chapter2. beloved you  -愛しい気持ち-
1. 2.
 
 2
 
「おい、ケンジ! バカか、ホントに泣かせてんじゃねーよ!」
「可愛い顔が、腫れちゃってんじゃん」
「お前のだけじゃねーんだ。退けよ」
 
 一番身体の大きい人が、僕に跨ってきた。
「よお、久しぶり。俺んこと、覚えてるよな?」
「……………」
 あの時、ポーチの前で立っていた僕に、声を掛けてきた人だ。
 一番酷いことされた……
「─────」
 忘れるわけ無い。怖くて見上げたまま、頷くこともできなかった。
「確かに、なんつーかムカツク目、してんな」
 笑っていた顔が急に睨み付けてきて、またゾッとなった。
「でしょ? 伸也さん」
「ふん、おもしれー。……さんざん啼かしてやるか」
 
「……や」
 
 抗ったけど、パンツも下ろされた。
 ………こんな外で、何人もいる前で……!
「やぁ……見ないでっ…」
 嫌がるほど、みんなに見せびらかすように、足を広げられた。
 取り囲んで、覗きこむ。
「かわいーなー。勃つの?」
「触ってみろよ」
 乱暴に掴まれて、扱かれた。
「やっ……痛い!」
 叫んだ途端、誰かの手のひらで口を塞がれてしまった。
「んん……ッ」
 ──え? ……やッ…
 指まで入ってきた。お尻にむりやり突っ込んでくる。
「んんっ……ん───ッ!!」
「お、すげ…中で締めてくるぜ」
 激しく出し入れされ、中を掻き回されて、前を扱かれ続けた。
 
「ん……んっ…んっ…」
 
「うぉ……勃ってきた」
 興奮した声でそう言われて、僕は恥ずかしくて真っ赤になった。
 だって……先生に触られて、イクようにいじられて、慣らされて。
 同じことされたら、………そうなっちゃうよ。
 
「もっと、扱けよ」
「……やってるって…濡れてるぜ、コイツ」
 
「う………」
 言われるほど恥ずかしくて、悔しくて、目をギュッとつぶった。
 こんな僕、嫌いだ! ……涙がにじみ出てくる。耳の横へポロポロと落ちた。
 先生が僕にした“カイタク”って……これなの? 嫌なのに、身体が勝手に反応して、熱くなっていく。
 
「ん……ん……ぁあ、…んぁあ……」
 手のひらの隙間から、恥ずかしい声が漏れちゃう。
 いつまでも動く手に限界を感じて、目の前の人を見た。ほんとにもう、やめてほしくて。
「…………!」
 興奮した顔で、僕をジッと見ていた。周りの人たちも、もう騒いでない。
 
「おい…色っぽいな……コイツ」
「ヤベ……俺、してぇ」
「シンヤ、早く……」
「まあ、待てよ。一回コイツ、イかせる」
 ニヤリと笑って、手を早めた。
「んん──っ!」
 ……やぁ! ほんとに嫌だ……ヤダヤダ! 
 ──恥ずかしいよ、出すの見られるなんてっ!!
 必死に首を振って嫌がったけど、やめてくれなかった。
「ああっ……ぁあん……!」
 絶頂に導かれて、体中が震えた。
 
 
 お腹に温かい感触……酷い……ひどいよ……
「ぅ……ひっく……」
 ショックで泣き出した僕の顔の上に、平林君が跨ってきた。
「口、開けろよ」
「…………!?」
「自分だけ気持ちよくしてもらって、終わりなんて思うなよ」
「……や」
 僕の顎を押さえ付けて、無理矢理こじ開ける。
 ──え… ───ちょっと待って、やだ!
 平林君の顔は、さっきの人と同じ顔をしていた。興奮して、目がギラギラ光って………
 
「おまえ、知ってるか? オンナは好きな男の、しゃぶるんだぜ」
「──グ……」
 口の中に熱い塊を押し込まれて、咽せた。
「………その目、気にいらねぇな、マジで」
 髪の毛を掴んで揺さぶられた。
 ───痛い! ……なんで……なんで? ただ見上げた、だけなのに…!
 
