chapter9. break the sealed time- 壊封 -
1. 2.
 
2.
 
「………んんっ」
「そんな心配、ないみたいだなあ」
 嬉しそうに、頭を横に振る俺を眺める。
「…ぁ、……や」
 思わず仰け反った。握った手を執拗に上下させながら、反対の手で、後ろを触ってきたのだ。中心部分を揉むように押してくる。
「やめろって……」
 いやらしい水音を立てだして、苦しい。荒い息の中で、唸った。
「蕾がだいぶ固いよ、かなりほぐさないと痛いね」
「!?」
 はっ? 何言ってんだ? 朦朧とする頭で、声を聞いていた。
「この体勢だと、舌は入れられないからねえ。指しかないか」
 運転席から身を乗り出して、俺の大きくなっているモノを口に含んだ。
「ああ…ッ」
 思わず声が上がる。あれからずっと、この悪魔から解放されてから、自慰しかしていない。生温かい感触に、肌が粟立った。
「く……ハァ……」
 息をするごとに、声が出てしまう。腰元から、ゾクゾクと嫌な感覚が湧いてくる。
「ぁ、やめ…!」
 後ろに指をねじ込んできた。俺自身の液体が、滑りを手伝っている。指を増やされ、俺は更に仰け反った。
「んっ……」
 手錠が音を立てる。
「…いい声、声変わりしてるのに。喘ぐと、同じ声が出るんだね」
 舌なめずりしながら、笑った。
「……っ」
 俺は唇を噛んで、声を殺した。
「意地っ張りも昔のまま。僕、うれしいなあ」
 また口に咥えなおすと、口内の肉壁で包んで扱き上げた。
「…ん……んッ……く、…ぁあッ!」
 ────クソッ…!
 久しぶりだったせいもあり、俺はあっけなくヤツの口の中でイかされてしまった。
 俺のすべてを飲み干し、中の残ってるものまでしつこく吸い出した。
「や……もう、やめろ…」
 悔しさに、眼を瞑ったまま腰を揺すった。 
 終わったあとの倦怠感が来た…目が廻る───嫌悪しかない。
 
「……克晴。僕、やっぱり最後までいくね」
 また、そんなことを言った。なに言ってんだコイツ…どうするってんだ。
 気怠い首を起こして、片目だけ薄く開けた。嬉しそうなオッサンの顔がアップで視界に入る。
「………?」
「やっぱ、克晴だぁ、その癖、僕大好きなんだ」
 俺をフェラした唇を、また押し付けてきた。気持ち悪くて顔を背けると、今度は無理強いしてこなかった。その代わり、俺の片足を、制服のズボンから完全に抜き取った。
「なにする…っ」
 びっくりして蹴り上げようとしたら、運転席から助手席の足下に、かなり強引に体を移動させてきた。サイドブレーキとギアの上を、乗り越えてくる。フロントガラスを背に、俺と向き合う。俺の両足は完全に開かれ、真ん中にオッサンの体が割り込んでいた。
「あ……」
 俺は一瞬で、本当の恐怖に陥った。
 車の中じゃどんなことをされても、本番だけはないと思っていた。
「む…無理だろ! ……おいッ」
 喚いてみるが、にやりと口の端を上げながら、自分のジッパーを降ろしている。
「やだ…やめろ、おっさんっ」
 また口を塞がれた。今度は容赦のないディープキス。
「んー!」
 胸もまた触ってくる。尖っている先を執拗につまみ、そのたびに俺の身体はびくんと跳ねた。手がだんだ下に滑り、蕾にたどり着くと、軽く指を押し付けて揉んだ。
「んっ、んっ…」
 そして…
 
「あッ、…あぁっっ!」
 俺は悲鳴を上げた。こじ開けて、無理矢理入ってくる。
「ムリ! ……ぁあ、はぁ…ッ」
 思い出したくもなかった異物感、痛くて声が出ない。
「……ムリだって………や……やめろーッ!!」
 振り絞って出した叫びも空しく、それは奧まで突っ込まれた。熱い肉棒が俺を貫いている。
 もの凄い異物感と圧迫感、悔しいのと苦しいので、頭がガンガンした。とても正気じゃいられない。
「ぁ……はぁ……」
 仰け反って息を確保するのが、精一杯だった。
「克晴、……克晴、克晴……」
 うなされたように、俺を呼ぶ。
「気持ちいいよ、やっと君の中に入れた。最高だよ、克晴…君の中はすごく熱い」
「ぅん……っ」
 ゆっくり腰を動かしはじめて、俺はまた喘ぎ始める。
「あ…ああッ!」
 律動が早まり、俺を突き上げる力も激しくなる。久しく無かった、下半身の疼きが頭を擡げた。
 狭い車中での不自由な格好、密着度も半端じゃない。押し付けられた腹の圧迫で、前も同時に扱かれている。
「…ああっ、ああぁ!」
 俺はもう、声を抑えられなかった。手錠に食い込むほど、力を入れいて腕を引く。激しく、何度も何度も突き上げられる。身体ごと揺すられて、接合部が、いやらしい音を立てた。
「克晴…かつはるっ…」
「ぁあ、ぁあ……っ」
 俺の中に、熱い滾りが放出された。ドクンドクンと、脈打って注いでくる。それに合わせて俺も、後ろを搾っては痙攣した。腹にも白濁を撒き散らしていた。
 
