chapter5. stop time 時間停止- 刻印と切望と -
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4.
 
 僕はホテルに克晴を連れて行くと、いつも通り裸にさせた。でも今日は、車でやるときと同じように膝に抱え込む。
「?」
 不安そうに僕を振り返って見上げてくる。
 後ろばかり触っていて、前の方はあまり弄ってはいなかった。もっとちゃんとやってあげた方が、出やすかったかもしれない。
 背後から手を回して、体ごと抱きしめた。本当に大きくなったな。身長もどのくらい伸びたのか、僕の胸に届かなかったのに、今は肩に届きそうだ。
 小さかった性器も、かなり大人びてそこにあった。それを下から掬うように、やんわりと掌で包む。
「あ…」
 克晴がうつむいて、息を呑んだ。
「克晴。僕とこんなになってから、もう何年も経ったよね」
「………」
「子どもだったのに、無理矢理オトナの行為をお前に押しつけた」
 空いてるほうの手で、頭を撫でた。
「今だって、子どもだけど…、あのころとは違う。克晴は育ってる」
 少し力を入れて握りなおす。ゆっくり上下に動かしてみた。
「!」
 克晴が身動いだ。
「痛くない?」
「……」
 無言で小さく頷く。その頭をまた撫でると、動きを早めた。
「あ…? やだ…っ」
 困惑して、体を捩る。
「大丈夫、気持ちよくさせてあげる」
「やだ…、離せ…」
 なおも暴れる。だいぶ力が付いてきたから、僕には厄介だった。
「気持ちがモヤモヤするんだろ? 腹の辺りが気持ち悪ぃだろ?」
 ぴくりと、動きを止める。
「変な恐い夢、見るか? それともすっごいイヤラシイ夢?」
「……」
「身体がとにかく落ち着かなくて、嫌なんだろ?」
「……」
 克晴は、抵抗していた腕を下ろして、項垂れた。
「いても立ってもいられなくて、泣き出したくならないか?」
 顔を覗き込んで、聞いてみた。視線をそらして、唇を噛んでいる。
 その顔を、僕は自分の胸に押さえつけた。
「泣いていいんだぞ」
 きっと心で泣いてるから。不安と一人で闘ってるから。でも克晴は泣かなかった。涙は絶対に流さない。
「これやると、かなり身体がラクになる。始めは恐いか、しれないけど」
「……!」
 また手を上下し始めたので、身動ぐ。でも今度は我慢して、それ以上暴れなかった。
「呼吸、ちゃんとしろよ。息吐くとき、声出せ。ラクだから」
 それでもこの意地っ張りは、声を出さずに、刺激に耐えていた。目を瞑り、口をきゅっと引き締めている。時々苦しくなるのか、大量に息を吸おうと喉を反らせる。僕はタイミングを見て、その唇が開いたときに、逆さから唇を重ねた。
「んんっ」
 驚いて抗う。上下を続けながら、反対の手で蕾を刺激した。
「───!」
 激しく体を捩る。唇を逃がさないように、角度を変えながら捕らえては吸う。
「んん、ぅうっ」
 堪えていた声が、漏れ始めた。
 扱いてるさきっちょの割れ目にも、人差し指と親指で別の刺激を与えると、透明な液体が出てきて動きが滑らかになった。
「んん~、ぅうう!!」
 びくん、びくんっと、克晴の身体が跳ねた。細かく痙攣する。でも僕の掌には何も出なかった。
──まだか…。まあ、そんな都合良く一回で出たりしないか。
 ぐったりしてしまった克晴を抱え直して、膝の上に蹲らせた。息が整わずに苦しそうだった。上気した頬がいつになく色っぽい、唇も紅いからだ。
 …今後はこんな顔も見れるのか。僕は嬉しくなって、にやにやしながら眺めてしまった。
 薄く片目を開けて、克晴が僕を見た。これが克晴の癖だった。最小限の動きで状況を見る、動けないのもあったと思うけど。
「イヤラシイ顔、オッサン」
 一言、憎まれ口を叩いた。
「まだ30前だ」
「知るか。20以上はみんなオッサンだ」
 …小学生から見れば、そうかも知れない。僕は拘らないことにした。
「…起きれるか?」
 膝の上で丸くなっていた克晴を、脇の下に手を入れて上体を引き上げる。頭を僕の胸に寄っかからせて、首に腕を回して抱きしめた。
 何も言わない。僕も、克晴も。
 でも、きっと克晴は大丈夫。もう怖がったりしない。僕はその体勢のまま、克晴に長い話しを聞かせだした。なぜこんなコトになるのか。自分だけじゃないってこと、体がオトナになるって事の意味。
 
