「俺とアイツ」夏シネマ
2
《転》
───え!?
……うわっ……なっ……!!
慌てて映写機に抱きつくようにフィルムを止めて、誰もいるはずのない部室を見渡した。
───先輩!?
ドクン、ドクンと、心臓が煩い。
あの時の、先輩たちの様子を思い出す。
「誰もいない時に、一人で観てね」
妙に含んだような、言い回し。
口の端に浮かんだ、笑み。
「─────っっ!!」
俺は慌てて、部室のドアの鍵を閉めに走った。
後ろ手に鍵を閉めながら、ドアに背中で寄り掛かった。
「………………」
眼鏡のレンズをシャツの裾で拭いて、かけ直す。
頭を落ち着かせて、さっきの映像を思い出してみた。
佐倉先輩たちに、押さえ付けられていた須崎……。
その顔は真っ赤で、大きい目を見開いて……俺を見ていた。
────これ、あの合宿の時の……だよな。
生唾を、何度も飲み込んだ。
あれ以来、須崎とは会っていない。
────あそこで、あんなトコで……何があったんだ……?
6畳の部屋に布団を敷き詰めた空間。
そこで先輩2人に捕まえられた須崎……
そう考えただけでも、興奮した。
「……………はぁ…」
深呼吸をして、気持ちを落ち着かせると、映写機の前に戻った。
────見定めてやる
そんな気分だった。
息を詰めて、再びリールを回し始める。
それは、板谷先輩たちに裸にされた……須崎のAVシネマだった。
一番最初に俺を見たと思った場面は、カメラの位置を教えられて、驚いている顔だった。
固定アングルらしく、いまいち不明瞭な映像。
でも、須崎の顔がどんどん火照っていって、仰け反って喘ぐ姿は、充分綺麗に映っていた。
「………………」
瞬きも忘れて、それに見入った。
音声はない。
昔のサイレント映画みたいで、それはそれで、もの凄くエロい映像だった。
タカタカタカタ…微かに鳴り響くのは、リールの回る機械音だけ。
「………」
無音の世界の中で、須崎が喘ぐ。
悩ましげに眉を寄せては、目を潤ませて、頬を紅く染めていく……
首を振っては「やめて」と、何度も動く、紅い唇。
白い肌……
胸を這い回る、手の平。
板谷先輩の上下する手に、両脚を広げて……
うわ、尻に指が…! ……仰け反る身体……
───はぁっ……はぁっ……
聞こえるはずのない、須崎の喘ぎ……それは気が付いてみれば、自分の荒い呼吸だった。
「あッ……」
思わず腰が震えた。
須崎が板谷先輩の手で、イカされた瞬間だった。
ビクンと身体を震わせると、喉を反らせて小さい口が悲鳴を上げたようだった。
佐倉先輩の腕の中で、ぐったりとして、身体を小刻みに痙攣させている。
頬を伝う涙、真っ赤な唇。
「──────っっ」
俺は一端、映写機を止めた。
────ヤバイ。
ズボンの前が、かなりきつくなっていた。
───須崎見てて、勃っちまうなんて……
誰に見られているわけでもないのに、恥ずかしくて一人、赤面した。
────どうする……まだ観るか……?
なんて、悩んだのも一瞬だった。
俺はもう一度深呼吸をして、立ち上がって、背筋を伸ばした。そしてきちんと座り直すと、再びリールを回し始めた。
「……うわ…」
思わず声に出して、呻いた。
佐倉先輩が取り出したモノは、俺も初めて見る。
ゴムを被せたそれ……大きめのバイブが、須崎の後ろにあてがわれた。
大声を上げそうな場面では、佐倉先輩がその唇を塞いでいた。
────うわ……うわ…………
濃厚なキス。
須崎の喉は反り返り、胸が激しく上下している。
その下、広げられた両脚の根本に……太いバイブが埋め込まれていく。
押し込むたびに、背中を反らせて震えて。
痙攣する腰、のたうつ身体。
須崎のソコは、少しずつ勃ち上がっていった。
────はぁ………
全部入れられた後、尻で座らされて、辛そうに顔を歪めている。
「………ッ」
自分がそうされたかの様に、股間が疼いた。
知らずに歯まで、食いしばって。
────はぁ、…はぁ…はぁ…
俺は須崎の変わりに、呼吸を荒げ続けた。
そこで画面が切り替わって、須崎のアップが映し出された。
板谷部長が、カメラを構えたんだ。
「…………スゲ…」
泣いて嫌がる、火照った須崎の顔。
その口には、撮影で使った猿ぐつわが嵌められていた。
目線だけで訴える仕草が、胸にズキンときた。
そのアップから、カメラは少しづつ下になめて移動していく。
首筋から胸へと、伝う汗。
鎖骨、ピンクの小突起、腹筋、半勃ちになってるソコ…その奥に少し見えてる、バイブ……
開いた脚の膝頭…ふくらはぎ…リキんだつま先まで、じっくりと映し出した。
───さすが板谷先輩……すごい綺麗に撮ってる……
生唾をまた、飲み込んだ。
───でも、それにしたって……何、してんだ…先輩たち……?
