チョコと、エッチと…ヤキモチ妬き
 

 
 ヘッドを外したホースを、さっきまで指を受け入れていた場所にあてがう。
「ん…」
 
 湯が千尋の中に入っていくのが、漏れる湯量の少なさからも判る。
「──もう…」
 そっと手で制されてホースを外すと、無言で風呂場から出て行った。
 
「…………」
「こんなの、自分でやらなくていいのに」
 戻ってきて恥ずかしそうにしている千尋にキスしながら、俺は言った。
「でも…」
 でももだってもない。俺はやや強引に、何回か同じコトをした。
 最後にその場で全部湯を体内から出し切ると、千尋が堪りかねたように俺に抱きついてきた。
「徹平さん! コレは…躾られたからじゃなく……」
「…………」
「ボクが、イヤなんです。今後はやっぱり、自分でやらせてくださいぃ!」
 
 潤んだ目が、羞恥に耐えないと、睫毛を濡らして訴えている。
 恥ずかしがってるだけじゃない、本当に嫌だからという感情が、はっきりと表れていた。
 
「───ん…すまん、やりすぎた」
 
 全部俺のモノに、したくて……。
 千尋が嫌がっても、隅から隅まで俺のモノで、俺の手の中で……そんなことを、実感したくなってしまっていた。
 
「また俺のエゴが、止められなかったな…悪かった…」
「………」
 
「でもな、千尋。俺も同じだけ、お前のモンなんだぞ」
 
 困った心配をしてくれた千尋に、そう言って額にキスをした。
 前髪を掻き上げたら、可愛くて。
 
 
「……徹平さ~~んっ!!」
 
 
 ソープを落としきっていない体に抱き付かれて、もつれ合って、転げ落ちるように浴槽へ飛び込んだ。
 激しく湯が飛び散って、二人とも頭まで浸かってしまった。
 お互いに浮き上がりながら、顔を寄せる。
 泡や湯が口の中に入ってきても、構わずに舌を絡め合った。
「大好きです…徹平さん」
「俺も…愛してる。……千尋」
 
 手足を絡ませ、何度もキスをする。
 上になり下になり、顔を浸してはお互いの咥内に酸素を求めた。
「ちょ…徹平さん」
「お前こそ…」
 ヒートアップしていき、どっちが上かの押さえ合いになっていった。
 笑いながら散々浴槽の中でじゃれ合った後、苦いー! とボディソープを吐き出して、うがいをした。
 全身のソープもシャワーを掛け合って洗い落とし、ようやっとベッドに向かった。
 
 
「はぁ…、疲れました~!」
 ツインの広さを堪能しながら、二人で真ん中に横になった。
「俺は全然」
 全裸の腰の部分を指すと、千尋は頬を赤らめて笑う。 
 そっと肩を引き寄せて、懐に入ってきた体を両腕で抱えた。
「風呂上がりの身体って、温かくて気持ちいいな」
「はいぃ…」
 脚を絡めて腰と腰を密着させ、お互いの熱を伝え合う。
 
「徹平さん……」
 千尋が遠慮がちに、俺を見上げてきた。
「……徹平さんが全部、ボクのモノなら……」
「ん」
「今日は言うこと、聞いてください~」
 生乾きの前髪を額に貼り付けて、首を真上に向けてくる仕草が、妙に幼く見える。
「……言うこと?」
 見返すと、悪戯っぽく瞳を煌めかせた。
「ボクに触れては、ダメですよぉ!」
 言うが早いか起きあがって、俺の足の間に陣取った。
「…アッ」
 不覚にも、俺は思いっきり喘いでしまった。
 久しぶりの、千尋の奉仕。
 焦らす舌先、触れるか触れないかという吐息だけの愛撫で、俺の屹立を熱くしていく。
 