「ははは!」
 リーダーの人が、笑い出した。
「健二、それ反対じゃねえ? お前がソイツを、好きなんだよ!」
「………伸也さん」
「お前の執着振り、尋常じゃねえじゃん。コイツ見てわかった!」
「…………」
「お前、マジで相手にされてねーのな!」
 
「──── チッ」
 笑い声の中、平林君は真っ赤になって、怖い顔で見下ろしてきた。
「テメエのせいで、ハジ掻かされたじゃねぇかッ!」
「グッ……」
 押し付けてきた塊を、動かし始めた。
 気持ち悪い……! これ、やだ!
 克にぃに喜んで欲しくて、したことはあったけど……あれとは、全然違う。
 ……苦しい……苦しい!!
「……ぅッ」
 さっきよりもっと抵抗したら、また殴られた。
 
「おい、おまえを好きだって言ってやってんだ!」
 息を荒くしながら、平林君は、ゾッとするような冷たい眼で笑った。
「喜べよ、ちゃんとしゃぶれ!」
 ─────うああッ!
 ノドの奥に当たるくらい突っ込んでくる。酷い臭い! 吐き気と気持ち悪さで、窒息しそうだった。
「んんぁ………ッ!」
 誰かの手が、またお尻をいじりだした。
「やぁ……あああ!」
「ヤじゃねえよ! 本当は気持ちいいんだろ?」
 笑い声が聞こえる。
 平林君が、開き直ったように何度も繰り返す。
「喜べよ……好きって言ってやってんだ!」
 
 僕はそれを言われるたびに、先生を思い出した。
『好き……天野君が好き……』
 そう言って、同じことをする。身体をいじくる。
 ───みんな同じ……好きなら、なにやってもいいの!?
 胸が潰れそうに、痛かった。
 高められて熱くなっていく身体とは反対に、心が悲しみで冷えていく。
 僕のことなんか、どうでもいいんだ。みんな自分だけで…。
 
 
 ───愛してる。メグ……大好きだよ……。
 
 克にぃが言ってくれるたび、僕は幸せだった。
 僕も……僕も……
 そう思って、僕も言ってた。
 
 ───克にぃ、大好き……
 
 あの言葉は、何? 同じ“好き”なのに、どうしてこんなに違うの────
 
 
 
 
 
「───天野君!?」
 
 逃げることもできなくて、何もかもされるがまま、僕は泣き続けていた。
 気持ちがあの暗い淵に落ちかけたとき、急に抱き締められた。
 
 ──────!!
 
 だれ? ……力強い腕……
 ……克にぃかと思った。一瞬。……すっごい優しかったから。
 
 
 
「……なんてことを!」
 
 
 
 ───桜庭……先生……?
 ……怒鳴って……震えて……抱き締める腕が、痛いくらい。
「せんせ……」
 喉が掠れて、声が出ない。
 “先生も嫌い”なんて、言っていられない。
 ……怖かった……怖かったよぉ……! 僕はその胸にしがみついて、泣いた。
 
「うぁあッ…!!」
 
 変な音と、呻き声。先生を通して、すごい衝撃がきた。
 ────何!?
 薄目を開けて見たそこには、先生の胸……顎……真っ赤な血……
「──────!!」
 僕を抱き込んだまま、動かない。殴られたり蹴られたりしながら、蹲って丸くなっている。
 僕を庇って……!?
 
「……ど…して……」
 
 酷いケガなんだ……血がすごい。
 なんでこんなケガするほど、我慢して……先生、大人なのに、殴り返さないの…?
 
 思わず呟いた言葉に、先生は驚いたように僕を見つめた。
 傷付いたような、時々みせるあの顔で……
 
 ───先生!
 
 胸が凄く痛くなった。
『君が好きだよ……』
 あの声を聞く時みたいに、心臓が締め付けられた。
 ……わからないんだ?
 そう言っていた。
 ───こんなに好きなのに、わからないんだ───
 
 先生の声、いつも真剣で……悲しげで……それを聞くの、辛かった。
 
 あの声は、心に届くから……
 
 
 
 
 
 
「先生……ケガ……ひどい」
「……平気だよ」
「血が……血が……」
「それより、アイツらに、何をされた?」
 
 桜庭先生は、みんなを追っ払うと、僕の身体を心配してきた。
 
 ……先生、それどころじゃないよ。
 こんな大ケガして……痛そうで……病院行かなきゃ……
 
「………………」
 僕はさっき、先生とアイツらを、一緒に憎んでいた。
 だから、先生に助けなんか期待してなかったんだ。
 だって、やってることは……たぶん、同じ……やっぱりそう思うと、先生が嫌い。
 ………なのに……!
 僕はポロポロ涙をこぼすばっかりで、何も喋れなかった。
 