 …はぁ、…はぁ。
 二人の荒い呼吸だけが響く。
「………ん」
 俺の身体はまだ、快楽を離していなかった。
 挿入されたままのそれを、締め付けてしまう。……嫌だ。2度もイってるのに。まだ刺激を欲しがってるみたいで……
 
「……抜け」
 掠れた声で、言った。
「……早く、抜けよ」
 これ以上俺を辱めるな。
 俺の上で果てていた悪魔は、ゆっくり体を起こした。
「最高だね、克晴。僕、感動しちゃった」
 にっこり笑うその顔に、憎悪の眼を突き立てた。
「力を込めて、引き絞っていてね」
「……ぅっ」
 ずるりと抜けて、下腹部の圧迫感が無くなった。すかさず人差し指でそこを押さえて、もう一度言う。
「締めて、克晴。奧に飲み込むように」
 訳が判らず、触られた刺激も手伝って、俺は後ろを絞ってしまった。さらに押し上げて来る。
「もう一回」
「ん…」
 ぎゅっと、その指すら飲み込みそうになるほど、締めた。
「おっけー、もういいだろ。適度に締め付けていてね」
 そう言うと、後部座席のティッシュボックスを引き寄せ、俺の体を手早く清めた。
 ウェットティッシュも使って、念入りに指の先まで清潔にした。
「ズボン穿かすよ、腰上げて。後ろ締めながらね」
「……」
 俺はとりあえす従うしかなかったので、言われるがまま、体裁を元通りに整えていった。かなり気を付けていたらしく、制服やコートは汚れていなかった。最後にシートベルトを締め直してから、手錠が外された。手首に酷い痕が付いてしまっていた。
「痛て…」
「これ嵌めて」
 オッサンは運転席に戻って、ダッシュボードからなにやら取り出した。薄手のリストバンドだった。真っ白でシャツと区別が付きにくい。
「……用意周到だな」
 受け取りながら、言った。
「そんな言葉、言うようになったんだ」
 面白そうに、俺を覗き込んでくる。
「! …そんなことしか、言えないのかよ!」
 俺は頭に来てまた睨み付けた。体を動かすと腰が痛い。オッサンは俺をじっと見返した。
「あるよ、言いたいこと。…いろいろある」
「………」
「でも、今はパーティーが先だ」
 言うが早いか、乱暴に車を茂みから脱出させた。ギャンッと、後ろタイヤが吼える。大きく揺さぶられて、いたぶられた所が悲鳴を上げた。
「うっ……く…」
 体を捩って、楽な体勢に座り直す。
「もうちっと、静かに運転できねーのかよ!」
 文句を言うと、ちらとこっちを見ただけで、もの凄いスピードを出す。
「…おい、危ねーぞ!」
「…君のさっきのより、よっぽどマシ」
 言いながら、携帯を取り出した。器用に画面も見ずにボタンを押して、どこかにダイヤルしている。顔は真っ直ぐ道路を見つめ、片手でハンドルを捌いている。スピードを全く落とさない。
「あ、先輩ですか? すみません遅くなって! 道路が混んでて…。ハイ、もうすぐ着きます!!」
 明るく朗らかな声で、そう報告していた。
 ────!!
 俺は絶句した。この二重人格、…輪が掛かってやがる!
 けたたましいブレーキ音をたてて、車は目的のレストランに到着した。場所と距離を考えると、どれだけスピードを出したかわからない。恐ろしく早く着いていた。それでもそうとう父さん達を待たせていることに、間違いはない。オッサンは、俺の降車を急かした。
「ムリだ、そんなてきぱき動けるかよッ!」
 軋む身体を、それでも一生懸命立て直す。
「後ろ、しっかり締めててね。途中で出てきたらえらいことになるんだから」
「!?」
 それで、締めろ、締めろって言っていたのか。そんなの、俺は…。
「トイレ行く時間なんか、ないよ」
 そう言って店のドアを俺のために開けるオッサンの口元に、笑みが浮かんだ。
「早く! みんな待ってる!」
 肩を押されて、店内に入った。走ってでもその場で、トイレに行ってしまえればよかった。でも走れるほど体は回復していなかった。
 逃がさないように肩を抱かれて、店内に誘導された。
「克にぃ、おめでとー!」
「遅かったな、おめでとう」
「おめでとう」
 口々に祝いの言葉で迎えてくれる、家族の面々。そのテーブルにオッサンに椅子を引かれ、強引に座らせられた。ズキッと尻に刺激がきて、顔を顰めそうになった。
「ありがとう、ごめんな、遅くなって」
 紛らわすように隣に座っている恵の頭を撫でた。
 
 結局俺は、アイツの滾りを体内に溜め込んだまま、パーティーをやらされた。苦痛に引きつる俺の顔を、アイツは満足そうに眺めていた。
 
 パーティーが終わり、店から出る段になってやっと俺は、下腹部の違和感から解放された。トイレに立つ時オッサンがエスコートするみたいに椅子を引いて、俺に付き添った。
「どう? 僕の味、たっぷり味わえたでしょ?」
 個室に入る前に、そう言って笑った。
 俺は思いっきりドアを叩き付けた。屈辱で顔が歪んだ。唇を噛み締めて泣いた。声を出さずに、涙も流さず、そしてアイツの印だけは全部出した。
 
 俺はアイツを許さない。
 いつか絞め殺してやる! そう誓ったんだ。
 


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