先輩と8ミリ
3.
「理央…、力抜いてろ…」
「や……」
真っ青になって、首を振った僕の後ろに、板谷先輩はそれをあてがった。
「リオちゃん…失神しちゃうかもね」
顎を捕らえられ、真後ろに首を反らされた。
「んっ……!」
逆さに佐倉先輩の唇が被せられ、優しい舌が入ってきた。
同時に、板谷先輩の強引な挿入。
「んんーーーーっ!!!」
冷たい無機物は、かなり太くて長かった。
当然、そんなの入らない。
「んぁ……ぁああ!」
圧迫感が辛くて、僕は呻いた。
先輩が押し込むのをやめてくれた。
「理央…小さいな」
ふふ…と、佐倉先輩の笑う声。
「初めてだもの…無理もないよ。それにそれ、板谷サイズだから。……僕専用だった」
「……佐倉…」
僕を挟んで、顔を寄せ合う二人。
僕の顔の上で…わざと…濃厚なキスをたっぷりと披露された。
「ん………」
佐倉先輩が色っぽい声で、喘いだ。
重なっていたシルエットが、やっと離れる。
……クスクスと忍び笑い。
「……血糊用のゴム使うか」
「……姫に叱られるよ」
「後で補充しときゃいいんだろ」
それらの会話を、僕は違う世界の出来事のように聞いていた。
あまりに、艶めかしい二人。
綺麗すぎて、見惚れてしまった……。
板谷先輩は、バイブにゴムを被せると、また僕にあてがった。
僕は二人にアテられて、すっかり抵抗する気力は失せていた。
でも、されるコトへの恐怖はある。
「せんぱい……それ……やだ」
一応、言ってみた。
「気持ちイイから。大丈夫。……僕が保証するよ」
「……ん…」
また逆さから、唇を塞がれた。
「……理央」
挿れられるとき、板谷先輩に囁かれて、ゾクリとしてしまった。
「ん…んんっ……!」
さっきとは明らかに、滑りが違う。
少しづつ出し入れしながら、どんどん僕の中に入ってくる。
────ぁああぁ………!
「理央……ちから抜いて…ゆっくり呼吸しろ」
「…はぁ………せん…ぱい」
解放された唇は、ろくに動かない。
涙目で、板谷先輩を見た。
奧に入って来るにつれ、その異物は僕の中を押し分ける。
「ぅぁ、…ぁあっ…」
その刺激が、堪らなく背中を痺れさせた。
これでもかと開脚してしまって、板谷先輩に、全てを晒け出している。
さっきイかされてヘタッてるのに、ぴくぴくしちゃって……もう…ホントやだ…!
「ぁ…はぁ……」
やっと全部入ったみたいで、突き上げる感覚が止まった。
「んっ!?」
今度はいきなり何かを、噛ませられた。
首の後ろで縛り上げる。
──苦しい……まだ…息が……
「これね、今回撮影で使った猿ぐつわ」
口を封じられた僕を覗き込んで、佐倉先輩が美しく微笑んだ。
「俺、撮るから…出ないように座らして」
…………?
板谷先輩が僕から体を離すと、佐倉先輩は寝そべっていた僕の上体を引き上げて、尻で座らせた。
「んぁッ……!」
体重で、挿れられたモノが、さらに奧へ押し込まれた。
───苦し……せんぱい…?
何が起こるのか、不安で……
息も絶え絶え、佐倉先輩を振り仰いだ。
「──板谷、いいよ」
僕を無視して、何かを合図した。
腕を羽交い締めにしたまま、先輩同士で見つめ合っている。
板谷先輩は、パイプ椅子から外したカメラを構えていた。
───あッ……!
「!! ……ぅんんんっーー!」
ブィィィンという電動音と共に、体内が揺さぶられた。
──やっ……やぁ……!?
ただ入っているだけでも、凄い質量感なのに……
「んあぁ……!」
スイッチが入った途端、バイブが倍に膨れあがったかと思うような刺激に、襲われた。
自分の体重で押さえ付けているせいで、響いてくる刺激が直で内臓を震えさせて…
緩むことも、角度が変わることも無い。
同じ所を責め続ける刺激に、僕は思いっきり苛まされた。
………ぁあッ…ぁあッ……ああぁッ……
背中を反らせて、動ける限りのたうった。
「う……ふッ……うう…」
──やだ……やぁ……! せんぱ………とめて…!
はぁ、はぁ、と荒い呼吸の中で、精一杯の懇願。
必死に目を瞑ったまま、首を振った。
佐倉先輩の手が、また胸の尖りを弄りだした。
「んっ…んんん!」
萎えたばかりの僕のが、また完全に上を向いてしまった。
──せんぱ…恥ずかし……
「ぅうっ…!」
その裏すじを、板谷先輩が片手を伸ばして撫で上げてきた。
───ぅぁあっ……やぁ……やあっ!
胸と、バイブと、撫で上げ……
それぞれの刺激が、疼きとなって腰に集中していく。
僕は全身に汗を掻いて、体中が熱くなっていった。
「なあ、佐倉」
「…うん?」
先輩達は、普段のお喋りのような軽い調子で、会話をし出した。
「俺たちが卒業したら、男子部員は公貴一人になっちゃうな」
「……うん、そうだね」
「困ったな」
「うん。……キー君1人じゃ、どうにもならないね」
そう言って二人は、僕を見て笑った。
「…………」
僕は、弄くられて喘がされて、かなり極限状態だった。
会話してるのはわかるけど……
何を言ってるかなんて、判らない。
耳になんて届いてこない。
自分の喘ぐ呼吸と、高まる快感と……反比例する焦れったい疼き。
一定以上には、触ってこない…触ってくれない。
その拷問と闘っていた。
先輩の指が、後ちょっとでも刺激を与えてくれたら……
「……うう…」
それが欲しくて、僕は自分から腰を振ってしまった。
───あぁ……いきたい……イきたいっ…!
