chapter2. time-lapse- 刻まれる記録 -
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 だんだん育っていくと骨格が目立ってきて、こんなカワイイお尻じゃ無くなってしまう。
 昨晩、恵に言った通り、このまま成長が止まってしまえばいいのに。
 そしたら、余計な虫がつく恐れもないし、世の中に傷つくこともない。
 俺の庇護の元、俺の掌の中だけでずっと暮らしていればいい。
 でも、どんなに切実に願っても、時間だけは総ての人間、生物に対して平等なんだ。延命出来たって、老けない奴はいない。無機物だってそうだ。この世に現存する総てのモノに滅びはやってくる。
 ……俺は胸が痛くなった。恵と別れる日が来る。いつかは来る。
 卒業、就職、…未来なんてわからないけど、そんなありがちなビジョンが脳裏を掠める度に、チクチクと胸を刺された。
 そうでなくったって、いつかはきっと……そんなのは、どうしても嫌だった。
 そうなる前に、いっそ俺がすべてを手に入れてしまおうか。あいつが俺にしたみたいに、まっさらなうちに、恵のすべてを。
 でもそうするには、今の恵はまだ幼すぎるんだ。つい自分の欲望のために早く成長を願ってしまう、矛盾した俺がいる。
 
 あいつも俺を見て、いつもこんな気持ちだったのか…。
 何となくそんなことを思った。
 俺も立派なヘンタイになったもんだな、恨むぜオッサン──なんて、洒落にもならない。苦々しい想いが湧いてきて、俺は奥歯を噛みしめながら頭を振った。
 いや違う、恵だからだ…愛する恵だから、こんなに好き過ぎておかしくなるんだ。
 あいつとは違う。誰かの代わりになんて…なんでそんなことが出来るんだ。
 俺は頭の中から雑念を振り払って、目の前のお尻に没頭した。見ているうちに、全部見てみたくなった。そう言えば、育ってからのこんな無防備な動いてないお尻なんて、見たことないや。
 そっとそうっと、息を殺してズボンを下着ごと下ろしてみる。ここで起きてしまったら、何にもならない。ものすごい注意力で、途中まで脱がせた。
 そして、それを見つめて、ほぅっと溜息をつく。
 なんて可愛いんだろう。よく桃尻って言葉を聞く。それは女の人の為の言葉だろうけど…俺にはこのお尻のためにある言葉だと、つくづく思った。
 ぷっくりと膨らんで、柔らかそうだ。つやつやして、明けてきた朝の光がカーテンを通していっそう輝かせる。これを見るためではなかったけど、遮光カーテンにはしなかったのが良かった。
 
 
 ……見ているだけでは、飽き足らなくなってきた。
 これが人間の性というものか。こうして犯罪が起こるんだな。他人事のように頭の隅で思いながら、葛藤を繰り返していた。
 犯罪者になるか…ではなくて、起こして気付かれてしまわないかと。恵に嫌われたら、それこそ俺は生きていられないだろう。そして、死んでも死にきれない。恵のその後を思うと心配すぎて。
 ああ、でも俺は欲に負けてしまった。ぷるんぷるんのお尻。ちょっと触るだけなら…。恐る恐る手を伸ばした。息も出来ない。そおっとシャボン玉が羽毛に降りても割れないくらい優しく、そのまるみに触れてみた。
 うわぁ……、柔らかい…すっべすべだし。
 感動して、撫でさすってみた。でも、だいぶ外気に放置してしまったため、冷えてしまっていた。くしゅん、と小さなくしゃみまでしてる。
 ああ、起きてしまう。俺はさっさとこの愚行を終わりにして布団を被せ、温めてあげなければいけなかった。
 
「かつ…にぃ……?」
 とうとう目を覚まさしてしまった。その時、俺の中で何かが弾けた。いや、壊れた。
 もう止まらない。
「メグ…。起こしちゃったね、ごめん」
 囁きながら、手は核心へと近づく。
「メグ、動かないで…」
 でもさすがに、蕾に触れた途端に小さな体が跳ねた。
「や! …克にぃ!?」
「…動かないで、なんでもないから」
 ここで終わりにしたら、却って恐い思いが残るだけだ。俺は必死に時間を繋ぎ止めた。
 大丈夫、恐くない、を繰り返して、なんとか気持ちよくなってくれないかと、お尻をさすったり、頭を撫でたりした。
 
