chapter4. lost world -落ちた天使-
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 ああぁっ──!
 あてがわれた、先生の熱いかたまりが、僕の中に入ってくる。
 激しい圧力に、僕は息が止まった。
 もの凄い熱い。探るように、ゆっくり出し入れを繰り返しながら、入ってくる。
「…………っ!」
 首を横に振って、抗った。
 ……克にぃと違う感触……痛みと気持ちいいのが、交互に僕を襲う。
 目をぎゅっと瞑って、歯を噛み締めた。
「ぅ……っ、ぅ………!」
 先生の動きに合わせて、呼吸が漏れた。
「ん……きつい。やっぱいいね。……天野君」
「…………っ」
 ひゅうひゅうと、空気を漏らす喉。
 
 昨晩は叫んだのに、なんで今は声が出ないの? なんでこんな事になるの!?
 やだ、やだ! 
 ──克にぃじゃないのに! 僕に入ってこないで!
 
 気持ちとは別に、身体がどんどん熱くなっていく。高まっていく。
「すごい……天野君のからだ……色っぽいよ……」
 桜庭先生が、腰を動かしながら僕を眺めた。
 暴れる僕の両手は、顔の両側でシーツに押しつけられてしまった。
 はぁ…っ、はぁ……っ
 荒い息が響く。
 ──身体が変だよ、僕……。克にぃじゃないのに! こんなのやだっ
 ──助けて! 助けて!
 心で叫ぶけど、誰にも届かない。涙だけが、僕の心を先生に伝えた。
「……天野君」
 それを舌で舐め取りながら、またキスをしてきた。片手を僕の股間に持って行く。
「もう一回……いこうね」
「──!!」
 先生の手のひらに握られて、僕のそこは熱くなっていった。
 後ろの気持ちいい感覚と一緒になって、僕を高める。
「ぁ────っ!!」
 首を激しく振った。
 やあっ! あぁ、あぁ……
 どうしょうもない。我慢とか、抵抗とか、そんなのは僕には無いみたいに……
 腰から突き上げてくる気持ちよさに、僕はもうどうにかなりそうだった。
「ぁぁ───ッ!!」
 その瞬間、僕は初めて知った。熱い液体が、僕の中に広がった。同時に僕も絶頂を迎えた。
 ……これだ、克にぃが言ってた“ナマ”って……!
 熱い……お尻が熱い!
 涙目で先生を見上げる。上気した先生の目が、妖しく光って僕を見ていた。
「………」
 ひゅう、と喉を鳴らす僕。ずるりと、先生が僕から出た。
「───!」
 目を瞑って、その感覚から逃げる。
 
 
 ……僕はやっと分かった……知ったんだ。
 僕の身体がおかしかったわけが。
 なぜか知ってた、先生とのキスの理由が! 
 こんな悪戯されてたなんて……
 
 ───こんな事になるなんて……! 
 
 克にぃの居ない間に、僕……酷いことされちゃった……
 
 
 涙だけが、頬を伝っていた。
 ショックでぐったりと放心状態でいると、桜庭先生が跨ったまま、動く気配があった。
 カシャッ
 何か、機械的な音も聴こえた。
「………?」
 視線をそっちに向ける。
「───!!」
 カシャッ
 僕の驚いている顔、全裸で、手足を投げ出して動けないでいる体、それを桜庭先生は、携帯のカメラで写していた。
 
 やっ──!
 ……なに、してるの!?
 驚きはおさまらない。僕の仰向けの身体は、何も隠せていない。自分の出した白いので、お腹は汚れてるし…。
「っ…………!!!」
 懸命に口を動かすけど、何も非難の言葉は出てこない。
 やめて、やめて! 僕にだって、恥ずかしい気持ちくらい、あるよ!
 腰をひねって、俯せになろうとした。
「動かないで。綺麗に撮ってあげるから」
 言いながら、僕の身体を押して仰向けに戻してしまった。逃げるために膝を立てようとして、足首を掴まれた。
「………!」
 その足元から身体を這い登って顔まで、先生は舐めるように携帯を通して、僕を覗く。
 時々シャッターの音が響いた。
 
