SIDE 2
偶然だった。
クリスマスたけなわの、賑やかな夜。一人ウィンドウを見ながらふらついていると、アイツが向こうから歩いてきた。
同じようなぶらつき方は…まさかと思ったけど、独り身だった。
部屋に通してもらって、緊張しっぱなしだ。
さっぱりとした部屋ん中は、いかにも冬吾らしかった。
───でも……なんで、ピンクのソファー…?
テレビと机と…他に何もないだけに、異様に目立っている。
好きに座れと言われて、その手前に腰を下ろした。
「…………」
背後で冷蔵庫を漁ったり、ゴソゴソ動き回る冬吾。
あいつがいつも座っているのかと思ったら、何故かそこには座れなくて。
10年ぶりか…
オレが急に引っ越して……そのまま逢えなくなった。
それが突然、想像以上に格好良くなって、現れやがった。
なんだあの脚の長さ…ガタイもでかいし。……声もいい。
オレは…冬吾に憧れてたから、新しい地で自分を変えようと、いろいろ頑張ってみていた。
クールで格好良くを目指したかった……てんで、駄目だったけど。
───その理想の塊が、直ぐそこにいる。
逢えて嬉しいなんて、照れて言えなくて。
まともに顔も見れないまま、心にもない憎まれ口ばかりを叩いていた。
「酒、飲むか?」
「…いらない」
聞かれて、咄嗟に断ってしまった。……本当は飲めるけど…酔うのがなんか…怖い。
「あっそ」
変わらない、あっさりした返答で、オレの後ろに座った。
……うわ
長い脚が背中に当たる。
ドキドキし出した心臓の音が、聴こえてしまいそうで……身動ぎ一つ、出来なかった。
───オレも…こんなとこ、変わってないや。
いつも冬吾の前では緊張してしまい、素直な感情が出せなくて、困っていた。
冬吾はなんでもはっきりモノを言い、ずばっと行動する。
オレの苦悩なんかそっちのけで、こんな風にぴたっとくっついたり、他の連中とどっか行っちゃったり。
───でも、今は二人っきりなんだ……
偶然一人暮らしを始めたこの街で、冬吾に出会えたことに……大感謝する思いだった。
クリスマスの奇跡かも、なんて。少女漫画みたいなこと、考えてみたり。
でも、そう思うとこのチャンス――逃したくない気がした。
そこでふと思った。
……チャンスって……?
何がしたいのかは、はっきり判らなかった。
「眼鏡掛けたんだ?」
後ろから冬吾が訊いてきた。低すぎない、心地良い声だな……
顔が見たくなって振り向いたら、すぐ近くにオレを見つめる眼。
───ドキン
寝そべって、片肘を付いている格好が、妙に男らしい。
……冬吾こそ、眼鏡なんて。似合っていて、これがまたツボなんだけど。
素顔が見たくなった。
「交換してみようよ」
照れくさいから行動は迅速に。パッと眼鏡を奪い取った素顔に、またドキリとした。
……ヤバイ。
……ナニが?
判らないけど、心がそう言った。
冬吾の白フレーム眼鏡…ドキドキしながら掛けてみた。上着を借りるような気持ちに、ちょっと似ている。
……あれ…ちっとも見えない。
「これ、伊達かよ?」
本気でそう思った。
ファッションで眼鏡を掛けられるヤツが、羨ましい。オレはレンズが特殊だから、フレーム交換すらなかなかできないんだ。
「お前のに比べたら、伊達みたいなもんだな」
気の毒そうに溜息を吐きながら、眼鏡を返してくれた。
それを受け取ろうとして、よく見えなくて困った。取り落とすわけには、いかないから。
そしたらいきなり、ふわり…
鼻に暖かい息がかかって、ぼやけた冬吾の顔がUPになった。
「……何」
驚きすぎて、固まった。
冬吾の息……興奮してしまった。
「おま…色っぽいな」
冬吾も当惑したような声で、呟いてくる。
色っぽい………その言葉、本当は嫌いだった。……でも今、喜んだ自分が居た。
……なんで?
受け取った眼鏡を掛けて、世界が戻ってきた。やっぱ見えないと不安だから、ちょっと落ち着いた。
それにしても、ろくな会話ができていない。オレはぎこちなさ過ぎる自分を、呪った。
なんか、いろいろ積もる話しがあるはずなのに。
空白の10年間、お互いにいくらでも語れるはずだ。
でも……何を聞けば良いんだろう。…オレは、冬吾のナニを知りたいんだ?
