2.
「……は!?」
ギョッとして、取り落としそうになったそれは、男同士が絡んでいるパッケージのDVDだった。
「急いで、ネットで買ったんだ」
テレビを点けてセットしながら、平然と言う。
「俺はもう観たんだけど、やっぱ一緒に観たくて…で、これをお前とやりたい」
「──────」
「……オレ、どっち…?」
喘ぎ声がどんどん激しくなる、映像。
ピンクのソファーにオレを膝の間に抱えて座って、デニムの前は開けられていた。
胸をまさぐられて…ここまでは、昨日までの扱き合う前の前戯だ。
「…俺が挿れる」
ハァ…と熱い息を耳に吹き掛けてきて、下着を膝まで降ろされた。
後ろに指が這ってくる。
「………!」
いつの間にか濡らした指が、つぷりと中に入ってきた。
「ちょ…」
腰を浮かせて嫌がると、グイと引き戻された。
「んっ…」
反動で、もっと押し込まれた。
「…どうだ?」
「……どうって!」
聞くなよ、そんなこと。
ぐにぐにと下から、変な感覚が責め上げてくる。
出入りさせようと前後させるのが、ちょっと辛い。
「気持ちよくないなら…止める」
肩口で、オレの屹立を確認しながら、そっと言う。
ちょと萎えていたオレのは、横に倒れていた。
「…わかんねーよ」
オレのせいにして、止められたくはなかった。
でも、気持ちいいかって言われると、全然だ。
クリスマスの夜みたいに、探り合いの挑発を……またやりそうな気がした。
──自分から”良い”なんて……言えるわけ無いだろ──
………でも、止めて欲しくは…ない。
自分が浅ましくて、恥ずかしくて、バレたくない。
「ん」
「…ん?」
嫌とは言わないから、指も止まりはしない。様子を見ながらも進めてきた。
オレの反応に、冬吾も直ぐに反応する。
「……んっ」
なんか、声が出てしまう。
ビクンと身体が跳ねる。出入りするそこなのか、体内の奥深くなのか…刺激があちこちにあって、判らない。
「……イイのか?」
頬にキスしながら、訊いてくる。
「うるさい…訊くな…!」
こっちは指突っ込まれてるだけで、精一杯なんだ。
物理的感覚より、”冬吾の指が”…そんなことにまた、興奮してしまっていた。
DVDはテレビの中で、獣のような二人を映し出している。
四つん這いになった男の顔が、紅く染まって悩ましげで……
「勃って来た」
「……え」
「気持ちいいのか…?」
「……訊くなって…」
オレも冬吾も興奮して…首をねじ曲げて、キスをした。
ローションで指を濡らし直して、突っ込む本数を増やされた。
「んっ……」
キスの途切れが合図のように、お互いに身体を反転させて、オレがソファーの上に横になった。
シャツをたくし上げて、胸にキス。乳首を吸ってくる。舌先が突起をつつくのには、我慢が出来なかった。
「うわっ…それ…」
上ずった声で身悶えると、肩から抱きすくめられた。
「色っぽい…ナツキ」
熱っぽい視線の中に、ギラギラした光を覗かせる。……ちょっと怖くなった。
「……冬吾」
「大丈夫…」
何がだ……言い返す前に、熱い塊が、後ろに押しつけられた。
下着とジーンズは完全に脱がされていて、片脚を冬吾の肩に持ち上げられた。
「──────!」
塊が問答無用で入ってきて、無理! と叫びそうになった。
でも先端がヌポッと入った後は、ゆっくりと挿入してくる。
その生々しい感触に、呼吸も忘れた。
時間を掛けて全部入って、動きが止まる。
「……熱い…」
二人で息を呑んで、同時に吐息を吐いた。
冬吾が入ってくる…その興奮が、何よりもの快感を高めるアイテムだった。
DVDは何処までいったのだろう…終わってしまったのか、もう音も聴こえない。
「すっげ…」
冬吾の息が荒くなった。
「何この締め付け──めっちゃ、気持ちイイ…やべー…」
「ん…つッ…」
急に腰を振り出したから、痛みで呻いてしまった。
「あ、ワリィ…!」
グイッと押し込んだところで、止められて、じわり…と痛みが熱に変わった。
