僕のお仕事 index/novel
5.睦月さん 2 1.2.3.
2
「こっち、おいで」
睦月さんの両脚の間に前向きで座らされた。背中から体温と息遣いを感じて、ドキドキした。
ふわりと抱え込まれたかと思ったら、おもむろにバスローブの裾を開かれた。
「わっ」
心の準備ができていない僕は、いきなり曝け出された股間に冷気を感じて縮こまらせた。
でも本当は、睦月さんの熱で、僕のペニスは少し勃っていたんだ。
「うん? いけない子だねえ。もう、そんなだったの?」
耳元で囁かれると、恥ずかしくて泣きたくなる。
「でも、ちょうど良かった。今は何も考えないでね」
ひょい、と僕の小さくなったそれを摘み上げた。
「!?」
ゆっくりやさしく被っている皮を剥いていく。
「む……む……むつきさん!?」
何をされるのかと、慌てて睦月さんの手を掴む。
「じっとしてて」
剥いた皮を根元のほうへ押し下げて、小さな亀頭をぷるんと上に向かせる。
そして、さっき一個目に選んだリングを指輪でもはめるように、亀頭に通した。
棹に吸い付いて、鈴口のすぐ下でとまる。
「ほら、見て」
柔らかく囁くように、僕に言った。
手を離されて、ぷらん、と垂れたそれは亀頭が出たまま。リングが捲った皮を戻らないように、押さえているのだった。
「これはね、包茎矯正リング。今してるのは通常時用サイズね。かなり伸びるけど」
「!!」
僕は頭をハンマーで殴られたような、ショックを受けた。
矯正? 矯正って……。
包茎のことを言われるだけで、落ち込むのに、矯正って言われると、やっぱり正常じゃないのだと、思い知らされる。
僕はぐっと胸が痛くなるような悲しみに、襲われた。
「でもこれ、君には似合わないね」
くるくるっと、指サックを抜くように指先で外してしまった。
「ごめんね。悪戯や嫌味のつもりで、こんなことしたんじゃないんだ」
落ち込んでいる僕の顎を掬い、自分に向かせる。
「言葉で聞いても、その時点でショックを受けちゃうと、試すこともできないから。まずは強引に、填めちゃった。でも、君には必要なかったみたいだね」
腕を前に回して、後ろから僕を抱きこむと、頬に唇を掠めた。
柔らかく包み込む。
「本当に悩んで改善したい子もいてね、そういう子は治す術があることに、とても喜ぶんだ」
「…………」
「よけいなお世話をしてごめん」
「……睦月さんは? ………睦月さんも僕のこれ、”治した”方がいいと思うの?」
下を向いたまま言う。
眼をちょと見開いて、そんな僕を見る。
頬っぺた、耳、首筋と、柔らかいキスを落としていく。
「なんでぼくがそんなことを思うと、思う?」
「…………」
「ぼくは、今の君が好きって言ったよね。今の君の躰、仕草、声が好き。全部愛しい」
僕の前髪を掻き揚げ、横顔におでこを付けて来た。
「誤解しないで。世の中がどう、ぼくがどう思うから、じゃなくて、巽君自身がそれをコンプレックスとして感じてしまうなら、どうにかする手段があるのを教えてあげたかっただけ」
僕は伏せていた目をちょっと上げた。
「可愛い君のここも、ぼくは大好き。敢えて言うなら、ぼくはこのままがいいな」
項垂れている僕のペニスを、手のひらで包む。
僕は、身体が熱くなった。性感帯を触られたからじゃない。
睦月さんの優しさが、言葉が、僕の心にふれたから。
愛されてる……そう心から、感じる言葉。
”そのままがいい”と。
僕は、大粒の涙をぽろぽろ落とした。わけの分からない後悔のような痛みが胸を突く。そして、くだらないコンプレックスも、一緒にぽろぽろと音を立てて、落ちていく気がした。
「巽君、大好き。泣かないで。可愛いぼくの、巽君……」
頭をくしゃくしゃやりながら、俯く頬に唇を寄せる。涙を舌で掬い上げる。
その舌はとても温かかった。
僕が泣き止むのを待って、改めて、バスローブの裾下を探ってきた。
一層縮こまってしまったそれを、柔らかく包む。
「僕……今日は駄目かも……」
情けない気分で、背後の睦月さんに呟いた。
「ん? なんで? そんなことないよ」
柔らかく笑うと、もう片方の手で、胸の合わせ目に手を差し込む。
胸をやわやわと擦ってくる。
「んっ」
ぴくんと肩が動く。
胸の突起を見つけ出し、指の腹でころころと転がす。
「んん……」
顎を反らして、疼きをやり過ごす。
その顎を捕らえられ、眼を覗きこまれた。
