先輩と8ミリ
 
2.
 
 そんなこんなで、やっと殆ど撮り終えて。
 明日でクランクアウト! という、合宿も3泊4日の最後の晩になった。
「お疲れ様でした! おやすみなさい~」
 三日目ともなると、僕もだいぶ慣れていた。
「お休み」
「お疲れ様」
 先輩たちも、相変わらず優しい。
 今日で終わりか……と思うと、この特等席が無くなるのが、少し惜しい気がした。
 
 
 
 ───ん……
 
 夢うつつの中、何かの気配を感じて、少し意識が戻った。
 この晩は妙に蒸し暑くて、さすがの僕も、寝付きが悪かったんだ。
 
 
 
「……寝たかな」
「ふふ…可愛い」
 
「……さくら…」
「………ん…」
 
 
 
 頭の上で、ピチャピチャ…と小さな音が続く。
 
 …………せん…ぱい……?
 
 夢の中で、大天使ラファエルとミカエルが、顔を寄せ合って…キスをしていた。
 
 クスクス……
 
 笑いあう微かな声。
 
「…起きないかな」
「昨日も、平気だったろ」
「……うん」
 
 
 余りに静かな遣り取りに、僕はまた……眠りに引きずり込まれていった。
 
 
 
 
 
「………ぁ…」
「……はぁ……はぁ…」
 
 
 ───…ん……?
 
 
「さすがに……聞こえるかもな」
「──起こす?」
 
 
 また気配を感じて、意識が少し戻った。
 ぼんやりした頭の中に、誰かの会話が何となく響いてくる。
 
 
「ばか、コレがいいんだろ…」
「はは…興奮する……ぁあ…」
 
 高い息遣い。
 妖しく動く気配。
 淫猥な水音。
 
「……ぁ……ぁあ……」
「佐倉……さくら……」
 
「……んっ……ぁぁ…」
 小さな悲鳴。
 
 
 
 
 
 ────うわっ! うわっ! うわーーーっ!!
 
 僕は途中から、完全に目が覚めていた。
 眠気なんか、ぶっ飛んでしまっている。
 
 いつの間にか僕は、佐倉先輩の布団の端っこに移動して、二人に背中を向けて丸まっていた。
 背後の妖しげな気配に、心臓が飛び出るほど、高鳴っている。 
 ────なにしてんだ? ……先輩たち!!
 
 くすくす……
 
 また笑い声。
 
 ────ドキドキ…ドキドキ……
 僕は緊張の余り、息も出来ない。
 必死に、寝たふりを続けていた。
 
 いくら、仲イイったって……
 こんな! …こんな! ……こんな!!!
 
 っていうか、美咲姫は!?
 ……まさか、知らないよね?
 板谷先輩、何考えてんだ!
 
 パニックで、頭の中は勝手にグルグル回り出していた。
 
 
 
 部屋の電気が点いたのか、目を瞑っていても、明るくなったのが判った。
 不意に、顔を覗き込まれる気配。
「───ぅあッ!」
 いきなり鼻を摘まれて、ビックリした。ガバッと飛び起きてしまった。
「…………!!!」
 真っ赤になって、飛び起きたままの格好で、先輩達を凝視する。
 部屋の明るさに、目が着いていかない。眩しくて焦点がなかなか合わなかった。
 
「やっぱり、起きてた」
「今日は佐倉……声が大きかったからな」
「板谷の打ち付けが、激しいから……」
 ……クスクス…
 
「どうする?」
「知られちゃったね」
「……ああ、まずいな」
 また妖しく笑う。
 
 夢の中の美しかった大天使たちは今、真っ黒い瞳を妖しげに煌めかせて……。乱れた夜着さえ、禍々しい黒衣みたいだ。
 二人とも帯が緩く解けて、前がかなりはだけている。
 
 ────!!
「…ぼ……ぼく、言いません!」
 恐怖を感じて、咄嗟にそう言った。
 膝の間に突いた両手で、無意識にシーツを握り締めて。
 
 
「顔、紅くして……」
「勃っちゃった?」
 
 ───え?
 
