chapter2. chirpiness bird -カナリヤ -
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 背中に腰に、頭に…指先に…痺れが激しく、駆けめぐる。
「克晴……すごい。凄い色っぽい……」
 オッサンが息を荒くして呟いた。
「……いい、悶えっぷりだよ……」
 ますます指を動かす。
 俺は最早、呼吸もままならない。酸素を欲しがる口は開きっぱなしで、飲み込めない唾液が喉を伝って流れた。
「克晴……後ろだけでイケそうだよね。……試してみる? 前触らないで、後ろだけ突くの」
 俺はどうにか頭を横に振った。
 言っていることの半分も、耳に入ってこない。けど、どうせろくな事じゃない。
「そうだ。お口の調教しようと思ってたけど…。それもいいけど、いろんな体位でやろうか。正常位とバックしかヤッたことないもんね。今度こそ、気持ちいいって言わせるよ」
 妖しく瞳を光らせる。
「…………」
 その嗤いに、俺の背筋は凍り付いた。
 ───今度は、何をする気だ……?
 さんざん突き動かしていた指が、やっと抜かれた。
「………っ」
「6年前の続き。中の開拓をしよう」
 俺の困惑の声が聞こえたかのように、一人喋りながら、下だけ全部脱いでベッドに上がってきた。俺の脚の間に座り込むと、腰を持ち上げられた。
 無意識に逃げを打つ俺の腰をしっかり抱え上げると、オッサンはしげしげと後ろを観察しだした。
 そのまま、しばらく動かない。
「………?」
 俺は気持ち悪くて、腰を捩った。
「───克晴……。ここは…本当に誰にも、触らせてないよね?」
 そう言うと、後ろにゆっくりと舌を這わせてきた。
「───っ!」
 腰がビクンと、跳ね上がる。
「誰も、……この中に指一本入れてないよね?」
 今度は、舌先を尖らせて挿れてきた。
「……んんっ」
「……恵君とエッチしてたのは、知ってる。冬に、克晴が車で逃げてから……何か変わったよね」
 オッサンは舌を突っ込んでは嬲り、抜いては喋った。
「ぁあ……はぁ……」
 奧の奥まで探ってくる。ぬめった感触がぞわぞわと背中を這い上がった。
「嫌いでも何でも、とにかく僕を意識してたのに……。あの時から克晴は、僕なんていないみたいな目を、するようになった」
「──────」
「それが悲しくてさ。…僕なんか存在しなくて、恵君とばかり、気持ちいいことしてるんじゃ……そんなのすごい嫌だった」
「っ! ………ぅ」
 じゅるっと音を立てて、舐ってくる。
「でも、僕にとっての救いは………克晴のここが…穢れてないってことだった」
「…………」
「だから、恵君とのエッチは許してたんだ」
「────」
 
 ………許してたって…何様だよ……。
 ────俺は、オッサンの所有物じゃ…ない……
 
「かつはる……」
 厭らしい音を立てて、またしゃぶり付いてきた。舌を蕾の奥深くまで突っ込んでは、出し入れする。
「あッ……はぁ……やめ……」
 蠢く舌先に恐怖する。 腰が異様な疼きで、高ぶっていく。
「これ、重いからちょっと外すよ」
 不意に穴への愛撫をやめると、オッサンは両足首のアンクレットを、いとも簡単に外した。
「───!?」
 急に軽くなった足に、俺は戸惑った。
 ………何、するんだ?
 さっき感じた、得体の知れない恐怖が、また湧き上がる。
「そんな、泣きそうな顔しないでよ。もっともっと、気持ちよくしてあげるんだから……もう、充分ほぐれてるよね」
 後ろに指を這わす。散々指と舌で弄られたそこは、熱く震えていた。
「可愛い…克晴……早く早くって、言ってる」
 言いながら膝立ちになって、俺の腰を抱え直した。
 熱くいきり立っているオッサンのモノを、あてがわれ……ずず…と、音を立てながら、それは俺の中に入ってきた。
「ぅあ………」
 熱い肉棒、ぬめりを帯びて進入してくる異物に貫かれて、身体中に痺れが走る。
 顎を仰け反らせて、声を漏らしてしまった。
 顎を仰け反らせて、声を漏らしてしまった。
「ん……あんな解したのに。きつい、克晴の中……」
 嬉しそうに、オッサンが熱い息を吐く。ぐっと根本まで挿れ込んで、腰を密着させて動きを止めた。
「─────」
 俺は奥歯を噛み締めて、唇を引き結んだ。
「……好き。その目。ずっと……その目で僕を見ていてよ」
 言いながらオッサンは、俺の足首を左右の手でそれぞれ掴んで、外側に引っ張り上げた。
「───!?」
 俺は驚いて抗った。咄嗟に足をバタつかせて身体を捩り、掴んできた手を振り解こうとした。
 でも、病み上がりの非力な体では、無駄な抵抗だった。
 オッサンはその手に力を入れて、俺の腰が持ち上がるほど、自分の肩の外側に両足首を引っ張り上げた。
「ッ………ぅああっ!」
 吊された腕は頭上で伸びきり、背中の途中から下半身は、完全に宙に浮いていた。繋がっている後ろに、激しい刺激が走る。
「あ──あぁッ……!」
 俺は堪らずに、悲鳴を上げてしまった。大の字に広げられた足はピンと伸ばされ、自分の力で踏ん張れない。
 
 ───これは……!
 “雅義”と呼ばされた、あの時と同じだ……!
 
