チョコと、エッチと…ヤキモチ妬き
2
ヘッドを外したホースを、さっきまで指を受け入れていた場所にあてがう。
「ん…」
湯が千尋の中に入っていくのが、漏れる湯量の少なさからも判る。
「──もう…」
そっと手で制されてホースを外すと、無言で風呂場から出て行った。
「…………」
「こんなの、自分でやらなくていいのに」
戻ってきて恥ずかしそうにしている千尋にキスしながら、俺は言った。
「でも…」
でももだってもない。俺はやや強引に、何回か同じコトをした。
最後にその場で全部湯を体内から出し切ると、千尋が堪りかねたように俺に抱きついてきた。
「徹平さん! コレは…躾られたからじゃなく……」
「…………」
「ボクが、イヤなんです。今後はやっぱり、自分でやらせてくださいぃ!」
潤んだ目が、羞恥に耐えないと、睫毛を濡らして訴えている。
恥ずかしがってるだけじゃない、本当に嫌だからという感情が、はっきりと表れていた。
「───ん…すまん、やりすぎた」
全部俺のモノに、したくて……。
千尋が嫌がっても、隅から隅まで俺のモノで、俺の手の中で……そんなことを、実感したくなってしまっていた。
「また俺のエゴが、止められなかったな…悪かった…」
「………」
「でもな、千尋。俺も同じだけ、お前のモンなんだぞ」
困った心配をしてくれた千尋に、そう言って額にキスをした。
前髪を掻き上げたら、可愛くて。
「……徹平さ~~んっ!!」
ソープを落としきっていない体に抱き付かれて、もつれ合って、転げ落ちるように浴槽へ飛び込んだ。
激しく湯が飛び散って、二人とも頭まで浸かってしまった。
お互いに浮き上がりながら、顔を寄せる。
泡や湯が口の中に入ってきても、構わずに舌を絡め合った。
「大好きです…徹平さん」
「俺も…愛してる。……千尋」
手足を絡ませ、何度もキスをする。
上になり下になり、顔を浸してはお互いの咥内に酸素を求めた。
「ちょ…徹平さん」
「お前こそ…」
ヒートアップしていき、どっちが上かの押さえ合いになっていった。
笑いながら散々浴槽の中でじゃれ合った後、苦いー! とボディソープを吐き出して、うがいをした。
全身のソープもシャワーを掛け合って洗い落とし、ようやっとベッドに向かった。
「はぁ…、疲れました~!」
ツインの広さを堪能しながら、二人で真ん中に横になった。
「俺は全然」
全裸の腰の部分を指すと、千尋は頬を赤らめて笑う。
そっと肩を引き寄せて、懐に入ってきた体を両腕で抱えた。
「風呂上がりの身体って、温かくて気持ちいいな」
「はいぃ…」
脚を絡めて腰と腰を密着させ、お互いの熱を伝え合う。
「徹平さん……」
千尋が遠慮がちに、俺を見上げてきた。
「……徹平さんが全部、ボクのモノなら……」
「ん」
「今日は言うこと、聞いてください~」
生乾きの前髪を額に貼り付けて、首を真上に向けてくる仕草が、妙に幼く見える。
「……言うこと?」
見返すと、悪戯っぽく瞳を煌めかせた。
「ボクに触れては、ダメですよぉ!」
言うが早いか起きあがって、俺の足の間に陣取った。
「…アッ」
不覚にも、俺は思いっきり喘いでしまった。
久しぶりの、千尋の奉仕。
焦らす舌先、触れるか触れないかという吐息だけの愛撫で、俺の屹立を熱くしていく。
───何がしたいのかと思ったら…
可愛い千尋の仕返しに、抗わずに体を任せた。
「……ん」
巧みな指使い…胸まで伸びてきては、微かに撫でていく。
その度に、胸から腰にかけて電流が走った。
そのうち、舌先に力がこもり、意図を持って裏スジを舐め上げ、先端を包み出す。
「アッ…クッ……」
漏れる声に悔しさを覚えながら、吸い付いてくる柔らかい咥内を堪能した。
(やっぱ…上手いな)
言いたくはないが…思わずにはいられない。
首を上げて千尋を見てみると、真剣な眼でフェラをしていた。
「……楽しいか?」
つい、訊いてしまった。仕事にがっつり取り組んでるみたいな顔は、俺が面白くない。
「えぇ~」
急な問いに、口を離して赤面した。
「……楽しいですよぉ。……動かないでくださいね」
また悪戯っぽく笑うと、竿を扱いていた指が、俺の後ろに回った。
「!? 何すんだ?」
「指を入れるだけです。マッサージしてあげます」
にっこり微笑みながら、そこを回すように揉みほぐす。
「指だけで、充分気持ちいいヤツです~」
(──────!!)