 でも、なんで僕が克晴にこんな酷い事をし続けるのか…。
 それは言わなかった。言ったってきっと理解できない。そう決めつけた。
 
 克晴はじっと黙って、相づちも打たずに聞き入った。
 どこまで分かったかは判断できないけど。知ってると知らないとじゃ全然違う。いつか、身体と頭が一致して、ああ、そう言うことかと納得するのだ。僕は、偶然にも克晴の成長に立ち会うことができて、嬉しかった。
 
 その後、何度か手でやってるうちに、克晴は精通した。
 かなりショックを受けて、気味悪がった。でも、気持ちは落ち着いたらしく、また今までの克晴に戻っていった。必要以上話さない、笑わない、動かない。
 
 そうして、克晴は小学校を卒業して、中学校に入学した。彼は最後まで我が儘を言い通して、近くのエリア内の公立中学校に入った。先輩はネを上げて、僕に愚痴った。
 私立に行かないことが嫌なのではなく、なぜ近くで無ければ嫌なのかをちゃんと説明してくれない、そこが心に痛いのだと。
 僕は先輩をあやす振りをして、べったりくっついて毎日を過ごしていた。そうして、つい思うのは、
 
 ──克晴に似ている。
 
 本当は逆だ。先輩に似ている克晴が愛おしかった。僕はどうかしている。そう思って、余計先輩にベタベタした。
 
 克晴が、そんな僕をどう見ているか…。そんなことは、考えもしなかった。どんなに先輩とジャレてみたって、欲したのは克晴の身体だったから。
 
 
 そんな僕に、運命は悲劇をもたらした。
 新年早々、異動の内示が出たのだ。みんなは栄転だという。アメリカだもん。2年くらい研修に行って、帰ってきたら役職がもらえる。よくある話しだけど、僕にそれが来るとは思わなかった。
 でも、僕が知ってる事実は2年なんかじゃ、帰ってこれないってこと。それが決まって、結婚を取りやめたヤツもいた。会社を辞めたヤツもいた。
 ……僕は。
 思い浮かぶのは、克晴の顔。
 置いていってしまって……大丈夫なのだろうか。
 あんなにして、いろいろ覚え込ませて、でも肝心なことはまだ出来て無くて、伝えてなくて。それなのに、置いていってしまう。
 ほっぽり出されて、克晴はどうするだろう。誰か他のヤツに助けを求めるのか。
 ……アイツはそんなこと、絶対にしない。
 泣きもせず、ただこの先出会う誰かをただ待つのだろうか。僕とのことなど、いずれ忘れて、封印して。
 
 そんなのは嫌だった。
 勝手だけど忘れて欲しくはなかった。僕は忘れない、絶対。
 
 会社を辞めることも出来ない僕は、アメリカ行きを受け容れた。それまでの短い期間、僕は思うがまま、克晴を抱いた。克晴の制服姿はカッコよかった。さぞかしモテることだろう。そう思うとやりきれなかった。
 
 制服を着せたままを、時々やっていた。嫌がる克晴の腕を後ろ手に縛って、ベッドに転がす。この時だけは、あえてギャグを噛ませた。
 学ランの前と、内側のカッターシャツの前だけ、ボタンを外す。
 散々胸の飾りをもてあそ弄んで、克晴が根を上げそうな頃(克晴が根を上げたことは無かったけど)、ズボンの前だけを開けて、口でイかす。
 また胸を弄って、今度は後ろに挿れてやるんだ。ズボンをちょっとだけ下げて、ほとんど穿いたままだ。
 そうやって、制服でいるまま犯される恐怖を植え付けた。制服…つまり、学校なんかに救いを求めないように。これを着ている事自体が、苦痛であるように。克晴が求めていい場所は、僕の隣だけなんだから。だから制服プレイは定期的にやった。わざと思い知るように。
 ……でもそれも、僕が克晴の隣にずっといることが前提のことだった。
 ずっと一緒にいるから、他によそ見をさせなかったのに。
 
