chapter11. keep a secret -絶対命令-
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 4
 
「──────」
 
 天野君は、驚愕の瞳で、ぼくを見つめた。
 その目は、何故? と問い質している。
「……誰から聞いたわけでも、見たわけでもないけどね」
「……………」
 
 
「辛かったね」
「……………っ」
 今度は、泣きそうな顔になった。
 
「天野君が、ほんとはこの行為を好きなことも、知ってる」
「……………」
「……だから、思い出してほしいんだ」
 指先で、小さく尖った花弁を弄った。
「ぁ……やだ! 先生、……やめて!」
 腰を捩らせながら、必死にそう言ってくる。縛り上げた腕に力を込めて、身体を起こそうとする。
 このままじゃ、大声になりそうだった。
「天野君……あんまりうるさいと、もう一回、タオル噛ませるよ」
「!!」
 目を見開いて、天野君は黙った。下唇を、きゅっと噛む。
 
「……そう。いい子だね」
 再度、天野君の胸に舌を這わせた。反対側も、指でいたぶる。
「ぁあッ……、んッ……」
 身体を小刻みに震わせながら、短く喘ぐ。
 ちらりと仰ぎ見たその顔は、声を出さないように、唇を引き締めていた。辛そうに、眉を寄せながら。
 
 ………本当に、いい子……
 
 唇をそっと下に降ろしていった。萎えているモノを、口に含む。
「あっ……」
 また、身体が揺れる。
 太腿の内側を、膝から脚の付け根へ、さするように撫で上げた。
 焦らして、少しずつ上に手のひらを移動させる。
 脚の付け根に辿り着いたら、指を悪戯に蕾を掠めたり、小さな二つの膨らみを揉んだりした。そしてまた、膝に戻っては上に行く。
 その度に、その身体は揺れた。
 
 前のモノも、口内で優しくなぶった。
 上あごと舌面で、亀頭を少し押して挟む。舌面の圧力で左右に転がしたり、奧に吸ってみたりする。
「ぁぁ……はぁ……」
 また、根本から唇で包囲して、口内で舌先を巻き付けて360度舐め回す。
「ふ……ぅ……」
 少しずつ、その柔らかいモノは、芯を持ち始めた。立てている膝も震え出す。
 
「天野君……」
 小さな双丘の奧に隠れる、ピンクの蕾。そこに舌を移動させた。
「あっ」
 ぴくんと、身体が跳ねた。
 
「せんせい……お願い」
 
 か細い、怯えた声が頭上から聞こえた。
「先生、……いや……やめて…………」
 
 ぼくの背中を、快感が這い上がる。
 ぞくぞくと這い上がるそれは、思わずぼくを呻かせた。
「………天野君」
 
 “先生”と呼ぶ。
 
 その唇が。……その声が。
 ぼくはもう、他は聴こえなかった。
 もっと、呼んで欲しい。呼び続けて……ぼくを……
 
 蕾の中に、舌先を押し込み始める。今までにない、硬い締め付け。
 ──完全な拒絶反応だった。
 無意識に強張っている身体が、異物を受け入れまいと、頑なにそこを閉ざす。
 
 ぼくは焦らず、そこに舌先を当てたまま、いつまでも舐め続けた。
 時々上に這い上がって、小さな袋や裏筋も舐め上げる。また戻って、舌面で蕾全体をあじわう。
「やだぁ……せんせい……」
 非難と恐怖が入り交じった声。でも、さっきより力が無い気がする。
 
「天野君……後ろ……しぼって」
 ぼくの言葉に、びくんと身体が反応した。
 ごくんと飲み込むように、蕾が動いた。突き当てていた舌先が、きゅっと搾られる。
「あっ! やぁ……」
 自分でその感覚に驚いて、声をあげている。
 一度ゆるんだそこは、あとは容易かった。どんどん奧まで舌を受け入れる。
 ぼくは丁寧に丁寧に、蕾のふくらみや際を刺激するように舐めながら、舌を出し入れした。
「先生……先生っ……おねがい! …やめて!」
 身もだえて、腰を揺らす。舌を抜くと、左手の中指を添えた。
 その指は、すでに天野君の愛液で濡れていた。
 
 ぬぷり。
 第一関節まで入れてみる。
「アッ! やっ……嫌ぁ……先生、やだ!」
 また、声が大きくなってきた。ぼくは身体を擦り上げて、天野君と並んだ。
「なんで、嫌?」
 もう一度、聞いてみる。
「…………!」
 涙に濡れた目を、ぼくに向けた。
「……怖いよね」
 耳元で囁く。
「痛かったこと、思い出しちゃうもんね」
「!!」
 驚愕の色に変わった瞳を覗き込む。
 指を更に押し込んだ。苦しそうに、その目が細められた。
「……でも、それだけ?」
「………………」
「ずっとずっと、気持ちいいことしてきてて」
 指を抜き差しし始めた。
「ん、あぁっ」
「この身体は、それを覚えてるよね」
「………」
「イヤ、だけじゃないよね」
 