押されるだけで、吐き気のようなものが込み上げる。
俺はつくづく、自分が攻め体質だと、思い知らされた。
千尋の細い指が、そこに入ってこようと、直接触れるまでが、我慢の限界だった。
「やめろ! もういい!!」
飛び起きて千尋を押し倒し、体の下に組み敷いた。
「ずっ、ズルイです~!!」
文句たれて唇を尖らすから、それも塞いだ。
「俺にここまで我慢させられるのは、千尋だけだ。充分だろ?」
笑いながら、舌を首筋へ這わせていった。あんなの、他のヤツならぶん殴っている。
いつもと違うシーツ。違う部屋。
照明の色も違う。千尋の肌がよけい白く感じて、ピンクの部分がエロく見える。
「こういうの、やっぱり興奮するな」
肩や腕を押さえ付けたまま、胸…腹…脇、と舌を滑らせた。
「ん……ぁあ…」
しなり出す、細い肢体。
濡れた髪をシーツに広げて、頬を紅潮させ出す。
「こうでなくっちゃな!」
「てっぺーさん……」
目のフチも紅く染めて、横目で俺を捉える。
「……チョコ塗って、舐めたいな」
白い胸板のラインを指でなぞりながら、チョコを垂らしたときのコントラストを想像してみた。
(うっ……)
「な……なに、言ってるんですか! 徹平さん、それは変態さんです~っ!」
俺の気迫に恐れを感じて、千尋が蒼白になった。
「や…冗談だ」
想像しただけで、鼻血噴きそうだ。マジでやったら、獣になってしまう。
「……徹平さんの冗談も、面白くないです……」
ぼそっと呟くのを、俺は聞き逃さなかった。
「お前…、言うようになったなあ」
「えぇ~」
怯える千尋を押さえ付けて、根を上げる程ねちっこい愛撫をしてやった。
指を欲しがって震える蕾の、周辺しか触ってやらない。
ピンクの屹立も扱くけど、先端までは舐めてやらない。
「あっ……あぁ…! …お願い……徹平さん…その先…」
俺の髪に指を差し込んで、くしゃくしゃに掴んで乱れる。
「俺に、何かしようなんて、企まないか?」
「はいぃ!」
「有り得ない勘違いも、嫉妬もしないな?」
「……はいぃ…」
「よし」
舌を細めて、俺を欲しがっている蕾に差し込んでやった。
「あっ……はぁ…」
同時に手の平で前を大きく包んで、ピンクの先端まで扱きあげた。
「んぁあ……徹平さん……気持ちイイ…」
全身が震えて、悦び出す。
脚がどんどん開いていく。
「千尋…いくぞ」
俺の怒張をあてがって、ゆっくりと沈めていった。
熱い体内が、俺を包んでいく。
奧で搾るように迎え入れる。
「ん…やっぱ、サイコー」
根本まで挿入して、キスをした。
「てっぺーサンも…さいこー」
腕を首に絡めてきて、千尋が微笑む。
「とんだバレンタインに、なっちゃいましたね……」
「ああ、ホント」
「帰ったら、チョコ…渡しますぅ」
「今、もらってっけどな」
甘くてとろけそうな、ホワイトチョコ…
「そ…そういうこと、言っちゃダメです~!」
「はは、イチゴミルクチョコになった」
ピンクに染まった頬を一舐めして、腰を動かし始めた。
「んんっ……今日、特におっきいです…」
片足を俺の肩に引っかけて、奥底まで俺を咥え入れる。
苦しそうに、喘いだ。
「お前のせいだ。……イヤか?」
「……いや…なんて」
目も真っ赤にして、キスをしてきた。
目茶無茶に喘がせたくて、俺はわざとゆっくりピストンした。
胸への愛撫も途切れさせない。
「あっ、ああぁ……いい、すご……」
「ん……スゲ…締まる……」
最後は腰骨が鳴るほど、激しく打ち付けた。
「ああぁ! ……ダメ……もう、ダメですぅ!」
泣きだした千尋を腕の中に抱え込んで、そのまま抽挿を速めた。
「あっ……ああぁ!」
「クッ……イク……!」
俺だけ達して、体内に熱い欲望を注いだ。
「…ん………」
扱いてやらなかったから、千尋はまだイッていない。
俺は千尋から抜き出ると、透明な愛液で濡れているそれを、口に含んだ。
