chapter2. beloved you  -愛しい気持ち-
1. 2. 
 
 1
 
「あ……」
 
 中のが動いた。
 
 
 ───熱い……
 
 
 お腹が、熱い。
 僕が動くたび、あれも動く。
 じっとしてても、感じる。僕の中にある。
 
「……はぁ」
 
 どうしよう。眠れない……
 
 
 
 
 
「───天野君?」
 
 
 ……あれ……先生…?
 
 ───そうか……うちじゃなくて
 ここ……ホテルだった………
 
 
「……ん…」
 後ろから抱き締められて、中に入ってる棒を動かされる。
 
 
「……先生」
 
 もうヤダ。……僕、やだ。
 
「先生……これ、外して……取っていい?」
「──────」
 
 あ……先生の目、怖い。
「……お願い……つらいの……」
 
「……つらい? どんなふうに?」
 怖かった先生が、微笑んだ。
 
「せっかくお風呂に入って、挿れ直したのに。何がつらいの? 言ってみて」
 何も着ていない僕の足を、後ろから撫で回す。
「……あ…それ、ヤ…」
 時々指が、お尻の中心を触る。
「どんなふうに、いや?」
「………………」
 僕は恥ずかしくて、俯いた。
 先生の腕に抱え込まれて、動けない。ほっぺたをシーツに擦りつけた。
 
「……ん……ぁあ」
 指が、中に入れた棒を動かす。
「あ…やぁ……せんせ……やめて」
「嫌じゃない……ほんとは、嫌じゃないんだよ」
「…………?」
「気持ちイイの。身体は悦んでいるんだ。なのに、それを受け入れようとしないから、辛いんだよ」
 先生の指が、あちこち這い回る。
「よろこんで……ない」
 僕、ほんとにヤなのに……。気持ちよくなんか、ないのに……。
「でも、ほら。ここ、こんなになってるでしょ」
「ぁ……ん……」
 僕の前のが、なんでかさっきから、たっちゃってて……
 先生の絡んでくる指が、べとべとになっていた。
 
「君の身体は、これが好きなんだよ。天野君は淫乱なんだ。ぼくがそれを教えてあげる」
 
「…………」
 いんらんって……よくわかんないけど、誉め言葉じゃないのはわかる。
 それはすごい、恥ずかしことだと思う。
「ちがう……」
「…違わないよ。……ほら、もっと声出して。天野君は、ここが感じるんだよね」
 そう言いながら、前の先っぽだけ、弄りだした。
「あっ……! …やぁああッ」
 お腹に刺激が強すぎて、じっとしていられない。腰をよじったら、お尻の中の棒が、また動いた。
 
「せんせ……許して……」
「……いかせて、でしょう?」
「……ちがう……ちがう……」
 僕は必死に首を振った。押さえられた腕の中で、身体がどんどん熱くなっていく。
 
「天野君。……君は、克晴に大事にされてたけど」
「え……?」
 急な言葉に、もがくのを止めた。
 
「ぼくに開拓されて、どんどん刺激を覚えているから。……もう、以前のようなセックスじゃ、物足りないはずだよ」
 はぁはぁと息を弾ませる僕に、耳元でクスリと笑う。
「……………」
「克晴が戻ってきても、つまんないエッチしかしてくれなかったら、どうする?」
「……………!」
 
 ───どうって……戻ってきたら……僕、それだけで嬉しい……
 
「もっとイかせてって、言えるの?」
「んぁ……はぁ……」
 しつこく先の方だけ触るから、変な声が出ちゃう。
「……言わなくたって、克にぃは……こんなひどいこと、……しない」
「────!」
 耳元で、先生の息を呑む音が聞こえた。
「まだそんな事を言う……。ぼくがもっと、教えてあげる。やらしい君のカラダのこと」
「あッ……も……やぁ……!」
 後ろの棒を出し入れされた。お腹の中がぞくぞくする。背中まで伝ってくる。
 前は先端だけに、すごい刺激。いっそもっと、全部を触ってほしいのに。
「あ…あぁ……んっ……」
 
 ……疼く…焦れったい…そこだけいじらないで………
 
「……先生、ごめんなさ……いかせて……もう、いかせて……!」
 吊り上がった先生の目が怖い。
 暗く光る瞳が、僕を離さない。
 扱かれて出し入れされて……もう、頭は何も考えられない。
 
 ……いきたいの……いきたいの………いかせて……!
 
「せんせ……せんせい………お願い……」
「素敵……綺麗だよ、天野君……もっと……もっと、声出して」
 
「あ……あああぁぁ……ッ!!」
 
 
 
 
 
 
 
「──────いやああぁぁッ!!」
 
 
 絶叫して、飛び起きていた。
 
「はぁッ……はぁッ……」
 自分の悲鳴と喘ぎ声が、頭の中でガンガン響いてる。
 
 
 ────夢?
 