 ───何がしたいのかと思ったら…
 可愛い千尋の仕返しに、抗わずに体を任せた。
 
「……ん」
 巧みな指使い…胸まで伸びてきては、微かに撫でていく。
 その度に、胸から腰にかけて電流が走った。
 そのうち、舌先に力がこもり、意図を持って裏スジを舐め上げ、先端を包み出す。
「アッ…クッ……」
 漏れる声に悔しさを覚えながら、吸い付いてくる柔らかい咥内を堪能した。
(やっぱ…上手いな)
 言いたくはないが…思わずにはいられない。
 首を上げて千尋を見てみると、真剣な眼でフェラをしていた。
「……楽しいか?」
 つい、訊いてしまった。仕事にがっつり取り組んでるみたいな顔は、俺が面白くない。
「えぇ~」
 急な問いに、口を離して赤面した。
「……楽しいですよぉ。……動かないでくださいね」
 また悪戯っぽく笑うと、竿を扱いていた指が、俺の後ろに回った。
「!? 何すんだ?」
「指を入れるだけです。マッサージしてあげます」
 にっこり微笑みながら、そこを回すように揉みほぐす。
「指だけで、充分気持ちいいヤツです~」
 
(──────!!)
 
 押されるだけで、吐き気のようなものが込み上げる。
 俺はつくづく、自分が攻め体質だと、思い知らされた。
 千尋の細い指が、そこに入ってこようと、直接触れるまでが、我慢の限界だった。
「やめろ! もういい!!」
 飛び起きて千尋を押し倒し、体の下に組み敷いた。
「ずっ、ズルイです~!!」
 文句たれて唇を尖らすから、それも塞いだ。
「俺にここまで我慢させられるのは、千尋だけだ。充分だろ?」
 笑いながら、舌を首筋へ這わせていった。あんなの、他のヤツならぶん殴っている。
 
 いつもと違うシーツ。違う部屋。
 照明の色も違う。千尋の肌がよけい白く感じて、ピンクの部分がエロく見える。
「こういうの、やっぱり興奮するな」
 肩や腕を押さえ付けたまま、胸…腹…脇、と舌を滑らせた。
「ん……ぁあ…」
 しなり出す、細い肢体。
 
 濡れた髪をシーツに広げて、頬を紅潮させ出す。
「こうでなくっちゃな!」
「てっぺーさん……」
 目のフチも紅く染めて、横目で俺を捉える。
 
「……チョコ塗って、舐めたいな」
 白い胸板のラインを指でなぞりながら、チョコを垂らしたときのコントラストを想像してみた。
(うっ……)
「な……なに、言ってるんですか! 徹平さん、それは変態さんです~っ!」
 俺の気迫に恐れを感じて、千尋が蒼白になった。
「や…冗談だ」
 想像しただけで、鼻血噴きそうだ。マジでやったら、獣になってしまう。
 
「……徹平さんの冗談も、面白くないです……」
 
 ぼそっと呟くのを、俺は聞き逃さなかった。
「お前…、言うようになったなあ」
「えぇ~」
 怯える千尋を押さえ付けて、根を上げる程ねちっこい愛撫をしてやった。
 指を欲しがって震える蕾の、周辺しか触ってやらない。
 ピンクの屹立も扱くけど、先端までは舐めてやらない。
 
「あっ……あぁ…! …お願い……徹平さん…その先…」
 俺の髪に指を差し込んで、くしゃくしゃに掴んで乱れる。
「俺に、何かしようなんて、企まないか?」
「はいぃ!」
「有り得ない勘違いも、嫉妬もしないな?」
「……はいぃ…」
 
「よし」
 
 舌を細めて、俺を欲しがっている蕾に差し込んでやった。
「あっ……はぁ…」
 同時に手の平で前を大きく包んで、ピンクの先端まで扱きあげた。
「んぁあ……徹平さん……気持ちイイ…」
 全身が震えて、悦び出す。
 脚がどんどん開いていく。
 
「千尋…いくぞ」 
 
 俺の怒張をあてがって、ゆっくりと沈めていった。
 熱い体内が、俺を包んでいく。
 奧で搾るように迎え入れる。
「ん…やっぱ、サイコー」
 根本まで挿入して、キスをした。
「てっぺーサンも…さいこー」
 腕を首に絡めてきて、千尋が微笑む。
「とんだバレンタインに、なっちゃいましたね……」
「ああ、ホント」
「帰ったら、チョコ…渡しますぅ」
「今、もらってっけどな」
 甘くてとろけそうな、ホワイトチョコ…
「そ…そういうこと、言っちゃダメです~!」
「はは、イチゴミルクチョコになった」
 ピンクに染まった頬を一舐めして、腰を動かし始めた。
 