「んんーっ! ……んんーーっ!!」
板谷先輩に目で訴えた。
───お願い……先輩…せんぱい……
「……イきたい?」
やっと板谷先輩が、僕を見てくれた。
───優しい声。
僕は、真っ赤になりながら、こくこくと首を縦に振った。
「俺たちのお願いを聞いてくれたら、聞いてやるよ」
「…………?」
僕は一瞬、息を止めるほど緊張した。
潤む視界を、必死に先輩に合わせる。
「入部してくれ」
真剣な、板谷先輩の目。
「キー君を、助けてあげて」
絞り出す、佐倉先輩の声。
二人の言葉が交差した。
「……………」
僕は何も応えられずに、固まった。
───体が、早く早くと欲しがる。
YESと言えば、してくれるという先輩───
───こんな交換条件、酷い!!
「───あッ!?」
先輩たちをズルいと、恨んだ次の瞬間、猿ぐつわが外された。
そして、また唇を逆さから塞がれた。
手は胸に滑っていく。
「んんんっーーーー!!」
下は、板谷先輩が咥えていた。
───ぅああっ……うわああぁぁ!!
ずっと待っていた刺激だった。
鈴口に、括れに、先輩の舌が当たる。
吸い付きながら上下する唇の内側。
「んんっ…んんん──っ!」
体内のバイブの振動も、一段と強くなった。
───あああぁ……すご……すご……
「いいね……約束だよ」
佐倉先輩が、キスの合間にそう囁いた。
───え……?
───してない……約束なんて、してない!
「んんっ………ぁあっ、…ぁああぁっ!」
どんどん追い上げられていく。
佐倉先輩の舌使いも凄い!
口を思いっきり開けさせられて、喉の奧まで探られた。
舌を絡めて擦られるたび、ゾクゾクと背中が痺れる。
待っていた快感。
焦らされた疼きが、板谷先輩が咥えているそこに、集中していった。
待って、待って!
と、心で叫びながら、体は全身を震わせて悦んだ。
──ああ、先輩、せんぱい──いくっ……イクッ……イクッ!!!
「……ん!! ……んんーーっ!!!」
ドクンッ!
先輩の咥内に、凄い勢いで吐精してしまった。
「んっ……ぁ………ぁあ……」
痙攣が続く。
脈動に合わせて絞り取るように吸い上げられて、ずるりと解放された。
佐倉先輩も、名残惜しむように重ねていた唇を、やっと離してくれた。
「………気持ち、よかったでしょ?」
その唇を紅い舌先で舐め上げながら、佐倉先輩は、美しく微笑んだ。
あんまりスゴくて……あんまり激しくて……。
体力、精神力、精力を使い果たして放心した僕は、ほぼ気絶状態で、意識を手放していた。
その霞んでいく視界の中で……
僕を挟んで、二人の顔がまた近づくのが、見えた。
「……サクラ」
「………ん……イタヤ」
クスクスと……忍び笑い。
「我慢出来ないよ……」
次の日意識を取り戻した僕は、何の変わりもない先輩達の態度に、真っ赤になりつつ、責めることも出来ず……。
身体の痛みに、一人で耐えていた。
一つ判ったのは、あれは交換条件なんかじゃ、なかったってこと。
そう言って、僕をいたぶってただけだ。
最初っから、嵌められていたんだ。
そう、あの…教室にまで押しかけて来た、あの時から……
後日、試写会に呼ばれた。
僕は恥ずかしかったけど、仕上がりは楽しみだったから、結局行ってみた。
───うわ、面白い!
僕の声を当てたという、女の子の声は、まるっきり男の子の声に聞こえた。
さんざん注意された身体の色々な動きは……大げさすぎる気がしたそのモーションは、スクリーンの中ではまだまだ不十分だった。
僕が演じた”謎の男1”は、ストーリーの中で重要なキーパーソンに仕立て上げられていた。
板谷先輩が、発砲されて大出血するところなんか、本気でハラハラした。
───あ……!
最後に僕の顔が、遠くから段々近寄って、アップに映されていく。
もの凄い綺麗に撮れてると思って、ドキッとした。
「画面映えするなあ、理央の顔は。期待通りだった」
いつの間にか隣りに来ていた板谷先輩が、満足そうに笑った。その向こうに佐倉先輩。
”画面映え”……それは、よく加藤が言っていた言葉だった。
「綺麗に撮れてるね」
「惚れてなきゃ、こんな綺麗に撮れないよな」
「うん。すごく丁寧なズーム。まるっきりブレなっかたね」
……………?
また二人だけの会話を楽しんでいる。
「理央。俺たち、文化祭までしかいれないから…」
「そのあとは任せたよ」
にっこり意味ありげに微笑む、大天使たち。
僕は、真っ赤になってしまった。
……あんな約束……守る義務、あるのかなあ。
立ち去る先輩たちを見送ると、後ろで映写機を片づけていた加藤と目があった。
一瞬にして、その眼鏡の頬が紅く染まった。
…………え?
見つめ続ける僕の脳裏に、先輩達の最後の…意味深な笑みが思い出された。
「……………」
加藤の口の両端が、引き上がっていく。
そうして紅い舌を覗かせた加藤の唇は、僕を呼ぶために動き出した……
「……よろしくな………リオ…」
終