chapter5. lost world 2 -届かない声-
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僕は部屋で待っていられなくて、玄関を飛び出した。
ポーチの前まで出て、白い柵に寄りかかった。そこは、夏にはバラの花がアーチを作る。今はだいぶ葉っぱが出てきていた。
こんなところで、誰かを待ったりしたの……初めてだ。いつも克にぃがいたし、克にぃを待つ時は、部屋で蹲っていたから。
足元を見ながらそんなことをぼんやり考えていると、僕の前で数人の影が止まった。
「………?」
顔を上げると、見たことのない男の人達が4人、にやにや笑って僕を見ている。
「やっぱそうだよ、この顔」
「健二が言ってた奴?」
「ああ、写真通り。かわいいじゃん」
「へえ……」
口々にそんなことを言いながら、僕をじろじろ見る。その目つきは、昨日の平林君と同じ感じで、とても気持ち悪かった。
嫌悪した僕は、ポーチの中に逃げ込もうとした。
「おい待てよ。そんなに急いで逃げなくたっていいだろ」
ぐいっと腕を掴まれた。
「……………っ!」
やだっ……なんか怖い。
助けを呼ぼうとして、口を動かした。ひゃーっ、掠れた音だけが、絞り出された。
「なに、こいつ」
「喋れないの?」
「知らねぇ、聞いてないぜ……」
やだ、やだ、なんかとてつもなく怖い。
───離して!!
僕の腕を掴んでいる人を仰ぎ見た。大きくて、力が強い。
「お、生意気な顔」
「へえ、どれどれ」
「なあ、こいつさぁ……」
「マジかよ、小学生だぜ」
下品な笑い声が、僕に絡んだ。
────霧島君! 霧島君!
腕を外そうと藻掻いては、心の中で叫んだ。顔を後ろに向けて、ドアを縋るように見る。
すぐそこにあるドア。なのに、凄く遠い。
あそこが開けば………僕の声が出れば………逃げられるのに!!
「なあ、俺たちと遊ぼうぜ」
僕は両腕を掴まれて、引っ張られた。腕を両側から抱えられ、足が宙に浮いた。
そのまま、引きずられるように、近くの公園に連れて行かれた。
───なに!? なに!?
何が起こっているの!? 怖いよっ!
克にぃ! 克にぃ!
─────助けて!!
乱暴に、公園の茂みに身体を投げ込まれた。
恐怖で痛みも感じない。その4人は立ったまま、怯える僕をぐるりと取り囲んだ。
「声出ないんじゃ、好都合じゃん?」
「ああ、お前待ってろ。先ず俺だ」
「ちぇ」
頭の上で、口々になにか言っている。両手をそれぞれ左右にいる人に、大の字で押えられた。
「────!」
僕は泣くこともできなかった。シャツの前を引きちぎられる。
「すっげ、きれー」
「当たり前だ馬鹿。まだ下の毛だって生えてないぜ」
「どれどれ」
ズボンも脱がそうとする。
────やめ……やめて、やめて!! 怖い! 怖い!
桜庭先生にされるのとは、全然違う。凶暴で乱暴で、まるで物みたいに服を剥ぐ。
「うわ、小せーっ」
「かわいいじゃん。勃つの? それ」
「はは、試してみろよ」
笑いながら、僕のをいきなり握った。
「─────!!」
やっ! 痛い!! 無理矢理、上下に擦る。
「………! ………っ!!」
出ない声で、叫ぶ。
────助けて、助けて!
その時、霧島君の声が聞こえた。
「天野──っ!!」
───!!
「天野ーッ! いるかぁ!?」
僕を捜してる!
────霧島君、僕、ここだよぉっ!!
身体を起こそうとして、地面に押しつけられた。
「なにあれ、友達?」
「くっくっくっ、………可哀相に」
「見つかる前に、早く食っちまおう」
────!!!
後ろに指をねじ込まれた。
痛い、痛い!
「ちっちゃいなあ。無理だろ」
「いや、でも広がるぜ。すげえ」
指を乱暴に出し入れする。僕は首を横に振って、痛みを散らした。
──やめて、やめてぇ! 怖いよ!
──霧島君! 霧島君っ!!
「ひゃーっ、ひゃーっ!!」
僕の叫びは、届かない。
「あまのぉ───」
頭の片隅で聞こえる。その声が、遠ざかっていく。
──やだ……霧島君!
さっきの胸の痛みが蘇ってきた。繋がった電話が切れそうな、不安感。
その一本の線だけが、僕の救い……霧島君と僕を繋ぐすべてだった。
今は、ここにいるのに。呼べばわかる。そんな距離なのに──!
僕の腰が抱え上げられた。
───!!
……嫌!! やだ!!
「ひっ………」
喉が引き吊れた音を立てる。
あっ───!
引き裂かれる痛み、押し広げて入ってくる、異物感、圧迫感、呼吸が止まる。
────痛い! 痛いっ、痛い!
無理矢理動く。
はだけられた胸も、いじくられた。
───あぁっ、………やああ!
身体が、びくんと跳ねた。
「お! チクビ感じてんじゃん?」
「すげ、今締まった。……なんだコイツ」
楽しそうな声が、上から降ってくる。
────痛い! 痛い! 痛い!
激しく揺さぶられる振動の中で、あまりの衝撃に頭がガンガン割れるように痛んだ。
怖い! こわいよ!
どんどん動きが激しくなる。痛みも恐怖も、押さえつけられて動けない僕はただ受け入れるしかなかった。
「ぅ……ッ、ゥゥ…ッ」
噛み締めた唇から、嗚咽が漏れた。
涙も流れる……それなのに届かない、 届かない! 声だけが出ない!
遠のいていく、僕を呼ぶ声───やだよ……やだよ!
「う……」
………霧島君、行っちゃやだよぉ!!
「っ……うわあぁ──────」
心臓が張り裂けたかと思った。僕の声は、公園中に響いた。
「いやああぁぁ────ッ!!!!」
泣き叫ぶ、怖い怖い! 助けて霧島君! 体が痛いよお!!
「あああぁぁ……っ」
叫び続ける僕の口が、急に塞がれた。
「なっ、なんだコイツ!」
「やべ……おい、逃げろ!」
強く打ち付けられていた腰の振動が、いきなり無くなった。
かたまりが引き抜かれて、急に全身が解放された。
「はぁっ!!」
僕は大きく息を吸い込んだ。
投げ出されたまま、動けない。痛い、痛い! 怖い、怖いよ! まだ恐怖は続いていた。
ガンガン響く雑音の中で、何か聞こえた。
「────の!」
「……………っ」
身体を揺さぶられた。また、あの恐怖が始まるのかと思った。
「っ! ……いやあぁぁ!」
金切り声を上げて、抗った。
やめて! 触らないで! もうやだよ……! 助けて! 助けて!!
「───あまの! 天野!!」
─────!
「天野!!」
暴れる僕を押さえつけて、僕を呼ぶ。
───はあっ、はあっ!
自分の呼吸と耳鳴りがうるさい。他は何も聞こえない。
「天野………」
僕を呼ぶ誰かは、僕を押さえつけて抱き込んだ腕を、さらに強める。絞り出した声は、泣き声だった。
「………………」
僕は、その声に胸を突かれて、拘束から抗うのをやめた。
「あまのぉ……」
僕を抱きしめて泣いている。
だれ……
「………きり……しま…くん?」
そう、聞いたと思う。
僕はそのまま意識を無くした。