「んんっ……今日、特におっきいです…」
 片足を俺の肩に引っかけて、奥底まで俺を咥え入れる。
 苦しそうに、喘いだ。
「お前のせいだ。……イヤか?」
「……いや…なんて」
 
 目も真っ赤にして、キスをしてきた。
 目茶無茶に喘がせたくて、俺はわざとゆっくりピストンした。
 胸への愛撫も途切れさせない。
「あっ、ああぁ……いい、すご……」
「ん……スゲ…締まる……」
 最後は腰骨が鳴るほど、激しく打ち付けた。
 
「ああぁ! ……ダメ……もう、ダメですぅ!」
 
 泣きだした千尋を腕の中に抱え込んで、そのまま抽挿を速めた。
「あっ……ああぁ!」
「クッ……イク……!」
 俺だけ達して、体内に熱い欲望を注いだ。
「…ん………」
 扱いてやらなかったから、千尋はまだイッていない。
 俺は千尋から抜き出ると、透明な愛液で濡れているそれを、口に含んだ。
 舌と上あごで優しく舐め回す。
「ああっ!? 徹平さん……」
 後ろの蕾に、再度指を挿入して、中のいいところを探る。
「ぁあああ!!」
 ビクンと腰が、跳ね上がった。
 指先に触れた一カ所だけを弄りながら、唇を上下させた。
「ひゃああ、すご…イイです……イク……イっちゃいますぅ!!」
 俺の名を繰り返し叫びながら、背中を反らせた。
「ぁあああ!!」
 熱い白濁が、喉まで飛んできた。
 全部飲み下して、残ったのも全部吸い出してやった。
「ん、ん……もう、いいですぅ~」
 くすぐったそうに腰を捩って、笑い声を上げる。
 その後はぐったりと動かなくなった千尋に、添い寝をした。
 
 
「すご……スペシャルでした……」
 肩で息をしながら、涙目で微笑む。
「お互いにな……」 
 目尻にキスをして、抱き締めた。
 俺のために何かしようとする千尋……それだけで、俺は充分満たされた。
 そのまま疲れ切った俺たちは、相変わらず清めもせず、眠ってしまった。
 
 
 
 
 
 
 明け方目を覚まして、マンションに帰った。
「すっかり寝ちゃいましたね~」
 困ったように眉を寄せながら、千尋がバレンタインデーの続きをしたいと言う。
 リビングのローテーブルの前で、絨毯の上に並んで座った。
「日付、越えちゃいましたけど……」 
 残念そうに微笑んで、小さなチョコの箱を手渡してくれた。
「関係ねーよ。あんがとな」
 
 開けてみると、手作りの……透明まんじゅうだった。
 一口サイズの半透明な丸い物体の中に、チョコらしきモノが詰めてある。
「……? これは……」
 
「……ちょこ寒天です~」
 恥ずかしそうに小さい声で、呟いた。
「……寒天!?」
 しげしげと、謎の物体を眺めてしまった。
 寒天との組み合わせってのが……俺には意外すぎた。 
「この一週間くらい、お店で男性客だけに出してた、デザートなんです」
「へえ……美味いのか?」
「えっと……ボクなりにアレンジしたので、……どうでしょう」
 また、照れて微笑む。
 
 俺は恐る恐る、小さな丸い物体を楊子で刺して、口に運んだ。
 半透明の寒天の中に、生チョコが入っているとは……普通考えると、とても食べたくない気がするが。
 噛んだ瞬間、流れ出すチョコと寒天が、妙にマッチして美味かった。
「イケてるぞ、これ」
「本当ですかぁ!? よかったー!! 」
 首に抱きついてきて、嬉しそうな声を上げた。
 俺が食べるまで、気が気じゃ無かったようだ。
「お店のは四角くて、寒天とチョコを初めから混ぜてるんです」
「へえ」
「一見羊羹みたいで、つまらないと思ってたんです~! 上手く丸くならなかったから、半分は葛粉なんですけどね~!」
 それのせいか、モチッとした食感が妙にチョコと合う。
 店のを想像してみても、こっちの方がいいと思った。
「お前、才能あるぞ」
「えへへ~! 愛の力です! 徹平さんに食べて欲しいモノしか考案しません!」
「─────!!」
 
 コレは……殺し文句だな。
 思わず絶句してしまった。
 お返しは、取り敢えずキスの嵐だった。
 生チョコをお互いの舌の上で、絡め合う。
 チョコの甘さが、千尋そのものみたいで、舌まで食べてしまいそうだった。
 