 中指の抽挿を早めながら、唇を塞いだ。
「んんっ───」
 腰が跳ね上がる。条件反射のように、天野君の舌がぼくの舌に絡んでくる。
「…………ふぅっ」
 ぼくの腰も疼く。
 
「天野君………好き」
 唇を離すと、瞳を覗き込んで、そう伝えた。
 複雑な瞳の色。
 眉を寄せて、困ったような、泣きだしそうな……快感に翻弄されて、心が纏まらないでいる。
 
「天野君……大好きだよ」
 もう一度言った。
「ぼくは、天野君を傷つけたいわけじゃない。……君とこうしていたいだけなんだ」
 じゅぷじゅぷと、指が動くたび音が聴こえて、ぼくの興奮も高まっていく。
 
「痛くなんか、しないから……怖くない……よ」
 耳に舌を入れながら、時々耳たぶを噛んだ。
「あッ」
 首をすくめる。顔を振って、ぼくの舌から逃げた。
 指に肉壁が纏い付く。搾られては、吐き出されそうになるのを、逆らって押し込んだ。
「ああっ! せ……先生……」
 腰を捩って、さらに逃げる。でも、喘ぎながら見つめてきたその目は……
 細められた双眸から放たれる光は、妖しく光っていた。
 
 ───取り戻した。
 天野君のオーラ……
 
 ぼくはそっと、自分の大きくなってしまっているモノを、天野君のそこにあてがった。
 了解は敢えて取らなかった。言葉にすると、今は恐がってしまうだろう。
「……ん……」
 自分の先走りも手伝って、潤っている蕾はぼくの先端を容易く受け入れた。
「っ、ぁあ……」
 天野君が仰け反る。
 
 ………気持ちいい。───天野君、最高。
 
 ゆっくり律動を始めた。
「ぅあ、……先生っ……先生…!」
 喉を反らせて、譫言のようにぼくを呼んだ。
 前の屹立にも手のひらを這わせて、扱いた。
「ああっ…嫌ぁ………!」
 一瞬、小さく抵抗したけれど、それ以上の快楽に、言葉を失くしていった。
「あっ……あぁ………」
 揺さぶられながら、嬌声を上げる。
 想像以上に、高い声だった。語尾を掠れさせて、余韻をつくる。その響きにまた、煽られた。
 
「くッ………あまのくん」
 はぁ、はぁ、と二人の吐息が絡む。
「………最高……いくよ……一緒にいこうね」
 耳に囁いて、一際、激しく腰を動かした。
「───んあぁ!」
 前も大きく扱いて、高みに導いた。
「────っ!!」
 
 
 小さな身体の中に、熱い液体を注ぎ込んだ。
 ぼくの手にも、天野君の体温が飛び散った。
 
「───はぁっ!」
 その身体の横に、倒れ込んでしまった。
 呼吸が間に合わない。
 高鳴る心臓が、快感と脱力感を入れ替えていった。
 
 横に目線を動かすと、縛られたままの天野君が、静かに泣いていた。
 目を瞑って、唇を噛み締めて。
「……………」
 その唇と頬は、真っ赤に染まっている。
 
 ぼくは手首の戒めを解いてあげると、泣いている小さな身体を抱きしめた。
「……痛くなかったよね?」
「…………」
 なんの返事もない。
「もう、大丈夫だよ。怖くない……よね?」
 
 でも。
 天野君は、静かに首を横に振った。
 
 ぼくは、心がズキンと痛かった。
 ──それでも
 
 ぼくは、言ってしまうんだ。
 やめられない麻薬のように、天野君はぼくを虜にさせる……。
 
 
 
「君の健康管理は、ぼくがする。身体の全てを。…克にいの変わりにね」
 
 
 
 はっと、顔を上げる天野君。 
「だから、これは二人だけの秘密。毎日おいで」
 
 耳元で囁き続けた。
「………………」
「丈太郎にも、内緒だよ。……二人も看られない。もう……写真もいらないし」
 暗に、秘密をばらしたら丈太郎にも同じ事をするよ、と脅す。
 
 そうやって、首に嵌めた見えない鎖を、ぼくは引っ張った。
 
 そして、天野君も分かっていた。
 “写真”というキーワードに、身体を震わせて。横たわったままぼくを見つめ、唇を一層噛み締めていた。
 新しい涙が、次々と頬を伝い落ちる。
 
 
 
「……ごめんね。……これは痛かったね」
 赤黒い痕が付いてしまった手首に、目を留めた。その傷に手を這わせる。
「………」
「君がいい子にしていたら、もうこんな事しないから」
 
 
 天野君は、いつまでも声を出さずにただ泣き続けた。
 その身体をずっと、抱きしめていた。愛おしくて。
 
 
 
 心を傷つけつつも、手に入れた天使を、手放したくなくて───
 
 
 
 
 ………ぼくはどこまでも、残酷になる。
 


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