「──ッ!」
バイブのスイッチを入れられたのか、須崎の身体が急に跳ね上がった。
「うぁ……」
俺も、そこが痛い。腰がどんどん疼いていく。
その瞬間、音声が入った。
『んんッ……ぁあああッ…!!』
須崎の喘ぎ声だった。
『理央……入部してくれ』
『キー君を、助けてあげて』
先輩達の声…!
「─────────!!」
俺は、胸が熱くなった。
先輩達のその声は、やっていることからは想像も付かないくらい、真剣だった。
『…ん……んっ…んんん!』
その間も、須崎の喘ぎ声は続く。
もはや、抵抗じゃない。もっともっととねだるような、懇願の色がその声には交じっていた。
『…ぁあッ…ぁあッ……ああぁッ…』
───はぁッ…、はぁッ……
俺はもう、堪らなかった。ズボンの前を解放すると、熱くなっているそれを引き出して掌中にした。
須崎の喘ぎ声にあわせて、上下させる。
須崎の唇は、また佐倉先輩の濃厚なキスで塞がれていた。
『……ん!! ……んんーーっ!!!』
…ぁあ、…ぁあ、………んッ…ぁああぁ……!!
「………くッ…」
ヤツがイカされるのと同時に、俺もイっていた。
……ハァッ……ハァッ…ハァッ…
スクリーンは、正体をなくした須崎のアップの、静止画で終わっていた。
真っ赤な頬に涙の跡が幾筋も伝い、閉じている目も長い睫が濡れている。
『───リオちゃん、約束だよ───』
最後の佐倉先輩の声が、耳から離れない。
………リオ……リオ……
俺はその顔を見つめながら、もう一発抜いていた。
「………んッ」
───ハァッ、……ハァッ……
「………リオ…」
思わず、声に出して呼んでしまった。
胸が新鮮な響きで、高鳴った。
「リオ……リオ……」
俺は、残りの休みの間中、自分のベッドの中でその名を呼び続けた。
《結》
試写会は、8月が終わる3日前。
俺たちの特権。夏休み最後のイベントだった。
俺たちだけが、誰もいない学校を独占する。
「リオ……この後、片づけ手伝って…」
「……………」
真っ青になって、目を見開いて震えているリオに、そう”命令”した。
「……………」
何も言わないで、見上げてくるリオ。
机2つ離れた距離が、警戒を物語っている。
既に先輩も女の子達も帰って、部室には俺たち2人だけだった。
「………面白かったろ? 映画」
俺は、上出来な仕上がりにも、興奮していた。
あのラストのアップみたいに、リオをまた撮りたい。
「リオを……撮りたいんだ」
そう言った瞬間、リオはビクッと身体を震わせた。
「………やだ」
眉を吊り上げて、睨み付けてくる。
生の須崎……なまのリオだ……。
フィルムの中の、喘いだ顔が思い出される。
……紅い唇、潤んだ瞳。色っぽい表情……
思わず手を伸ばした。
「………あッ」
怯えたリオが身体を引いた。
───逃げられる!
俺は咄嗟に手首を捕まえて、引き寄せた。
間にあった机が、激しい音を立てて床を滑る。
「やっ……加藤!」
リオの悲鳴が、部室に響いた。
身を捩って逃げようとする。
俺は強引にその身体を腕の中に、抱き込んだ。
「……離してっ」
浅い呼吸を繰り返しながら、身体を震わせている。
気丈にも、真っ白な顔で睨み付けてきた。
「リオ……」
「────ッ!」
その唇に、自分のを押し付けていた。殆ど衝動的に。
「んんんーーっっ!! ………やっ…やめろ!」
この身体のどこに、そんな力があるのか。
激しい抵抗で俺の腕を振り払うと、手の甲で唇を拭いながら俺を睨み上げた。
「……卑怯者っ!!」
それだけ叫ぶと、身体を翻して、教室から走って出て行ってしまった。
「………………」
俺は、出て行くリオを追いかけることも出来ずに、一人部室に立ち尽くしていた。
夏の終わりの部室で……
俺は、何をしているのだろう。
広い部室の片隅に、映写機と…俺ひとり。
下がったままのスクリーンの前に、板谷先輩と佐倉先輩の、仲の良さそうな笑顔が見えた気がした。
「……なに?」
夏休み最後の日、リオは俺からの携帯呼び出しで、渋々出てきた。
──大事な話があるから。絶対来い……リオ──
そう言って。それは、無言の圧力。
場所は、俺んちの最寄り駅だ。
俺は決心していた。昨日一日、ずっと考えてた。
───もう迷わない。俺は、実行に移す!
