1.
冬吾とヤバイことになってから4日。
オレはあの時照れ臭くて、さっさと翌朝、帰ってしまった。
でもその日から、冬吾は毎日携帯を掛けてくる。
「今日も会おうぜ」
「一緒にメシ食おう」
何かと理由を付けて。
オレは「他に用はないし…」と仕方ない振りをして、ついて回っていた。
そしていつもなし崩しに冬吾の部屋へ行って、扱きあった。
再度アイツんちに行った時は、改めて”恋人ゴッコの続きしようぜ”なんて言ったわけじゃなかった。
オレは気恥ずかしいし、アイツは…冬吾は、そんなんすっ飛ばして背中から抱きしめてきた。
「ちょ…」
「嫌か?」
……嫌じゃない。
「ん?」
顔が熱くなる。耳に息が。
「うるさい、訊くな」
激しく照れくさい。あんな痴態見せたんだって思い出すと……覚悟が。
「今日はオレが先。……前回のお返しだ」
そして、イチモツをナマで目にした時は、息をのんだ。
やっぱデカい…
奴だけソファーに座ってて。目前のそれはナニが飛び出てきたのかと思った。
手を伸ばして握ってみる。熱さと硬さに、心臓が壊れるほど高鳴った。
そっと上下してみる。
「…ん」
思わぬ吐息が首筋にきて、焦った。顔を寄せ合っていた。
目が合う。やらしい顔した…カッコイイ冬吾。
「…硬くなった」
手の中の感触に、思わず呟いてしまった。更に太くなってくる。
「お前のせいだろ…」
照れたように眉をひそめて「嫌ならやめろ」と言い出す。なんでそうなる。
オレは出すの見られたお返しが、まだ済んでないんだ。それが目的のように、しごいた。
「…ハッ…ハッ…」
耳元で熱い吐息が聴こえる。冬吾のように上手くはないけど、気持ち良いらしい。
ねつい目でオレを見てくるのが気になる。手の中の硬度がヤバイ…すべりも、熱も。
オレも同じ熱い息を重ねて、最後までしごいた。
「…ウッ」
男らしい呻き声。
色っぽい…なんて、冬吾にいう言葉じゃないけど、正面から見てたオレは言葉を失った。
ティッシュで押さえてた中に、幾度も飛んだ液体が温かく滲んできた。
「今度はおまえな」
「あ…」
腕を引かれてソファーに引き上げられた。前回みたいに膝の間に前向きに座る。
オレだけ女みたいな体勢に、ちょっとムっと来た。
あと、冬吾のそれが、ズボン越しに尻に当たったんだ。
「やめろって…」
服が汚れる…そう思って抗ったら、エッて顔されて、手を離された。……行為が嫌な訳じゃないのに。
首を捩って、すぐ横の顰め面になってるメガネの奥を、覗く。
「…………」
……言葉では言いたくない。
瞳の奥の熱を見透かすように、じっと覗く。
そしてオレも頬を赤くする。ちょっと口の端、上げたりして…。
「ナツキ…」
手が再び伸びてくる。熱い冬吾の手のひらが───
拒否すると、とめてしまう。…今度はコッチが誘いを掛ける。
やめて欲しくはないから、挑発してしまう。
気持ちよさに勝てない───お互い、引くに引けないところまで、行ってしまった。
交互じゃない、数日後には同時に握りあってた。冬吾の屹立を見ると、興奮して…恥ずかしさもぶっ飛んで、最後は声を出して喘いでいた。
オレ…いいのかな。こんなことしてて。
終わった後必ず過ぎる、罪悪感と寂しさ…オレ達の関係って、何だろう?