 そのおかげか、静かにしてくれた。ジッと動かない。そんな仕草にも、愛おしさが込み上げる。
「いい子、メグ…。いい子だね」
 これ以上のことをしてしまっていいのか、不安が常に俺を一回は押しとどめる。しかし、また動き出した恵の身体を、結局押さえつけてしまった。
「だめ、このままでいて」
 でも体勢が辛そうなので、俺がそうされたように、恵にも枕を抱かせた。腕に力が入る分、後ろは少しラクになる。そして、えげつない嘘。
「遊んでいるだけなのに、親に迷惑をかけちゃう」
 これもあいつに仕込まれた、子どもを言うなりにさせる魔法の言葉。言われる方には呪いの呪文だった。雁字搦めになって、動けなくなる。
 恵もまた、ぴたりと動きを止めた。俺は自分自身を見ているようで、恐くなった。頭と心と体が、全部バラバラだ。
 勝ったのは欲望だった。目的意識をはっきり持っている欲望だけが、自分を動かす。後はみんな傍観者だった。命令のままに手を動かし、唇を動かす。
「恐くないから。ね、大丈夫だから、じっとしてて」
 俺は同じ台詞でなだめながら、蕾に触れた。ちっちゃなそこから指先に、震えが伝わってくる。それとも俺が震えてるのか。とにかくむちゃくちゃかわいい。
 掠れる声を抑えながら、思わず目の前の双丘にキスをしていた。何度も何度も。これははっきり、俺自身の意志で。
 そうせずにはいられなかった。愛しい俺の恵。小さな俺の……忘れないように、壊してしまう前に、覚えておきたかったのかもしれない。
 
 そして再度、指を蕾の奥に指を入れようと試みた。
「ひゃあ……」
 また体が跳ねる。泣きべそを掻き始めた。あたりまえだ。何にも知らない小さな子どもなのだから。
 ごめん、恵。本当にごめん。謝りながらやめようとしない俺を心で罵りながら、言葉では恵に一生懸命謝った。
「これはね、メグにとっては、おとなへの第一歩。メグ、昨日はやく大人になりたいって、言ってたろう?」
 また呪いの呪詛。
 “早くオトナになるための儀式”こんなのは実は言う側の願望だ。早くこの行為の意味を、理解できるようになって…。気持ちも身体もオトナになって、俺の所まで堕ちてきてくれ……
 そんな俺の心も知らずに、恵はこくんと頷いた。
「ぼく、がまんする」
 健気にそんなことを言う。俺はまた、見逃しては行けないサインを読み落とした。
 タガが外れてしまった。俺の動きに口を押さえて耐える恵の姿が、俺には上質な獲物でしかなかった。
 
 でも恵は、かなり我慢していたけど、最後には声を殺して泣き出してしまった。嗚咽を上げ始める。これには、俺の欲望も煩悩も負けた。
 慌てて指を抜いて、後ろを清め、すっかり冷えた体にパジャマを着込ませると、俺は自分のしたことにすっかり青ざめていた。
 
