chapter9. Antinomie -二律背反-
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でも次の日の朝、僕は自分の発案の素晴らしさに、小躍りする思いで、喜んでしまった。
もう病人じゃないんだから、食事はずっとダイニングで摂らせていた。
朝、なかなか部屋から出てこない克晴を呼びに行くと、布団の中で蹲って顔だけ出して、睨み付けてくる。
「ああ……」
そうか、と思わず、声を出してしまった。
着る服がない。
それは、克晴が当然こうなるということだった。そう言えば、昨日もそうだ。ドアの影から、顔だけ出していた。
………可愛い……
どうしても、そう思ってしまう。
どんなに身体が成長していても、見かけが大人になっていても、僕の中で、克晴はまだ中学生になったばかりの子供だった。
「いつまで、そうしてる気? 餓死したいって言うなら、ずっとそのままでもいいけどさ」
部屋の入り口から、克晴に冷たく言った。
「僕が餓死なんか、させないからね。わかってると思うけど」
前に拒食性に陥ったとき、チューブで胃に直接流し込んでも食べさせる、そうしてでも死にさせやしない! って、そう教えてあげた。
そんな事に希望を繋がれたら、堪ったモンじゃない。
………殺させやしない。やっと捕まえた、僕の子羊。
怯えた眼で、僕を見返してくる。僕もそれ以上何も言わず、見つめ続けた。
───どう、出る? ……克晴
僕が半分期待していた、パジャマを寄こせ! とか、ちゃんと筋トレするから、とか……そんなのは、やっぱりなかった。
ゆっくり動きだすと、ベッドから起き上がって、僕に近づいてくる。
…… 一歩、一歩………
─────!!
覚悟を決めた克晴は、潔が良すぎる。
背中を丸めて、身体を隠そうとなんかしない。胸を張って、しっかりと歩いてくる。
さっきは中学生のままだ、なんて思ってたけど──僕は、生唾を呑み込んだ。
「…………」
バランスのいい肢体は、細くなってても、カッコイイ。肩も胸も腹も、みんな剥き出しで……
腰に巻いたタオルだけが、唯一のまといモノ。腰骨の下で、それは局部だけを隠している。
「色っぽい……克晴……」
髪が少し伸びて、首筋に掛かる。その下に、浮き出た鎖骨。
胸の両側に、薄く色付く小さな花弁。贅肉が落ちて、くっきりと割れてるのが分かる腹筋。腰骨から下腹部へのライン。
タオルの下から伸びた……太腿が、膝頭が、ふくらはぎまでもが……妖しい妖艶さを、匂わせている。
……タオルなんか巻いてるから、余計イヤラシイんだ。
コレが風呂上がりだったら、自然なのかもしれない。行為の後だったら、こんなに興奮はしない。
これから、朝食なのに……
明るい部屋へ出て行かなければ、いけないのに…
こんな格好を強いられている事への、屈辱感───その気迫が、この妖艶なオーラとなって、克晴を艶めかせている……
僕はドキドキして、見入ってしまった。僕が退かなければ、向こうへは行けない。そんな位置にいるのに、動けない。
目前まで来て、克晴が止まった。腕を伸ばしてやっと触れるくらいの、牽制した距離で。
退け……とも言わない。黙って立ちつくす。
このまま2人で朽ち果てるなら、それでもいいって……そんな眼だ。
睨み付けて……僕を絶対、許さない。
「……克晴」
堪らなくて、先に動いたのは、僕だった。
歩み寄って、その裸体を抱きしめる。一瞬、ビクリと硬直して、呼吸も止まったようだった。
頭を抱えて、僕の肩に顔を押し付けた。反対の手で、背中を抱きしめる。
抵抗も、抱きしめ返しもしない、僕の哀しみの人形……。
堪らない……堪らない……
僕の性欲を、煽る。
僕の残虐性を、駆り立てる。
なんで、克晴はこんなに……
それ以上は、考えても無駄だった。答えなんか、出やしないんだから。
僕は歩いてきた克晴を、ベッドに連れ戻して、押し倒した。
「…………ぁ!」
小さな悲鳴。
判ってたけど、まさかって…そんな、眼の色。
僕だってそうだ。
ダイニングテーブルには、湯気を立てるみそ汁のお椀が二つ。焼きたての魚と、盛りたての白い御飯。今朝は、純和食にしてみたから。
マグカップには熱いコーヒーも、入ってる。
“食べようか”って、ちょっと向こうに行けば、いつもの朝食の風景なんだ。
でも、そんなこと出来るはずがない。
この身体を目の前にして、何もせずに、穏やかに食事なんて………!!