助け船のように、冬吾からまた話しかけてくれた。
「なぁ…なんでお前、そんなに変わっちまったんだ?」
「………なんでって?」
訊かれた意味がわからない。こんなに当時と変わらない、後ろ向きなのに……
「その髪…服…おまえらしくない」
言い淀むようにして呟やかれた言葉には、ショックを受けた。
冬吾みたいになりたくて、男っぽい服を漁っては似合わないとバカにされて。
自分が解らなくて、やっと辿り着いた、オレなりのスタイルだった。
……これも、似合わないのか。
「うわっ…?」
落ち込んだ瞬間、頭をわしづかみにして、髪をぐちゃぐちゃにされた。
「ちょ…とうご…」
脚を絡められて、めっちゃ密着!
直ぐ耳元で、カッコイイ声が聞こえる。大きな手が、頭から肩に下がっていった。
……う…?
撫で回す。背中、肩、首…胸……熱い。
手の平の熱が、ニットを通して伝わってきた。
ヤバイ……なに、この感覚。
体の奥底からも熱が湧いた。
激しい心音。呼吸も荒くなってしまう。
「お!」
「あ!」
同時に叫んでいた。
「おま…これ、何だ」
「やめ……」
胸を撫でられた瞬間、ぞわりと快感が走った。そのままソコを摘み出す。
面白いモノでも発見したみたいに、執拗に。
オレ自身、そこがこんなに感じるなんて思わなくて、すごい…恥ずかしい……
「乳首か、これ!?」
「……あ……あほか! ドスケベッ!!!」
さすがに直球で言われて、ひっくり返った。
恥ずかし過ぎて耐えられない。叫ぶと同時に、腕が動いていた。
でも肘鉄はむなしく宙を切って、反対にもっと胸を覗き込まれた。
そして、なんの迷いもなく、手が滑り込んできた。
「───ひゃあ!」
「うわ!」
ダイレクトな指の感触……ビックリしてまた悲鳴をあげてしまった。同時に冬吾まで叫んでいる。
感動したように呻きながら、直接胸を撫で回す。
さっきの比じゃなかった。
直接逞しい手が、オレの胸を触っている。その指が乳首を摘んでは、さわさわと先っちょだけを撫でる。
「あ、あ、あ…」
その度、ずきんずきんと快感が走って、身体が震えた。
「わりぃ…俺、すっげ…気持ち良いんだけど…」
興奮を抑えきれない、低い声……
───わりぃ、なんて……オレも、めっちゃ気持ち良いし……
「…んっ…んっ……」
返事のしようがない。変なこと口走らないように、我慢した。
「マジ、わり…俺、止まんねぇ」
もう一度そう言うと、服をたくし上げて、もっと大胆に触ってきた。手の平全体で突起の先を転がす。
「ああッ…あああぁ…!」
気持ちよすぎて、抱えられた腕の中で、思いっきりよがってしまった。自分の出した喘ぎ声に呆れた。
冬吾もビックリして、愛撫をやめてしまった。
いきなり止まってしまった、快感……
放り出された熱が、下半身でじくじく言っている。
……ヤバイ。
なんでこんなことになったんだ?
身体弄られて、普通なら怒るよな。……別の男を想像して、うっとなった。冬吾じゃなかったら、絶対ごめんだ……
色々なことがグルグル回って、最後はそこに行き着いた。
───もっとして欲しい…冬吾に触って欲しい…
でも……それは流石に、言葉に出来なくて。
ただ、見つめた。
冬吾だって、興奮している。オレを色っぽいって言った…倒錯してるんだ。
……挑発してやる。
そんな気持ちが混じっていた。
オレを見て興奮してるって…そう考えたら、嬉しくて。
それなのに、呆れた声でとんでもないことを、指摘されてしまった。
「勃っちまったのか…?」
自分で気が付いてなかった、まさか”気持ちいい”がこんな所に現れてるなんて。
「冬吾の、せいだろ!」
慌てて膝を抱えて隠した。
「……気持ちよかった?」
「─────」
こんな股間膨らませて、イイエ、なんてウソは白々しい。───でも、ハイも、恥ずかしくて言えるかよ。
それより、止めないで欲しかった……
まだそんな燻りを抱えて睨んだオレに、冬吾はどえらいモノを見せてくれた。
「隠すなよ……俺も、デカくなってんだ。おあいこだって」
「─────」
脚を広げて見せた、目の前にある冬吾の股間……オレの比じゃないデッカイ膨らみ。
………こいつ……こっちも凄い育ってる。
ナニが詰まっているんだというソコに、目が釘付けになってしまった。
………ヤバイ…
興奮している自分に、気が付いた。
冬吾のナニもかもに、いちいちときめいて……オレ、どうしたんだ……?