残暑続きで、ヤツはショートパンツにロゴTシャツという軽装だった。
――無防備だな……
見た瞬間、そう思ってしまう俺は、やはり野獣になっていたからだろう。
顔を赤くして、半睨みに見上げてくるその顔に、俺もどきどきした。
「──ちょっと、歩こうや」
「……………」
用心するように睨み付けながら、リオは着いてきた。
それを眼鏡のレンズの端に捕らえながら、俺は他愛ないことを喋りだした。
「将来さ、何になりたいか……考えてるか?」
「───?」
言葉の真意を探るように、じっと見てくる。
「俺さ、映画監督になりたいんだ」
「……カメラマンじゃないの?」
さすがに、リオが口を開いた。
「……ああ]
さんざん俺は8ミリでカメラマンになる! と繰り返していたから。
「ストーリーを追って物事を組み立てて、完成させる。その手段の一つが映像だって判った」
「………?」
「カメラで何かを映す……ファインダーに収めていくのは、すごい楽しい。でも、もっとドキドキすること、見付けた」
映研で、俺は先輩にそれを教えてもらった。
「映すための世界を自分たちで作り上げて、用意をしていくんだ」
「……ああ」
リオも、納得いったように頷いた。
俺は立ち止まって、その顔を正面から見た。
「そのためには、どうしても…お前が必要だ。……リオ」
名前を呼ばれた瞬間、リオは顔を引きつらせた。
「やっぱ卑怯もんだ! ……加藤は!」
不意に叫んだその顔は、泣きそうに歪んでいた。
「僕…帰る!」
俺は、踵を返そうとしたリオの腕を掴むと、すぐ横の鉄門扉を開けた。
「──!?」
驚くリオを無視して、玄関の鍵をあけると中に引きずり込んだ。
「ここ、俺んち」
中は誰もいない。昼間はいつもそうだ。
「………加藤!?」
嫌がるリオを引きずって、二階の自分の部屋に連れ込んだ。
「離せ……離せよ!!」
ベッドに押し倒されて、藻掻いて暴れた。
用意していた紐で手首を束ねると、リオは悲鳴を上げた。
「やぁ……加藤…っ!?」
俺は無言で、その手首をベッドのパイプにくくりつけた。
両腕が上に上がったせいで、Tシャツの裾から腹が見えた。
あの映像を思い出して、俺は息を呑んだ。
「あれ、観たんだよね!?」
リオが顔を真っ赤にさせながら、喚いた。
「あんなの約束でも何でもない! あんなことされたって、僕、入んないから!」
「……………」
「まさか……加藤に、ほんとに見せるなんて……」
大きな目から、ぽろぽろと涙が零れた。
「”リオ”とか呼んで脅したって、……今更また恥ずかしいビデオ撮ったって、僕は絶対やだかんねっ」
「………リオ?」
悔しそうに唇を噛み締めている。
「僕は従わない! ………卑怯もの!」
また、ぽろぽろと涙をこぼしている。
「……勘違い、すんな」
俺は腹の底から冷たい声を出した。
───今更また、ビデオだって? ……そんなんじゃない!
「俺は…お前が欲しいだけだ」
リオの目の色が、恐怖に変わった。
「………かとう?」
Tシャツをたくし上げると、綺麗な胸が露わになった。
可愛い桜色の部分に舌を這わせた。
「…っや……ぁああ…!」
悶える腰を押さえて、ショートパンツと下着を引きずり降ろして、脱がせた。
何もかも、あの映像の通りで。
綺麗な肌、艶めかしい肢体……そそる目つき。
「リオ……」
「………んんッ…!」
キス、愛撫、ほぐし……
毎晩毎晩、頭の中でシミュレートしてはリオを抱いていた。
その通りに俺は、リオを犯していった。