「俺とアイツ」夏シネマ
3
「やめ……やめてっ! 加藤!!」
俺の這い回る手と舌に、困惑声を上げる。
カオにも戸惑いしかなくなった。俺はまたリオに、あの目つきをさせたかった。
「ぁあ……!」
萎えている小さなモノを掌で包んだ。
上に向けて、下から揉み上げる。
「……ぁっ……はぁ……」
「リオ……羨ましいって言ってたろ。板谷部長のこと。……親友っていいなって」
反対の手でつんと尖った胸を摘みながら、耳元で囁いた。
ビクンと背中を反らせて、唇を震わす。
「んぁぁっ………やぁ」
「俺、リオとそうなりたいんだ」
「……!!」
真っ赤になった目を、俺に向けてきた。
「し……しんゆうって、こんなこと、しないよねっ!?」
叫んだ唇を、また塞いだ。佐倉先輩みたいに、舌を入れて中を探る。
「んんーーっ!」
その間も、胸と下の愛撫はやめない。上下させている掌の中のモノが、少し硬くなってきた。
リオに跨っている俺の方はもう、完全に上を向いて、ヤツにもそれは伝わっている筈だ。
「…はぁ……んぐっ……」
唇を離すと、タオルを咥えさせた。
胸、脇腹、腰骨…と舌を這わせて、唇が下腹部に辿り着いた。
ゆっくりと、扱いていた先端を舐め上げる。
激しく腰がゆれる。
「んんーーーっっ!!」
鈴口まで口に含んで、その下を輪にした指で扱く。だんだん唇を降ろしていって、指と入れ替えていく。
リオは俺の口の中で、すぐに硬く大きくなっていった。
───温かい……脈打ってる……
生のリオに、俺は興奮が収まらない。
息遣い、熱、汗の臭い…スクリーンからは想像でしか伝わってこなかったそれを、今体感している。
扱く唇が、早くなってしまった。
「んんっ、……んんっっ…ぁあああ……!!」
ビクンと大きく震えて、口の中が熱く弾けた。
「──んっ」
喉の奥まで熱い液体が届いて、俺も小さく呻いた。
勢いで、全部飲み干した。
──はぁ……
身体を起こすと、あのフィルムの最後の顔が、そこにあった。
目を閉じて、幾つもの涙のすじを頬に伝わせている。
頬は真っ赤で、胸は激しく上下していた。
俺はまた耳元で囁いた。
「俺は、脅して入部させようなんて…もう思ってない」
涙はまだ、頬を伝い続ける。
「これで嫌われても、親友どころか、ダチでなくなってしまっても…」
「……お前が欲しいんだ」
「………」
濡れた睫毛が、微かに動く。
薄目を開けて、潤んだ瞳が俺を視界に入れた。
「部員勧誘みたいなことばっか、言ってきたけど……俺、わかった」
「…………」
「画面映えするお前の顔、フィルムに収めたかった……」
汗が光る額の髪を掻き上げて、紅く染まってる顔に微笑んだ。
「………その顔、俺だけがファインダから見つめて、独り占めしたかったんだ」
「…………?」
リオはただ、眉を寄せた。
「俺、お前が好きみたいだ」
「────っ!!」
タオルの奧で息を呑んでいる。目を見開いて、凝視してきた。
「んんっ!!」
リオの答えなんかいらない。聞きたくない。
──今は、ただ手に入れてやる!
俺はまた胸を舐め回し、手を下に降ろしていった。
指を後ろの閉じた部分に這わせて、奧を探る。
「……んぁああっ!」
腰が嫌がって、揺れた。
「リオ……」
身体も下げて、舌をそこに入れた。
「……んぁっ…、ぁあ……」
脚を広げさせ、俺の愛撫で腰を揺らせて。
リオが…熱くなっていく………
舌と指と入れ替え、さらに奧を探る。
「……ぁあああっ」
背中を仰け反らせて、指を受け入れていく。
「…リオ……リオ……」
俺はもう我慢出来なかった。
熱い滾りを取り出して、あてがった。
「んんーーーっ!!」
恐怖の声で嫌がる腰を押さえ付けて、無理矢理押し込んだ。
「んんーッ!! ……んぁぁあああ!!」
目をぎゅっと瞑って首を振っている。
辛そうな顔に、汗が幾筋も伝っていった。
俺は強引に全部埋め込んだあと、しばらく動けなかった。
───すげ……あったかい……
口を塞いでいるタオルを、外してやった。
