chapter2. chirpiness bird -カナリヤ -
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「ぅぁ……ぁあっ……」
 
 俺の全身は、快楽という暴力に支配されていた。
 今はもう、それを受け入れるしかなかった。
 激しく突いてくる動きに、手足は痺れ、思考も麻痺して。
 高みを目指す……
 前と後ろが、別々に……
 
 ───あ……あっ!
  なんか……なんだこれ───!
 
 後ろから湧き上がった快感が、前の疼きさえ凌駕して、体中を貫いた。
 
 ───ぁあああっ……!! ………イッた!
 
「────くぅっ!」
 感じたことのない絶頂に、思わず呻いた。
 ───うぁああ………
 腸が搾られる。勝手に蕾が、内壁が、オッサンに絡みつく。締め上げと共に、激しい痙攣。
 訳がわからないままそれを繰り返して、快感を貪った。
「んんっ──克晴……すごい奥が、締まってる……」
 苦しそうに呟きながらオッサンは、腰のスピードを緩めた。
「すごい……克晴……すごい」
 嬉しそうに言いながら、キスをしてきた。
 顔を背けて嫌がる俺の顎を押さえ付け、しつこく唇を吸われた。
「んん…」
 そうしながら、また腰が動き出した。
「あぁ、ぁぁ……も……やめ……」
 また、後ろが熱くなっていく。
 悶える俺を、嬉しそうにオッサンは見下ろす。
「すごい……見て、克晴のココ」
 激しい呼吸の中、何か言ってくる。
「触ってないのに……もう、はち切れそう」
 苦しい体勢のまま、俺の股間を覗いて嗤う。
 俺の熱くなったモノは逆さになって、律動とともに自分の腹を打ち、絶え間なく露を垂れ流していた。
 俺はぎゅっと目を瞑って、唇を噛み締めた。それでも、漏れる声。
「うぁあ……はぁ……」
「ああ、イク、克晴……僕……イク……」
 更にピストンが激しくなった。
 俺の熱く勃起したモノが、刺激を欲しがって啼く。それ以上に、後ろの疼きが身体を悦ばせる。
「ああ……ああぁぁぁっ……!」
 オッサンが俺の中で、一際大きくなった。
 ドクンと脈打って、熱い液体が広がった。小刻みに、何度も注いでくる。
「───!!」
 俺も、白濁を自分の顔の横に、飛び散らせていた。そして、ぎゅうっと後ろを搾ってしまった。
「っ! 痛……きっつう……」
 オッサンの顔が、歪んだ。
「……感じ過ぎだって……そんな、良かった?」
 体勢を崩さないまま、俺の首にしがみついている。肩で息をしながら嗤った。
「すごい…克晴。…ほんとに、お尻だけでイッた……」
 
 俺はずっと目を瞑ったまま、動けなかった。
 身体はまだ、快楽の海を漂っている。
「克晴……最高……」
「……んっ」
 唇を合わせてきて、荒い呼吸のまま咥内を貪られた。
「んんっ」
 これでもかというくらい、舌を絡めては吸い上げる。
 時々唇を離しては、舌先で歯列をくすぐって、また吸い付いてくる。合間に、余韻を楽しむように、腰を動かす。
「…ふ……」
 いつまでも終わらないキスに、俺は苦しくて吐息を漏らした。
 ───それでも動けない。抵抗どころか、何も考えたくない。
 自分が嫌で。
 ……汚らわしい。
 こんな悪魔の言う通りの反応をして、触られもしないのに、達してしまった。
 情けなくて、悲しくて……
 まだ入ったままのオッサンを、今なお締め付けて、絶頂の名残を追っている。
 
「……抜け」
 濃厚なキスを堪能して、満足したように覗き込んできたオッサンに、鋭く睨み付けた。
「早く、抜けよっ!!」
 いちいち思い知らされるのも、我慢がならない。
 もう…いいじゃないか、終わったんだから!
 
「俺から、どけよ!!」
 
 声を張り上げて、叫んだ。
 オッサンが息を呑んで、俺を見つめた。
 
「……なんで……なんでそうなの……」
 
 怒りとも悲しみとも付かない声。
 
「絶対、気持ちいいはずなのに。こんなに、感じてるのに」
 腰がゆっくりと、律動を始める。
 オッサンのそれは、俺の中で再び、芯を持ち出していた。
 
 ───あッ……
 
 しまった! と思ったときは、もう遅かった。
「やめ──もう、やだ……」
 一瞬喚いた唇は、また塞がれてしまった。
「ん………んんっ」
 ディープキスをしたまま、腰を動かす。
 生温かいナメクジが、執拗にねっとりと咥内を這う。……苦しい。
 それでもはね除ける力が無い以上、されるがままだった。
 打ち付けられる腰、今度は前を握って扱かれた。否応なしに高められる。
「やめ……雅義……んんっ!」
 キスの合間に、懇願する。
 