非難の目の色を、真っ正面から受け止めて、その唇を塞いだ。指で胸の花弁に刺激を与えながら、反対の手で腰骨を撫で上げる。
「………んんっ…!」
克晴が、身悶えた。
昨日挿れたバイブはかなり大きかったから、今もほぐれてるんじゃないかな。指先を押し当てて、確かめてみる。
「ん……イケるかな、克晴……」
締まっているようで、ちょっと揉みほぐすと、柔らかく解けた。指を容易く、受け入れる。
「や……むり……」
濡らしも、解しもない。それに恐怖した克晴が、僅かな抵抗をした。
僕は身体をずらして、タオルを捲り上げた。そして晒した秘部に、顔を埋めた。
「んっ……ぅあ……」
蕾の奥に、舌を差し入れていく。克晴のそこは、痙攣しながら僕の舌を締め付けた。
コレも僕は大好きで……無意識とはいえ、僕にアクションを起こしているんだ。そう思うと、堪らなく愛しい───。
腰の両側で、シーツに爪を食い込ませている。
早く、そんなのじゃなく、僕の髪を掴んで…! そう期待しながら、克晴の腰を高めてあげる。
蕾の壁を突き破って、その奥まで探るように。深く深く、舌を差し込む。
「あぁ……ぅあああぁ……」
湧き上がる疼きに、克晴も身悶える。
この状況に興奮してるのかな。いつもより簡単に勃起した、克晴のペニス。僕の額に時々当たって、揺れている。
その先端にも、指を這わせた。
「あぁッ!!」
ビクンッと、腰が揺れて、蕾が激しく締まった。
「───んっ」
僕も呻いた。股間に響いたんだ。克晴の、色っぽい声が。
鈴口を細かく擦って、刺激してあげる。時々割れ目を押し開くように、軽く爪を立てる。そして括れの縁を親指の腹で、そっと撫で擦る。
「ぁっ……くぁ…!」
ビクンビクンと、痙攣しながら、先端から透明な露が零れ出てきた。
それを潤滑剤にして、亀頭だけをいつまでも責め続ける。親指の腹だけで、こすり続ける。
「ぅあぁ…ぁ……まさよし…、もぅ……!」
克晴の焦れ方に、怒りが混じった気がした。僕の髪を掴んで、毟るように引っ張る。
僕にも、ここから先をイジメ倒す余裕は、無かった。
直ぐさま身体を起こして、克晴の中に入ろうと、蕾に熱い滾りを押し当てた。
「……うあぁ!」
仰け反って、喉を見せつける克晴。ぎゅうぎゅう締め付けながらも、僕を全部くわえ込んだ。
開脚した腰の周りに纏わり付いていたタオルを、結び目を解くのももどかしく剥ぎ取って、その艶めかしい肢体の全容を眺めた。
しなやかな腕。締まった腰周り。綺麗な肌。
やっぱり、イイ……克晴の身体……
「エロいなぁ………」
何度言ったか分からない呟きを、もう一度口の端に乗せて、僕は腰を使い始めた。
途端に身悶え始める、克晴。
「ああっ……、ん…ぅぁああっ……!」
普段はちょっと低い声が、オクターブ高くなって掠れる。必死に抑えながらも、打ち付けるたび、漏らしている。
どうしよう、止まらない───
異様に興奮しているのは、自分でも判った。
「克晴…克晴……!」
抱きしめて、全て僕の腕の中へ押さえ込んで──激しく、腰を打ち付けた。
パンパンと肉音が響く。
僕の荒い息と、克晴の喘ぎ。
冷めてしまったであろう、朝食の1セット───その部屋の隣で、僕はいつまでも野獣から人間に戻れなかった。
その後も、毎日毎日…。その格好で、僕を刺激する。
───違う。あの眼で、僕を駆り立てる。
あの日は結局、克晴は朝も昼も食べなかった。
夜、さすがに心配になった僕は言葉で脅した。
「あんまり我が儘言ってると、手遅れにならないうちに、処置するよ」
処置ってのは、もちろん強引に食べさせるってことだ。
体内に入れる方法は、いくらだってある。僕はそんなの、イヤって程、知ってるんだから。
「──────」
一瞬、怯えた克晴の眼。ビクッと身体を震わせて、それでも動かない。
ちょっとだけ、ベッドから出そうなモーションをしたのに、止めてしまった。
「…………」
逡巡してるのが判る。
強引に食べさせられるのなんか、嫌に決まってる。
でも、ベッドから出た途端、今朝みたいに僕に襲われたら……
そう思うと動けないって、……そんな顔してる。
「今は何もしないよ。……御飯、食べよう」
溜息混じりに、言ってあげた。怯えきったネコみたいだったから。
懐かない、気高い美猫。
“先輩”っていう、血統書付きだ。
やっと、のっそりとベッドから這い出してきた。
明るいリビングに出ると、その艶めかしさは半端なかった。
あまりにその構図は、ミスマッチで……腰にタオル一枚となると、席に着けば全裸同然。
生肌の肩、胸、腹が、いつものダイニングに華やかに異色を放っている。
その場違いな様子は、僕でさえ緊張しちゃった。
───眩しすぎる。
……そして肌色の中に浮く、ふたつの乳首。これがまた、エロい…。
食卓に並ぶステーキやサラダを目の前にして、克晴は硬直したように俯いたままだ。
イスの背もたれが冷たいのか、寄りかかってはすぐ背中を離している。可愛くて、つい笑ってしまった。
「食べなよ。冷めちゃうよ」
今日初めての食事だもんね。お腹が空いてるに、決まってる。だから、ちょっと豪勢なメニューにしてあげたんだ。
「……………」
僕の声に、じっと落としていた視線を、上目遣いに睨み付けてきた。
唇を噛み締めて、何かを言いたそうで言わない。怒りか羞恥のせいか、目の縁と頬をうっすらと紅く染めて。
戦慄く口元を眺めていると、それを奪いたくなってしまった。
「───食べないなら、もう犯ッていい?」
冗談なんかじゃない。抑えきれないリビドーが湧き上がってくる。挑発してるのは、克晴なんだ。
「────ッ」
克晴は喉の奥を鳴らして息を詰めると、また目線を下に落とした。
黙ってスプーンを拾うと、スープを口に運び出す。
いつもは“いただきます”と”ごちそうさま”を言わせてる。でも、今日ぐらいいいか。
僕は克晴に負けないくらい、食事なんかそっちのけになってしまった。
裸でマナーを守った食事をすると言うことが、こんなにも異質な空気を作り上げるモノなのか。
その、普段ではあり得ない光景を眺めながら、それも食べろ、あれも食べろと世話を灼いてしまい、僕自身はほとんど食べないでディナーを終えてしまった。