舌と上あごで優しく舐め回す。
「ああっ!? 徹平さん……」
後ろの蕾に、再度指を挿入して、中のいいところを探る。
「ぁあああ!!」
ビクンと腰が、跳ね上がった。
指先に触れた一カ所だけを弄りながら、唇を上下させた。
「ひゃああ、すご…イイです……イク……イっちゃいますぅ!!」
俺の名を繰り返し叫びながら、背中を反らせた。
「ぁあああ!!」
熱い白濁が、喉まで飛んできた。
全部飲み下して、残ったのも全部吸い出してやった。
「ん、ん……もう、いいですぅ~」
くすぐったそうに腰を捩って、笑い声を上げる。
その後はぐったりと動かなくなった千尋に、添い寝をした。
「すご……スペシャルでした……」
肩で息をしながら、涙目で微笑む。
「お互いにな……」
目尻にキスをして、抱き締めた。
俺のために何かしようとする千尋……それだけで、俺は充分満たされた。
そのまま疲れ切った俺たちは、相変わらず清めもせず、眠ってしまった。
明け方目を覚まして、マンションに帰った。
「すっかり寝ちゃいましたね~」
困ったように眉を寄せながら、千尋がバレンタインデーの続きをしたいと言う。
リビングのローテーブルの前で、絨毯の上に並んで座った。
「日付、越えちゃいましたけど……」
残念そうに微笑んで、小さなチョコの箱を手渡してくれた。
「関係ねーよ。あんがとな」
開けてみると、手作りの……透明まんじゅうだった。
一口サイズの半透明な丸い物体の中に、チョコらしきモノが詰めてある。
「……? これは……」
「……ちょこ寒天です~」
恥ずかしそうに小さい声で、呟いた。
「……寒天!?」
しげしげと、謎の物体を眺めてしまった。
寒天との組み合わせってのが……俺には意外すぎた。
「この一週間くらい、お店で男性客だけに出してた、デザートなんです」
「へえ……美味いのか?」
「えっと……ボクなりにアレンジしたので、……どうでしょう」
また、照れて微笑む。
俺は恐る恐る、小さな丸い物体を楊子で刺して、口に運んだ。
半透明の寒天の中に、生チョコが入っているとは……普通考えると、とても食べたくない気がするが。
噛んだ瞬間、流れ出すチョコと寒天が、妙にマッチして美味かった。
「イケてるぞ、これ」
「本当ですかぁ!? よかったー!! 」
首に抱きついてきて、嬉しそうな声を上げた。
俺が食べるまで、気が気じゃ無かったようだ。
「お店のは四角くて、寒天とチョコを初めから混ぜてるんです」
「へえ」
「一見羊羹みたいで、つまらないと思ってたんです~! 上手く丸くならなかったから、半分は葛粉なんですけどね~!」
それのせいか、モチッとした食感が妙にチョコと合う。
店のを想像してみても、こっちの方がいいと思った。
「お前、才能あるぞ」
「えへへ~! 愛の力です! 徹平さんに食べて欲しいモノしか考案しません!」
「─────!!」
コレは……殺し文句だな。
思わず絶句してしまった。
お返しは、取り敢えずキスの嵐だった。
生チョコをお互いの舌の上で、絡め合う。
チョコの甘さが、千尋そのものみたいで、舌まで食べてしまいそうだった。
「は~、口の中、ベタベタに甘いですね…」
顔をやっと離した後、とろんとして上唇を舐めている。
「和菓子っぽいケド、やっぱり珈琲が似合いますねぇ。ボク、ドリップしてきます~」
「ん、さんきゅ」
俺も唇を舐め回しながら、熱くなった身体を宥めた。
(あと数時間で、出勤だもんな。さすがに……)
「……徹平さん」
「ん?」
一緒に一通り食べ終わり、珈琲カップも空になった頃、千尋が身体を寄せて俺の顔を覗き込んできた。
たったさっきまでの笑顔が、消えている。
「来年は、義理チョコ……持って帰ってきてください……」
辛そうに眉をしかめて、声を絞り出している。
(────?)
