chapter13. critical turning point                       -見えない回帰点-
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 そして、今日も。
 夕飯が終わって、僕は食器の片づけをしていた。
 洗濯物は全て、クリーニングに出している。手が掛からなくていいから、毎日、回収配達するように頼んでいた。
 それに比べて、食事はある程度自分でやらなきゃイケナイのが、面倒くさかった。でも、僕はなんでか、克晴に作らせたり洗わせたり、そんなことさせる気分にはならなかった。
 食べ終わった食器を一緒に運び終わると、克晴は当然のようにソファーに座った。
「今日の朝刊、ココに置くよ」
 僕が自室から持ってきてテーブルに置いてあげたのを、お礼も言わずに掴んでさ。
 
 懐かない美猫が、餌だけサッと取りに来るみたいだ……。
「…………」
 カチャカチャと音を立てて食洗器から乾いた皿を棚にしまいながら、僕はその後ろ頭を眺めた。
 バサリと、定期的に紙をめくる音が聞こえる。
 ───また流し読みしてる……あんなんで、記事が頭に入るのかな。
 後頭部しか見えないけど、取り澄ました顔で読んでるのが、想像付く。口を閉じて、目線だけ動かして、涼しい顔して……。
 
 僕は急に、その顔を歪めたくなってしまった。あんなカッコつけていたって、ヤル時は凄い乱れるクセに。
 それを、克晴に教えてあげたくなっちゃった。
 
 後ろからそっと近づいて、首に腕を巻き付けた。
「そんな読み方で、頭に入る?」
 横から、顔を覗き込んでみた。やっぱり澄ましたカオして、斜め読みだ。
 僕を無視して、読み続けてるから、もっと悪戯したくなった。パジャマの襟元から手を差し込んで、中の生肌を探る。
 ビクンと肩が跳ねた。
 ───はは…ほら、反応する。
 それでも、平静を装って新聞に目を向けてるから、小憎たらしくて。
 顔を覗き込みながらも、指は胸の突起を探し出した。摘んで、弾いてあげる。
「んッ……ぁ」
 ガサガサッと激しい音をたてて、紙面にシワが出来た。
「そうそう。もう、新聞は終わりだよ」
 眉を寄せた顔をムリヤリ僕に向けさせて、唇も奪った。
「……こんなトコで……!」
 怒りを押し殺したような声で、抗ってきた。首を振ってキスを解く。
 焦ったような取り乱した顔になって、僕は大満足。そうでなくっちゃ、克晴……
 
「……こんなトコだから」
 ソファーの前に回り込んで、パジャマの体にのし掛かった。
「……やッ…」
 押し倒された口から、一瞬反抗の叫び。
 
「へえ……本当に、……イヤ?」
 その目をもう一度覗き込んで、笑ってあげた。
「………!!」
 咄嗟に言葉を飲み込んで、抵抗を収めた。蒼白になって、眼だけで怒りを訴える。
 
 ───可愛い……。ほら、思った通りに乱れていく……
 
「ヤルなら……ベッドに…」
 首を振りながら、そんなこと言ってくる。
 はは、これがいいのに。
 僕は、普段と違う場所で克晴の裸体を見ることに、興奮していた。パジャマの下に潜り込んで、ツンと立った乳首を舐めた。歯と舌で挟んでは、先っちょを弾く。
「ンッ……」
 乱れた息が、色っぽい声を漏らし始める。
 こんなコトを期待したワケじゃなかったけど、座るとかなり身体が沈むソファーだったから。僕の体重がかかった克晴の身体は、すっかり埋もれて捕らわれていた。
「あっ…ぁあッ……!」
 自由の効かない身体で、僕の愛撫に身悶えた。
 それでも我慢して声を殺すから、やっぱりその喘ぎが聞きたくなる。
「かわいい……もっと乱れていいのに」
 前をはだけて、綺麗な胸筋を指先で堪能しながら、顔を近づけた。
「─────」
 鋭い眼は僕を睨み付けて、悔しそうに奥歯を噛み締めている。その唇を開かせたくて、片手で顎を捉えた。
 肘に体重を乗せて、胸の上から押さえ付けながら、頬を掴み直す。
「口、開けて。克晴」
 強引に指を二本突っ込んで、ムリヤリ舐めさせた。
「んっ……!」
「しゃぶって」
 指で舌を挟みながら、サイドをくすぐってあげる。
「……ぁ…はあ」
 僕、知ってるんだ。ここが克晴の性感帯だって。
「ん……ん」
 唇の端から、飲み込めない唾液が首筋を流れていく。間近で見ていると、イヤらしさにときめいてしまう。
「色っぽいなぁ」
 堪らずに口を寄せて、舌先でそれを掬う。
「……クッ…」
 それすら感じたみたいに、首を振った。
 