「………あッ」
 
 いきなり肩を後ろに引っ張られて、布団の上にひっくり返された。
「さ…佐倉先輩!?」
 真上から、両肩を押さえ付けて、逆さに覗き込んでくる。
 
「可愛い……勃ってる」
「や……!!」
 
 さっきの先輩達の声と気配で、僕も興奮していた。
 すっかりパジャマの下の部分が、テントを張っている。
 僕は真っ赤になって、先輩の手を振り解こうと身体を捩った。
 足は、板谷先輩が抑えている。
「俺たちの恥ずかしいトコ、見たんだから。理央のも見せろよ」
 
 ────ぇえええええっっっ!?
 
 あっという間に、パジャマのズボンと下着が剥ぎ取られた。
 
「ちょ──、先輩……!!」
 
 晒された下半身のせいで、変な不安を掻き立てられて…
 なにが起こっているのか、急展開についていけない。
 
 佐倉先輩が、僕の上半身を羽交い締めにして、抱き起こした。
「リオちゃん…あれ、見て」
 耳の横で囁く。
「………?」
 先輩の指し示す方向…僕に跨っている板谷先輩の斜め後ろ。
 
 ────!!
 
 そこには、パイプ椅子に据え付けられた、8ミリのカメラがこっちを向いていた。
「………先輩!?」
 悲痛な声を出してしまった。
 
 ──信じられない!
 
 先輩達はすでに(ちゃっかり?)はだけていたはずの寝間着を、綺麗に着込んでいる。
 二人の間で下半身を晒け出している、僕だけが異様だった。
 こんなとこ、撮影するなんて………!
 
 
「…ぁッ」
 佐倉先輩が、パジャマのボタンを全部外して、胸を触ってきた。
 ゾクリと、背中に震えが走った。
 
「ぁ……ちょっ……待って、板谷先輩!」
 僕の勃ってしまっているソレに、指を這わせてきた。
 ────ぅあ……!
 肌が全身、粟立った。
 ビリッと、腰が痺れて。
 その後は大きな掌に包むと、上下に扱きだした。
「ぁあ! …先輩、やめてください! ……僕、ほんとに誰にも言いませんから!」
 泣き声で、懇願した。
 ───冗談じゃないよ、こんなの!
 だいたい、行為は見てないし……裸は先輩達が勝手に…
 
「見たことがもう、罪」
「だから、そんなの…」
 
 目の前で、にやりと笑う板谷先輩は、大天使なんてもんじゃない!
 真っ黒い翼を広げた、唇も舌も真紅の、ルシファーだった。
 邪悪すぎて、僕の言葉と息が一瞬止まった。
 
 ───加藤……!
 咄嗟に、隣の部屋で寝ている加藤の顔が浮かんだ。
 あいつに、助けを……
 
「このフィルム、公貴に編集させようか」
 
 無慈悲なルシファーが、残酷な笑いを口の端に浮かべて、とんでもないことを言い出した。
 まるで、僕の心を、読んだように。
「……はぁ!?」
「リオちゃん。残念だけど、キー君はここにはいないよ」
「…え!?」
 佐倉先輩の声に、意味が飲み込めない僕は、二人の先輩の間で視線をさまよわせた。
「一足先に、撮ったフィルムを現像に出しに行ったんだ」
 ─── そう言えば、夜のミーティングに居なかった。
 部屋にこもって、なんかの作業をしてるのかと、まるっきり気にしていなかった。
「最近は、8ミリフィルムの現像屋となると、貴重でね。場所が遠くて……編集に間に合わなくなっちゃうんだよ」
「…………」
「と言うわけで、助けは呼べないぞ」
「……んっ!」
 板谷先輩が、唇を押し当ててきた。舌が侵入してくる。
 佐倉先輩も、羽交い締めはそのまま、耳朶を噛んでくる。
「ぅ……ぅうっ……んっ……!」
 激しい吸い上げに、恥ずかしい声が出てしまう。
「……はぁッ………」
 やっと解放してくれたかと思ったら、4つの手が本格的に妖しく動き出した。
 