手首の拘束も解いた。
「リオ……」
俺はリオの背中に手を回して抱き締めると、ゆっくり腰を動かし始めた。
「いたっ……痛い……加藤…!」
喘ぎ喘ぎ、そう訴えてくる。
その声さえ、愛しい。生の声だ。
「…熱い……お前のなか…」
俺は夢中で腰を動かした。
「…ぁッ…ぁああッ……!」
頭を抱え込んで、痛がるリオの声を自分の荒い呼吸で掻き消して。
「痛ッ……痛いッ……! ……バカッ……加藤のバカッ……!!」
──はぁッ……はぁッ……
気持ちイイ……。腰がどんどん高まっていく。
リオの中は、俺が動いているのに、扱かれている感じだった。
「…ぁあっ! …ぁああ……ぁああ……」
胸の中の息も、かなり熱くなってきて……。
腹の間にある、萎えていたリオのそれも、また大きくなっていた。
「リオ……」
それを掌中にして、殊更激しく腰を打ち付けた。
「あッ…あッ…、かと……かとうッ……」
仰け反った小さな口が、俺を呼んだ。
───リオ……
キスも夢中で繰り返す。
───ぁあ…ぁああ……イク……
「んぁ……あぁッ、…ああぁッ!! ……いく…かと……イク…イクッ…!!」
ドクンッ! と、リオの中で俺が弾けた。
リオももう一度俺の掌で、イっていた。
───気持ちいい……リオん中……
いつまでも脈打つ俺。…気持ちよくて、リオから出れない。
「へたくそっ」
上から、声が降った。
「……ヘタクソッ!!」
もう一度叫ぶ。
「…………」
俺はリオの胸に押し付けていた顔を、持ち上げた。
潤んだ目が、俺をきつく睨み付けてくる。
「板谷先輩の指テクは……最高で…気持ちよかった」
顔を真っ赤にさせながらも、唇を震わせた。
「でも、加藤は痛いだけだった!」
「…………」
「何度もそう言ってんのに、加藤…ちっとも聞いてくれないっ」
涙目で、泣き声で、文句を言ってくる。
…………。
「……ごめん」
聞こえてたけど……夢中で、優しくなんてできなかった。
「……ごめんな」
もう一度言った。
「………………」
目を合わせて、2人で顔を赤くさせた。
「いいから、ぬいてっ!!」
リオから出る時、きゅっと締め付けられた。
「……んっ…」
小さい声を漏らして、眉を顰めている。
その顔に、見惚れた。
「リオ……。俺、お前が好きみたいだ」
また、言ってしまった。
「……さっきから、”みたい”って、なにっ!?」
赤い頬を膨れさせて、目を吊り上げて怒鳴ってきた。
俺はちょっと狼狽して、視線を彷徨わせた。
眼鏡を押し上げて、リオを見つめなおす。
「だって……さっき、自覚したから。……自分でも驚いてんだ」
目を丸くして、見返してくる。
「ぼ……僕は好きじゃないよ! 加藤なんか!」
「…………っ」
ちょっと、ズキンときた。
そりゃ、そうだ。こんなコトして……
「……俺は好きだ…。脅してでも、リオが欲しかった。……心も…身体も」
……あの先輩たちみたいに、ずっと一緒に居て欲しいと思ったんだ。
「痛くして…ごめんな」
真っ赤になって、言葉を無くしたリオに、もう一度謝った。
「………へたくそッ!」
無遠慮に、また言ってくる。
俺はちょっと悔しかった。
……板谷先輩の、指テクって……
黙らせたくて、腕の下のリオを、胸に抱え込んだ。
「……わっ……加藤…!」
「一年間、毎日ヤッてりゃ、上手くなる」
抱え込んだ頭に囁いた。
「………えっ?」
慌てた声。
「その間に、お前は俺を好きになる」
「なっ……何言ってん……」
藻掻いて起こした顔に、もう一度キスをした。
「…………かとー…」
「俺は、お前しか見ない。他のヤツを撮影したって、俺が見つめるのはお前だけだ」
「…………」
「だから、その笑顔を……俺だけにくれ」
頬を染め直したリオは、困ったように眉を寄せた。
「でも……上映したら、僕の笑顔…ばらまくことになるよっ!」
「……ふ」
俺は嬉しくて、つい笑った。
「なに、なんだよっ?」
──脈がある答えに、気が付いてないのか?