「……この手や脚は、……とても伸びたね」
 桜庭先生は、ゆっくり喋りだした。
「……身長も。天野君は、小さいままかと思ってたのに」
 僕は首を横に振るだけだった。とにかく、やめてほしい。
「丸かった顔も、こんなにスリムになって……でも、骨は細いね」
 腰の方に目を落とす。僕は恥ずかしくて、聞きたくなかった。
「……丈太郎の方が、骨格が太い。あの子はこれからもっと伸びるよ」
 霧島君の名前を出されて、僕はびっくりした。……霧島君にも、こんなことしてるのかと思って……
「ふ…丈太郎に反応した? ……喜ぶね、あの子」
「…………?」
「天野君、……こんなところ、こうされて恥ずかしい?」
「──!!」
 僕の身体が、考えるより先に震えた。胸の尖りを指先で、摘まれたから。
「ぁ………!」
 カシャッ
「ここも、いいでしょう?」
 股間の奥……後ろの窄まりにも指で刺激した。
「っ───!」
 思わず身体を捩って、膝が上がる。
 カシャッ
 恥ずかしい部分が、丸見えで写ってしまったと思う。
 ──先生、やめて、やめて!!
 手を振って、カメラを阻止をしようとしても、無防備な局部をアップで撮ったり、泣いてる僕の顔を撮ったり、あちこち構え直して、僕に止めさせない。
 
 楽しそうに先生が喋り続ける。
「こんなとこ、丈太郎が見たら、なんて言うかな」
「!?」
「彼は、何も知らないよ。ぼくのこんなところも。……君を悪戯してたことも」
「…………」
「びっくりするだろうね。天野君がこんなに、綺麗で。……セクシーで」
 
 なに……何を言い出すの? ……桜庭先生。
 
「すらりとした手足。ぼくだけが見てるの、もったいないなあ」
「……………」
 僕はじっと、その唇が動くのを見ていた。
「天野君。────ぼくと天野君の、二人だけの時間を、大事にしようね」
 先生の優しい目が、細くなる。
「……………」
「そうでないと、……たとえば、丈太郎に教えちゃったりしたら、どうなると思う?」
「…………?」
 先生の目が、怖い………。
「彼にもこの写真をみせて、天野君がどれだけ可愛いかを、知ってもらうんだ」
「!!」
「そして、三人で遊ぶの。こうやってベッドの上でね。そうだ、丈太郎の写真も撮らなきゃね。彼も素敵な写真、撮らせてくれそうだし」
「…………」
 僕はぞっとした。
 あの必死な顔が浮かんだ。僕を元気にしようと、ホントに必死で…
「二人だけの秘密なら、この写真もぼくだけの物だよ。丈太郎の写真も要らない」
 
 ……言ったら、どうなるか……………脅してるの…?
 ───でも…克にぃだったら……克にぃなら、僕を助けてくれる……
 
「見て、天野君」
 桜庭先生が携帯を操作して、たった今撮った僕の写真を、目の前に出した。
「───ッ!!」
 僕は喉を引きつらせた。
「よく撮れているでしょう」
 先生は、にっこり微笑んだ。
 ……よくって……
 見るに堪えないその写真……そこに写っている僕は、あまりにもあられのない格好をして、恥部をさらけだしていた。
 泣き顔には涙の筋が、幾つも伝って……。
 思わず顔を上げて、信じられない気持ちで、桜庭先生を見た。にっこり笑っていて、それ以上何も言わない。
「…………」
 首を振って、僕は写真画面から顔を遠ざけた。
 
 こんなの……こんなの、克にぃが見たら……悲しむ。
 胸が張り裂けるように、痛くなった。克にぃが、悲しむ……僕のせいで……
 ……そんなこと……そんなこと…!
 
「いい子だね、天野君。ぼくの言ってることがわかったんだね」
 目を見開いて見返す僕に、先生は優しく微笑んだ。
 その微笑みは、いつも僕を癒してくれる、大好きな桜庭先生だった。
 
 そんな……先生……!!
 僕はすがる場所を、失くしてしまった。
 ………僕、どうしたらいいの!?
 
 ベッドに両手をついて、前屈みで凍り付く。握りしめたシーツの真ん中に、水滴が落ちていく。
「……天野君」
 桜庭先生は、ベッドから降りると、ゆっくり僕の横に歩いてきた。僕の身体は竦み上がって、動けない。頬に手を当てて、自分の方へ向かせた。
 先生を仰ぎ見ると、優しい目の奥に、何か違うものが光っている。
「天野君。これからは、ぼくがおいでって言ったら、ここに来なさい。……いいね?」
「…………」
「……いいね?」
 再度、訊いてくる。その声は、僕に有無を言わせなかった。
 
 ───絶対命令。
 
 見上げて見つめ合っている、先生と僕………。
 その手と首には、見えない鎖が掛けられているような気がした。
 
 
 動けない僕の唇に、無言の「約束」という口付けが降りてきた──
 


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