chapter1. time signal- 始まりの時報 -
1. 2.
 
2.
 
「いい子…そのままね、動いちゃダメだよ」
 
 
 さっきと同じ事を言う。僕は本当に恐くなった。
 さっきのみたいな、奥を触るのはやだ。
「なに…するの?」
「ん…気持ちイイこと…かな」
 にっこり微笑んでくれる。
 手のひらで優しく撫でたりさすったりしてくれるのは、気持ちいい。
 でも、他はいらない。じゅうぶん気持ちいいもん。
「…ぁ」
 やっぱり。克にぃの手が、またお尻を開く。
「や…。やだ、それ」
 気持ち良くない。逃げようとして、また大きな手に身体を掴まれてしまった。
「恐くないから。ね、大丈夫だから、じっとしてて」
 ますます真剣な声。でも、僕を心配する時とはちょっとちがう。
 やさしく、やさしく言う。
「うん…」
 僕はまくらに顔を押しつけた。言うことを聞かないと、いけないような気がしたから。
 克にぃの手が、僕のお尻の真ん中に動いていくのが、目をつぶっててもわかる。僕はまくらをぎゅっとした。
 克にぃの指が僕の真ん中に当たる。
「……!」
 言いつけ通り、まくらに顔を押しつけた。
 気持ち悪いよ! くすぐったくもない。やだ……!
 声にならないけど、そんな気持ちでいっぱいだった。初めてのことで、ただただ恐かった。
 何度も何度も、穴のトコを押す。僕は苦しくなって、顔を上げては、深呼吸をした。
 
「かわいい…メグ。ここもめちゃくっちゃ柔らかい」
 克にぃの声が、かすれてる。息も僕と同じで苦しそう。
 こんなことが、気持ちイイことなの?
 撫でてくれるお尻に何か柔らかいものが、何回か触れた気がした。何か分からなかったけど、後で考えて、唇をくっつけたんだと思った。
「動かないでね…」
 言いながら、指を真ん中の穴に入れてきた。
「ひゃあ……」
 僕はあわてて、口をまくらにくっつけた。
 変な生き物が僕の中に入って来る気がした。ぐいぐい押すのが、苦しい。
「や…。やっぱ、やだ…」
 泣きべそを掻いてしまった。恐くて、胸の中がもやもやするんだ。
 克にぃは指をそのままにして、反対の手で頭を撫でてくれた。こっちの方が、よっぽど気持ちがいいのに。
「ごめんね。イヤな思いさせちゃって」
「……」
「これはね、メグにとっては、おとなへの第一歩。メグ昨日、早く大人になりたいって、言ってたろう?」
 そんな。…おっきくなりたいって思ったけど…。
「これは、そのための儀式のひとつ。まだ、そういうのがいくつもあって、メグは大人になってくんだよ」
「…ぎしき?」
 克にぃも、こんなことしたの?
 ……とうさんが教えてくれたのかな。克にぃには、なんでもするから。
 僕は、なんでか悔しくなった。
 僕だって平気だもん。大人になるもん。とうさんが教えてくれなくたって。
 
「ぼく、がまんする」
 そう言うと、克にぃがびっくりしたようだった。
 
「我慢て…。そんな風に言うんじゃないよ」
 声が悲しい感じ。
「慣れると本当に気持ちいいから。くすぐったいことに嫌悪しないで」
 ……ケンオって、なに? くすぐったくないし。
 でもがまんする。そう決めたんだ。
「うん。克にぃ、僕、だいじょうぶ」
 ちょっと笑ったら、克にぃも笑ってくれた。
 大好きな笑顔。そうだ、克にぃが僕に嫌なコトするはずがない。いっつも僕に笑顔をくれた。
 克にぃの指がどんどん奥に入ってきた。
「んー、んー」
 僕は泣きそうになりながら、まくらに口を押しつけた。指が全部入ると、ゆっくり出しては入れてを何度もする。
 やだ、やだ、やだ…………
 頭の中は、たすけてと叫んでる。でも、助けてくれるのは克にぃしかいないのに…。
 がまんするって決めたのに、とうとう僕は泣き出してしまった。まくらに押しつけてても、泣き声が消えない。
「……ひっく、……えぐ……」
 息がくるしくって、止まらない。克にぃは指を抜いてくれた。
「ごめん、ごめんね、メグ。無理させちゃったね」
 ティッシュでふいてから、ズボンを元通りにはかせてくれた。
「メグにはまだちょっと早かったよな。俺…はやまった」
 頭を優しく撫でてくれる。
 そんなふうに謝る克にぃにごめんなさいって気持ちと、気持ち悪いってモヤモヤが、いっしょになって、僕はとうぶん泣きやめなかった。
 
