chapter1. bird fancier ≫lock up  標的監禁
                       -もう逃がさない-
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「ん……くぅっ……」
 悶えながらも、強情な克晴。
 
 真っ白な、二人だけの愛の巣。
 カーテンも布団も、シーツも壁も…何もかもが真っ白。この部屋で、捕まえた小鳥を僕は何度も抱いた。欲情に任せて、欲するがままに。
 会社に行っていても、会いたくなってちょっと抜け出して、帰ったりしてしまった。どうせたいした仕事は、与えられていなかったから。
 
 
 
 
 ……僕の性欲は、とどまることを知らない。
 それは、克晴の抵抗のせいでもあった。
 どうしても心を開いてくれない。僕を名前で呼ばない。
 ……気持ちイイと、認めないんだ。その不満が、僕を満足させなかった。
 
 やっと捕まえた僕の小鳥……
 
 それなのに…それなのに、逃がしてしまった!
 
 羽ばたいた小鳥は、自分で羽根を折ったのかと思った。
 僕が嫌な余りに。
 僕から、逃げたいが為に──。
 階段で、血痕とナイフ…それに、ちぎれた革ベルトを見つけた時に、河に落ちる克晴を思い出していた。
 僕が嫌で、河に飛び込んだと思った。
 あの時の胸の痛みは、尋常じゃなかった。自分が死んでも構わない。克晴を助けたくて、とにかく流れに飛び込んでいた。
 ……あれが、克晴を好きになっていたと自覚する、事件だったんだ。
 好き……と、いうか、どれだけ大事か分かった。先輩じゃない、克晴なんだと……
 
 転がっていたナイフと革ベルトを拾い上げて、抱きしめて泣いた。
 そこに付いた血が、克晴の最後の言葉のようで、悲しかった。
 
 ───死んで自由になってやる、オッサンなんか嫌いだ!───
 
 胸が痛い。そこまで拒絶されていたのかな。
 僕には希望があるかと思っていた……だって、昔の克晴は……
 
 過去に思いを馳せていても、現状は変わらなかった。
 僕は冷静に考えた。そこに克晴の身体が無いことが不可解だったから。
 誰かが見つけて運んだのなら、ナイフも持っていくんじゃないか。事件にしろ、自傷にしろ、証拠物だぞ……。
 
 ……じゃあ、克晴はどこに行ったんだ。
 
 もし、自分の意志でどこかに逃げたのなら、いつかあそこに姿を現す……。
 
 そう核心めいたものがありつつ、担ぎ込まれた少年がいないかと訪ねて、救急病院を探し回った。心当たりは全滅だ。先輩の家にも探りを入れ続けた。
 どこに行っちゃったんだ、克晴……。
 僕の手の平から逃げて、もう三日も経っていた。
  
 姿を見せて……僕を嫌いでいいから……。
 
 僕はまた、無慈悲な神様に祈った。
 6年前、克晴との“刻”が止まればいいのに……そう願いつつ、引き剥がされた。その神様に、もう一度願う。
 神様……もう贅沢は言わないから……
 克晴を助けて……!
 
 小学校の正門が見えるところに車を寄せて、ハンドルに頭を付けて、ずっと祈っていた。
 バラバラと大粒の雨が車を打ち付けだした。
 ……まるで僕の涙みたいだ。ワイパーを動かしながら、激しくなる雨を眺めた。
 いつまでも止まない。水溜まりに雨が打ち付けて、下から水煙が立つほどだ。ドドドドと滝のようにルーフを叩き出した雨音に、不安を掻き立てられた。
 ……克晴……今、どこにいるんだよ……!
 
 
 ────え!?
 
 
 ワイパーの合間に見える、歪んだ景色の中に、一人の姿が見えた気がした。
 校庭を囲むフェンスの右端。脇道からふらりと。
 水煙でもやっている路面に、その影は消えた。
 ─────!?
 なんだ、今の……。
 判断なんかつかない。見間違いでも、別人でも関係なかった。
 僕は雨の中を飛び出して、人影の見えた方へ走った。
 あっという間にびしょ濡れになったけど、自分のことなど気遣う余裕もない。
 ───神様! ……神様!
 路面にその姿を認めた時は、心臓が止まるかと思った。
 
 ………克晴だ!
 
