を入れた。
「んっ……」
 もう慣れてしまい、最近はこれくらいじゃあまり反応はなかったが、今日は違った。目を瞑って嫌がった。
 僕は濃厚なキスを与えながら手を滑らせて、肩や胸に触れてみた。妙に体温が高い…そして想像以上にすべすべできめ細かい。だんだん下に滑らせていく。腹の辺りで、びくんと反応があった。
「やっ、やめ……はなせっ」
 顔を背けて、唇を外す。
「だめだ、こっち向け」
 無理矢理また唇を奪って、さらに下へ愛撫を繰り返す。
「んん…っ」
 必死に体を捩る。でもどんなに力を入れようと、僕にはびくともしない。下のちっちゃいのに触れると、悲鳴を上げた。
 がむしゃらに唇を解いて、僕を睨み付けてきた。その目の縁が紅く染まっていて、ますます僕を煽る。
「はなせってば! なにすんだ、このオジン!」
 オジンと言われて、僕が少し固まっていると、うるさく喚いてきた。
「言い付けてやる! お前なんか、みんなに嫌われればいいんだ!」「俺だって知ってんだぞ! こんなこと、大人がしちゃいけないことぐらい!!」
「……!」
「オッサンのくせに、ヒトが大人しくしてれば、いい気になりやがって……」
 僕は無性に腹が立って、その口をタオルで押さえた。
「んんッ」
 なおも暴れて抗う。タオルを噛ませて頭の後ろで縛った時には、克晴は俯せになっていた。
 その背中の綺麗さにも、僕は理性を無くした。成長しきっていない身体が、こんなにもそそるものだとは知らなかった。いろんな手順を踏むつもりだった。いろいろ教え込んで言うなりにしようと、何となく思っていた。でも、僕にはそんな余裕は全くなくなっていた。
 大の字に開いた腕を押さえつけて、自分の滾りを無理矢理後ろからねじ込んだ。
「ンン───ッ!」
 叫び声がタオルに消される。全部なんか入らない、入るだけ挿れたら、腰を動かした。
 それだけで、僕には充分だった。入りきらない部分は、自分の手で補佐する。
「はぁ……っ」
 小さな背中に吐精して、身体をひっくり返した。顔が見たかったから。
 痛みに歪めて、タオルの奥で歯を食いしばる。頬は上気して、火照っていた。額に浮かんだ汗が辛さを物語っている。でもそれも僕を喜ばせるアイテムに過ぎなかった。
 ぐったりして顎を反らせていたが、僕が眺めていたので、眉根を寄せたまま片方だけ薄目を開けてこっちを見た。
 …まだそんな力が残っているのか。
 泣きもしない。タオルをググッと噛んで、荒い呼吸を繰り返している。その眼に、僕はまた欲情した。二度もするつもりはなかった。でも、止まらなかった。
 脚を持ち上げ、小さな蕾にまた自分の滾りを押しつける。
「!!!」
 声にならない声が叫びを上げる。
 顎を仰け反らせて頭を振る。力を込めて握った両手のこぶし拳は、僕に押さえつけられて、ずっと震えていた。
「んっ、ん…」
 僕の動きに全身を揺すられて、荒い息を吐き出していたけれど、最後にはぐったりしてしまった。僕はその腹に吐精して、果てた。
「…………」
 しばらく克晴の横に寝っ転がって、動けなかった。首だけ向けて、気絶しているその子を眺める。
 額や首筋に汗が光っている。あんなに鋭い眼光も、瞑っていると威力はない。
 幼い顔に見えた。手をのばしてタオルを外してやる。正体のないその顔は、あまりにもあどけなかった。薄く開いた小さな唇、乱れて額に張り付いた前髪、閉じられたままの瞼。僕は、自分のしたことをようやく理解した。
 ────克晴。
 小さく呼んでみた。
 開かない瞼。ぴくりともしない唇。
 僕は、その小さな身体を引き寄せると、横になったまま抱え込んだ。
 ……小さい。
 当たり前だけど。その小ささが僕には見えていなかった。克晴の虚勢が、大人に見せていた。
 ……いや、違うか。そう思い込もうとしたんだ。
 早く手に入れたくて。もういいか、もう許される歳か、なんて、手をこまねいて待っていた。克晴を意識した時から。まだ1年も経っていないというのに。
 
 シャワーで体を清めて、服をきちんと着せ直した頃、克晴は意識を取り戻した。
 僕は、うっすら開いた目から、身を隠すように克晴を抱きしめた。
「ごめん…」
 一言だけ、言った。
 もうここまでしたんだ、今度こそ許されない。先輩にも奥さんにも言い付けられ、詰られるだろう。僕の人生は先輩だけだった。でもここで終わりだ。
 もう、どうしようもない。
 そんな思いが、一言だけの謝罪に込められた。
 
 でも、予想に反して、僕の愚行は表沙汰にはならなかった。
 克晴はさすがに寝込んでしまって、2週間外出できなかった。
 先輩が克晴の発熱を心配して、僕に相談してくる。僕はこうやって罰を受けているのだと、自分を戒めた。
 しかし、克晴はなぜ言わないのだろう。あんな目に遭って。
 僕は自分のかけた呪縛の強さに、気付いていなかった。
 ───騒ぎ立てたら、お父さんに迷惑をかけてしまうよ──
 子どもが大人の言うことを、どれだけ真剣に捉えるか。
 “真に受ける”なんて、軽いもんじゃない。他と比べて本当はどうかなんて、言葉の重みを計れない。知識も経験もなければ、そんなあざとさなどかけら欠片もないのだから。真っ正面から受け止めて、心の底から恐怖したことだろう。
 でも、そんなことも、馬鹿な僕は後になって気付いたんだ。
 その時は、克晴の黙秘をいいことに、何度もその体を貪ってしまった。
 と言っても、あんな無理矢理なのは、後にも先にもあれっきりだ。僕だって、克晴の辛い顔を見ていたくはない。始めに考えていた通り、慣らすところからやり直した。
 
 それは、たいてい車かホテルでおこなった。僕は実家に住んでるから、母親がいつもいる。とても連れて行く訳にはいかない。
 車の場合、絶対誰も来ないような所へ頭を突っ込むように止める。僕が助手席に移り、下を全部脱がせた克晴を僕の股の上に座らせる。後ろから抱え込むように、克晴の前に手を回し、蕾を解した。ローションを使って、痛くならないように気を付けた。指を少しずつ入れては、いつも感想を聞く。
「どう?」
「何か、感じたら言って」
「気持ちいい?」
 そう思う時はじっと黙っていて、答えられない時はただ首を横に振った。少しずつ、僕の指を締め付けてくる。そんな気がした。それを感じたときは、僕はすごく嬉しかった。
 ホテルでは、全裸にしてしまう。胸や脇も触りたかったから。こっちはくすぐったがって、だめだったけど。
 小さな小さな胸の飾りを、舌先でいじくる。くすぐったいと身を捩らせながら、かわいらしく、ツンと起つ。でもそれを快感として認識するまでには至らなかった。
 膝を曲げて立たせ、開かせる。腰の下には、タオルケットを入れてあげた。そうすると、ムリしないでも腰が高いところにくる。僕はその尻の中心を舐めた。
「ん……それ、やだ」
 嫌がるほど、実は快感が強いコトを僕は知っている。
 手を押さえつけて、
「嫌じゃないはずだよ。しっかり感じて、考えて」
 舌先で蕾の周りをつつき、次第に中に進入していく。泣き出すんじゃないかというほど、僕は容赦しなかった。でも克晴は決して、泣かなかった。あの、一番最初の時さえ、泣かなかったのだ。
 


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