「……?」
 ───なんか……いつもより、反応いい……?
 喘ぎ方が、ちょっと違う。怯えたような眼の光が、時々僕を捕らえて……。
「苛めてるわけじゃ、ないのに……」
 ピチャピチャと音を立てて、指を舐めさせたりしておきながら、なんとなく悲しくなった。
 興奮して、僕のソコも痛いくらいだけど。
 
 やっぱり一緒に気持ちいいって言って欲しい。
 ……せめてそれを、受け入れて欲しいのになぁ。
 
 もう、無理強いはしないことに決めたから。泣かせてまで、身体に訊く様なことはしないよ……。
 ただ、克晴を先に、イカせてあげたくなっちゃった。
「痛くしないから……」
 口から外した指を、体を押さえ付けたまま肌に這わせた。
 胸……脇……横っ腹……と下げていって、パジャマのゴムの隙間に滑り込ませる。
「……ッ!」
 茂みに辿り着くと、ビクンと腰が揺れた。
 
「あれ……もうこんなに、なってるよ?」
 顔を向かい合わせて、表情を楽しんでいた。手だけでズボンの中を探って、反応を窺いながら。
 濡らした指よりもっと濡れてる、克晴の熱いモノ……それを指の一本一本で確かめて、反り返っている裏スジを伝って……。
「ん……んんッ……ぁ…はぁ……」
 蕾に達したとき、甘い吐息が、目の前の唇から漏れた。
 ───うわ…
 僕の身体も、反応する。
「……気持ちいい?」
 嬉しくて、つい聞いた。
「………」
 上と下の口が、同時にキュって締まった。
「────!!」
 まったく、この……強情っ張り!
 埋もれたソファーのせいか、跳ね返ってくる手応えも、違う。抵抗出来ない身体は、ベッドにいる時より、震えている気がした。
 
「指……挿れるよ…」
 興奮して息が荒くなるのを押さえながら、そっと指先を埋めていった。
「ん……んぁ……」
 ぬぷりと入っていくたび、イイ声が漏れる。
 熱い吐息……目の前の紅く染まった頬を眺めながら、中のポイントに達するまで、挿れ込んだ。
「……あッ」
 眉が悩ましげに寄って、腰が跳ねた。
「……みっけ」
 僕は体を重ね合わせて、重みで全身を押さえ付けた。腰を捩ることすらままならない克晴は、苦しそうに顔を歪めた。
 胸の隙間に手を差し込んで、乳首の突起も弄ってあげる。
「あぁッ……それ…やめ…ッ!」
 感じすぎるのか、悲鳴を上げた。
 クチュクチュと指の出入りする音と、克晴の掠れた喘ぎ声……
 いままでずっと僕が居ただけの、このリビングで、こんなヤラシイことしてるなんて。
 ……服を脱いでおけば良かった。興奮しすぎて、ホント、前がキツイ。
 テントを張ってる部分が、お互いの布を通してまで、熱い鼓動を伝えた。
 
「……胸は、やめてあげる。その代わり、克晴……僕のズボン、前…開けて」
 
「─────」
 至近距離で、真っ黒い眼と僕の茶色い眼の、視線が絡み合った。
 克晴……すごい、嫌そうな顔。
「……はぁ……」
 深い溜息を漏らして、唇を引き締め直した。
 ソファーの表面を掻きむしっていた手が、のろのろと僕のファスナーに伸びる。
「もちろん、トランクスと……君のズボンも下ろしてね」
「…………」
 一瞬動きを止めた手は、申し訳程度にそれぞれの腰元までズボンを下げ、前を解放した。
 自分のパジャマを下げるときの、悔しそうな顔ったら……!
 先に突っ込んでいた僕の手の影から、克晴のペニスが出てきたとき、微かに肩を震わせた。
「それから…僕のシャツの前も開けて」
「─────」
 じろりと僕を睨み付けると、一文字に唇を結んだまま、襟元に手を伸ばしてきた。
 ひとつひとつボタンを外していく指先と、克晴の顔を交互に眺めてみる。後ろの指を感じているせいか、頬が少し紅くて、指が震えてる。
 怒ったように吊り上げた眉が、僕には困っているように見えて、やっぱり可愛くてしょうがない。嫌そうに作業を終えると、ぶっきらぼうに、両腕をソファーに落とした。
 