「あっ……やぁ……やめてください!」
 もう、後はどんなに嫌がっても、容赦してくれなかった。
「あ…、あ…、ぁあぁ……!」
 佐倉先輩の細い指が、胸の突起を摘んでは押して、いつまでもなぶり続ける。
 その快感は、背中を這って、腰にビリビリと伝わっていった。
 そのせいで熱く滾ってしまった僕のを、板谷先輩が扱き上げる。
「や……ぁあっ……!」
 ───ああぁ……やだ! …こんなのイヤだ!
 頭とは正反対に、身体はめちゃくちゃ気持ちよがっていた。
 ───先輩の手……すごい………!!!
 透明な液体を垂らして、イヤラシイ水音まで立て始めた。
「……ん………ぁ?」
 後ろに変な異物感……。
 指をあてがわれていた。
 
「リオちゃん……板谷の指テクは、……最高だよ」
 佐倉先輩が耳元で、溜息を漏らすように囁いて、クスリと笑った。
 
「………や…!」
 ──あ……入ってくる……
 背中を仰け反らせた。
「ぁああぁっ……!」
 ──うぁっ……うぁっ……!
 濡らした指で円を描きながら、押し込むように、少しずつそこを広げていく。
 細かい振動を付けながら、僕の呼吸に合わせて、確実に挿入してくる。
 佐倉先輩の手も、胸から離れない。
 
「やだ……せんぱい……許して………」
 
 僕は泣きながら、首を振って抵抗した。
 ずぶりと、完全に指の根本まで押し込まれた。
「……気持ちいいだろ?」
 板谷先輩が、また悪魔の微笑みで、口の端を上げる。
 僕はブルブルと首を横に振りながら、
「……んぁああぁ……!」
 更に背中を反らせた。
 2本に増やされた指のせいで、押し開く変な感覚と圧迫感に襲われる。
 中を探って、暴れ回る異物。
 僕はもう、限界だった。
 前の扱きに合わせて、打ち付けるように指を突っ込まれる。
 振動の度に、痺れが背中を這い上がった。
「あッ、あッ……せんぱ……いく……イク…イク、イクッ!!」
「…イキな」
 板谷先輩の、熱い溜息。
「……んぁ…ぁああぁぁ!」
 勢いよく、先輩の掌に白濁が飛び散った。
 
 
 
「………はぁ…」
 佐倉先輩の腕の中で、ぐったりとしてしまった。
 ものすごい脱力感。
 ショックも凄い。
 何が……あったのか……起こったのか……
 わかってるけど……わかりたくない。
 
 先輩達が悪いのに。
 ”イッた”のは僕で……
 それだけが、無性に恥ずかしい。
 
 ───酷いよ……僕誰にも、絶対言わないのに。
 ───見せた、先輩達が悪いのに……
 
 
 でも……こんなんじゃ、終わらなかったんだ。
 よく言うあれ。
 台本でも使ってた専門用語でいうなら……それは正しく”イントロ”ってヤツだった。
 
「もっと気持ちイイこと、リオちゃんに教えてあげたい」
 耳元で、ぽつりと呟かれた。
「……妬くだろ? …佐倉」
「板谷が挿れる必要は、ないよ」
「……バックバージンは、奪っちゃマズイしな」
「そうそう」
 僕をおもちゃに、目線を絡ませ合いながら仕組まれた会話を楽しむ二人。
 ぼんやり聞いていた僕がそれに気付いたのは、佐倉先輩が布団の脇から取り出した、それを見たときだった。
 
 ────!?
 


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