───もう、恋かも知れない
そう気付いたのは、冬吾の一言でだった。
「な……クリスマスだし……恋人ごっこ、しようぜ」
「──────」
時々見せる、何かを押し殺したような気配。真剣な目が、オレの近くまで下りてきて、じっと見つめてくる。それに見惚れながら、静かに言い出したその言葉を、心で反芻した。
………恋人…ごっこ。
ホンモノの恋人には、なれない。……それはそうだ…男同士だもんな。
……でも、オレ……冬吾が好き。それに気が付いてしまった。
この気持ち、昔から持ってた。
なんだか判らなくて、それでぎくしゃくしていたんだ。
こいつ、それなのに……オレ相手によく、「デートゴッコ」をしていた。
オレは、子供ながらに必死に平静を装って、付き合ってやっている振りをしていた。
懐かしくて、思わず笑ってしまった。
「……どっちが、オンナ役?」
敢えて聞いてみた。
今日はクリスマス。
せっかくの10年ぶりの再会の奇跡に、ちょっとだけオレも勇気を出してみよう。
これで最後でも……今は恋人になれるから。
駆け引きのような、緊張感があった。
お互いに無言のままで、見つめ合う。
「お前!」
期待通りに、冬吾は乗ってきた。子供のゴッコじゃない。大人のエッチゴッコだ。
「……ん」
後ろから抱えられて、耳に口づけ。甘噛みされた。息が熱い……
やば……愛撫、上手い────
舌先で耳たぶを舐めたり、首筋まで這わせたり、ソコで吸い付いたり。
そうしながら、また大きな手が胸を撫で出した。
「ん…」
ビクンと、腰が跳ねる。
乳首がそんなに好きかってくらい、攻めてくる。
───あ…あッ…
今度は、いきなり止めたりしない。
いつまでも胸を弄られて、下から湧き上がってくる焦れったい感覚に、腰を揺らした。
「ん…」
つい、声で催促……
でも、その先って……どうなるんだ…この場合?
戸惑った瞬間、逞しい手が、オレのジッパーを下げた。
「あ…」
解放されて、溜息……と、不安。
やっぱ、恥ずかしい。
勃起してるの、見られるなんて……急激にこの場から逃げ出したくなった。
でも冬吾の手は、迷わずに下着の中に入ってきた。
───うわ……!
熱い。
自分も、それを握る手のひらも。
デッカイ手が、オレを包んで上下しだした。
───!!
「あ……あ……」
想像を絶する、気持ちよさ…
指は時々亀頭を撫でたり、鈴口を擦ったり……ツボを突いてくる。
その度、声を上げてしまう。
オレは覚悟を決めて、大きな胸に背中を預けた。
「ハァ…ハァ…」
耳元でも、熱い吐息。ごくり…と生唾を飲むのが聞こえた。
……そんな気配にさえ、男らしさを感じるなんて。オレ……いよいよ病気かも。
扱く手がどんどん早まる。それでも痛くはしないから、オレのは愛液まみれで……ヤラシイ音を立てていた。
恥ずかしい…
でもそれ以上に、気持ちよくて。
湧き上がってくる快感に 酔った。
「……気持ちいいか?」
心配げに、上から声が降ってきた。
目を上げると、逆さの冬吾。頬が赤くて、目が輝いてる。
「…………」
オレの悶えてる顔も、全部見られてた……やっぱ、恥ずかしくて、返事ができない。
でも止められたら、イヤだから。
───冬吾、最高……
微笑みで、答えた。
射精感を感じて、また焦った。出すとこ見られるのは、何よりも恥ずかしい。
でも……オレも後で見るし。ちらりと自分に言い訳して、快感に身を任せた。
「あ、あ、………いくいく…いく……!」
───ああぁ…ッ!
何度も吐精して、出し切るまでゆっくりと扱かれた。
「も…いい…」
めっちゃ上手い……いつもこんなオナニーしてんのか…脱力しながら、そんなことを思ってしまった。
そのまま寝てしまいたい、疲労感が襲ってきた。
綺麗に拭いてくれた冬吾が、横に座ってオレを眺めている。
───冬吾…出してないじゃん
それに気が付いて、手を伸ばした。
これ…扱き甲斐がありそうだな………ちょっと冷や汗。
そして、寂しい気持ち。……恋人ごっこが終わってしまう。
でも冬吾は言ってくれた。
「こんど、よろしくな」
───今度…これで終わりじゃないんだ。
そう思ったら嬉しくて、
「うん」
オレは素直に、返事ができていた。
クリスマスの奇跡は、終わらない。
オレは変われるかな…もっと素直になれるかな……
これ以上のエッチなど、あることも知らないで……
オレは、クリスマスの奇跡に感謝しながら、眠りに落ちた。
サンキュー、クリスマス。
-Happy Merry Christmas-