大晦日、お互いに31日には実家に帰るはずだったのを伸ばして、初詣に行くことになった。
「近くで除夜の鐘の音が、聞こえるだろ。あそこなら空いてるぜ」
自信を持って言うのに任せ、深夜年の変わり目の頃、近所の神社に足を向けた。
「えッ」
驚いた声は案内していた本人、冬吾だった。
「なんでこんな、混んでんだ!?」
”いつも人っ子一人いない、閑散とした神社だから、混まなくていい”
そう言っていたのとは正反対に、黒い人集りは見事だった。路駐の車、無造作に止めてある自転車も含めて、深夜も回ってるってのに、煩いほどの喧噪。
小高い丘になっているそこは、林の中の石階段を登らなければならないらしい。提灯の灯りが、上へと這っている。
うっすらと照らし出されるその下には、ごっちゃりと並ぶ人影。
「ゲンキンにも程があるぜ。ふだん見向きもしない神社に…こんな時ばっかり、寄って集って……すげぇな」
呆れて目を見開いている冬吾に、オレは言ってやった。
「オレ達もだろ」
神様も仏様も、普段は存在すら忘れてるってのに。
「それもそうだ」
二人で笑いながら、最後尾に並んだ。
登り口には狭い鳥居が立っていて、階段は二人並ぶのがやっとの幅だった。
片側にしか提灯を吊していないのが、その狭さを物語っている。そのせいか、余計に暗かった。
「ん、あっちは何?」
中段くらいまで登ると、右手の林の向こうに、提灯の列と、白暗幕で覆われたスペースが見えた。
「…さあ」
見知らぬ神社は妖しげな間取りで…上を見上げても、最上段ははっきりと見えない暗さだから、薄気味悪くもあった。
狭い階段でくっつきあいながらなんとなく一緒に凝視して、また笑った。そこから、除夜の鐘が響いたからだ。
「鐘突き場か!」
「そう言えば小学校の時に、一緒に突きに行ったな」
冬吾が懐かしそうな顔をした。
オレも思い出した。両方の親に引きつれられて、墓場のある横を通った。
「108人の中に入っているのか、並びながらハラハラしたよな」
冬吾が笑う。
「ああ…オレ達の後ろ、そんなにいなかったしな。でも突けたから良かったよな」
「ってか、108回以上鳴ってたよな、絶対!」
「そうそう」
オレも可笑しくて、笑い出した。結局並んだ全員に、突かせたんじゃないかって、親が言っていた。
その何年か後には、近所迷惑だとかで、数回で止めるようになってしまったらしいという話しも。
「ナツキ、後で突いていくか?」
悪戯っぽい目で白フレームの奥を光らせる。
「冬吾だけ、並べ!」
”積もる話し”なんて、意気込んで話すもんじゃないんだ。
オレは自然に思い出すのに任せて、まずは昔話を楽しんでいた。
肩や腕どころか、腰や太股まで当たる密着度で、一段一段をゆっくり進んでいく。
ただこうやって一緒にいるって、それだけで楽しかった。
やっと上の広場に登り着くと、小さな白いテントが左に一列に並んでいて、手前では巫女さんが参拝客に、順々に甘酒を振る舞っている。
無料のそれを有り難く受け取って飲みながら、奥のテントでおみくじを買った。
二人で声を合わせて「大吉!」まあ、お約束だなと、また笑った。
参拝の段になって、冬吾が小銭をじゃらじゃらさせだした。
顔を寄せて、小さい声で囁いてくる。
「ご縁がありゃいいから、俺、1円玉5枚。5円玉が無ぇんだ」
えっ? と思いつつも、オレも面白くなった。
「じゃ、オレは充分ご縁がありますようにってことで、10円と1円を5枚」
「イイゴエンて、ことで、1円玉7枚ってどうよ?」
更にそんなことを言ってくる。1円どんだけ持ってんだ!
