chapter11. keep a secret -絶対命令-
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「………!?」
 天野君の驚愕の目が、自分を見下ろし、のし掛かるぼくを見る。自分に起こっていることが、まだ理解できていない。
 ただ、蕾に差し込まれている指の感触だけは分かっていて、肩を震わせている。時々締めてしまっては、それを恥じるように、唇を噛んだ。
 
 わななく唇……そこから、声が発せられないのが、本当に残念だった。
 掴んでいた天野君の腕を離すと、手のひらをその頬に添えた。
 
 ずっとずっと見たかった。こうして、ぼくの手に反応する、天野君。
 
「……この双眸が、開くといいのに……。そう思ってたんだ」
 ぼくを見つめる大きな目を、覗き込む。快感に耐えて、潤んでいる。噛み締める唇から、熱い吐息がもれる。
 こうしている間も、ぼくは指を緩く出し入れしていた。
「………っ! ………っ!」
 天野君が首を横に振って、ぼくを見つめてきた。
 縋るように眉を寄せて、瞬きもせず見上げてくる。潤んだ瞳はゆらゆら揺れて、目尻にほんのり紅を差す。
 その口は、何か言いたげに小さく開いては、また下唇を噛んだ。
 ちらちらと見せる、赤い舌。それはまるで、ぼくを誘っているようだった。
 嫌がっているのはわかっている。
 でもその目線からは、絡みつくような、天野君の心の奥底の光が漏れてくる。無意識に、その身体は期待している。
 
 ───熱くなった身体を…静めて……、と。
 
 
 
「綺麗…。天野君は…どうやってそんな目付きを覚えたのかな……」
 
 
 ぼくは堪らず、唇を奪った。
 衝動が吸い上げをキツくさせる。小さな手がぼくの胸を叩いて抗ってきた。
 そんなの………。
 止まらないぼくは、天野君の舌を探し出しては自分の舌と絡めた。指をくわえ込んでいる蕾が締まった。
「んっ……」
 
 ────!!
 一瞬、天野君の舌が…ぼくに絡んだ、と思った。
 強く押して、ぼくを拒否してきたのだ。
 でも…この動きは……確かに嫌がっては、いるけれど…。
 絡め取っては舌先で押して、かと思えばいきなり逃げて奥へ誘う。舌の根本を横から舐め上げられた時、ぼくの腰が疼いた。
「はっ……!」
 唇を離すとき、思わず声を上げてしまった。
 なんだ、この子は……なんて舌の動きしてるんだ。
 
 
「天野君は……そうとうな色好み? ──キスが上手すぎだよ」
 
 思わず囁く。
 このキスの仕方と言い、身体の感度と言い……
 一朝一夕じゃ、こんなふうには、ならない。
 
 頬を赤くして、首を振る天野君………。
 ぼくは新鮮なときめきを、感じてしまった。
 そうだ。初めて、意識のある天野君とキスをしたんだ。あんなに何度も唇は合わせていたけど、これがぼくたちの、ファーストキスだ。
 
 
 ぼくはこれからを考えると、嬉しくてしょうがなくなった。舌先で唇を舐めて、天野君の名残を味わった。
 
 ずっと待っていた。この口でぼくを呼ばせるんだ。
 そう、克にいなんかじゃなく。
 克にいが帰って来るのと、声が戻るのは、どっちが先かな……。
 
 腰が疼く。もう待たない。
 ぼくは天野君の胸に、唇を降ろしていった。
 首を激しく振って、嫌がる。可愛く先を尖らせているそこを、丹念に舌先で突ついた。緩慢に動かしていた、入れっぱなしだった指も、出し入れを激しくする。
「……っ! ………っ!!」
 体中で逃げを打った天野君は、とうとう泣きだしてしまった。
 噛み締めた唇から嗚咽は漏れないけれど、大きな目から涙がぽろぽろと零れる。辛そうに眉を寄せて、ぼくを必死に見上げて。
 
 ……ごめんね、天野君。
 
 その紅い頬も、震える身体も、拒絶100%には見えなくて……。
 やっぱり、君は感度が良すぎる。
 ぼくは小さな身体の下に移動し、膝を割って間に座った。
「───っ!」
 腰の下に手を差し込んで抱え上げると、柔らかくなった蕾に、また舌先を入れた。ぼくを受け容れさせるために、しっかりと湿らす。
 
 ───こんなにちっちゃいとこに、どれだけ入るのかな……。
 
 そう思う気持ちが、愛撫をことさら丹念にさせた。
 そして、天野君にも、覚悟させる……
 
「貧血なんて、嘘だよ。……君を確かめていた」
 見返してくる潤んだ目に、疑問の色が広がる。ぼくの言葉を、一生懸命理解しようとしている。
 
 
 
 
「ぼくを、……楽しませてね」
 
 
 
 
 
 
 