「……天野君!」
 必死の声で、聞いてくる。
 血が流れ続けてる。痛そうに顔を歪めて…それなのに、僕の心配ばかりする。
 酷いよ、先生……時々見せる先生の優しさ、僕……つらい。
 
 どうしていいかわからなくて、僕は泣き続けた。
 僕のせいで、こんな怪我させちゃって。
 病院行かなきゃ。着いてって、何か手伝いたかった。
 僕に出来ることあったら、何かしなきゃ……
 なのに、僕のことばっか心配して……
 流れ続ける血を見てたら、先生が死んじゃうんじゃないかと思うくらいだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 ───先生に、助けられた。
 ───僕のせいで、あんな怪我しちゃったんだから…。
 
 
 僕は、新学期が始まってから、自分で保健室に通った。
 治るまでは、一緒にいなきゃいけない気がして……
 
 真っ白い包帯……いつもは僕たちの手当をする先生が、そんなのグルグル巻いて、微笑んでる。
 
 
 
「……痛い?」
 
 痛いから無理して笑顔を作ってる気がして、聞いちゃった。
 怪我してからはベッドには行かないで、先生の机で、並んでお茶を飲んでいた。
 
「平気だよ。もう心配しないで。それより、絶対内緒だからね」
 僕の手から湯飲みを受け取ると、また微笑む。
 
「……なんで?」
 あの時も、思ったんだ。
 ………あんなことする平林君達、ほっといていいの?
 ………先生は、許すの……?
「騒いだら、君のことが出てきちゃうでしょ」
 
「……僕のせい?」
 泣きそうな僕を、怪我してない方の手で抱き寄せた。
「“せい”じゃなくて、“ため”だよ」
「………」
「君のため、……ぼくのため……」
 胸に抱え込んで、髪を撫でてくれる。
「充分に脅しておいたから……それでいいんだ」
「…………」
「ぼくは、そっちのほうが心配だった……今後また、手を出してこないようにね」
 
 ……先生
 
「……ありがとう…ございました」
「……うん」
 優しく優しく、撫でてくれる。
 好きだった頃の先生のように……
 これぐらいで許されているなら、僕も平気なのに…。
 
 
 
 
 でも、包帯が少しずつ取れ出す頃、先生の手はまた、僕を触りだした。
 
 
「………先生……好きと、愛してるって、……どう違うの?」
 
 
 どうしてもわからなくて。
 
 克にぃが、いつも言ってくれてた。
 ───愛してる……愛してる……
 その言葉は、ほんとに優しくて。
 僕を包んで、僕のことばっかり考えて……
 だから僕も、克にぃのことばっかり考えて……
 胸が、熱くなる。思い出すだけで、幸せに包まれる。
 
「……先生の“好き”と、どう違うの」
 時々重なる、先生の“好き”。撫でてくれる手は、同じように優しくて………
 
 
 
 ベッドに腰掛けて、膝の間に座らされていた。シャツのボタンを開けて、胸を触ってくる。
 それはもう、僕の嫌いな“好き”を、押し付けてくる手。それを眺めながら、訊いていた。
 
「……………」
 先生は触るのをやめて、正面に向かい合うように僕を座り直させた。
 
 
「───どうして天野君は、克にいじゃないと……だめなの?」
「……え?」
 
 
 反対に聞き返されて、驚いた。そんなこと、考えたこともなかった。
 ダメって───
 克にぃ以外、僕が誰かを好きになるなんて……
 
 でも、だから……先生が真剣な声で僕を“好き”って言うの、聞きたくなかった。
 言われたって、どうしようもないのに……
 
 
 
「それと、同じだよ……たぶん」
 悲しい顔で微笑む。
「……わかんない」
 ───先生の答え、時々すごく難しくて、わかんない。
 
「うん……ぼくも……」
 
 
「ん……」
 顎を掬われて、深い深いキス。
「うん? 震えてるね。……寒い?」
「……ううん」
 
 
 
 ……それは、先生のせい。
 また、あの日々が戻ってくる不安が、僕の唇を震わせていた。
 
 
 
 でも僕は、決心していた。
 勇気を出さなきゃ。
 
 克にぃに教えてもらった“勇気”。
 僕はもう、それが解る歳になったはずだから。
 それで、自分を守らなきゃ────
 


NEXT(cp3へ) /1部/2部/3部/4部/Novel