 両脚を開いたまま拘束されて、踏ん張れなかった。そのせいで、与えられる刺激をうまく散らせない。穿つ衝撃や擦れはダイレクトに快感として、背中を這い上がる。
 
「……あぁぁ、……ああぁぁ!」
 腰を打ち付けられる度に、激しく揺さぶられた。
 再び響き始める、金属音。でもそれは抵抗のためではなく、余りにも激しいピストンのせいだった。
 頭一つ分、身体ごと押し上げられる。引き擦り戻され、また打ち付けられる。引っ張られては押し付けられて、腰の密着度が凄い。
 俺の散々弄くられたポイントに、オッサンの穿ちが、抉るように当たってきた。
「うぁあ……やめっ…やめろ……!」
 突かれる度に、ビクンと跳ねてしまう。その度に後ろを締めてしまうのも分かる。それが嫌だ。
「うはあ…、すごい……」
 はあはあと息を弾ませながら、悪魔が嗤う。
「ぁああっ……あぁっ……」
 揺さぶりが激しく、自分がどれだけ悶えてしまっているか、もうわからない。
 疼き上がる快感を感じたくなくて、目を硬く瞑り、懸命に首を振っていた。
「克晴……可愛い……僕を、感じてるね?」
 悪魔がまた、嗤う。
「気持ちイイ声……出してよ。もっと、いい声で鳴いて…」
「─────」
 俺は出来る限り、喘ぎも嬌声も殺した。呼吸さえも、時々止めた。
「───! ……克晴……」
 一瞬、悲しげな声。
「んっ……きつ」
 声を殺した俺は全身を強張らせて、無意識に後ろを絞り上げていた。
「だめだ、すぐイッちゃう……」
 言いながら、急に俺から抜け出た。いきなり消える圧迫感。
 銜えていたモノを追うように、後ろが更に窄まる。
「………っ」
「はは。待ってて、一緒にいこうね」
 俺の両脚を引っ張るのをやめて、ベッドに降ろした。そして、膝を曲げてM字に開かせると、膝の裏に手を当ててきた。
「………?」
 俺は、朦朧とした頭で、苦しい体位にさせられるのを訝しんだ。
 背中を丸めさせられ、腰を高々と持ち上げられる。両膝を裏から押されて大開脚したまま、膝頭がベッドに埋まるほど押しつけられた。
 身体がくの字に曲がり、両脇に自分の太腿が当たる。
 股間を晒けだして、……蕾は天井を向いていた。
 こんなあり得ない、恥ずかしい格好に俺は焦った。
「───!! ……なに…」
 
 ───あッ
 
 上を向いた俺の腰に、座り込むようにオッサンが跨ってきた。……そして、
 
「う…うあああぁぁぁ!!」
 
 剥き出しにされたソコに、無遠慮にまた熱い滾りをあてがうと、そのまま腰を落とした。
 大きく勃起したそれは、俺の中に真っ直ぐに入ってくる。その先が、曲げられた俺の腹の中で、ダイレクトにポイントに当たった。
「やっ、やめろ! ……動くな!」
 回らない呂律で、一瞬にして湧いた恐怖を、口にした。
「なんで? これが気持ちいいのに」
 楽しそうに顔を歪ませると、オッサンは上半身を覆い被せてきた。
「ジャストポイントでしょ?」
 俺の首を抱えて抱きしめながら、腰を垂直に落としてピストンし出す。
「ああッ……ぅああぁっ」
 打ち付ける振動、内部に直接当たる衝撃、擦られる入り口……。
 俺の身体は、快感に突き上げられ、ただただ翻弄された。
「どう? …いいでしょ?」
 しきりと耳元で聞いてくる。その度、俺は首を横に振った。
 それでも、襲ってくる快感に、声を殺しきれるものではなかった。
「…ぁああ、……くぅ……ぁあああ……!」
「…うん。…そんな声も、そそるけど……」
「──ふ……うッ、……ぅああぁ……」
 背中を貫く痺れに、後ろを引き絞ってしまう。
「ん…キツ……はぁ、……もっと、高い声で鳴いてよ……」
 さらに激しく突いてくる。
「……あぁっ、……ぅあぁっ……」
「そんな……堪えた声じゃなくて…もっと甘く…」
 
 ───うるさい! 聞きたくない!
 
 パンパンと肉の打ち当てる音と、出入りさせる水音が、オッサンの声をも掻き消す。
「んぁぁ……あぁっ……ああぁ…」
 俺は首を振りながら、自分と闘っていた。
 問答無用で出入りする刺激が、前をどんどん熱くする。同時に、後ろは違う感覚に襲われていた。
 搾るたびに生まれる快感が、勝手に高みを目指していく。前の刺激とは別に、後ろだけでイこうとしていた。
 漏れる声も、知らず高く掠れる。それを、必死に抑えた。
 
「……myboy…your…wildcanary……」
 
 オッサンが何か呟いた気がした。
「………?」
 ちらりと目線を上げて、オッサンを見た。
 一瞬視界に入ったその目は、俺をじっと見下ろし……暗く光っていた。
「んんっ…あ、……ぁあああッ!」
 激しいピストン。我慢出来ない衝撃、疼きが、俺を襲う。
 
 ───嫌だ………このままじゃ……
 ───壊れる……身体も……心も……a 
 


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