「ん……きつい。やっぱいいね。……天野君」
 ちいさなそこは、やはりぼくを受け入れきれるものではなかった。
 
 でも、想像以上に広がり、充分ぼくを気持ちよくさせてくれた。
 入りきらない分は、自分の手で補佐して。先端で天野君を出入りしながら、根本は自分で扱いた。
 
 天野君の身体は、仕草や表情とは裏腹に、どんどん熱くなっていく。
 
「すごい……天野君のからだ……色っぽいよ……」
 
 動かす腕、肩、仰け反っては伸ばす脇、捩る腰……。
 天野君が、動いている。ぼくの愛撫に、ぼくの突き上げに反応して──。
 
 
 
 すべてが、ぼくの望んでいた──期待していた天野君だった。
 
 
 
「ぁ……、ハァッ…」
 その潤んだ目でぼくを見て、口を小さく開ける。
 赤い舌先で唇を舐めて、ぼくを煽る。
 
 眉を寄せて、あごを反らせる。そのたび、のど元が、鎖骨が、胸のラインが、その流線の美しさを見せつける。
 
 
 ───ぼくは、自分でも驚くくらい、天野君に欲情してしまった。
 
 腰を動かしながら、次の欲求に追い立てられていく。
 壊してはいけない……自分を抑えるのに、必死だった。
 
 こんなセックスなんて、したことがなかった。
 小さい子の身体を悪戯しても、こんなふうに、挿れたことはなかったし。
 ……それだけじゃない。
 普段のセックスでは感じたことのないリビドーが、身体を突き上げてくる。
 
 凄い……この子に、煽られる………
 
 
 
 
 
 欲望を吐き出して、泣き続ける天野君の写真を撮った。どんなあられのない格好も、今の彼はとても素敵だった。
 
「天野君。────ぼくと天野君の、二人だけの時間を、大事にしようね」
 敢えて残酷な言葉を、言い連ねた。
 
 恐怖に歪ませた顔を、確認する。
 可哀相なのは、わかっている。本当はそんな顔、させたくない。
 でも、……心を縛っておかないと。
 
 ぼくのモノで居させるためには……必要なことだった。
 もう心底、彼を手放したくないと思っていたから。
 
 
『おいで』
 
 その言葉で、縛りの呪縛をかける。
 
 
 そして、約束の口づけを与えた。
 
 終わったばかりの情事の証しが、汗となって首筋を伝っている。
 その首には、ぼくだけに見える首枷がはめられた。そこから延びる鎖は、ぼくだけが握る───。
 
 
 
 天野君が帰った後、堪らずもう一回、自分でやってしまった。
 
 
 
 
 
 
 次の日、天野君は言い付けどおりちゃんと来た。
 ぼくは試していた。どれだけ言うことを聞く子なのか。
 
 ぼくの言葉に怯えている彼は、よく言うことを聞いた。
 自分で服を脱ぐ、静かにキスを受け容れる。ぼくは夢中で、その小さな身体を貪った。
 
 声が出なくなったのには、驚いたけど……その声が聴けないのは、本当に残念だけど、……今のぼくには好都合だった。
 
 
 
 
「ん……」
 まただ。
 そんなことはないと思いつつ、昨日も抱いていた。
 でも、やっぱり。
 
 天野君の仕込まれた身体には、ぼくの方が戸惑ってしまっていた。
 
 ちいさな蕾は、指やぼくのモノを受け容れると、自然に締まる。
 背中をしならせると腰が出て、深くぼくに密着する。中に挿れると、いざなうように奥に導く。
 ……その締め付けるタイミング、開く脚の位置…。何もかも、ぼくに合わせてくる。
 
 ……いや、ぼくではなく、克晴にだ。
 克にいを受け容れ易いように、克にいが喜ぶように────
 しなを作り、目線で煽り、脚を広げる。きっと喘ぐ声も色っぽいのだろう。そこに添える指さえ、艶めかしい。
 
 
 
 ………どれだけ……
 どれだけ愛せば、ここまでになるのだろう。
 
 
 頬をくっつけあう兄弟。
 ───見せつけられた愛が、こんなにまで深かったとは。
 
 
 
 
「……君は、本当によく仕込まれているね……」
 そう言った後、天野君は泣きだした。
 克にいのことを思い出しているのがわかって、不快になった。
「はやく、教室に戻りなさい」
 辛く当たってしまった。
 
 そしてまた、驚かされる。
 こんなに儚く、華奢に見えるのに……彼の精神は……
 ぼくの仕打ちにも黙って耐え、辛い身体を無理して立て直す。自分で衣服を整えると、ぺこりとお辞儀をひとつして、出て行った。
 この芯の強さも、きっと克にいから与えられたものなのだろう。
「…………」
 腹の底で、黒いモノが蠢く。
 
 
 “明日もおいで” 
 後ろから追い打ちを掛けることを、忘れなかった。
 毎日来させる。
 ………ぼくが、天野君を塗り替える。
 


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