 俺は………この瞬間が、一番嫌いだった。
 イッた直後に、また責め立てられる。
 もう無理だって……本当に嫌だって───そう思ってるのに、反応し出すこの身体。
 
 “お前は淫乱なんだ。それを早く認めろ”と……
 何度も何度も──身体に直接、思い知らすように。
 
「やめろって……もう、ムリ……」
 どんなに言っても、この悪魔はやめない。
 俺が快楽に顔を歪めるのを、待っている。
 
「あ……、あぁぁ」
 激しく前を扱かれ、結局高められて、喘いでしまう。
「克晴……克晴……」
 熱い呼吸とともに、俺を呼び続ける悪魔。繰り返す悪夢……
 何度もイカされ、何度も啼かされ……
 
 そしてその晩、俺は高熱を出した。
 病み上がりに、無茶をされたせいだった。
 
 
 
 
 
 
「克晴……」
 額のタオルを換えながら、オッサンが呟く。
 ベッドの縁に腰掛け、俺を見下ろしてくる。
「君は……カナリヤか……」
「────?」
「僕にとっては、ホトトギス……かな」
 不可解な言葉に、薄目でオッサンを見る。
 俺の浅い呼吸は、昼間犯られてた時とは違う熱を持ち、身体も頭も、何もかも熱かった。
 手首の拘束は解除されたけど、アンクレットはすぐに嵌められてしまった。
 今は両手両脚が重い……
 オッサンは、汗ばむ俺の額をタオルで拭って、そのまま頬に手を這わせてきた。
 俺の目を見つめ、小さく呟く。
 
「……啼くけど……さえずらない。……僕の小鳥は」
 
「─────」
 何を考えているか分からない無感情な目が、俺をじっと見つめる。
 不意に、抱き締められた。
 ベッドと背中との隙間に腕をさしこんで、首筋に顔を埋めて。
「前は……」
 くぐもった声が、耳下に熱い息を吐いた。
「……6年前は、いい声で鳴いてたんだよ……克晴…覚えてない?」
 
 ───覚えてるはずが、ない。
 そんなものとっくに封印して、忘れた。
 
「……歌を忘れたカナリヤは……酷い仕打ちを受けるんだ」
 肩口に顔を埋め、なおも呟く。
「……酷い唄。でも僕は、そんなことは望まない。……だけど、鳴かせてみせようと…してしまうんだ」
「…………」
「さえずってほしいのに。それだけの快感は、与えてるはずなのに……」
 顔を起こして、唇を合わせてくる。軽く啄んでは、俺を見る。
「……なんで、…この唇は…いい声を出さない? ……なんで歌わないの?」
「────」
「克晴……」
 暗く淀むその瞳の色は、俺を恐怖させるには充分だった。
 このまま何も言わないでいたら、こんな状態でも何をされるか分からない。
 
 
「………快感ていうのは……身体が感じるんじゃ…ない」
 
 
「───?」
 俺の声に驚いて、オッサンは身体を起こした。
 しゃべり出した俺を、凝視する。
 
 
「……気持ちで──心で感じるんだ……」
 
 
 与えられた刺激で感じる疼きなんて、俺には本当の快感なんて言えない。
 そんなんじゃないんだ……
 
 俺は、恵を思い出していた。
 少しずつ身体を変えていったメグ…。俺のために、一生懸命平気な振りをして。
 目に涙を溜めながら「へいき」って言うんだ。
 
「痛くても、辛くても……、それを与えてくれる人が…大好きな人だったら……」
 俺の顔は、悲しみで歪んでいるだろう。
「それが……それこそが、快感に変わるんだ!」
 
 胸が痛い。小さな恵を思い返すと…。
 悲しい思いが、睨む眼に力を込めさせた。
 
「──こんな暴力で……気持ちいいわけ、ないだろ!?」
 一瞬、泣きそうなオッサンの顔。すぐに困惑した表情に変わり、首を横に振る。
「でも……じゃあ、なんで克晴は……こんなに反応するの?」
「………っ!」
 パジャマの上から、胸を触ってきた。尖りを探り出して、指先でこね上げる。
「やっ……」
「ほら、こんなにすぐに感じる」
 俺は熱で動かない身体を捩ると、懸命に指から逃げた。
「僕は知ってる。本当に嫌だったら……心の底から恐怖に支配されて、痛いだけで辛いだけで…悲しいだけなら、何をされたって──絶対に、勃起しない」
「───!」
 核心をもって言い切る力強い言葉に、今度は俺が息を呑んだ。
 オッサンは両手で俺の頬を挟んで、真っ正面から見つめてくる。
「──なんで……なんで?」
「……………」
「克晴が、……わからない」
「────」
 
 
 俺は、何も言えない。……俺だって分かるもんか!
 俺が一番分からないんだ。
 自分が嫌になる───
 
 
 俺もオッサンも、心の内は全然違うけど……二人とも、悲しい光を瞳に宿して、暫く睨み合っていた。
 
 そして結局、俺はオッサンの欲望を煽ったらしい。
「克晴……一回だけね」
「───ぁッ!」
 オッサンの自慰に付き合わされるように、後ろに指を突っ込まれ、前を扱かれて、一緒にイカされた。
 
「克晴……克晴……!」
「ぁあ、……あぁぁ!」
 もはや、手首のプレートすら重い。オッサンの手を払い除けることも出来ず、為すがままだった。
 
 
 
 ──俺は泣かない。
 ──俺は鳴かない。
 
 
 
 
 ……そう心に刻みながら、俺は啼かされ続けた。
 


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