ぶっと心で噴き出しながらも、オレも負けない。
「じゃあオレは、十二分イイご縁がありますようにってことで、10円と1円玉9枚!」
二人して、盛大に賽銭箱をじゃらじゃらと軽薄な音で賑わせて、鈴を鳴らした。
可笑しくて、口の端が緩む。
それでも、願い事はしっかりした。
”縁”なんか、もう……冬吾と逢えた。それが何よりの縁だと思うから。
新しいのなんか、いらない。
── それより、この縁が続きますように。
それだけ、祈った。
チラリと目線だけ向けて冬吾を見ると、真剣に目を瞑って、何か願い事をしている。
「………」
……オレのことなら、いいのにな。
などと思ってしまって、内心、自分で照れた。……こんなキャラじゃ、無かったはずなのに。
”クールでカッコイイ”は、好かれても好きになったりしないという、変な意地が入っていた。
自分の気持ちが分からなくて、一番謎な部分を、突っぱねていたんだ。
除夜の鐘の大行列の横を通りながら、丘を下った。
「来年は、あれに並ぶか?」
また面白そうに言ってきた言葉に、オレは思わず反応してしまった。
”来年”
「………」
頭半分高い顔をチラリと見上げて、小さく頷く。
もちろん鐘が突きたいんじゃない。一緒にまた来れるなら、来たい。
「─────」
からかった本人が、目を瞠って眺めてきた。
ああ、ヤバイ…好きだ。
こんな顔に見惚れてしまうオレは、やっぱビョーキか。
「うわ、ここもすげーな」
酒を買い足そうと近くのコンビニに寄ったら、ここも人集り。家族連れが多くて、深夜零時をとっくに回っているのに、小さい子供達が走り回っている。
「普段は閑古鳥の店も、この3日間だけは、稼ぎ時だなー」
苦笑いしながら、店を後にした。
部屋に辿り着いて、やっと人いきれから解放された気分になった。
二人きりってこと、意識する。
「改めて、新年おめでとー」
ソファーに並んで座って、缶ビールで乾杯した。
「………」
その後、妙な空気が流れた。
シンと静まりかえって、耳が変な雑音を拾う。
自分の呼吸…心音……直ぐ横で、冬吾の呼吸……
「ナツキ…」
言いながら、背中から腰に手を回してきた。
「……なに」
昨日までの、扱き合いのムードと違う。オレは緊張して、身体を硬くした。
「いや…」
珍しく言い淀んで、それから真っ直ぐ見つめ合うように、顎を引かれた。
……うわ。
真剣な眼が、至近距離から見つめてくる。
「俺さ、……お前とちゃんと…付き合いたい」
「────」
「スケベするだけじゃ、なくてさ……」
「………」
「……嫌か?」
オレは顎を掬われたまま、顔を横に振った。
「……嫌じゃない」
こんなマジに告られると思わなくて……返答が、上手く行かない。
「………嫌じゃない…だけか?」
ちょっと眉を寄せて、覗き込んでくる。
「─────うれしい…」
「そっか」
聞いた冬吾の方が嬉しそうに、顔をほころばせた。
オレも照れて、顔が熱い。
「キス…しても、いいか?」
「……」
小さく頷くと、顎を引き寄せられた。
「あ…」
…カチン
お互いの眼鏡が当たって、音を鳴らした。
「そっか…」
オレが外そうと俯いたら、その手を止められた。
「俺が外す。ナツキはしてろ……俺の顔、見えなくなるだろ?」
「……ああ」
眼鏡を外した素顔の冬吾と、さっきよりも間近に見つめ合った。
「………」
そっと触れて重ね合わせた唇は、じんと熱くて、震えていた。
舌を差し出して絡んだ瞬間から、お互いを激しく求め合った。
オレが冬吾を好きになって…オレが”ちゃんと付き合えたら、いいのに”って……思っていたのに。
冬吾も、自分を好きなのか…そう思うと、心から熱い興奮が込み上げてくる。
「…はぁ」
「すげ…クラクラする」
咥内をお互いの舌で探り合って、散々吸い合って、やっと唇が離れた。
「ちょと休憩…」
興奮しすぎて上せているオレに、冬吾が信じられない物を手渡してきた。
「コレ、一緒に見ようぜ」