 恵があんまり自分を殺して健気な態度をとるから、うっかり期待してしまったんだ。このままやってしまえば、イケルのかも。恵を手に入れられるかもしれない……!
 でもそんなの、願望に過ぎなかった。そんなに恵は育っていない。当たり前のことだ。
「無理しないで、ゆっくり大人になればいいよ」
 安心させようと、俺はさっきの言葉を簡単に翻す。でもそれは、すぐに見破られた。恵が口を尖らせる。
「ごめん、むちゃくちゃを言ってるんじゃないよ。もう恵を泣かせたくないだけなんだ」
 上手く言えたかは分からない。とにかくそんな言葉をいっぱい伝えた、嫌われたくなかったから。
 不意に
「僕、…平気」
 恵が俺を見つめて言った。俺は時間が止まったみたいに、その目を覗き込んだ。
 今度は、どのくらい本気なのか。もういい、と言っているのに、また食い付いてきた。
 恵も実際、この短時間で急成長しているに違いなかった。俺に付いて来ようとしている。絶望から一瞬にして天に舞い戻ったような感覚に陥った。
 でも、ダメだ、ダメだ、ダメだ!
 恵の決心なんて、8歳の子どもなんだ。甘えちゃいけない。俺が我慢して、今度こそゆっくり育てていこう。
 たぶん、一瞬俺は嗤ってしまった。
 その光が漏れてしまった。恵の瞳に怯えが差す。俺はこれ以上怯えさせないように、羊の白い毛皮を全身に纏った。
「無理はさせないから、じっくりな」
 そして、その通りにした。緊張しないように、痛い思いをさせないように、いつも寝ているときに触るようにした。
 目覚めたときに、気持ちいいように。いつも俺の愛撫で目が覚めるように。その時に、幸せだと感じてくれたら…。
 後日にはちゃんとしたローションも買ってきた。あのクリームにいい思い出なんてないから。
 
 次の日の朝、早速寝てる恵のお尻をいじくってみた。やっぱりクリームは滑りが違う。嘘みたいに指が入っていく。
 温かい恵の中、柔らかい腸壁。少しずつ動かしていると、しっとりと恵の全身が汗を掻いてきた。頬が上気して、呼吸が浅くなってくる。
「ん……、ぅぅん……」
 腰が揺れて、声が漏れ出す。昨日より、感じているのか? 俺の息も、合わせて荒くなる。
「あ…、かつ…にい……、ん、ぁ…」
 起きたらしい。薄目を開けて俺を見る。
 すでに呼吸が喘いでいるから、自分でも驚いているらしい。その目がやたら色っぽくて、俺は唾を飲み込んだ。カワイイ恵。瞬きを一生懸命している。
「…起きた? メグ?」
 優しく呼んでみた。
「ん…ぅん…」
「あ…」
 俺はびっくりして、思わず声を出した。明らかに今、俺の声に反応した。
 この、ちっちゃな蕾が、俺の指をきゅっと締め付けたんだ。
「メグ、やったなあ」
 俺は感動して、そんなことを言ってしまった。今はそれだけで満足、多くは求めないようにしなければ。自分を戒めて、指を抜いた。
 
 
 寝ている恵を脱がせるのは何よりも楽しい。
 起こさないように、ゲームのように。あまりにも起きないので、寝ているフリかと思う時もあった。
 でも、指を挿れた時の身体の捩り方や、ぴくんと跳ねる肢体、うっすら汗を掻き出す額、無意識に出る声は、やっぱりいつもの寝ている時のものだった。
 
 …頬がピンクに染まっていくのもいい。
 
 …無意識に俺の袖を掴むのもいい。
 
 …唇を少し噛んで戦慄くのが堪らない。
 
 …眉根が悩ましく寄せられ、苦しそうに目を瞑っている。
 
 やがて、瞬きを繰り返しながら、うっすらと開けて横目で俺を捉える。その濡れた瞳に、妖しい光が宿り出す。
 
 俺はその動作一つ一つを、決して忘れない。
 
 
 一秒の何千分の一というカットを一枚一枚、目に焼き付ける。それを繋げると恵が動き出す。次の0.1秒後はさっきまでの恵じゃない。一枚残らず、余すことなくそれを見ていたい。
 
 
 やがて育って大人になっていく、恵へ…。
 お前の「時間」を俺に欲しい。俺のために成長を止め、俺のために追いついてこい。
 俺の記憶が、そのアルバムとなる。
 
 
 
 あまり急がないで。その姿を留めていてくれ。
 
 
 ……早く育て。どんなに俺が恵を愛しているか、知ってほしい。
 ……早く味わわせたい。お互いの身体で確かめ合う幸せを。
 
 
 それ以上育たないで。そのまま、天使のままでいてくれ。
 
 
 ……早く育て。俺のところまで堕ちてこい。
 
 
 
 日ごと、繰り返す。
 
 交互に、交互に…………
 
 俺は、毎日、毎日、少しずつ、綺麗になってゆく恵に溺れていた…
 
 
 自分のその後など、考えることもなく──────────
 
 


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