 でも僕は反省したんだ。
 決めたのに。だいじょうぶって言ったのに。
 僕がほんとうはとてもイヤだって、先に言ってれば、あんな事にはならなかった。
 それなのに、克にぃが謝る。そんなのもっと嫌だった。
 それに、今日学校へ行ったら、やっぱりはやく大人になりたいと思った。カッコイイ友達と、力が強いいじめっ子。どっちも僕にはないモノなんだもん。
 
 その日の夜、克にぃに頼んだ。
「ほんとにダイジョブだから、ぎしき、やめないで」
 克にぃは、僕を向かい合わせにひざに乗っけて、抱きしめてくれた。
「無理しないでいいよ。やっぱりゆっくり大人になればいいんだ」
「……」
「いつも下に寝てるメグが、すぐ横にいるから、俺、つい焦っちゃってさ」
「………。ずるい、克にぃ」
 僕はまた、変にいじを張ってしまった。なんか、ほんとに、ずるいと思ったんだもん。大人にさせようとしたり、止めてみたり。
「僕、ほんとに早く大きくなりたい。せっかく早くなれるなら、ちゃんと教えて」
 拗ねて口をとんがらかした。いつもなら、そんな僕をまるっきり子ども扱いであやす克にぃ。そのことでまた拗ねてしまうのだけど。
 でも、今の克にぃは違った。目がすごく真剣。光が恐い。
 怒ってるのとは違う。
「そんなこと言って、また泣くだろ?」
 その言葉は、僕の心にすごくすごく痛かった。泣きそうになった僕の顔を手で挟んで、優しく言ってくれた。
「メグを責めてるんじゃないんだ。…自分が嫌なんだよ。メグを泣かすなんて」
 克にぃの声もなんだか泣きそう。でも目の奥の光はまだ恐い。
「…僕、…平気…」
 その目に吸い込まれるような気がした。
 一瞬、笑ったように見えたその光。
 …僕は触れてはいけないものに触れちゃったのかな……。そんな気がした。
「優しくするから。しばらくは、指を入れるだけな」
 僕はこくんと顔を縦に動かした。
「そのうち動かして、気持ちよくなってくから。そしたら教えてくれな」
「…うん。くすぐったくなる?」
「はは…。そんなの通り越して、もっともっと気持ちいいよ」
 頭を撫でてくれた。
 それから、部屋を出て、手にクリームの瓶を持ってもどってきた。
「…それ、かあさんの?」
「うん。母さんの顔に塗るクリーム。これを指に付けると、滑りやすいだろ」
「…うん」
 …そうかもしれない。なるほど…なんて、僕は時々大人が使う言葉でなっとくしてみた。
 でも……
「そんなの、だいじょぶなの? …その…、中にいれても」
 恥ずかしくて、ちゃんと言えないよ。
「だいじょうぶ。実証済み」
 にっこり笑う。
 じっしょうずみ?
「なに、それ?」
「あ、いやいや。なんでもないよ」
 克にぃは急に慌てて、怒ったように横を向いてしまった。
 ほっぺたが赤い気がする。
「それよりほら、今日はもう寝よう」
「え……」
 なんで? 続きは?
「さて、って改まるのって…、要するに位置について用意ドンていうのは、緊張するだろ?」
「…うん」
「だから、メグが平気そうな時にやる。それじゃダメか?」
「……ううん」
 僕は嬉しくなった。だってホントはやだから。気にしないうちにやってくれるのは嬉しい。
「よしよし。それじゃ、寝ような」
 頭をぽんぽんしてくれて、昨日のように、一緒にベッドの中で丸くなった。
 でも僕は、ほんとのところはまるで分かってなかったんだ。知らないうちに大人になれると、ただそう思っちゃってたんだ。
 