腕の中で、強がって睨み付けてくるその眼を、じっと見た。
「………過去の目線なんて、どうでもいい。そんなもの全校生徒にくれてやるよ」
「………!!」
「生のリオが、いつも俺を見ていてくれるなら、それ以外いらない」
「……なま! ……なまって……なんだよっ」
「うるさい。だから、映研、入ってくれ」
「………ヤ~ダ~!」
───強情なヤツだな。
「なんで、そんなに嫌がるんだよ?」
起きあがると、リオの身体も抱き起こした。
正面に向き合って、ベッドの上で座り込む。
痛そうに顔を顰めながらもなんとか座り込んだリオは、ちらりと俺を見上げると、恥ずかしそうに視線を落とした。
「……先輩たちに嵌められた時は……ただ、悔しくて」
「……うん」
「加藤もそんな卑怯な手を使うヤツかと思ったら、余計腹が立って……」
「うん…」
また上目遣いに見上げてきた。
「僕……、無責任に入部しても、責任もてないよ」
「………?」
「僕、飽きっぽいから……趣味なんて持てないほど、なんにも集中しないからさ」
「…………」
「一生懸命、もの凄く真剣に取り組んでる加藤に、悪いと思って。………迷惑かける」
「……そんなこと」
───どんな、深刻な理由があるのかと思えば……
「……え~?」
「そんなことかよ!」
俺もリオも目を、丸くした。
「……僕は、真剣に悩んでんのにっ!」
「そんなん、問題ない! 振りをすればいいんだ」
「………フリ?」
「そ、振り。映画を好きな振り。演技が好きな振り。そう言う自分を演じてみるんだ」
「……え~?」
「そのうち、頭が騙されて、本気でそう思いこむから」
「………なんだ、それ。そんなんでいいの?」
リオの顔が、やっと少し笑った。
「事実、俺はそうやって変われた」
「…………?」
「リオの前では、何かと話しかけて、必死に笑顔作ってたけど」
手を伸ばして、ベッドサイドの棚に置いてある、今は使っていない眼鏡を掴んだ。
「ホントは、口数の少ない、黒縁眼鏡のイモ男だったんだ」
先輩達が、変わるキッカケを作ってくれた。
懐かしく思いながら、眼鏡をかけ直した。久しぶりに掛けたガラスレンズは、ずっしりと重かった。
「えっ…うわ……」
リオは、無遠慮に顔を顰めた。
「お前……少しは気ィ使えよ」
「あは……ごめん。だって、ほんとに違うから」
「…………」
俺は眼鏡をかけ直した。改めて、今の眼鏡の軽さを実感する。
「うん、こっちが加藤だ」
無邪気に笑うリオ。
……可愛すぎるだろ。
俺は、また欲望を滾らせてしまった。
「もう一回……」
「………え?」
「リテイクだ。……リオは、早速俺を好きな振りだ。そっから、始めろ!」
「……や……やだっ…」
抗うリオの手首を押さえた時、赤く擦れた跡が視界に入った。
ズキンと、胸が痛くなった。
「俺…先輩の真似して、もっと上手くヤルから」
「えっ! いいよそれは……」
「………?」
急に赤くなったリオを、見下ろした。
「だって……抱き締めたり…囁いたり……それは、僕…気持ち良かった」
「……リオ」
「……そこは、加藤がしてくれたこと」
手首を掴まれたまま、下を向いてしまい、つむじだけ俺に見せている。
───うわ……俺、もう…止まんねーかも
「……キスは?」
顔をよせて、唇を近づけた。
「!! …や~っ!! 佐倉先輩の方が、断っ然、上手いっ!!」
首を捩って逃げようとするのを、むりやり捕まえて舌をねじ込んだ。
「んんっ~~!!」
かなり強引に、嫌がらなくなるまで、口の中を舐め回した。
「ん……ん………」
最後は、ピチャピチャと軽い音を立てて、お互いの舌を絡め合った。
「………はぁ……」
「……合格?」
息の上がったリオを覗き込む。
真っ赤にした頬で、可愛く頷いた。
「………リオ」
抱き締め直した腕の中で、俯いたままリオが小さな声で呟いた。
(……僕ね、先輩たちにあんなことされてから……困ってたんだ)
そう言って、小さく肩を震わせた。
「…………リオ」
「で……でも、…加藤のこと、好きってわけじゃ…ないよ!」
俺は無言で抱き締めた。
もう言葉はいらない。一年掛けて、テクを磨くだけだ!
俺は懲りずに、リオの身体に手を這わせた。
「……ぁあッ、……カトーッ!!」
──こうして、俺たちの高2の夏は終わった。
無理矢理キスした2人きりの部室も、この部屋でのことも……俺はずっと忘れない。
来年の夏は、きっと笑える思い出になっているはずだから。
素敵な先輩達に、感謝を込めて──
《エピローグ》
「あれだよ、功一が目に付けたコ」
「はあん、………かわいいね」
俺とリオは、2年の教室の入り口から、中を覗いていた。
3年のネクタイをしている俺たちを、奇異な目で見守る下級生達。
功一の横で、静かに座っている子。
ストンとした髪の毛が、さらさらと動くたびに揺れる。
白目なんてないほど、真っ黒い大きな瞳。前髪の隙間からも、はっきりわかる綺麗な二重。
一見、大人しすぎる気はするけれど、ハイライトを当てた時の顔を想像すると、絶世の美少年になること請け合いだった。
「コウ!」
リオが呼ぶと、嬉しそうに功一が気が付いて、すっ飛んできた。
「部長、副部長!!」
「どうよ、落ちた?」
俺が聞く。
「ダメです、アイツ…恥ずかしがってて」
そう言って、3人で見つめた先には………
可哀想な子羊が、怯えた目で、俺たちを見返していた。
「加藤……合宿が、楽しみだね」
ベッドの中では、キミタカと呼んでくれるようになっていた。
そのリオが、瞳を煌めかせる。
「……ああ、映研の夏がまた、始まるな」
俺たちは、あの山奥の合宿所で浴び続けた、嵐のような蝉の声を、思い出していた───
THE END