「は~、口の中、ベタベタに甘いですね…」
 顔をやっと離した後、とろんとして上唇を舐めている。
「和菓子っぽいケド、やっぱり珈琲が似合いますねぇ。ボク、ドリップしてきます~」
「ん、さんきゅ」
 俺も唇を舐め回しながら、熱くなった身体を宥めた。
(あと数時間で、出勤だもんな。さすがに……)
 
 
 
「……徹平さん」
「ん?」
 一緒に一通り食べ終わり、珈琲カップも空になった頃、千尋が身体を寄せて俺の顔を覗き込んできた。
 たったさっきまでの笑顔が、消えている。
「来年は、義理チョコ……持って帰ってきてください……」
 辛そうに眉をしかめて、声を絞り出している。
(────?)
 こんな顔をさせたくなかったから、画策していたのに。
「いいのか?」
「はい…だって……」
 そこまで言って、また口を噤む。
「おい! そのクセ、治したんだろ!?」
 ハッキリ言えっと、頭を小突いた。
「ぅあ…はい~、……………だって……」
 もう一度俺を見て、悲しそうに瞳を揺らした。
「貰ったのを配ったって、……徹平さんが誰かにチョコをあげてることに、代わりはないです…」
 
(…………)
 
「ああ……そうか」
 やっぱりコイツは、かなりのヤキモチ妬きだと思った。
「気が付かなくて、ごめんな」
「ボクも……疑って、ゴメンナサイです……」
 背中に両腕を回して、顔を胸に埋めてきた。
「後輩さん、可愛いですね。……同僚さんも…カッコイイです」
(……はぁ! ったく……)
 俺は今度こそ、盛大な溜息をついてやった。
「まだそんなこと言ってんのか! お前には負けるって……」
 そこまで言って、悪戯っぽく笑う千尋の目線に気が付いた。
 胸に抱きつきながら、上目遣いに俺をちらりと見る。
(コイツ……今度は、確信犯か!)
 
 よくもここまで、変わってくれたという嬉しさと……
 生意気になった千尋への腹立たしさが、ゴッチャに俺を襲う。
 
 
 
「覚悟は、できているんだろうな?」
「……え」
「俺を、煽りやがって!」
「……あぁ!」
 
 ベッドへ行きましょう!
 とか
 寝ないと会社が…
 とか、知るかそんなこと!
 
 俺はその場で千尋をひん剥いて、何もかも判らなくなるほど喘がせた。
 目の前の壁には、ローボードの上にテレビと、あの写真……
 
 でも、俺は思う。
 もう、おっさんもそこには居ないって。
 奥さんと千尋の妹の所へ行って、次の人生をやり直す準備をしてるさ。
 そう考えなきゃ、可哀想すぎるだろ。
 死んでいった者は、次に進む権利があるんだ。
 俺たちがいつまでも想ってたって……縛り付けるだけなんだ。
 忘れる訳じゃない。存在を記憶から消す訳じゃない。おっさんが俺たちの間に居ることに、変わりはない。
 ずっとずっと千尋と一緒に居る限り、二人の中でおっさんは在り続ける。
 
 千尋もそれを、想っているのか…。
 写真に話しかけるのは止めないけれど、報告はしなくなった。
 
 
 
「千尋……これからも、よろしくな」
 横でひっくり返っている頭を撫でた。
「はいぃ! ……ボクも、嫌われないよう…気を付けますぅ」
 
 頬を真っ赤にさせて、上気させた胸を露わにして……生肌には、メタリックグリーン。
 各所のピンクが、やたらエロくて……
 この姿を見せてくれる限り、嫌うはず…ないだろ…
 
 
「俺の方こそ、気を付ける」
「ひゃあぁ! もったいないです……そんな言葉……」
 
 もはやフリなのか、天然なのかわからなくなってきたが…
 まあ、気にしない!
 俺はもう一度、3回戦に望むべく、千尋に襲いかかった。
 
「ひゃー!」
 
 
 
 
 俺と千尋の、初バレンタインデーは、こうして終わったのだった。
 ……もちろん、会社に遅刻したのは、言うまでもない。
 
 
 
END


カバン / / 長編SS短中編