chapter13. ring the changes 2 -変化の果てに-
「それは、嫌だ」
「……克晴?」
「寝っ転がって、指だけってのは、もう嫌だ!」
僕は驚いて、目の前のベッドの上でちょこんと座っている克晴を見た。
全裸だけど、隠すトコは隠すように片膝を立てて蹲り、僕を睨み付けている。いつも何も言わないで、渋々従っているだけなのに。
僕は、妙に嬉しくなった。
「どうして?」
なんとなく、訊いてみる。
「………」
聞かれると、怒った顔で睨み付けてきて、黙ってしまった。
僕は知っている。この顔は、怒っているのではなくて困っているのだと。素直に表現できないんだ。
「なんで嫌か、言ってくんないと。僕もイヤだなあ」
僕は、以前に脚を閉じたまま後を触ってから、それをとても気に入ってしまっていた。時々命令して、横たわらせていたんだ。今日も久しぶりに…と思って、命令したところだったんだけど。
克晴は、それ以上は何も言わない。黙って睨み付けてくる。その虚勢がかわいくて、思わず抱き寄せてしまった。
「──!!」
「克晴、なんだよ。今日はだだっ子だね」
言いながら、膝の上に乗せて背中から抱きしめた。一瞬抗った身体が、ふと大人しくなった。
………ん?
僕は、克晴の顔を覗き込んでみた。
「───」
眉をつりあげたまま、真っ正面を向いている。口を真横に結んで。
……“指だけ”ってのが、ヤなのかな。
僕は背中から抱きしめたまま、ベッドに横になった。自分も寝そべって、その身体に克晴をくっつけるように抱きしめる。まだ肩幅も小さい克晴は、僕の胸にすっぽり納まって、大人しくしていた。
「これならいい?」
訊きながら、首筋にキスをした。くすぐったそうに首を竦めたけど、返事はしない。
……あれ。
もう一度覗き込むと、もう怒った顔はしていなかった。いつものキツイ目で、睨み付けてくる。
「なんだよ、変なやつだな」
僕は克晴が可愛くて、そのままギュッと抱きしめてしまった。
こんなふうに、時々感情を見せてくれる。それがこんなにも嬉しく感じるなんて、僕自身、びっくりしていた。
膝を曲げさせて、僕も身体を丸めた。上から見ると、きっと2匹の親子エビみたいだ。
「克晴。膝、ちょっと持ち上げて」
肩口に顎を乗っけて、耳元で囁く。
上になってる方の膝頭をつついた。渋々という感じで、ちょっと膝が上がった。その脚の隙間に手をつっこんで、前から蕾をまさぐった。
「──っ」
ぴくん、と腰が揺れる。
「…これなら、いいんだ」
僕はくすりと笑いながら、蕾を刺激した。
「………」
無言で身体を捩る。最近の克晴は、すぐに息が熱くなるようになった。
僕の“開拓”の効果が、出ているんだと思うと、また嬉しい。
「克晴……ここは?」
空いてる方の手で、胸の飾りを触ってみた。
「──っ!」
とたんに、腕を振り上げて嫌がる。くすぐったいらしくて、我慢できないようだ。
「はは、全然ダメだね。ここも良くなるといいのに」
焦るつもりはなかった。下の方は、充分感度が良くなっている。
そのうち僕を受け入れられるようになって、もっと気持ちよくなれたら。そしたら、次の開拓だ…そう思っていた。
蕾に、中指を挿入した。根本まで全部埋め込む。
「……ん…ぁ」
仰け反った克晴の後頭部が、僕の胸に押し付けられた。
この感触が、大好きだった。
極力僕に触れたがらなかった克晴の身体が、いつのころからか、僕の胸に当たるようになっていた。たいがい、こうやって頭や背中がくっついてくるんだけど。
「克晴、指…増やすよ」
「………」
──ん。
まだ増やしてないのに、言葉だけでソコが締まった。
また、くすりと笑ってしまう。かわいいな。ローションを足して、人差し指を中指に添えて、ゆっくりと押し込んでいく。
「………はぁっ」
苦しいらしく、大きく深呼吸している。
「まだまだ、増やすよ」
何回か出し入れして、薬指も添えた。
「くっ………」
辛そうに、目を瞑っている。
「克晴……。覚えていると思うけど、僕のはこんなもんじゃないんだ。もっと広がるようにしないとね」
優しく耳に囁く。ビクンと全身を震わせた。
……怖がらせちゃったかな。
その後も小刻みに震えているから、頬に、首に、肩に、キスをした。同時に指の出し入れも早くして。
「んっ、……あぁ!」
膝をすり合わせて、身もだえている。
かわいいな──そう思うと、胸が痛くなる。なんだろう、これは。
その後はがまんできなくなって、いつものを始めた。指は抜いてしまう。ズボンのファスナーだけ下ろして、自分のモノを取り出した。
「克晴。大きく脚、広げて」
ゆっくりと持ち上がった太腿の間に、後ろからそれを挟ませた。
「膝、しっかり締めててね」
克晴の両手は、絶対に僕に触れない。
前に、僕にしがみついたことがあった。その時邪魔だったから、剥がして拘束したのがマズかったのかも。目の前のシーツを掴んで、拳を震わせている。
僕はその手を、シーツごと上から掴んで固定した。克晴の太腿の間で、僕のモノが擦れると、克晴は嫌がり出すから。
気持ち悪いのかな。僕は凄く気持ちいいけど。
「動くよ」
腰を打ち始める。僕に掴まれている腕が、緊張する。素股なんだから痛いはずもないのに、顔を顰めてるし。
そんな、ヤかな。
「ん……イク!」
背中にかけちゃおうか、迷ったりするけど、そのままイク。そうすると、克晴が吐精したみたいに前が汚れるんだ。
「………」
この時の克晴も好き。すっごいイヤな顔をするから。
僕は、とにかく克晴の表情が動いたときが、嬉しかった。
「これ、克晴の中で出したい」
耳に囁くと、もっともっと嫌がる。でも、喋らないんだ。
うん、でもイヤ、でも。その一言すら、いつも唇を噛み締めて飲み込んでしまう。
───克晴。もっともっと、克晴の心が見たい。
もっと、僕に晒け出して。
その後、二度目の挿入もヤッて、克晴の精通も迎えた。
どんどん成長する身体。中学に上がった克晴は、身長が伸びて、力も強くなっていた。
───んっ、痛てっ!