こんな顔をさせたくなかったから、画策していたのに。
「いいのか?」
「はい…だって……」
そこまで言って、また口を噤む。
「おい! そのクセ、治したんだろ!?」
ハッキリ言えっと、頭を小突いた。
「ぅあ…はい~、……………だって……」
もう一度俺を見て、悲しそうに瞳を揺らした。
「貰ったのを配ったって、……徹平さんが誰かにチョコをあげてることに、代わりはないです…」
(…………)
「ああ……そうか」
やっぱりコイツは、かなりのヤキモチ妬きだと思った。
「気が付かなくて、ごめんな」
「ボクも……疑って、ゴメンナサイです……」
背中に両腕を回して、顔を胸に埋めてきた。
「後輩さん、可愛いですね。……同僚さんも…カッコイイです」
(……はぁ! ったく……)
俺は今度こそ、盛大な溜息をついてやった。
「まだそんなこと言ってんのか! お前には負けるって……」
そこまで言って、悪戯っぽく笑う千尋の目線に気が付いた。
胸に抱きつきながら、上目遣いに俺をちらりと見る。
(コイツ……今度は、確信犯か!)
よくもここまで、変わってくれたという嬉しさと……
生意気になった千尋への腹立たしさが、ゴッチャに俺を襲う。
「覚悟は、できているんだろうな?」
「……え」
「俺を、煽りやがって!」
「……あぁ!」
ベッドへ行きましょう!
とか
寝ないと会社が…
とか、知るかそんなこと!
俺はその場で千尋をひん剥いて、何もかも判らなくなるほど喘がせた。
目の前の壁には、ローボードの上にテレビと、あの写真……
でも、俺は思う。
もう、おっさんもそこには居ないって。
奥さんと千尋の妹の所へ行って、次の人生をやり直す準備をしてるさ。
そう考えなきゃ、可哀想すぎるだろ。
死んでいった者は、次に進む権利があるんだ。
俺たちがいつまでも想ってたって……縛り付けるだけなんだ。
忘れる訳じゃない。存在を記憶から消す訳じゃない。おっさんが俺たちの間に居ることに、変わりはない。
ずっとずっと千尋と一緒に居る限り、二人の中でおっさんは在り続ける。
千尋もそれを、想っているのか…。
写真に話しかけるのは止めないけれど、報告はしなくなった。
「千尋……これからも、よろしくな」
横でひっくり返っている頭を撫でた。
「はいぃ! ……ボクも、嫌われないよう…気を付けますぅ」
頬を真っ赤にさせて、上気させた胸を露わにして……生肌には、メタリックグリーン。
各所のピンクが、やたらエロくて……
この姿を見せてくれる限り、嫌うはず…ないだろ…
「俺の方こそ、気を付ける」
「ひゃあぁ! もったいないです……そんな言葉……」
もはやフリなのか、天然なのかわからなくなってきたが…
まあ、気にしない!
俺はもう一度、3回戦に望むべく、千尋に襲いかかった。
「ひゃー!」
俺と千尋の、初バレンタインデーは、こうして終わったのだった。
……もちろん、会社に遅刻したのは、言うまでもない。
END