「…ハァ……スゲェよ、マジ───ナツキ…お前ん中、熱い」
「…オレも……なんかスゲェの、突っ込まれてる」
同じような言い合い…でも、コレしか言いようがない。
触れている肌、中にある熱い棒…。その存在感…圧迫感、異物感、嫌悪感、いろいろあるけど、全部冬吾から産まれているんだ。
そう思うと、全部……嬉しい。
「……オレん中でも……冬吾…熱い」
見つめ合って、微笑んだ。
「────ナツキ」
じっと見下ろしてくる目が真剣になって、頬の赤みが増す。
すっごいエロイけど、やっぱカッコイイわ…冬吾。
「……あ」
再び動き出した腰に、揺さぶられる。
出入りするたび、内蔵が擦られて、叫びたくなる。
「ん…あぁ…」
無意識に振り回した手を、顔の横で押さえられた。
「ごめん…俺、我慢できないわ」
言うなり激しく腰を振り出した。突いてくる勢いが強すぎて、ソファーが床を滑った。
「アッ、アッ…!」
パンパンと腰が当たるたびに、冬吾の陰毛に包まれるオレの陰嚢。腹の間で擦れる屹立。
もはや、昂揚感だけに支配されていた。
幸福感に覆われるというか…体内の奥からなにか込み上げてくる。
「あ……ああぁ…っ!」
思わず上げた声に、冬吾が眼を瞠った。
腰のスピードを少し落としながら、訊いてくる。
「……良いのか?」
「………」
うんと、頷いて真っ赤になった。もっともすでに赤い顔で、赤面したなんて判らないだろうけど。
「…そっか」
くしゃっと前髪を掻き上げられて、頭を撫でてきた。そのままキス。
「……ふ…っん」
スパートをかけて、腰を進めてきた。
「ナツキ…ナツキ!」
頭を抱えて耳元で、呻き続ける。
「……わり…イクッ」
小さな叫びと共に、四つん這いになる暇も無く、オレの中に、熱い液体が広がった。
何度も何度も、脈動を続けながら、注いでくる。
「ぅあ…」
下っ腹が熱で満たされる感覚に、堪らずオレも呻いた。
「お前も……」
腹の間でビショビショになっているオレのを握られた。
「ん…」
中に入ったまま。圧迫感が消えないまま扱かれるのは、また違う。
「あ、あ、………イク……イクッ」
昨日よりもその前よりも…沢山の量を飛ばして、オレも果てた。
「最悪…自分に顔射した」
眼鏡に付いた白濁を、げんなりした気分で眺めた。
まだ繋がったまま、嬉しそうに冬吾がまた頭を撫でてくる。
「……なに?」
「エッチしてるときのナツキ…素直で可愛い」
「……なんだそれ!」
手を振り払って、睨み付けた。
「ツンツンすんなよ」
硬さを残した異物で、腹の中を擦られた。
「あ…やめ…」
「今度はバック、やろうな」
ゆるく動かしながら、今度と言わず今…という勢いで言ってきた。
「……うん」
オレも、こいつの前で恥ずかしがるのはヤメた。
気を遣って、行為を止めようとするから。
その度に、挑発し直さなきゃいけなかった。
……もう、そんな必要は無いんだもんな。
「冬吾は、いつからオレのこと、好き?」
「……クリスマスの夜、かな」
「そっか…じゃあ、オレのほうが先輩だ」
えっ! と、また驚いた顔でオレを見る。
この顔が好きだ。
憧れて恋い焦がれていたのとは違う、カッコ付けじゃないカオ。
オレも、クリスマスの夜に、惚れ直したんだろうな。
今度こそ、積もる話しもできるだろう。
お互いの空白を埋めながら、ずっと…一緒に居れるといい。
シャワーを浴びて、ベッドに移動して。
無理して腕枕なんかしようとする冬吾を、跳ね除けながら、思っていた。
「にまにましてる…」
頬を突いてきたから、それも手で払った。
「うるさい!」
……全部が全部、素直になるっていうのは、難しい。
というか、無理だ。
冬吾が呆れ顔で、オレの眼鏡を弄る。
「セックスしてりゃ、可愛いのに」
「─────」
もう顔も、見てやんねえ。
オレは眼鏡を外して、布団を頭まで被って寝てしまった。
でも、その後も構われて、結局2回戦に突入したのは、言うまでもない……
終わり
-Happy New Year!-