 
「ちょ、…ちょっと待てって!」
 あんまり僕が、激しく突いたから、克晴が悲鳴を上げた。
「なんだよ、変だろオッサン」
「……うるさい。ほら、足ひらけよ」
 身体をひっくり返すと、乱暴に挿入する。
「……つっ」
 顔をしか顰めて、僕を睨み付ける。僕の変貌ぶりに困惑している。
 僕はなんと言ってアメリカ行きを報告していいか、判らないでいた。こんな事から解消されて喜ぶだろう、憎まれ口もひとしおだな。それに耐える勇気が無かった。
 その分、自分だけでこの行為に没頭した。忘れないように…僕だけの克晴が、今はここにいる。誰にも触れさせていない、僕だけの…。
 克晴の股間に顔を埋めてしゃぶる、舐めて吸い上げる。
「んっ、ああ……はぁ…」
 僕の頭に手を置いて、身体を仰け反らせる。こんな声も、僕だけのものだ。
「オッサン、やめ…」
 鳴き声を唇で必死に塞ぐ。
「んんっ」
 指で後ろを追い上げる。僕を受け容れさせる為に。何度も何度もそうやって、克晴を僕に、僕を克晴に、覚え込ませた。
刻み込む、その身体と記憶に。
「あっ…ぁあっ…!」
 最後は、克晴の悲鳴しか耳には残らなかった。
 
 やがて女の子を覚えて、僕なんか無かったことにしてしまう。僕が帰ってくる頃には、隣には可愛い女の子がいる。そうしたら、僕を見たって無視だ! 無かったことにしてしまうんだから。
 嫌だ、嫌だ、嫌だ!
 
 目の前の綺麗な肢体に貪りつく。後ろから抱きしめて離さない。胸を、脇を、腹をなで回す。突き上げては高まり吐精して、またすぐ克晴を欲する。
 声も。どうすれば克晴が鳴くか、知ってる。克晴の前に手を持って行き、掌に包み込む。
「っはぁ……」
 
 
 でも──待っていて、なんて言えない。
 克晴の将来を請け負うわけにはいかないんだから。僕はもっともっと歳を取る。克晴よりずっと早く老いていく。いずれそのギャップに打ちのめされるのが、恐かったのかも知れない。
 ……僕は、逃げようとしているんだ。
 
 
 手を止めた僕を、克晴が横目で見た。その目線が、一瞬戸惑った僕を煽る。克晴の熱いモノを握りなおし、動かした。
「んっ…」
 とたんに仰け反って、体を震わす。
 
 
 克晴……。
 それでも、きみの成長の過程に僕が存在できて、嬉しかった。忘れられてしまっても、憎まれても、僕は忘れない。
 結局伝えきれなかった僕の気持ち、アメリカまで持って行こう…。
 
 
 
 ぐったりした克晴を仰向きで横たえる。頬と唇が紅色だ。苦しそうに眉をよせて、目を瞑っている。乱れた前髪を梳きながらのしかかり、首元に顔を埋めた。
「なに、まだやんの…」
 身じろぐ体を押さえつけて、僕は両腕をベッドと小さい背中の間に差し込んだ。
 まだ僕のなかに収まる身体。突っ伏したままそれを抱きしめる。息もできないほど、激しく。
 
 
 ごめん、はもう言わない。
 それはあの時一回きり。僕は覚悟を決めたから。許されるつもりは、全くないから。
 
 でも、もし、また会えたら──
 
 …その時、僕は──
 
 
 ………いっそ、このまま時が止まればいいのに。
 
 
 克晴の体に覆い被さりながら思う。
 僕はこれ以上前に進まない。克晴もこのまま、未発達のまま。このままが続いていれば、始まることも無いけど、壊れることもない。
 始まって終わってしまうより、よっぽどいい。
 ………神様、……どうか
 
 
 僕は無慈悲な神様に、つい祈ってしまった。
 そして一晩泣いた。日本を発つ前日、軽く克晴に報告した後。
 克晴はただ目を丸くして、何も言わなかった。
 


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