 服装は違うけど、すぐ判った。倒れてピクリとも動かないでいる。
 嫌な予感と闘いながら、心で叫んでいた。
 ───神様! ……神様!
 抱え起こした克晴の身体は、冷え切っていて、それでも額はもの凄い熱かった。
 
 ───ああ……
 
  抱きしめたまま、僕は泣いた。
「克晴! 克晴! ……よかった、生きてる!」
 僕も動けなくて、ずっとずっと抱きしめたまま泣いていた。
 
 ───神様……感謝します………!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 ───贅沢は言いません、だから克晴を助けて……
 
 そう祈り続けた僕は、一回は神様に感謝した。
 また引き合わせてくれたことに、その命を助けてくれたことに。
 
 でも、目の前に帰ってきた克晴を見ていると、やっぱりダメなんだ。
 どうしても、僕のモノにしてしまいたい。外で自由にさせるなんて、我慢できない。
 
 僕は、克晴の翼に枷を付けた。もう飛んで行かないように。
 その足には重りを付けた。万が一がないように。
 そうやって、見えない鎖でカゴの中に繋いだんだ。克晴の頑なさは、何を起こすかわからない怖さがあったから。
 
 そうしながら、じっくり調教を始めた。
 素直に気持ちいいって、言うように。
 僕を名前で呼ぶように。
 ……またあの頃に…帰れるように。
 少なくともあの頃は、何かが通じ合えるように、なっていたんだ。
 
 
 
 僕の気持ちは、6年前に戻っていた。
 
 僕が教えてあげる。
 気持ちいいこと、大人の楽しいこと。
 いつか身体が着いてきて、快感を受け容れてくれて……
 僕の気持ちを伝えられる時が、来るだろうか…。
 ───たぶんそれは、ない。
 言えるはずが無いんだ。
 
 やっぱり僕は、諦めていた。
 そこも6年前と変わらない、臆病な僕がいた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 そして、また克晴は、おかしくなってしまった。
 
 僕から逃げられないと知って……
 何も食べない、何も飲まない、何も喋らない──それでも、僕はその身体を欲してしまった。
 僕の手に、反応はする。
 良いも悪いもなく、ただ僕に導かれて射精するだけだけど。
 体中を丁寧に舌で愛撫し、ペニスを口に含むと、トクンと血管が脈打つのが分かる。身体もどんどん熱くなっていって、肌がしっとりと湿ってくる。その反応が愛おしくて。
 後ろを舐めると、ぴくんと身体が揺れる。舌を入れて奥を探ると、腰が震え出す。
「……克晴」
 思わず囁くけど、返事なんか返ってこない。
 悪態も……。
 指を蕾に入れる。丹念にほぐさないと、克晴のはかなりキツイから。
「……ん」
 少し喘ぎ始めた。僕は興奮し出す。
 二本入れて、もっと奥を探る。
「……んん」
 腰が捩れて、抵抗し出す。
 もっともっと、嫌がって…。
 無理して三本入れてみる。片方の脚を大きく開かせて、太腿を腹にくっつけるように押し上げた。
「……ぁあ」
 克晴が、よがり始めた。……はは。僕はその声だけで、イキそうだよ。
 指を激しくピストンさせて、腰に刺激を与える。
「んん……んぁ……」
 凄い締め付け。指でこれだけキツイんだから、僕のを挿れたら、どうなっちゃうんだろう。
「克晴……いくよ……」
 興奮を抑えながら、熱くなった僕のモノを、克晴に挿入していく。
「ああぁっ……!」
 仰け反って、喘ぐ。締め付けてくる蕾と内壁。
 こんなに喜ぶ克晴の身体。心も一緒に…と思うのは、そんなにいけないことなのかな。
 頬を赤くして、眼を瞑ったまま喘いでいる克晴。
 
 眠ってはいない。起きているわけでもない。
 そんな昏睡状態で、僕に反応している。
 ───この身体に、覚え込ませるんだ。
 意識が戻ったとき、僕無しではいられなくなるように……
 
 
 
 でも、どんどんやせ細っていく。
 定期的な注射なんかじゃダメだ。点滴に切り替えよう。
 ……それでも、意識が戻らなかったら? 僕はゾッとした。
 このまま、克晴が死んでしまったら……!───そんなことは、絶対させない!
 僕を拒否してていいから、嫌いでいいから。やっぱりそう思う。
 それでも……とにかく生きて、そこに居て!
 
「……克晴」
 抱きしめては、何度も呼んだ。
 その名前を日本に帰ってきて再度呼べたことが、僕にとってどれだけ嬉しかったか。
 散々繰り返し、呼んできた。身体を重ねる度に、譫言のように。
 でも呼び足りない。どれだけ呼んでも、克晴は僕を振り向かないんだから。
 ───でも、それでもいいから。僕にその名を呼ばせて……生きて、ここに居て。
 
 
 僕の声が届いたのだろうか。
 ……たぶん違う。
 克晴自身の強さで、意識を取り戻したんだ。
 それでもいい。
 克晴が元気になっていく、僕の言葉を聞く、それだけで充分だ。
 そして、僕はますます欲情した。回復途中だろうが、それで具合が悪くなろうが、克晴の身体を抱き続けた。
 
 克晴は……だいぶ僕の言うことを、聞くようになった。悪態も、そんなに付かなくなったし。
 でも、セックスだけは抵抗し続けた。毎日ヤってるのに。一日に何回もの時もある。それなのに、頑なに抵抗するんだ。
 僕は、その克晴の強情さが何故なのか、全く判らなかった。
 


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