「ほら、こんな時、どうするんだっけ?」
優しい瞳が輝く。
綺麗……こんな時までそんなことを思ってしまう。
「んっ」
また刺激がくる。
「……ぁ……いい……」
僕は吐息と共に、リキみとプライドを解放した。
途端に、下半身の方まで疼きが走る。
「……ぁ……はぁ……」
膝を立ててすり合わせてしまう。
「……ほら、大丈夫でしょう?」
嬉しそうに、僕に囁く。僕のそれは、睦月さんの手のひらの中で、大きくなっていた。
「……うん」
気持ち良さに眩暈を覚えながら、僕も笑った。恥ずかしいけど……嬉しい。
握った手のひらを、ゆるゆると上下し始める。
「……はぁ……」
透明な液体が、先端から溢れ出した。
それを反対の手の中指になすると、睦月さんは囁いた。
「ちから……入れちゃ、だめだよ」
濡れた中指を、下の蕾にあてがう。
「……ぅ……ん……」
恥ずかしい声が漏れる。小さな圧迫感と異物感。
ゆるゆると入り込んで来るそれを、僕の肉壁は、悦んで迎え入れた。
中指1本だけが、ずっと出入りしている。
僕の喘ぎに合わせて、味わうように、粘りっこく。
背後から、膝を掬われるように抱えられているので、恥部が丸見えになっていて恥ずかしい。
反り返ったペニスがお腹にくっついて、露を垂らしている。
「ふ ぅ……ん…」
熱い息が胸と膝頭の間で渦巻いた。
睦月さんの手は、時々胸の尖りをもて遊ぶだけで、焦れる疼きを高みへとは、誘ってくれない。
僕はほとほと焦れて、不自由な体勢で睦月さんに顔を向けた。
頭を傾けた僕に気づいた睦月さんは、視線をくれた。
「ん、なぁに?」
優しく、囁く。
……もう、この人は!!
あんまり焦れてちょっと腹が立った。躰を捩って無言の抵抗をしてみる。
「……ぁ……」
後ろを搾ってしまって、よけいきつくなっただけだった。
くすり、と頭の上で笑う。
「巽君、可愛い……。意外と頑固だなんだね」
「……むつき……さん」
涙目になってしまう。
「言葉にして……巽君。ぼくに、どうしてほしいの?」
耳にしゃぶりつくように囁かれる。
僕の後ろは情けないほど、指に吸い付いてしまった。
僕は目眩の中で、覚悟を決めた。
「……さっきの……オモチャで……僕を……いかせて……」
目を瞑って、声を絞り出すように懇願する。
耳元で擽ったい笑みが漏れる。
「うん、いい子だね。気持ちよくさせてあげるよ……」
中指は僕を出入りさせたまま、左手で半割の細竹のようなそれを引き寄せた。
片端を持って反対の端をベッドにおしつける。真ん中から二つにパタンと折り曲がって半分にたたまれた。
途端に、長さ15cm位、太さ5cm位の円筒へと姿を変える。
「触ってごらん」
僕の人差し指を、その中に誘う。
「……あっ……」
きらきらと乱反射していて、よく分からなかった内側は、柔らかい繊毛で埋め尽くされていた。
筒も繊毛も同じ素材で出来ているらしい。
クリスタルのように固く冷たいのかと思ったら、そうじゃなかった。
指を入れたままの円筒を掌中にして、睦月さんが軽く握った。
固そうに見えたそれは、筒全体でやんわり僕の指を締め付けてきた。
「………!」
やっとわかった。声に出すのも、恥ずかしいそれは……
「これは、なに?」
僕の心を掌で転がすように、睦月さんは言葉で煽る。
「どうせ、レポートでも書くでしょう。今恥ずかしがっても、遅かれ早かれだよ」
頬にキスをしてくる。確信犯を隠そうともしなかった。
「睦月さんて……いじわるだ」
涙目で言う。
出入りしていた指が、ある一点を擦った。
「っあ……」
ふいの衝撃に、躰が撥ねる。
「ふふ……お仕置き」
ずっと後ろだけの疼きを生み出していたその指は、いきなり前への快感を弾き出した。
「ぁ……はぁ……」
前立腺を責め立てて、前への衝動をどうしょうもなく煽る。
触ってもらいたい。擦ってもらいたい。
この滾りを早く解放してほしい。
僕は透明な露を垂らしながら、打ち震えた。
ペニスを無視したこの責めは、生殺しのように思えた。
「……ぁ……やぁ……っ」
つい言いかけて、唇を噛んだ。
嫌じゃない。止めてほしくない。
「…………」
無言で待っている睦月さん。
だから、僕は言うことを聞くしかなかった。
悔しくて、涙が滲んだ。
「……その……オナ……ホールで……」
喉が引きつる。
「僕の……僕を……いかせて……」