 次の日の朝、また腰が寒くて、頭がぼんやりと起きた。お尻に違和感。
「ん……」
 お尻が温かい。克にぃの手のひら。…それから
「ぅぅん……」
 息が止まりそうになった。昨日と違って、指がするする入ってくる。
「あ…、かつ…にい……」
 恐いとかはなかった。まだ頭がぼけてて、身体だけが、びっくりしてる。
 思わず呼んだのは、どうしてかな。
 全身が指と一緒にゆれて、昨日とは何もかも違う。
「ん…ん…」
 動きにあわせて、呼吸も出来た。
「…起きた? メグ?」
 優しく微笑んでくれる。その声が好き。
「ん…ぅん…」
 僕は返事しようとしたけど、できなかった。
 なんか変。なんか変。昨日みたいな嫌なもやもやとは違うもやもやが、僕の胸にたくさん出てきた。
「あ…」
 克にぃが、小さく叫んだ。
 僕は、何がなんだか分からなくなっていて、顔だけちょっとそっちに向けた。
「メグ、やったなあ」
「?」
「…いや、なんでもない。今日はここまでな」
 急に指をとっちゃった。
「はぁ…」
 僕は大きな声を出して、呼吸をした。
 気持ちいいかって聞かれると、わかんないけど、嫌じゃなかった。
 ただ、びっくりした。寝ててそのままなんて、そんなじゃすまないことだけは、わかった。
 次の日の朝も、いつの間にか指を入れられていて、身体を揺すられて起きた。
「ぁ…、んんっ」
 揺れに合わせて、声が出ちゃう。そう言うのをアエグっていうらしいけど、そんな言葉よくわかんない。
 気が付くと汗びっしょりになっちゃってる時もあった。だんだん慣れてきてるんだと、嬉しそうに言う克にぃ。
 でも克にぃも時々、すごい苦しそうな顔をしてることがある。僕が心配すると、平気平気って笑うんだ。

 そうやって僕はカイタクされていった。今でも僕は、なんで克にぃが苦しそうなのかわかんないけど…。
 きっとそろそろ分かるはず、2年も経ったんだ。僕は10歳! もう大人、すぐ大人…!
 
 
「ん……」
 そして、今日も僕はお尻に指を入れられて起こされる。
「もう、いいってば。やめて…」
 毎朝そうだ。もう僕はじゅうぶん慣れた。気持ち良くなったし、あえいだりもする。
「う~ん、カワイイ。メグのお尻っ」
 ほっぺたを付けて、ぐりぐりしてくる。
「やーっ、もう! 指、抜いてーっ」
 毎朝、こんなだ。今も僕たちはダブルベッドに二人で寝ている。
 僕の朝は、喘ぎという溜息から始まる。
 やなのは指じゃなくて、可愛いって言い続ける克にぃの言葉。指抜いてってのだって、ほんとはヤじゃないし…。
 でもなんで僕は、指を入れられちゃう前に起きないんだろう。よっぽど鈍いのかな。
 どうせ朝脱がされるんだからと、夏の暑いとき、何も穿かないで寝たことがあった。その時はなぜか何もされなかった。
 時々それやると、いつも次の朝は平穏だった。どうやら脱がせるところに、ダイゴミがあるらしい。
 ……ダイゴミって、なんだそれ?
 
 でも、いつまでこんな事が続くんだろう。
 克にぃはもう18歳。ホントの大人にはもうすぐだよ。
 いつか僕の前から居なくなっちゃう…?
 でも、そんなイヤなことは、考えない。
 だって今のところ克にぃは、僕のお尻にゾッコンなんだから。
 ゾッコンて言葉、よくわかんないけどね。
 


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