僕の頭に添える、克晴の手。嬉しいんだけど、ちょっと痛い。
克晴のモノを口に含み、後ろに指を差し込む。まずは一回、イかせてあげるんだ。身体が熱くなるから、僕も気持ちがいい。
いつからか、イきそうになると僕の頭にしがみつくようになった。それで、最後は掻きむしるんだ。
だからイキそうなのがわかって、それはそれでいいんだけど。
「ん……はぁ…」
あと少しってとこで、僕は唇を止めちゃう。
ブルッと腰を震わせて、克晴の手からも力が抜ける。熱い吐息も漏れた。舌先で、チロチロと先っちょを舐めてあげると、また髪の毛を引っ張る。
少し扱いてまた止める。それを何回か繰り返して焦らしていたら、身体ごと震えてくる。
これが堪らなく好きなんだ。かわいい。言葉では何も言わない。でも、身体は正直だ。早く、早くって叫んでる。
──そんなに焦るなよ、克晴。
僕はわざと焦らして、時間を掛けてイかせてあげる。この気持ちいいのが、クセになるように。
「あっ、……あぁ!」
背中を反らせて、吐精した。それを僕は飲み込む。気味悪いようなカオをするから。その口でキスをすると、もっと嫌がる。
「今度は僕を、気持ちよくさせて」
言葉でも煽る。自分はそんなことない、気持ちよくなんか無いって顔で睨み付けてくるから。
ウソ付けって……心がくすぐられるんだ。
克晴の醜態をもっと見たい。カッコ付けのコイツをもっと暴きたい。
───僕はあまのじゃくだ。
本当は優しくしたいのに。
ただ、身体を合わせることを、喜びたいのに。
「ぅ……はぁ」
綺麗な肢体がしなる。汗が煌めいて、本当に綺麗。この身体を独り占めしている僕は、すっごい幸せ者だった。
今では克晴の中で、僕はイク。
「克晴…克晴…」
気持ちよすぎて、その名を呼ぶ。気持ちも身体もどんどん高まっていくんだ。
「ん……克晴……イクッ」
「……んんっ」
その時は、克晴も喘ぐ。熱い僕の液体が注がれるのが、イヤみたいで。
だから、フタをしたまま、抜かないでいてやるんだ。しばらく僕を味わってもらわなくちゃ。
「────」
克晴が目線で訴えてくる。“抜いて”って。
やだ。
僕はにっこり微笑んで返す。そして、キスする。この唇も大好き。へそまがりの意地っ張り。
──だから、時々紡ぐ言葉は…真実だけ。
僕とは、正反対だった。
僕は、態度も言葉も素直じゃない。
かわいい…が“好き”になって。
好き…が“愛してる”に変わったのは───いつからだったろう。
もう、一緒にいられない。そう分かった時……内示が出た時かも知れない。
会えなくなるって、思った瞬間の…この胸の痛みは──。克晴の、いろんな顔がフラッシュバックした。
私立の中学校に行かない理由を、ちゃんと親に話せって、エールを送った時。
……子供なのに、いっちょまえの苦悩した顔を見せた。
キスを我慢して受け入れる時の、見上げてくる顔。
鋭い目で睨み付けてきて、諦めたようにぱたっと瞼を閉じるんだ。…あれは、実はちょっと寂しい。
初めて押し倒したときの、憎まれ口。
オッサンて言うし、みんなバラすなんて叫ぶから。──必要以上に、酷くしちゃった。
仰け反って、僕の胸に後頭部を押し付けてくるのが、好き。
身悶えて、僕の髪を掻きむしるのが、好き。
焦らしていると、最後はじっと見つめてくるのも、大好き。
薄目でちらりと見られると、もう一回ヤリたくなってしまう。
こんなに早く別れが来るとは、思ってもいなかった。
いつか、年の差を感じ出して怖くなるかも…そんな恐怖は、あった。
──でも…。
こんなにも虜になって。
あんなに酷いことし続けて。
色々なことが、取り返しがつかない。
一番ダメだったのは、僕が臆病だったこと。
繰り返し、克晴をいじくるうちに。何度も何度も、試すうちに。僕も同じように繰り返し克晴を感じて。
克晴は、確実に変わっていった。そして、僕も変わっていったんだ…
それを、告げなければならなかった。
克晴以上にカッコつけた僕は……
───本当に愚かだった。