「ありがとう。……気持ちよく…してあげる」
 指を一旦抜いて、僕のお尻の後ろ側から、手を回して挿れなおした。
 激しく抜き差ししながら、僕の解放された熱い滾りを、克晴の濡れた屹立に押し付ける。
「────あ!?」
 熱い…
 すごく熱い……生肌の感触が、気持ちいい。
 二人の勃っているモノを重ねて、擦り合わせた。指の挿入に合わせて、腰を揉み上げるように前後に動かす。
 こっちの方が、僕は保つから。先に克晴が、達すると思った。
 体勢的には、かなりキツイけど……。腹這いにのし掛かって、片腕だけで上体を支えた。
「んぁ……ああぁ……!!」
 克晴の小さく漏れる喘ぎが、すぐ耳の横で聞こえる。嫌がって身悶えるけど、動けば動くほど、刺激が強まるだけだった。
 ギュッと目を瞑って、必死に首を振っている。
「ハァ……ハァ……」
 お互いの熱い呼吸が、顔にかかった。
「ねぇ、克晴……体温て……気持ちいいね」
 唇を啄みながら、囁いた。
「…………」
 薄く開いた視線が、僕をちらりと見た。
 
「挿れるだけが、セックスじゃないよ。僕の愛撫で……感じて…」
 
 支えている方の腕を、克晴の首の下に入れて、肩を抱くように抱え込んだ。
「んっ…ああぁ……!」
 胸も太腿も密着させて、キスしながら、亀頭と亀頭、裏筋と裏筋を擦り合わせる。
「は…すごいね……二人の先走りで…グチュグチュいってる」
 卑猥な水音が、興奮を煽る。
「はぁ………あぁ……!!」
 腕の中の体が、どんどん火照っていく。
 中の指を速めると、合わせてる克晴の屹立が、硬度を増していった。
「うわ……」
 僕にも、凄い刺激になる。
「あ、……ぁあっ、…くッ……」
 克晴が、何かを耐えてるように、悶え始めた。
「はぁ…かつはる……イッていいんだよ、気持ちいいんでしょ?」
 なんて……僕の方が、限界近い……。
「ぁあ。……ゴメン…僕、イク…ッ」
 硬い克晴のペニスに合わせて擦ってると、僕への刺激の方が、強かったみたいだ。
「───あぁぁッ!!」
「クッ……ぁあッ!」
 
 我慢出来なくて、僕は克晴のお腹に吐精してしまった。
 驚いたのは、克晴も同時だった。
 二人のお腹の間で、熱い液体を放った屹立が、ビクビクと震えた。
「うぁ……はぁ………スゴ……」
 ───気持ち…いい……
 目眩がするような、心地よさ。克晴の体温が、そのまま余韻となって、腰に響いた。
「………すごい、後ろ……締め付けてる」
 ホントに、こっちはこんなに素直……。指を抜くのが、もったいなかった。
 
 それにしても、無理な体勢は限界で。僕はグッタリと克晴にのし掛かったまま、暫く動けなかった。
 抱き締めた肩口に顔を埋めていると、克晴の隆起する胸筋で、僕まで身体が揺れる。
「あーあ。……先に、克晴だけ…イカせたかったのになあ」
 ちょっと悔しくて、口を尖らせながら、顔を上げた。
 目の前の紅潮した顔は、目を瞑って横を向いていた。
 呼吸がまだ荒く、薄く開けた口から、ハァハァと息継ぎをしている。額に掻いた汗が頬を流れて、一瞬、また泣いているのかと思った。
「……克晴?」
 呼吸が落ち着いても、横を向いたまま。目も開けない。僕をちらりとも、見ない。
 
 ────怒らせちゃった……
 
 ソファーはイヤだって言ってんのに、無理矢理ヤッちゃったから……?
 せっかくこっちで、新聞を読むようになってくれたのに。
 
「……ごめん。もう、ソファーで襲わないから」
 背けたままの頬にキスをしながら、顔にかかる髪を梳いた。
「新聞、ここで読んでね」
 閉じた瞼を、ずっと見つめ続けていると、やっと少し開いて僕を見た。
「…………」
 その眼は、さっさと退けって、それだけ言っていた。
 
 
 
 
 
 でも……
 そんな約束、守るどころじゃ無くなってしまった。
 
 後日、グラディスから掛かってきた携帯の内容は……僕を暫く動け無くさせるほど、ショックだった。
 
 
『Sorry,マサ……弟が、日本に向かった』
 
 
 ──────!!
 
 僕は動転して、どうしていいか分からなくて……判断を誤ってしまった。
 この時、また、僕は間違ってしまったんだ。
 後で振り返ったら、そう気が付くのに。
 後悔しても、し足り無い。
 
 あまりにも克晴に溺れすぎて、放してあげることが、出来なかったんだ───
 
 


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