 
 霞む目で、周りを見回した。
 暗がりに広がるのは、青い掛布と白いシーツ。
 ……僕の部屋。
 
 よかった。……先生がいない。
 深く息を吐き出しながら、突いた両手でシーツを握った。
 ───身体が変……。
 まだ触られてるみたいに……あれが、まだ入ってるみたいに……。
「うぁ……」
 汗をびっしょり掻いていた。額や頬を伝っていくのが分かる。あごの先から、ポタポタとシーツに落ちてく。涙も落ちてた。
 
 ……僕、すごい先生に言い返してた。
 あんな風に言えたら、いいのに。
 もっと……もっと、もっと。
「……克にぃ」
 先生の口から、その名前が出るとは思わなかった。あんまりびっくりしたから、夢にまで見たんだ。
『克にぃは、こんなひどいこと、……しない!』
 あの時ホテルで、それだけはちゃんと、言い返した。
 ……するはずない。
 克にぃとのナイショゴトは……二人が気持ち良くなるための、時間だったんだから。
 絶対僕に、無理させなかった。……だから僕は、変われたんだ。
 ───先生なんかとは、全然違う!!
 僕は体を自分で抱き締めながら、ベッドに倒れ込んだ。
 自分の体温の残る掛布が、克にぃの温もりみたいで、頬を擦り付けて泣いた。
 
 あの変な棒を挿れられて、凄い嫌だったのに。僕の身体はよろこんでいると、先生は繰り返しそう言っていた。
 悔しいのに、実際の僕は何も言い返せなかった。……怖くて。
 
 でも、2本目のはキツくて、挿れ直すのができなくて…。
 許されたのは、ほんとによかった……。あの後から、先生は僕のことをそんなふうに、言い始めたんだ。
 
『もうぼくなしじゃ、いられないよ。君はこれが好きなんだから……克にいじゃ、物足りないんだから』
 
 ……物足りないって、なに……?
 今がいいなんて、全然思ってないのに。足りないのは、克にぃなのに。
 
『君が好き……天野君が好き……』
 耳元でずっと囁き続ける、先生の声。
 僕は嫌い。だいっ嫌い。
 
 ……なのに、あの声を聴くと…
 胸が締め付けられるみたいに、苦しくなるのは……なんでなのかな……
 
 
 
「……はぁ」
 寝なきゃ。何時なんだろう。
 薄明るくなってきたカーテンの向こうを、ぼんやり眺めた。
 ……起きたらまた、先生に会わなきゃいけないんだ……
 
 
 
 
 
 
 
「よう、お嬢ちゃん!」
 
 あの朝、夏休みも最後の頃。
 先生の車に行くために、家を出たところだった。
 いきなり後ろから掛けられた声に、僕はゾッとした。
 まさかと思ったけど、その一声に、全身が動かなくなった。
 
 ────平林健二!!
 
 学校ならともかく、外では絶対、会いたくなかった。
 こんな朝、早くに……まさか、こんな所で声を聞くなんて!
 
「おぅ、こっち向けよ!」
「なに、固まってんの、コイツ」
 他の声もする。
「─────!」
 恐怖が、身体を動かした。
 僕は振り向きもせず、走って逃げようとした。掴まったら、何をされるかわからない。
 ──先生が待ってる。行かなくちゃ……!
 
「……あッ」
 腕を掴まれた。凄い力!
「待てよ、どこ行くんだよ?」
「いきなり逃げるなよ~」
 取り囲まれて、強引に引っ張られた。
「痛……離して……!」
 向き合わされた平林君の顔は、前よりずっと上の方にあって……
「おまえ、相変わらず女みたいだな」
 見下ろしてきた凶悪さは、他の中学生と変わりないように見えた。
 
 ─────怖い……!
 
「震えてるぜ、コイツ」
「かわい~」
 気持ち悪い笑い方で、次々僕を覗き込む。
 5、6人いるその人たちは大きくて、まるで高い壁の様だった。───あの時の恐怖が、蘇った。
 ………やだ……怖いよ……
 一瞬、霧島君の顔が浮かんだ。もう、助けなんか来ないのに……
 
「僕……用があるから……離して」
 先生が待ってる。
 先生も嫌だけど、こんな平林君達より、よっぽどいい。
 ……自分で、逃げなきゃ!!
「はは、可愛い声」
「喋るじゃん、コイツ。健二、啼かせてみろよ」
 両腕をそれぞれつかんで、身体ごと引きずって、何処かへ連れて行こうとする。
「やっ! いやぁッ……離して…………離して!!」
「うるせぇよ!」
「──痛ッ!」
 いきなり頭を殴られた。
 斜めから振り下ろしてきた衝撃で、クラッと目眩がした。
「…………ッ!」
 
「おい、またあそこがいいんじゃね?」
「朝っぱらからあんなとこ、人来ねーし」
「オレ、スゲーラッキー! 噂のコ、やっと見れたよ」
 
 ……また、あそこ……やっぱり、同じコトするんだ!
 
 朝の広場の茂みなんて、本当に人気がない。
 あの時はまだ、何も分からなくて……ただ痛かった。
 でも、今はわかる。
 あんなコトされるのが、どんなに恥ずかしくて、酷いことで、その後が辛いか……
「やだ…平林君! ……なんで? ……なんでこんなこと…!」
 藻掻きながら、睨み付けた。
「は……なんで?」
 草むらに倒された僕に、踏みつけるようにのし掛かってきた。
「したいからに、決まってんじゃねーか」
 他の手が、どんどん服を脱がしていく。
「あ……やだよぉ」
 ズボンを下ろされてパンツに手が掛かって、僕は泣きそうになった。
 
「そうじゃなくて…………なんで、僕なの!?」
 
 いつも思ってた。
 僕は克にぃだけでいいのに。
 
 他なんか、いらない。
 誰一人、要らない………
 
 なのに、克にぃがいなくなったとたん、いろんな事が起きて。
 ………先生だって……
 何されたって、何言われたって、僕が必要としてるのはただ一人だけなのに。
 なのに、何でこんな僕なんかに、かまうの。
 何で、放っておいてくれないの……?
 
「その目が、気に入らねぇんだよ!」
「あッ!」
 頬を平手打ちされた。初めての衝撃で、心臓まで痛かった。
「チビで女のクセに、こっちのことガンチューにねぇって顔で、見やがってよッ!」
「─────」
「バカにしてんじゃねえよ!」
「ひ……ッ!」
 パンッという音が、また耳に響いた。
 
 
 ───痛い………怖いよ……!!
 


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